「最近、若手社員がすぐに辞めてしまう」 「営業チームに活気がなく、指示待ちの人間ばかりだ」 「新しい手法を試そうとせず、売上が伸び悩んでいる」
企業の経営者や営業責任者の皆様とお話していると、このようなお悩みを頻繁に伺います。営業力の強化、人材の育成、そして強い組織作りは、いつの時代も経営の重要なテーマです。
もし、こうした課題が自社にも当てはまると感じているなら、その原因は「営業手法」や「個々の社員の能力」だけではなく、日々現場で行われている「マネジメント」のスタイルそのものにあるかもしれません。
かつて、高度経済成長期や、市場全体が右肩上がりだった時代には、非常に効果的だったマネジメント手法があります。私たちはそれを、尊敬と自戒を込めて「昭和型マネジメント」と呼ぶことがあります。
これは、強いリーダーシップの元、上司の指示命令が絶対であり、「気合い」や「根性」といった精神論が重視され、長時間働くことが美徳とされたスタイルです。上司の背中を見て部下が学び、技術を盗む。厳しく叱咤激励することで、部下を一人前に育てる。
このスタイルで多くの企業が成長し、また、その下で育った方々が現在の経営層や管理職を担っているケースも少なくありません。その成功体験は、間違いなく御社の資産の一つです。
しかし、時代は大きく変わりました。 顧客が手にする情報は爆発的に増え、営業担当者が「情報を持っている」だけでは価値になりません。働く人々の価値観も多様化し、一方的な指示よりも「納得感」や「自分自身の成長」を強く求めるようになりました。
もし、かつての成功体験である「昭和型マネジメント」を、無意識のうちに続けているとしたらどうでしょうか。 それは、良かれと思ってかけた肥料が、現代の作物には合わず、かえって才能の芽を摘んでしまっている状態かもしれません。
本日は、自社のマネジメントが「時代遅れ」になっていないか、部下の可能性を狭めていないかを確認するための、5つのチェックリストをご用意しました。
時代遅れかも?「昭和型マネージャー」度チェック
以下の項目に「はい」が多ければ多いほど、意図せず部下の成長を妨げている可能性があります。
1. 部下が失敗した時、「なぜ出来なかったんだ」と「結果」だけを厳しく追及する
営業報告で悪い数字が上がってきた時、第一声は何でしょうか。 「なぜ目標を達成できなかったんだ」「言い訳はいいから、どうするんだ」 もちろん、結果責任を問うことは管理職として重要です。
しかし、問題は「なぜ」の深掘り方です。これが「叱責」や「詰問」になってしまうと、部下は保身に走ります。「怒られないように」と、失敗を隠したり、正直に報告しなくなったり、表面的な取り繕いを始めます。
これでは、失敗の原因が「営業プロセス」のどこにあったのか、例えば「アプローチの仕方が悪かったのか」「提案内容が響かなかったのか」「そもそもターゲット選定が間違っていたのか」といった、最も重要な「分析」が進みません。
失敗は、次に成功するための貴重なデータです。それを感情的に処理してしまうと、組織にノウハウが蓄積されず、同じ失敗が繰り返されることになります。
2. 「いいから、やれ」「俺の言う通りにしろ」と、理由や背景を説明せずに行動を指示する
上司は部下より多くの経験と情報を持っています。その判断が正しいことも多いでしょう。 しかし、「なぜ、それを行う必要があるのか」「その行動が、どのような成果に繋がるのか」という背景説明を省略してしまうと、部下は「やらされ仕事」の感覚に陥ります。
納得感のない仕事は、本人のやる気を引き出しません。そればかりか、指示されたことしかやらない「指示待ち人材」を生み出す最大の原因となります。
自分で「考える」プロセスを上司が奪ってしまうため、いつまで経っても部下は状況判断を学べず、成長できません。結果として、マネージャー自身がマイクロマネジメントから抜け出せず、忙殺されるという悪循環に陥ります。
3. 「俺の背中を見て学べ」「技術は盗むものだ」という姿勢で、具体的な指導をしない
「昔は誰も教えてくれなかった。自分で見て盗んだものだ」 これは、非常に優秀な営業パーソンであった方に多い考え方です。確かに、自ら学ぶ意欲は大切です。
しかし、これは「たまたま盗む才能があった人」だけが生き残るという、非常に効率の悪い育成方法でもあります。部下全員が、上司の行動の意図を正確に読み取れるわけではありません。
特に現代の営業活動は複雑化しています。優れた営業担当者が「なぜ、そのタイミングで、その言葉を選んだのか」を、部下が外から見ているだけですべて理解するのは不可能です。
結果として、成果を出すノウハウが「特定の人に頼る」状態(俗人化)を生み出し、組織全体の営業力が底上げされません。その優秀な上司が異動・退職した途端、チームの業績が急落するリスクを抱えることになります。
4. 自分の成功パターンや「営業とはこうあるべきだ」という型を、全員に押し付ける
マネージャー自身がトップセールスだった場合、「自分のやり方」が正解であると信じ、それを部下に徹底させようとしがちです。
しかし、人はそれぞれ個性や強みが異なります。 ロジカルに説明するのが得意な人もいれば、相手の懐に飛び込むのが上手い人もいます。コツコツと緻密な分析を続けるのが得意な人もいれば、瞬発力で大きな案件を決めるのが得意な人もいます。
上司の型に無理やり押し込もうとすると、部下は自分の得意なやり方を封じられ、窮屈さを感じます。これは、仕事の「楽しさ」や「自己表現」の感覚を奪い、モチベーションの低下に直結します。
本当に強い組織は、金太郎飴のように同じタイプの営業担当者が揃っている組織ではなく、多様な個性を持つメンバーが、それぞれの強みを活かして連携できる組織です。
5. 「気合いが足りない」「熱意は時間で示せ」と、長時間労働や精神論を重視する
「顧客のためなら、土日でも夜中でも対応するのが当たり前だ」 「俺たちの若い頃は、もっと必死にやった」
こうした精神論は、時として短期的な成果を生むかもしれません。しかし、持続性がありません。 非効率な業務プロセスが放置されたまま、「気合い」でカバーし続ける現場は、必ず疲弊します。優秀な人材ほど、その非合理性に見切りをつけ、よりスマートに働ける環境を求めて去っていきます。
今の時代に求められるのは、精神論ではなく「どうすれば、より効率的に成果を出せるか」という科学的な視点です。
「管理」から「支援」へ。今、求められるマネジメント
もし、上記のチェックリストに一つでもドキッとした項目があったとしても、ご自身を責める必要はありません。それらは全て、かつては正解だった「成功体験」だからです。
問題は、その成功体験に固執し、変化を拒むことです。
では、部下の才能を活かし、自ら考え行動する「自走する営業チーム」を作るためには、何が必要でしょうか。 それは、上司が「管理する人(Manager)」から「支援する人(Supporter / Coach)」へと役割を変えていくことです。
1. 「結果」だけでなく「プロセス」を見る
失敗した時に「なぜだ!」と詰問するのではなく、「どこに問題があったか、一緒に見てみよう」と問いかける。 商談が上手くいかなかったなら、そのプロセスを分解し、「準備段階」「ヒアリング」「提案」「クロージング」のどこに改善点がありそうかを、客観的な事実(データ)に基づいて話し合います。
2. 「指示」ではなく「対話」を増やす
「こうしろ」と命令する前に、「君はどう思うか?」と問いかける。 部下の考えをまず聞くことで、本人の思考が深まります。たとえその意見が未熟だったとしても、一度受け止めた上で、「私はこう思うが、どうだろうか?」と上司の考えを提示することで、部下は納得感を持って動くことができます。
こうした「対話」の時間を意識的に作ることが、例えば1on1ミーティングなどの取り組みです。これは単なる進捗確認の時間ではなく、部下の成長を支援するための重要な時間です。
3. 「画一化」ではなく「個性の尊重」
全員に同じやり方を強制するのではなく、部下一人ひとりの特性(得意なこと、苦手なこと、価値観)を理解しようと努める。 そして、「君のその強みを、この案件で活かせないか?」と、本人が最も力を発揮できる方法を一緒に探します。
部下が「自分のやり方」で成果を出し、「貢献できた」「成長できた」と感じることが、仕事の楽しさ、そして次の行動への意欲に繋がります。
組織的な取り組みへの第一歩
もちろん、こうしたマネジメントの変革は、マネージャー個人の努力だけに任せるべきではありません。 「プロセス」を分析するための「営業活動の見える化」や、個性を活かすための「評価の仕組み」、そしてノウハウを共有するための「組織的な取り組み」が必要です。
経営者や営業責任者の皆様がまず取り組むべきは、自社の営業組織の現状を客観的に見つめ直すことです。 「もしかしたら、ウチのマネジメントは古いかもしれない」 そう気づくことが、変化の始まりです。
営業に課題を感じている、人材育成が上手くいかない、組織の仕組みが作れていない。 もしそうお考えであれば、まずは自社の「当たり前」を疑い、営業活動の根本的な見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
