減点方式のマネジメントが組織を弱くする。弱点は克服ではなく個人の「強み」に集中する人材育成

多くの経営者や営業責任者の方とお話しする中で、頻繁に耳にする悩みがあります。 「メンバーのスキルにバラつきがある」 「何度注意しても、同じようなミスや取りこぼしが減らない」 「底上げを図りたいが、教育に時間を割いても成果が変わらない」

こうした悩みを抱える組織では、往々にして真面目で熱心な教育が行われています。しかし、その教育の方向性が、知らず知らずのうちに組織の活力を削いでしまっているケースが少なくありません。

もし御社が、営業メンバーの「苦手なこと」や「できないこと」をリストアップし、それを克服させることに多くのエネルギーを注いでいるとしたら、少し立ち止まって考えてみてください。

その「弱点の克服」は、本当に御社の営業利益に直結しているでしょうか。 今回は、個人の弱点に対する向き合い方を根本から変え、チーム全体で勝つための組織戦略についてお話しします。

「きれいな正五角形」を目指す教育の落とし穴

日本のビジネス現場、特に営業組織においては、どうしても「平均点以上」を求める傾向があります。 新規開拓も、既存深耕も、事務処理も、プレゼンも、すべてそつなくこなせる人材。レーダーチャートにしたときに、きれいな正五角形を描くような「バランスの良い優等生」を育てようとしてしまいます。

もちろん、最低限のビジネスマナーやコンプライアンス遵守など、社会人として守るべきラインはあります。しかし、営業としてのパフォーマンスにおいて、すべての能力を平均以上に引き上げようとするアプローチは、極めて非効率であり、リスクすらあります。

理由はシンプルです。 「マイナスをゼロにする努力」と「プラスをさらに伸ばす努力」では、後者の方が圧倒的に成果が出やすく、本人も楽しんで取り組めるからです。

苦手なことを人並みにできるようになるには、本人の資質に逆らってトレーニングをする必要があります。これには多大な精神的ストレスと時間を要します。苦労して苦手な事務作業をミスなくできるようになったとしても、それは「当たり前の状態(ゼロ)」になっただけであり、顧客から見ればプラスの価値にはなりません。

一方で、もともと得意なこと、好きなこと(強み)を伸ばすトレーニングは、本人にとって苦にならず、吸収スピードも速いです。そして何より、その強みが「他社にはない魅力」や「顧客にとっての独自の価値」へと進化します。

すべてを平均点に揃えようとするマネジメントは、角を削って丸くするようなものです。結果として、誰も突出した武器を持たない、画一的で「特徴のない営業組織」が出来上がってしまいます。競争の激しい市場において、特徴がないことは致命的です。

弱点は「克服」するのではなく「チーム」で補う

では、メンバーの弱点を放置してよいのかというと、そうではありません。ここでのポイントは、**「個人の中で完結させようとしない」**ということです。

一人の営業マンがすべてのプロセスを完璧にこなす必要はありません。組織として成果が出ればよいのです。 ここで重要になるのが、「パズルのピース」という考え方です。

メンバー一人ひとりは、形がいびつなパズルのピースです。出っ張っている部分(強み)もあれば、へこんでいる部分(弱み)もあります。 従来の教育は、このへこんでいる部分を無理やり埋めて、四角いブロックにしようとする行為でした。しかし、本来目指すべきは、あるメンバーの「へこみ(弱み)」に、別のメンバーの「出っパリ(強み)」をカチッとはめ込むことです。

例えば、

  • Aさん: トークは流暢ではないが、資料作成とデータ分析が抜群に得意で、論理的な提案書を作らせたら右に出る者はいない。ただし、初対面の顧客とのアイスブレイクは苦手。
  • Bさん: 細かい事務作業や緻密な分析は苦手だが、人懐っこい性格で誰とでもすぐに仲良くなれ、決裁者への懐の入り方が天才的。

この二人に対して、「Aさんはもっと元気に話せ」「Bさんはもっと数字に強くなれ」と指導するのはナンセンスです。 そうではなく、Aさんが作成した完璧な提案書を持って、Bさんがアプローチをかける。あるいは、Bさんが開拓した案件のクロージング段階でAさんが同席し、論理的な説明で最後の一押しをする。

このように役割分担や連携をデザインすることこそが、組織構築の要です。 個人の弱点を個人の努力だけで解決させるのではなく、「誰かの弱みは、誰かの強みでカバーできる」という仕組みを作ること。これが、チームで勝つということです。

これにより、メンバーは自分の得意な領域に集中できるため、仕事に対する「貢献実感」や「楽しさ」を感じやすくなります。結果として離職率が下がり、パフォーマンスも最大化します。

強みを見つけるための「1on1」の活用法

この「凸凹を組み合わせる組織」を作るために、マネジメント層がやるべき最初のアクションは何でしょうか。 それは、部下の**「本当の強み」を正確に把握すること**です。

「あいつはこれが得意そうだ」という印象論ではなく、客観的な事実や本人の内発的動機に基づいた理解が必要です。そのために有効な手段の一つが、1on1ミーティングです。

しかし、多くの企業で行われている1on1は、単なる「業務進捗の確認」や「詰め」の場になってしまっています。 「今月の目標まであと〇〇万円だけど、どうなってる?」 「先週言ったあのアクションは実行した?」 これでは、強みを見つけることはできません。

強みを発掘するための1on1では、以下のような問いかけを意識してみてください。

  • 「最近の仕事の中で、一番手応えを感じた瞬間はいつ?」
  • 「時間を忘れて没頭してしまった作業はある?」
  • 「お客様から言われて嬉しかった言葉は?」
  • 「周りの人は大変だと言うけれど、自分にとっては意外と苦にならないことはある?」

特に4つ目の質問は重要です。「他人は嫌がるけれど自分は平気」という領域にこそ、その人の隠れた才能が眠っています。

また、本人が「強み」だと認識していないケースも多々あります。「こんなの誰でもできますよね?」と本人が思っていることこそ、実はその人だけの特別な武器である可能性が高いのです。 マネージャーの役割は、対話を通じてその原石を見つけ出し、言語化してあげることです。

「君は、顧客の漠然とした要望を整理して図にするのがすごく上手いね。それは一つの才能だよ」 このようにフィードバックすることで、本人は自分の役割に自信を持ち、その強みをさらに伸ばそうという意欲が湧いてきます。

営業プロセスを「見える化」し、適材適所を配置する

個人の強みと弱みが把握できたら、次はそれを実際の営業プロセスに当てはめていきます。

そのためには、自社の営業活動がどのような工程で成り立っているかを細かく分解し、「見える化」しておく必要があります。 テレアポ、初回訪問、ヒアリング、提案作成、プレゼン、クロージング、契約後のフォローアップ……。 それぞれの工程で、どのような能力が求められるのかを定義し、そこに誰の強みを当てるのが最適かを考えます。

これができていないと、結局「全員が全部やる」という属人化した営業スタイルに戻ってしまいます。

もし、特定のプロセス(例えばクロージングなど)に強みを持つメンバーが不足しているのであれば、そこだけは採用で補うか、あるいは外部の力を借りるという判断もできます。 現状の戦力(手持ちのカード)を正しく把握し、組み合わせを最適化することで、今のメンバーのままでも組織全体の生産性を大きく向上させることは十分に可能です。

改善のサイクルを回し続ける

組織の形を変えることは、一度やって終わりではありません。 実際にチームで動いてみて、「ここの連携がうまくいっていない」「Aさんの強みは実は別のところにあった」といった発見があれば、柔軟に修正していく必要があります。

日々の活動データを記録し、振り返りを行うこと。 感覚ではなく事実に基づいて、「なぜうまくいったのか」「なぜ失注したのか」をチームで議論すること。 そして、うまくいったパターンを「組織の知恵」として共有し、仕組みに落とし込んでいくこと。

この地道なサイクルの繰り返しによってのみ、組織は強く太くなっていきます。

まとめ:個性を殺さず、組織を生かす

「営業に向いていない人間などいない。ただ、向いていない場所(役割)があるだけだ」 私たちはそう考えています。

成果が出ない営業マンがいるとすれば、それはその人の能力が低いのではなく、その人の強みが活きるポジションに配置されていないか、強みを発揮するための仕組みが整っていないだけかもしれません。

弱点を克服させることに時間を費やし、疲弊していく組織から脱却しましょう。 個人の強みを見つけ出し、それを鋭く尖らせ、チーム全体で補完し合う。 そうすることで、一人ひとりが生き生きと仕事をし、組織全体としても大きな成果を上げることができるようになります。

まずは、目の前の部下の「ダメなところ」ではなく、「誰よりも優れているところ」を探すことから始めてみませんか。 もし、自社だけで強みの分析やプロセスの分解を行うのが難しいと感じる場合は、専門的な視点を取り入れることも有効な選択肢です。

御社の営業組織には、まだ眠っている可能性が必ずあります。それを解き放つのは、経営者であるあなたの「見方」の変化です。

「人材育成」と「組織づくり」は車の両輪です。どちらか片方だけでは前に進みません。 私たちのアプローチは、徹底的な現状分析からスタートし、御社独自の「勝ちパターン」を組織全体に浸透させることです。 少しでも現状の営業組織に課題を感じていらっしゃるなら、ぜひ一度、壁打ち相手として私たちをご活用ください。現状を整理するだけでも、次の一手が見えてくるはずです。