営業組織を率いる経営者や責任者の皆様であれば、このようなジレンマを感じたことはないでしょうか。
「目標数字を厳しく追及すればするほど、現場の空気が重くなる」 「細かい行動管理を導入したものの、メンバーが疲弊し、かえって動きが鈍くなる」 「言われたことはやるが、それ以上の工夫や提案が生まれてこない」
数字を作ることは営業の使命です。しかし、その数字を作るためのプロセスが「上から押し付けられた義務」になった瞬間、社員のパフォーマンスには天井が見えてきます。いわゆる「やらされ仕事」の状態です。
短期的な数字を作るだけであれば、強烈なプレッシャーやマイクロマネジメントも機能するかもしれません。しかし、それは長くは続きません。やがて組織全体に閉塞感が漂い、優秀な人材から離れていくリスクを孕んでいます。
これからの時代、企業が成長を続けていくために必要なのは、社員一人ひとりの内側から湧き出るエネルギー、すなわち「内発的動機」をどう最大化するかという視点です。今回は、精神論ではなく、ロジカルに「意欲」をデザインし、成果につなげるための考え方についてお話しします。
「外発的動機」の限界と「内発的動機」の威力
これまで多くの営業組織では、インセンティブ(報酬)や昇進、あるいは未達成時のペナルティといった「外発的動機付け」が主流でした。これらは即効性がありますが、効果は一時的です。報酬に慣れてしまえば効果は薄れ、恐怖による管理は思考停止を招きます。
一方で「内発的動機付け」とは、仕事そのものに価値や面白さを感じ、「やりたいからやる」という状態を指します。
営業という仕事において、この内発的動機が機能した時の爆発力は計り知れません。顧客のために何ができるかを自ら考え抜き、困難な交渉もゲームのように楽しみ、自らの成長を実感しながら行動量を増やしていく。こうした状態にある営業パーソンは、管理者があれこれ指示を出さずとも、自走して成果を上げていきます。
では、どうすれば「やらされ仕事」を「やりたい仕事」へと転換できるのでしょうか。 重要な要素は、「貢献の実感」「成長の実感」「自己決定感」の3つです。
1. 貢献の実感:誰のために働いているのか
数字ばかりを追っていると、営業パーソンは「会社のために売上を作るマシーン」になったような錯覚に陥ります。しかし、本来営業とは、顧客の課題を解決し、価値を提供する行為です。
「自分の提案によって、顧客がどう変化したか」 「自分の仕事が、社会にどう役立っているか」
これらを感じられる機会を意図的に作ることが重要です。例えば、受注金額の多寡だけで評価するのではなく、顧客からの感謝の言葉や、導入後の成功事例をチーム全体で共有する。数字の背後にある「顧客への貢献」にスポットライトを当てることで、仕事の意義が再定義されます。人間は、誰かの役に立っていると実感できた時、大きなエネルギーを発揮する生き物です。
2. 成長の実感:昨日の自分より進んでいるか
人は、自分が前に進んでいる感覚を持てない時、急速に意欲を失います。営業は結果がすべてと言われますが、結果が出るまでのプロセスにおいても成長を感じられる仕組みが必要です。
ここで重要になるのが、客観的な「事実の見える化」です。 なんとなく頑張っている、ではなく、データに基づいて自分の行動やスキルの変化を確認できる環境が求められます。
「先月よりも、初回商談での課題抽出の精度が上がった」 「ボトルネックだったクロージングの工程がスムーズになった」
このように、自身の変化を具体的に把握できれば、次はどこを改善すればよいかが明確になります。ゲームのレベル上げのように、自身のスキルアップを楽しめるようになれば、日々の活動は苦役ではなく、成長のためのトレーニングへと変わります。このサイクルを生み出すためには、感覚的な指導ではなく、データに基づいたフィードバックができる環境整備が求められます。
3. 自己決定感:自分で決めたことには責任を持つ
「上司に言われたからやる」のと「自分で決めたからやる」のでは、行動の質が全く異なります。トップダウンで戦略を落とし込むことは必要ですが、日々の具体的なアクションプランまでがんじがらめに縛ってしまうと、当事者意識は失われます。
目標達成のためのルートをある程度本人に委ね、自分で考えさせる余地を残すこと。そして、そのプロセスを支援することがマネジメントの役割です。
1on1ミーティングの本当の役割
これら3つの要素(貢献・成長・自己決定)を現場に浸透させるために極めて有効な手段が、定期的な「1on1ミーティング」です。
多くの企業で1on1が導入されていますが、単なる「業務進捗の確認会」になっていないでしょうか。「今月の数字はどうだ」「あとどのくらい詰められるんだ」という詰め寄る場になっていれば、それは逆効果です。
内発的動機を高めるための1on1では、以下のような対話が求められます。
- キャリアのすり合わせ: 本人が将来どうなりたいのか、今の仕事がその未来にどう繋がっているかを確認する。
- 意味付けの支援: 日々の業務が、顧客やチームにどのような良い影響を与えているかをフィードバックする。
- 思考の整理: 上司が答えを教えるのではなく、問いかけによって本人に気づきを与え、次のアクションを「自分で」決めさせる。
上司の役割は、部下を管理することではなく、部下の「やりたい」というエンジンのスイッチを押すことです。個人の目標と会社の目標が重なり合う部分を見つけ出し、そこに向けて走れるようサポートすることこそが、現代のマネージャーに求められるスキルと言えるでしょう。
「精神論」ではなく「仕組み」で支える
ここまで「気持ち」や「動機」の話をしてきましたが、これらを支えるのは確固たる「仕組み」です。
いくら上司が「成長を大事にしよう」と言っても、評価制度が売上結果のみであれば、社員は白けてしまいます。いくら「工夫しろ」と言っても、判断材料となるデータが整理されていなければ、勘と経験に頼るしかありません。
個人の内面にある「やりたい」という想いを引き出すためには、その想いが空回りしないための土台が必要です。
- プロセスが可視化され、どこでつまずいているかが分かること。
- 個人の適性や強みが把握され、適切な配置がなされていること。
- 振り返りの機会があり、失敗から学びを得られる文化があること。
これらは精神論でどうにかなるものではなく、組織として意図的に設計し、運用していくべき機能です。
組織全体で「勝てる」空気を醸成する
「やらされ仕事」から脱却し、社員が主体的に動く組織を作ることは、一朝一夕にはいきません。しかし、ひとたびそのサイクルが回り始めれば、組織の強さは劇的に変わります。
一部のスタープレイヤーだけに頼るのではなく、メンバー全員が自分の役割を理解し、自分の成長を楽しみながら、チームとしての成果を追求する。そうした「自走する組織」こそが、変化の激しい市場環境においても成果を出し続けることができます。
もし今、御社の営業組織が「指示待ち」の姿勢から抜け出せない、あるいは疲弊感が漂っていると感じるのであれば、それは個人の資質の問題ではなく、組織の構造や関わり方の問題かもしれません。
「なぜ売れないのか」という問いを、「どうすれば彼らが熱中できるのか」という問いに変えてみてください。そこには必ず、データと対話に基づいた解決の糸口があるはずです。
現状の「見える化」から始め、社員一人ひとりのポテンシャルを解放する組織作りについて、一度客観的な視点を入れてみてはいかがでしょうか。私たちは、貴社の営業組織が持つ本来の力を引き出すためのお手伝いをさせていただきます。
日々のマネジメントにおける具体的なデータ活用の手法や、1on1の進め方についてより詳しくお知りになりたい場合は、ぜひお気軽にお声がけください。貴社ならではの「勝ちパターン」を共に創り上げていけることを楽しみにしております。
