毎月の営業会議、皆様の会社ではどのような会話が交わされているでしょうか。
「今月は目標未達でした。申し訳ありません」 「次はどうするんだ?」 「はい、来月はもっと訪問件数を増やして、気合いを入れて頑張ります」 「そうか、期待しているぞ」
もし、このようなやり取りが繰り返されているとしたら、少し立ち止まって考える必要があります。
目標に届かなかった事実に対して、責任を感じることは大切です。しかし、「頑張りが足りなかった」という精神論や、「運が悪かった」という漠然とした結論で片付けてしまっては、いつまでたっても組織としての成長は見込めません。
営業の世界において、失敗や失注は避けて通れないものです。しかし、その失敗を「個人の力量不足」として処理するか、それとも「再現性を高めるためのデータ」として扱うかで、その後の組織の強さは劇的に変わります。
今回は、失敗をただの失敗で終わらせず、次の成功を生み出すための「糧」にするための、データに基づいた振り返りと改善のアプローチについてお話しします。
「なぜ」を問う前に、「何(What)」を揃える
失敗の原因を分析しようとする際、多くのマネージャーがやりがちなのが、いきなり「なぜ売れなかったのか?」と問い詰めてしまうことです。
しかし、客観的な事実が揃っていない状態で「なぜ」を問うと、返ってくる答えは担当者の「言い訳」か「主観的な感想」になりがちです。
「お客様の反応が鈍かったので」 「タイミングが合わなかったようで」 「競合の方が安かったので」
これらは一見もっともらしい理由ですが、改善につなげるには具体性が足りません。「反応が鈍い」とは具体的にどのような状態だったのか。「タイミング」とは決算期のことなのか、プロジェクトの開始時期のことなのか。これらが曖昧なままでは、対策の打ちようがありません。
そこで重要になるのが、まず**「客観的なデータ(事実)」をテーブルの上に並べること**です。
ここでのデータとは、単なる「売上金額」や「訪問回数」だけではありません。営業プロセスの中にある細かい事実です。
- 初回訪問から提案までに何日かかったのか?
- 商談の中で、ヒアリングとプレゼンにそれぞれ何分使ったのか?
- 決裁者と会えたのはどのタイミングか?
- 提示した見積もりの松竹梅のプランのうち、どれに興味を示したのか?
このように、プロセスを数値や事実として「見える化」することがスタート地点です。「感覚」ではなく「事実」を共通言語にすることで、初めて建設的な議論が可能になります。
データを起点に「Why(なぜ)」を深掘りする
事実が揃ったら、次はいよいよ「なぜ(Why)」の深掘りです。ここで大切なのは、表面的な理由で思考を止めないことです。トヨタ生産方式で有名な「なぜを5回繰り返す」という考え方は、営業の改善においても非常に有効です。
例えば、「価格が高いと言われて失注した」というケースを考えてみましょう。ここで「次は値引きできるように調整します」とするのは、安易な解決策であり、利益率を圧迫する悪手になりかねません。
データと論理に基づいて、もう一歩深く掘り下げてみます。
1. なぜ、高いと言われたのか? → 競合A社の方が2割安かったから。
2. なぜ、2割の価格差を埋められなかったのか? → 自社のサービスの付加価値(サポートの手厚さや長期的なコスト削減効果)が伝わっていなかったから。
3. なぜ、付加価値が伝わらなかったのか? → 提案書が機能説明中心になっており、導入後のメリット(ROI)が数値で示されていなかったから。
4. なぜ、ROIを提示できなかったのか? → ヒアリングの段階で、顧客の現在の運用コストや課題の深さを聞き出せていなかったから。
ここまで掘り下げて初めて、「値引きをする」ではなく、**「ヒアリングシートを見直し、現状コストを把握する項目を追加する」あるいは「投資対効果をシミュレーションできる資料を用意する」**という、具体的で再現性のあるアクションプランが見えてきます。
これが、失敗を成功の糧にするプロセスです。たった一つの失注案件から、組織全体で使える新たな武器(ヒアリングシートやシミュレーション資料)を生み出すことができるのです。
1on1は「詰め」の場ではなく「発見」の場
このような深掘りを組織に浸透させるためには、マネージャーとメンバーの関わり方が非常に重要になります。
会議の場で大勢の前で「なぜだ? なぜだ?」と問い詰めれば、それは「公開処刑」のような雰囲気になり、メンバーは萎縮してしまいます。防衛本能が働き、当たり障りのない嘘や言い訳を並べるようになるでしょう。これでは本質的な原因にはたどり着けません。
だからこそ、定期的な**「1on1(ワン・オン・ワン)」**の活用をお勧めします。
1on1の目的は、上司が部下を管理することでも、説教をすることでもありません。**「一緒にデータを見て、一緒に考える時間」**を持つことです。
「この案件、残念だったね。データを一緒に見てみようか。このフェーズで時間がかかっているようだけど、何か引っかかることがあったのかな?」
このように、上司は「評価者」ではなく、あくまで「伴走者」として振る舞うことが大切です。同じ方向を向き、データという地図を見ながら、どこで道に迷ったのかを一緒に探すイメージです。
心理的に安全な状態でこそ、メンバーは「実は、あの時お客様の表情が曇ったのに、焦って説明を続けてしまいました」といった、本当の失敗要因(真実)を話してくれます。この真実の中にこそ、次の成長へのヒントが隠されています。
また、こうした対話を通じて、メンバー自身に「次はこうすればうまくいきそうだ」という仮説を立てさせることで、自ら考え行動する力が育っていきます。これこそが、本当の意味での人材育成です。
「個人の経験」を「組織の資産」へ
一人の営業担当者が失敗から学び、改善策を見つけたとしても、それがその人だけのノウハウに留まっていてはもったいないことです。
「Aさんがヒアリング項目を変えたら、成約率が上がったらしい」
この事実をキャッチアップし、チーム全体に展開することで、組織全体の営業力が底上げされます。特定のエース社員だけが売れる状態から、**「誰がやっても一定の成果が出る」**状態へと移行することができます。
これが、組織としての仕組み構築です。
- 見える化:プロセスを事実・データとして捉える。
- 振り返り:データを元に「なぜ」を深掘りし、真因を見つける。
- 改善:具体的なアクション(ツールやスクリプトの修正)に落とし込む。
- 共有:その成功パターンをチーム全体に広げる。
このサイクルを回し続けることこそが、変化の激しい市場環境においても長く成長し続ける組織を作るための唯一の方法です。
失敗を恐れない文化を作る
最後に、経営者やリーダーの皆様にお伝えしたいことがあります。それは、「失敗を報告しやすい空気」を作っていただきたいということです。
データに基づいた改善サイクルを回すためには、ネガティブな情報ほど早く、正確に上がってくる必要があります。ミスを隠したり、数字を誤魔化したりする文化が根付いてしまうと、正しいデータが得られず、全ての判断が狂ってしまいます。
「ナイス・トライ」 「早い報告をありがとう」 「そこから何を学んだか教えてくれ」
部下が失敗を持ってきたとき、まずはそう声をかけてあげてください。そして、感情ではなく論理とデータで会話をする習慣を根付かせていきましょう。
営業という仕事は、断られることの方が圧倒的に多い仕事です。だからこそ、その一つひとつの「No」を無駄にせず、次の「Yes」に変えるための材料として使い切る。その積み重ねが、やがて強固な営業組織を築き上げます。
精神論による発破がけではなく、データに基づいた知的な攻略戦へ。 まずは、直近の失注案件のデータを広げ、部下と「なぜ?」を語り合うところからスタートしてみてはいかがでしょうか。
もし、自社だけでは客観的なデータの抽出が難しい、あるいは深い分析の仕方が定着しないとお感じであれば、いつでも私たちにご相談ください。貴社の現状に合わせた「見える化」と「仕組み作り」をお手伝いいたします。
