「最近どう?」で終わらせない。部下の本音と成長を引き出す1on1ミーティング術

「最近どうだ?」 「はい、順調です」 「そうか。何か困っていることはないか?」 「特にありません」 「よし、じゃあ今月の目標達成、頼むぞ」 「はい、頑張ります」

……こんなやり取りで、1on1ミーティングが終わってしまっていないでしょうか。

経営者や営業責任者の皆様の中には、営業力の強化、人材育成の必要性を感じ、マネージャーに部下との1on1ミーティングを指示している方も多いと存じます。しかし、その1on1が形骸化し、単なる「進捗確認」や「結果の詰問」の場になってしまっているケースは、驚くほど多く見受けられます。

部下は本音を語らず、マネージャーは実態を把握できない。結果として、個々の社員は成長せず、組織としての営業力も底上げされない。この「機能不全の1on1」こそが、営業組織が抱える多くの課題の根源となっている可能性があります。

本日は、なぜ1on1が失敗するのか、そして、どうすれば部下の本音と成長を引き出し、組織の力に変えていけるのか、その具体的な方法について解説します。

なぜ1on1は「最近どう?」で終わってしまうのか

多くのマネージャーは多忙です。自身のプレイング業務やチームの数字管理に追われ、1on1に十分な準備と時間を割けない現実があります。

その結果、1on1は「いかに効率よく部下の状況を把握するか」というマネージャー視点の「情報収集」の場になりがちです。

  • 「報告会」になってしまう マネージャーが知りたいのは「数字」。そのため、「あの案件どうなった?」「今月の見込みは?」といった質問が中心になります。部下は、マネージャーを「評価する人」と認識しているため、都合の悪い情報や、自身の弱み、失敗を積極的に開示しようとはしません。結果、当たり障りのない「順調です」という返答に終始します。
  • 「詰問会」になってしまう 目標未達が続くと、マネージャーは「なぜできないんだ?」と原因を追及し始めます。しかし、これは部下にとって「問い詰められている」というプレッシャーでしかありません。部下は防衛的になり、本質的な課題(例えば、「実は商品の理解度に自信がない」「A社との関係構築に悩んでいる」)を隠し、その場を取り繕うための言い訳を考えてしまいます。
  • 「精神論」で終わってしまう 具体的な解決策が見いだせない場合、最後は「もっと頑張れ」「気合が足りない」といった精神論になりがちです。これでは部下の納得感は得られず、モチベーションは下がる一方です。

こうした1on1では、部下は「また報告か」「詰められる時間だ」と憂鬱になり、マネージャーは「あいつは本音を言わない」「何を考えているかわからない」と不満を募らせる。これでは、人材が育つはずもありません。

1on1の目的を再定義する:「管理」から「育成」へ

まず、経営者・責任者とマネージャーの間で、1on1の目的を明確に共有し直す必要があります。

1on1ミーティングの目的は、「マネージャーが部下の進捗を管理すること」ではありません。

本当の目的は、**「部下本人が自らの課題に気づき、成長するための行動変容を促すこと」**です。

主役はマネージャーではなく、あくまで部下です。マネージャーの役割は、評価者や監督者ではなく、部下の成長を支援する「伴走者」です。この認識の転換が、1on1の質を変える第一歩となります。

部下の本音と成長を引き出す「対話」の技術

では、具体的にどのように1on1を進めればよいのでしょうか。

1. 「安全な場」を作るところから始める

部下が本音を話すためには、「ここでは何を言っても大丈夫だ」と感じられる環境づくりが何よりも重要です。

  • 「この時間はあなたのために使う」と宣言する 「今から30分は、君の進捗を確認するためじゃなく、君が仕事をしやすくするため、成長するために使う時間だ。だから、うまくいっていないことや悩んでいることを率直に話してほしい」と、冒頭で目的を明確に伝えます。
  • マネージャーは「聴く」に徹する(目安は2:8) マネージャーが話す時間を2割、部下が話す時間を8割程度にする意識を持ちます。部下の話を途中で遮ったり、「それは違う」と否定したりせず、まずは最後まで受け止める姿勢が大切です。

2. 「事実」をベースに質問する

「なぜできない?」という「理由」から入ると、部下は言い訳を始めます。まずは「事実」の共有から入ることで、客観的な対話が可能になります。

  • 悪い例:「なんで先週はアポが3件しか取れなかったんだ?」 →部下は「たまたま忙しいお客様が多くて…」と、外的要因を話し始めます。
  • 良い例:「先週の活動データを見ると、架電数が前の週より20%減っているね。この時、どんな状況だったか教えてもらえる?」 →「事実(データ)」を提示することで、部下は言い訳をしにくくなります。「実は、提案資料の作成に想定より時間がかかってしまって…」など、具体的な行動の事実(=課題)が見えてきます。

「感覚」ではなく「事実(データや観察された行動)」を共通言語にすることで、対話は具体的かつ建設的になります。

3. 「答え」を与えるのではなく、「考えさせる」質問をする

課題が見えてきた時、マネージャーがすぐに「じゃあ、こうしろ」と解決策を与えてしまうと、部下は指示待ちになります。成長を促すためには、部下自身に考えさせることが重要です。

  • 悪い例:「資料作成に時間がかかりすぎだ。テンプレートを使え」 →部下は「はい」としか言えず、思考が停止します。
  • 良い例:「資料作成のどの部分に一番時間がかかっていると思う?」 →部下:「事例を探す部分です」
  • 良い例:「その時間を短縮するために、何ができそうかな?」 →部下:「…先輩のBさんが作った資料が分かりやすかったので、一度見せてもらって構成を相談してみます」

このように、マネージャーは質問を通じて、部下本人が課題を特定し、解決策を導き出せるようサポートします。本人が考え出した解決策は、実行への意欲(当事者意識)が格段に高まります。

4. 最後は「具体的な次の行動」で締める

1on1の最後は、「頑張ります」という曖昧な決意表明で終わらせてはいけません。

  • 「じゃあ、明日から具体的に何を一つ変えてみる?」 「今週中に、まず誰に何を相談する?」

このように、次の1on1までに実行する「小さな行動(ベビーステップ)」を、部下自身の言葉で宣言させます。そして、次回の1on1では、その行動が実行できたかどうか、結果どうだったかを一緒に振り返ります。

この「振り返り」→「改善」の小さなサイクルを回していくことこそが、部下の成長実感と達成感につながり、ひいては営業組織全体の「自ら考え行動する力」を養うことになります。

1on1の「質」が、営業組織の「仕組み」を作る

優れた営業組織は、個人の能力だけに依存しません。

質の高い1on1ミーティングが組織全体で実践されれば、それは強力な「人材育成の仕組み」となります。

  • マネージャーは、部下一人ひとりの個性や強み、弱みを正確に把握できます。
  • 部下は、自分の課題を客観的に認識し、自ら改善する習慣が身につきます。
  • チーム内には、失敗を恐れずに開示し、前向きに解決策を話し合う文化が醸成されます。

「最近どう?」という表面的なコミュニケーションを、「君はどう考える?」「次は何を試す?」という、個の成長を促す対話に変えること。それが、特定のトップセールスに頼る属人的な組織から脱却し、メンバー一人ひとりが個性を発揮しながら自律的に動ける、強い営業組織を構築する基盤となるのです。

貴社の1on1ミーティングは、社員の成長に貢献する「仕組み」として機能しているでしょうか。それとも、単なる「時間の浪費」に終わっていないでしょうか。

もし、マネージャーが部下の育成に悩んでいたり、面談が成果に結びついていないと感じたりしているのであれば、まずはその1on1の「目的」と「やり方」から見直してみてはいかがでしょうか。