「見て盗め」では人は育たない。営業のブラックボックスを解消し、成果を標準化する方法

「うちの営業部は、あいつがいないと回らない」 「トップセールスの彼が辞めたら、売上が激減してしまうのではないか」

経営者や営業責任者の皆様とお話ししていると、こうした不安を耳にすることが少なくありません。特定の優秀な社員に売上の大半を頼ってしまっている状態、いわゆる「属人化」は、多くの企業が抱える根深い悩みです。

もちろん、飛び抜けた成果を出すエース社員がいること自体は素晴らしいことです。しかし、組織全体の視点で見たとき、特定の人に依存しすぎている状態はリスクでしかありません。その人が体調を崩したり、あるいは転職してしまったりすれば、会社の業績そのものが揺らいでしまうからです。

では、なぜ多くの企業で「売れる営業」が育たず、属人化が解消されないのでしょうか。 それは、営業という仕事が個人のセンスやキャラクターに依存するものだと、心のどこかで諦めてしまっているからではないでしょうか。

「営業は足で稼ぐもの」「先輩の背中を見て盗むもの」といった古い常識にとらわれたままでは、これからの時代を勝ち抜く組織を作ることはできません。 必要なのは、センスや感覚に頼らず、成果が出る理由を論理的に解明し、それをチーム全体で共有できる「仕組み」にすることです。そして、その仕組みの上で、社員一人ひとりが自分の強みを発揮できる環境を整えることです。

今回は、特定の個人に依存した営業体制から抜け出し、組織全体で成果を上げ続けるための具体的な3つのステップについてお話しします。

ステップ1:営業プロセスの「中身」を徹底的に分解する

多くの企業では、結果(売上数字)の管理は厳格に行われています。「今月の目標まであといくら足りない」といった会話は日常茶飯事でしょう。しかし、その数字を作るための「プロセス(過程)」については、個人の裁量に任されすぎているケースが目立ちます。

「売れている人が、具体的に何をしているのか」を正確に把握できているでしょうか。

「お客様と仲良くなるのがうまい」といった曖昧な評価で終わらせてはいけません。 仲良くなるために、最初のアポイントでどんな話題を出しているのか。 商談のどのタイミングで資料を見せているのか。 クロージングの際に、どんな言葉で背中を押しているのか。

成果が出ている営業担当者の行動には、必ず理由があります。まずは、その行動を細かく分解し、ブラックボックスになっている営業活動の中身を明らかにすることから始めます。

ここで大切なのは、「誰が、いつ、どこで、何をしているか」を事実として並べることです。 例えば、成果の出ないメンバーは、商談の準備に時間をかけすぎて訪問件数が少ないのかもしれません。逆に、訪問件数は多いけれど、提案の質が低くて失注しているのかもしれません。

このようにプロセスを分解して初めて、漠然とした「売れない」という悩みが、「ヒアリング能力が足りない」「クロージングのタイミングが遅い」といった具体的な課題に変わります。課題が具体的になれば、対策も具体的になります。 これが、属人化から脱却するためのスタートラインです。

ステップ2:成功パターンを「共有できる資産」に変える

プロセスが見えてきたら、次に行うのは「勝ちパターン」の標準化です。 トップセールスのやり方を分析すると、成果に直結する共通の動作やトークが見えてきます。これを、誰でも真似できる形に落とし込んでいきます。

ただし、ここで誤解していただきたくないのは、一言一句決まった台本を読ませるような、ガチガチのマニュアルを作ることではありません。それでは社員が思考停止に陥り、イレギュラーな事態に対応できなくなってしまいますし、何より仕事がつまらなくなってしまいます。

目指すべきは、要所を押さえた「型」を作ることです。 「この段階では、必ず顧客の予算感を確認する」「競合との比較を聞かれたら、この強みを伝える」といった、成果を出すために外してはいけないポイントを明確にします。

これを組織全体で共有することで、経験の浅いメンバーでも一定のレベルで商談を進められるようになります。 また、成功事例だけでなく「失敗事例」を共有することも非常に有効です。「こういうアプローチをしたら失敗した」というデータは、他のメンバーが同じ轍を踏まないための貴重な財産になります。

個人の頭の中にしかなかったノウハウを、組織の資産として蓄積していく。これにより、特定の誰かがいなくなっても、残されたメンバーや新しく入ってきたメンバーが、その資産を使って成果を出し続けることができるようになります。

ステップ3:1on1で「個人の強み」を引き出し、育成する

仕組みや型ができれば、それだけですべて解決するでしょうか。 答えは「No」です。 どれほど優れた営業ツールやマニュアルがあっても、それを使いこなすのは「人」だからです。

ここで重要になるのが、マネージャーによるメンバーへの関わり方です。 これまでの営業マネジメントは、ともすれば「数字の詰め」になりがちでした。「なぜ売れないんだ」「もっと件数を回れ」と叱咤激励するだけでは、人は育ちませんし、モチベーションも下がります。

属人化を排した強い組織を作るためには、定期的な「1on1(ワン・オン・ワン)」ミーティングが欠かせません。 この場は、単なる進捗確認の場ではなく、メンバーの成長を支援するための時間です。

先ほどのステップで見える化したプロセスと結果を元に、「なぜ今回はうまくいったのか」「どこにつまずいているのか」を一緒に振り返ります。データを元にしているため、感情的な指導ではなく、納得感のある対話が可能になります。

そして、もう一つ大切な視点があります。それは、メンバー一人ひとりの「個性」や「楽しさ」に焦点を当てることです。

「型」は大切ですが、全員がトップセールスのコピーになる必要はありません。 あるメンバーは論理的な説明が得意かもしれませんし、別のメンバーは相手の懐に入るのがうまいかもしれません。仕組みという土台の上で、それぞれの個性をどう活かすかを一緒に考えることが、マネージャーの腕の見せ所です。

人は、自分が成長している実感や、誰かの役に立っているという貢献実感を持てたときに、最も高いパフォーマンスを発揮します。そして何より、仕事そのものを「楽しい」と感じている営業担当者の言葉には、顧客を動かす熱量が宿ります。

1on1を通じて、メンバーが自分の課題に気づき、次のアクションを自ら決められるようにサポートする。 「やらされる営業」から「自ら考え、動く営業」へとマインドセットを変えていくこと。これこそが、組織を根本から強くする人材育成です。

最後に:「仕組み」と「人」の両輪で組織は変わる

営業の属人化からの脱却は、一朝一夕でできることではありません。 しかし、曖昧だったプロセスを分解し、成功の理由を明らかにし、それを活かすための対話を積み重ねることで、組織は確実に変わります。

「仕組み」だけでも、「人」の力だけでも不十分です。 成功するための論理的な「仕組み」があり、その上で生き生きと働く「人」がいる。この両輪が噛み合ったとき、貴社の営業組織は特定の個人に依存しない、盤石で強いチームへと生まれ変わるはずです。

「今のやり方を変えたいが、どこから手をつければいいかわからない」 「データを活用したいが、社内にノウハウがない」 「マネージャーが育っておらず、効果的な1on1ができていない」

もしそのようなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。 貴社の現状を丁寧に分析し、最適な営業組織を作るための道筋を一緒に描かせていただきます。 まずは、貴社の営業の中に眠っている「可能性」を見つけることから始めませんか。