9割の営業マネージャーが見落とす、チームの成果を底上げする「中間指標」とは

「今月も目標達成が厳しい」「新しい人材を採用し、頭数は増えているのに、チーム全体の成果が思うように上がらない」「営業メンバーは日々忙しく動いている。それなのに、なぜ契約に結びつかないのか」

企業の経営者や営業責任者にとって、営業チームのパフォーマンスに関する悩みは尽きません。特に、「営業に困っている」「人材育成がうまくいかない」「組織としての営業の仕組みが機能していない」と感じている場合、その焦りは深刻なものでしょう。

多くの営業マネージャーは、チームの成果を管理するために、日々2つの数字を追いかけています。

  1. 最終的な「結果」の数字(KGI): 売上高、契約件数、利益率など。
  2. 初期の「行動量」の数字(KPI): 架電数、アポイントメント数、訪問件数など。

目標(結果)に届いていなければ、マネージャーは「行動量が足りないのではないか」と考え、メンバーに「もっと電話をかけよう」「もっとアポイントを取ろう」と指示を出します。これは、マネジメントとして当然の行動のように思えます。

しかし、もしメンバーが既に行動量の目標を達成していたとしたら、どうでしょうか。

行動量は足りている。メンバーも懸命に働いている。それでも、結果が出ない。 この状況に陥ったとき、多くのマネージャーは「個々の営業スキルが低いからだ」あるいは「市場のせいだ」と結論づけてしまいがちです。

ですが、本当にそうでしょうか。実は、チーム全体の成果を底上げするために、9割の営業マネージャーが見落としている、非常に重要な「中間指標」が存在するのです。

「結果」と「行動量」だけを見るマネジメントの罠

最終的な「売上」だけを見ていては、なぜ目標を達成できなかったのかという「原因」は分かりません。

また、初期の「行動量」だけを見ていても、その行動がどれだけ「結果」に結びついているのか、つまり「行動の質」は分かりません。

例えば、ある営業チームが「月100件の新規アポイント」という行動目標を達成し続けているとします。しかし、売上目標は未達が続いています。

この時、マネージャーが「行動量は達成しているから問題ない」と判断したり、逆に「結果が出ないなら、次は120件のアポイントを目指そう」と、さらなる行動量(=根性)を求めてしまったりするのは、典型的な失敗パターンです。

メンバーは疲弊し、「こんなに頑張っているのに、なぜ評価されないんだ」とモチベーションを失っていきます。これでは、組織の持続的な成長は望めません。

問題は、「100件のアポイント」という「量」ではなく、その100件のアポイントが、次のステップにどれだけつながっているか、という「質」にある可能性が高いのです。

注目すべきは「営業プロセスごとの移行率」

営業活動は、一本の線ではありません。実際には、いくつかの段階(プロセス)に分かれています。

例えば、以下のようなプロセスです。

  1. リード獲得(見込み客の発見)
  2. 初回接触・アポイント獲得
  3. 初回商談・ヒアリング(課題の深掘り)
  4. 提案・デモンストレーション
  5. 見積提示・クロージング
  6. 契約

多くのマネージャーは、「1. リード獲得数」や「2. アポイント数」(行動量)、そして最終的な「6. 契約数」(結果)は見ています。

しかし、本当に見るべきは、その「中間」です。

  • 「3. ヒアリング」から「4. 提案」に進んだ割合は何%か?
  • 「4. 提案」から「5. クロージング」に進んだ割合は何%か?

この、**「プロセス間の移行率(あるいは離脱率)」**こそが、9割のマネージャーが見落としている最重要指標です。

「移行率」が明らかにする「真のボトルネック」

仮に、2つの営業チーム(Aチーム、Bチーム)があり、どちらも「アポイント100件」で「契約5件」(最終契約率5%)だったとします。

Aチームのプロセス分析:

  • アポイント(100件) → ヒアリング(90件) 移行率90%
  • ヒアリング(90件) → 提案(30件) 移行率33%
  • 提案(30件) → 契約(5件) 移行率17%

Bチームのプロセス分析:

  • アポイント(100件) → ヒアリング(60件) 移行率60%
  • ヒアリング(60件) → 提案(50件) 移行率83%
  • 提案(50件) → 契約(5件) 移行率10%

どちらも最終契約率は5%ですが、中身は全く異なります。

Aチームの課題は明らかです。「ヒアリング」は得意だが、そこから「提案」に結びつけるのが極端に苦手です。ヒアリングの質が低く、顧客の真の課題を引き出せていないか、あるいは提案書作成のスキルが低いのかもしれません。

Bチームの課題も明確です。「提案」には高い確率で進められるスキルがあるのに、そもそも「ヒアリング」の段階に進む率が低い(アポイントが流れている)、もしくは「提案」から「契約」へのクロージングが極端に弱いことが分かります。

もし、マネージャーがこの「移行率」を見ずに、「両チームとも契約率5%だから、もっとアポイントを増やそう」という指示を出していたら、どうなるでしょうか。

Aチームは、質の低いヒアリングを量産し、Bチームは、クロージングできない提案を量産するだけです。メンバーは疲弊し、成果は一向に上がりません。

「移行率」を分析することで、チームがどこでつまづいているのか、という「真のボトルネック」が初めて客観的に明らかになります。

マネージャーの仕事は「監視」から「育成」へ変わる

この「プロセス移行率」を把握することの最大のメリットは、マネージャーの役割が変わることにあります。

「なぜ、うちはヒアリングから提案への移行率が33%しかないんだ?」

この「なぜ?」を深掘りすることこそが、マネジメントです。この問いは、マネージャーを「数字を監視する人」から、「課題を解決し、メンバーを育てる人」へと変えます。

この「なぜ?」を明らかにするために必要なのが、メンバーとの1-on-1ミーティングです。

単なる進捗確認(「今月、目標に対して何%だ?」)のための1-on-1ではありません。

「A君は、ヒアリングの場には行けるけど、次の提案につなげるのに苦労しているようだね。あの時の面談、具体的にどんな話をして、どこで難しいと感じた?」

このように、ボトルネックとなっているプロセスについて具体的に対話し、メンバーが何に困っているのか、どんなスキルが不足しているのかを一緒に考えるのです。

あるメンバーは、顧客の課題を引き出す「質問力」が不足しているのかもしれません。 また別のメンバーは、自社の商品知識が不足し、自信を持って提案できていないのかもしれません。

課題が明確になれば、打ち手も明確になります。チーム全体でヒアリングのロープレを行う、提案資料の型を整備する、個別にOJTを強化するなど、具体的な育成プランが見えてきます。

これは、メンバー個人の個性を無視した画一的な指導ではありません。データに基づき、一人ひとりが「どこで困っているのか」を正確に把握し、その人のスタイルを活かしながら必要なスキルを補うための、的確なサポートです。

メンバーは、自分の弱みを克服し、成長している実感(成長実感)や、上司が自分をしっかり見てくれているという貢献実感を得ることができます。これが、仕事の楽しさや主体性につながり、組織全体のパフォーマンスを底上げしていきます。

まとめ

営業チームの成果が上がらないとき、その原因を「行動量が足りない」「個人の能力が低い」と結論づけるのは簡単です。しかし、それでは組織は変わりません。

経営者や営業責任者が今すぐ着手すべきは、営業活動をプロセスに分解し、「どこで、どれだけの顧客が離脱しているのか」という「プロセス移行率」を正確に把握することです。

最終結果や初期行動量といった「点」で見るのではなく、プロセス全体の「線」で営業活動を捉えること。

そこにこそ、チームの「真のボトルネック」と、「人材育成の具体的なヒント」が隠されています。もし、貴社の営業チームが「頑張っているのに報われない」状態にあるとしたら、それはメンバーの努力が足りないのではなく、マネジメントが「見るべき数字」を見誤っているだけなのかもしれません。