「今月の数字、どうなっているんだ」 「もっと気合いを入れて件数を回れ」
月末になると、このような叱咤激励がオフィスに響き渡っていないでしょうか。あるいは逆に、重苦しい沈黙が支配し、誰もがパソコンの画面に向かってただ「忙しそう」にしているだけ——。
もし、あなたの会社の営業チームがそのような状態にあるなら、それは組織が崩壊に向かっている「危険信号」かもしれません。
ここで言う「崩壊」とは、社員が一斉に辞めてしまうことだけを指すのではありません。より恐ろしいのは、**「社員はそこにいるのに、組織としての成長が止まり、活力が失われている状態」**です。
多くの経営者や営業責任者の方が、日々の売上目標に追われ、組織の内側で静かに進行している「病」に気づけずにいます。今回は、組織が機能不全に陥る前に現れる代表的な3つのサインと、そこから抜け出すための視点についてお話しします。
危険信号①:マネージャーが「最強のプレイヤー」であり続けている
もっともよくある危険な兆候は、マネージャー自身がチームで一番の売上を作っている、あるいはトラブル対応の最前線に立ち続けているケースです。
「部下に任せるよりも、自分がやったほうが早い」 「背中を見せて育てるしかない」
そう考えて、プレイングマネージャーとして走り回っている責任者は少なくありません。一見、頼もしく見えますが、組織論の観点から見れば、これは非常に危うい状態です。
なぜなら、マネージャーが個人の能力でカバーし続けている限り、「組織として勝つ仕組み」が育たないからです。
マネージャーの時間は本来、部下のつまずきを分析し、再現性のある勝ちパターンを見つけ出し、それをチーム全体に浸透させるために使われるべきです。しかし、マネージャー自身がプレイヤー業務に忙殺されていると、部下の育成がおろそかになります。
その結果、部下は「どうすれば売れるのか」がわからず、成功体験を積めないまま疲弊していきます。そしてマネージャーもまた、「なぜ自分ばかりが忙しいのか」と孤独感を深めていくのです。この悪循環が、組織の活力を奪っていきます。
危険信号②:振り返り会議が「詰める場」になっている
あなたの会社の営業会議を思い返してみてください。そこで行われているのは「未来に向けた作戦会議」でしょうか。それとも「過去の数字に対する尋問」でしょうか。
「なぜ未達なんだ?」 「どうしてこんなミスをしたんだ?」
結果だけを見て「なぜ」を問い詰めると、部下は萎縮します。その場をやり過ごすために言い訳を考えたり、本来報告すべき悪い情報を隠したりするようになります。これでは、正確な現状把握など到底できません。
本当に必要なのは、結果に至るまでのプロセス(行動の中身)に目を向けることです。「行動量が足りなかったのか」「ターゲット選定がずれていたのか」「商談での伝え方が響かなかったのか」。これらを冷静に分解し、「次はどうすればうまくいくか」を建設的に話し合う場に変える必要があります。
ここで重要になるのが、上司と部下が1対1で行う「1on1」の質です。 単なる進捗確認ではなく、部下が何に悩み、どこでつまずいているのかを共有し、一緒に解決策を考える時間。これこそが、社員の「成長実感」を生み出します。
人は、自分の成長を感じられる時、仕事に前向きになれます。逆に言えば、日々の業務が「こなすだけの作業」になり、成長を感じられなくなった時、組織へのエンゲージメント(愛着心)は急速に冷めていくのです。
危険信号③:「あの人にしか売れない」という属人化の放置
「この商品は難しいから、〇〇さんじゃないと決まらないよ」
社内でこのような会話が聞こえてきたら、要注意です。特定の「天才的なトップセールス」に依存している組織は、一見売上が上がっているように見えても、土台は非常に不安定です。そのエースが退職したり、スランプに陥ったりした瞬間、組織全体の数字がガタ落ちするからです。
営業組織を強くするために本当に必要なのは、スタープレイヤーを作ることではありません。「普通の社員が、当たり前に成果を出せる状態」を作ることです。
トップセールスがなぜ売れているのか。その行動、トーク、事前の準備、顧客の見極め方などを徹底的に分解し、他のメンバーでも真似できる形に落とし込めていますか?
「センス」や「人柄」といった曖昧な言葉で片付けず、具体的な行動のルールや型として共有すること。これができていない組織は、いつまでたっても人の入れ替わりに怯えることになります。
組織を立て直すために必要なこと
これら3つの危険信号に共通しているのは、**「仕組みの欠如」と「人を育てる視点の不足」**です。
精神論で数字を追わせるだけでは、今の時代の営業組織は生き残れません。社員一人ひとりが「自分もここでなら成長できる」「自分の仕事が誰かの役に立っている」という手応えを感じながら働ける環境を作ることが、遠回りのようでいて、実はもっとも確実な業績アップへの道です。
では、具体的にどうすればいいのでしょうか。
まずは、現状を正しく「見る」ことから始めてください。 個人の感覚や記憶に頼るのではなく、誰が、いつ、どんな行動をして、どこで成果を出し、どこで失注しているのか。事実をありのままに捉えるのです。
そして、見えてきた課題に対して、精神論ではなく「仕組み」で解決策を打ちます。
- マネージャーが走り回らなくても済むように、営業プロセスを標準化する。
- 部下が萎縮せず、前向きに改善に取り組めるような1on1のスタイルを導入する。
- 特定の個人の頑張りに頼るのではなく、チーム全体でノウハウを共有する文化を作る。
これらを一つひとつ丁寧に積み重ねていくことで、組織は「誰かが引っ張る集団」から「全員が自ら考え、動き出す集団」へと変わっていきます。
働く人が輝く組織こそが、成果を生み出し続ける
営業とは、本来とてもクリエイティブで楽しい仕事です。顧客の課題を解決し、感謝され、自分自身の成長もダイレクトに感じられる。そんな「仕事の楽しさ」を社員一人ひとりが感じられる組織になれば、数字は後から必ずついてきます。
もし今、あなたの組織に閉塞感が漂っているのなら、それは「人」の問題ではなく、これまでの「やり方」が限界に来ている合図かもしれません。
今のやり方を一度立ち止まって見直し、社員がもっと生き生きとパフォーマンスを発揮できる環境を整える。その決断ができるのは、現場のリーダーではなく、経営者であるあなただけです。
組織のひずみに気づいた今こそ、次の一手を打つタイミングではないでしょうか。
弊社では、貴社の営業組織が抱える課題を客観的に分析し、人の成長と仕組みの構築を両立させるご支援を行っています。「何から手をつければいいかわからない」「現場のマネージャーをどう育てればいいか悩んでいる」という方は、ぜひ一度、お話をお聞かせください。
