なぜ、あのチームは楽しそうに成果を出すのか?弱点を克服するのではない個性を活かす組織づくりの方法

「最近の若手は打たれ弱い」「何度言っても同じミスをする」「もっと主体的に動いてほしい」。多くの経営者や管理職の方が、このような悩みを抱えているのではないでしょうか。真面目で優秀な人材を採用したはずなのに、なぜか組織としてのパフォーマンスが上がらない。社内の雰囲気もどこか停滞している。その原因は、もしかしたら良かれと思って続けている「育成方法」そのものにあるのかもしれません。

多くの企業では、社員の「弱点」や「できていないこと」に目を向け、それを克服させるための研修や指導が行われています。もちろん、社会人として最低限必要なスキルや知識を身につけることは大切です。しかし、誰もが同じ基準で、同じように完璧になることを目指すアプローチは、果たして本当に効果的なのでしょうか。

人にはそれぞれ、得意なこともあれば、苦手なこともあります。生まれ持った性格や、これまでの経験によって培われた価値観も一人ひとり異なります。その「違い」を無視して、全員を同じ型にはめようとすると、社員は窮屈さを感じ、本来持っている能力を十分に発揮できなくなってしまいます。苦手なことを克服する作業は、本人にとって大きな精神的負担となり、仕事へのモチベーションを削いでしまうことにもなりかねません。

もし、今、組織の成長に課題を感じているのであれば、一度立ち止まって、育成の方針を大きく転換してみてはいかがでしょうか。つまり、「弱点を克服させる」のではなく、**「一人ひとりの長所を最大限に伸ばし、それを活かせる仕組みを作る」**という考え方にシフトするのです。

この記事では、なぜ今、「個性を活かす組織」が求められているのか、そして、具体的にどのようにすればそのような組織を作ることができるのか、日々の業務にすぐに取り入れられるシンプルな方法を交えながら、詳しく解説していきます。

なぜ「弱点の克服」よりも「長所を伸ばす」方が大切なのか?

そもそも、なぜ私たちは「弱点」を克服させようとしてしまうのでしょうか。それはおそらく、「できないことがあると、仕事で困るだろう」「ミスをすると、周りに迷惑がかかる」といった、ある種の親心や責任感から来ているのかもしれません。また、評価制度が減点方式になっている場合、どうしても「できていない部分」に目が行きがちになるという側面もあるでしょう。

しかし、このアプローチにはいくつかの見過ごせない問題点があります。

1. モチベーションの低下を招く 誰でも、自分の苦手なことや欠点を繰り返し指摘されれば、気分が良いものではありません。「また怒られるんじゃないか」「自分はダメな人間だ」と感じ、次第に自信を失っていきます。その結果、新しいことへの挑戦を恐れたり、指示待ちになったりと、主体的な行動が生まれにくくなります。仕事そのものへの興味や情熱も薄れていってしまうでしょう。

2. 成長効率が悪い 苦手なことを人並みレベルに引き上げるには、膨大な時間とエネルギーが必要です。本人の多大な努力にもかかわらず、成長はごくわずか、ということも少なくありません。一方で、元々得意なことや好きなことであれば、本人は楽しみながら、自然とスキルを吸収していきます。少しのきっかけで、驚くほどのスピードで成長し、あっという間に他の追随を許さないレベルに到達する可能性を秘めているのです。限られた時間の中で最大の成果を出す、という観点から見ても、「長所を伸ばす」方がはるかに効率的だと言えます。

3. 組織の均質化が進み、イノベーションが生まれにくくなる 全員が同じ方向を向き、同じ基準で評価される組織は、一見すると統制が取れていて効率的に見えるかもしれません。しかし、その実態は、金太郎飴のように同じような考え方の人ばかりが集まる、均質的な集団になってしまいます。異なる視点や突飛なアイデアは「空気が読めない」と切り捨てられ、新しい挑戦よりも現状維持が優先される。このような環境からは、これからの時代を勝ち抜くための画期的なアイデアやイノベーションは決して生まれません。

では、視点を変えて、「長所を伸ばす」育成に舵を切ると、組織にはどのような変化が訪れるのでしょうか。

  • 社員のエンゲージメントが向上する: 自分の得意なことでチームに貢献できる、認められるという経験は、社員に大きな喜びと自信をもたらします。「この会社は自分のことを見てくれている」「ここでなら自分らしく働ける」と感じ、会社への貢献意欲、すなわちエンゲージゲージメントが飛躍的に高まります。
  • 生産性が劇的に向上する: チームメンバーがそれぞれの得意分野で能力を発揮すれば、組織全体の生産性は自然と向上します。例えば、人との対話が得意な人は顧客との関係構築に、データ分析が得意な人は市場調査や戦略立案に、というように、適材適所で能力を発揮することで、1+1が3にも4にもなる相乗効果が生まれるのです。
  • 多様性のある強い組織になる: 様々な個性や強みを持った人材が集まることで、組織は変化に強く、しなやかになります。予期せぬ問題が発生したときも、多様な視点から解決策を検討でき、誰かの弱みを別の誰かの強みでカバーし合う、といった協力体制も生まれやすくなります。

「弱点を克服する」育成が、社員を平均点でその他大勢の一人に埋もれさせてしまう可能性があるのに対し、「長所を伸ばす」育成は、社員をその分野で代替不可能な「オンリーワン」の人材へと育てるアプローチなのです。

「個性を活かす組織」を作るための3つのステップ

では、具体的にどうすれば、一人ひとりの個性を活かし、長所を伸ばせる組織を作ることができるのでしょうか。難しく考える必要はありません。まずは以下の3つのステップを意識することから始めてみてください。

ステップ1:メンバー一人ひとりの「個性」を深く知る

個性を活かすためには、まずその「個性」が何であるかを知ることから始めなければなりません。上司が「彼はきっとこういうタイプだろう」と決めつけるのではなく、本人も気づいていないような強みや可能性を発見する姿勢が大切です。

そのために最も有効なのが、定期的な1on1ミーティングです。 ただし、ここでの1on1は、業務の進捗確認や課題の詰問の場ではありません。メンバーが主役となり、安心して自分のことを話せる「対話」の時間と位置づけることが重要です。

1on1で、次のような質問を投げかけてみてはいかがでしょうか。

  • 「今やっている仕事の中で、一番『楽しい』と感じる瞬間はどんな時?」
  • 「逆に、ちょっと『苦手だな』『時間がかかるな』と感じる作業はある?」
  • 「最近、仕事で『うまくいった!』と思えたことは何?それはなぜだと思う?」
  • 「もし、今のチーム内で役割を自由に選べるとしたら、どんな仕事に挑戦してみたい?」
  • 「プライベートで、ついつい時間を忘れて没頭してしまうことはある?」

ここでのポイントは、上司は評価者ではなく、あくまで聞き役に徹することです。相手の話を遮ったり、すぐにアドバイスをしたりするのではなく、「なるほど、そう感じるんだね」「もう少し詳しく聞かせてもらえる?」と、深く頷きながら耳を傾ける。この「傾聴」の姿勢が、メンバーとの信頼関係を築き、本音を引き出す土台となります。

仕事の成果だけを見ていては、その人の一部しか見えません。対話を通じて、その人の価値観、興味の方向性、思考の癖といった、内面的な部分に光を当てることで、初めてその人だけの「個性」の輪郭が見えてきます。

例えば、いつも黙々と作業をしている部下が、実は「複雑な情報を整理して、誰にでも分かるようにまとめること」に喜びを感じているかもしれません。あるいは、おしゃべりで少し落ち着きがないように見えるメンバーが、「初対面の人とでもすぐに打ち解け、相手の懐に入る」という類まれな才能を持っている可能性もあります。

このような強みは、日々の業務報告書や数字のデータからは決して見えてきません。時間をかけてじっくりと対話し、注意深く観察することで初めて発見できる、まさに原石のようなものです。この原石を見つけ出すことが、個性を活かす組織づくりの第一歩となります。

ステップ2:長所を活かせる「機会」と「役割」を与える

メンバーの個性を把握したら、次のステップは、その長所を存分に発揮できる「機会」と「役割」を意図的に与えることです。

従来の画一的なキャリアパスのように、「入社3年目までは全員営業を経験させる」「管理職になるにはこの部署を経験しなければならない」といった固定的な考え方から一度自由になってみましょう。チーム全体の目標を達成するというゴールは共有しつつも、そこに至るまでのアプローチは、一人ひとりの強みに合わせて柔軟に設計するのです。

例えば、先ほどの例で考えてみましょう。

  • 「複雑な情報を整理しまとめる」のが得意なメンバーには…
    • 議事録の作成担当だけでなく、競合他社のサービス調査や、顧客への提案資料の骨子作成などを任せてみる。分かりやすい資料はチーム全体の生産性を高め、彼(彼女)の貢献は目に見える形でチームの役に立ちます。その成功体験は、さらなる自信とモチベーションにつながるでしょう。
  • 「初対面の人とでも打ち解ける」のが得意なメンバーには…
    • 新規顧客へのアプローチの先陣を切ってもらう、展示会やイベントでの名刺交換の役割を任せる、といった機会を与える。彼(彼女)が築いた関係性を、別のメンバーが具体的な商談へとつなげていく。このように、それぞれの強みをリレーのように繋いでいくことで、チームとして大きな成果を生み出すことができます。

ここでの重要なポイントは、「弱点を克服させるための仕事」ではなく、「長所をさらに伸ばすための仕事」を任せるということです。「プレゼンが苦手だから、あえて発表の機会をたくさん与えよう」という考え方は、本人を追い詰めてしまうだけで、良い結果にはつながりにくいものです。それよりも、「君の作る資料は本当に分かりやすいから、次のプレゼンでは資料作成に集中してくれないか。発表は、人前で話すのが得意なAさんにお願いしようと思う」といった采配の方が、チーム全体のパフォーマンスは間違いなく向上します。

もちろん、本人が「苦手なことにも挑戦したい」という意欲を見せた場合は、その挑戦をサポートする姿勢も大切です。しかし、それはあくまで本人の意思を尊重した上での話であり、会社側から強制すべきことではありません。

一人ひとりが「この仕事は、自分のためのステージだ」と感じられるような役割を与えること。それが、メンバーの才能を開花させ、主体性を引き出すための最も効果的な方法です。

ステップ3:個性がぶつからず、相乗効果を生む「仕組み」を整える

多様な個性が集まれば、当然、考え方や仕事の進め方の違いから、衝突が生まれることもあります。個性を尊重するとは、決して「なんでもあり」の無秩序な状態を許容することではありません。それぞれの個性がバラバラに動くのではなく、同じ目標に向かって力を合わせ、相乗効果を生み出すための「仕組み」を整えることが不可欠です。

1. チームの「共通言語」と「目標」を明確にする まず、チームとして何を大切にし、どこを目指すのかという「共通の価値観」や「明確な目標」を全員で共有することが大前提となります。目的地が共有されていれば、そこに至るまでの道のり(アプローチ)は、個々のやり方に任せることができます。「私たちのチームの目的は、お客様に最高の満足を提供することだ。そのために、君の『丁寧な分析力』を活かしてほしいし、彼の『行動力』も必要だ」というように、個々の役割が全体の目標達成にどう貢献するのかを、誰もが理解できる状態にしておくことが大切です。

2. ポジティブなフィードバックの文化を醸成する 人の行動を変える上で、ネガティブな指摘よりも、ポジティブな承認の方がはるかに大きな力を持っています。ミスを指摘するのではなく、うまくいったこと、特にその人の「長所が発揮された場面」を具体的に見つけて、言葉にして伝える文化を作りましょう。

例えば、「先日の提案資料、あの図解があったから、お客様の理解がすごく深まったよ。君の整理能力は本当に素晴らしいね」といった具体的なフィードバックです。これは上司から部下へだけでなく、同僚同士でも積極的に行うことが理想です。

ポジティブなフィードバックが飛び交う職場では、社員は安心して自分の強みを発揮できるようになります。また、「他者の良いところを見つける」という習慣は、お互いへの尊敬の念を育み、チームワークをより強固なものにしてくれます。

3. 情報共有を円滑にする 個々人がそれぞれの得意分野で活躍するためには、チーム内の情報がスムーズに共有されている必要があります。「誰が何を知っていて、今何をしているのか」が分からなければ、協力のしようがありません。

チャットツールを活用して業務の進捗をオープンにしたり、短い朝礼で各自のタスクを共有したりするなど、風通しの良いコミュニケーションを促す仕組みを取り入れましょう。情報がオープンになることで、「その作業、私の得意分野だから手伝いましょうか?」といった自発的な協力も生まれやすくなります。

これらの仕組みは、多様な個性がお互いの違いを認め、尊重し合いながら、一つの目標に向かって力を結集するための、いわば「交通整理」の役割を果たします。自由でありながらも、規律がある。そんな環境こそが、個性を殺すことなく、組織としての力を最大化させるのです。

まとめ:組織の未来は、「違い」を愛せるかにかかっている

これからの時代、企業が持続的に成長していくためには、もはや画一的な人材を大量に育成するモデルは通用しません。変化の激しい市場環境、多様化する顧客のニーズに対応していくには、組織そのものが多様性を持ち、変化に柔軟に対応できる力を持つ必要があります。

その力の源泉となるのが、社員一人ひとりの「個性」です。

弱点に目を向けて、社員を平均的な人材にすることにエネルギーを費やすのはもうやめましょう。それは、ダイヤモンドの原石を、ただの丸い石に磨いているようなものかもしれません。

そうではなく、社員一人ひとりが持つ、唯一無二の輝きを見つけ出し、それをさらに磨き上げることに力を注いでみてはいかがでしょうか。上司は、部下との対話を通じてその子の「得意」や「好き」を発見する探検家になる。そして、その才能が最も輝くステージを用意するプロデューサーになるのです。

社員が「自分のままでいいんだ」「この会社なら、自分らしく輝ける」と感じられるようになった時、彼らの内側から、これまで誰も見たことのなかったような情熱と能力が溢れ出してきます。一人ひとりの「得意」が組み合わさった時、組織は想像を超えるような大きな力を発揮するはずです。

「個性を活かす組織づくり」は、一部の先進的な企業だけが行う特別な取り組みではありません。日々のコミュニケーション、仕事の任せ方、フィードバックの仕方といった、少しの意識変革から始めることができます。

まずは、あなたの隣にいる部下や同僚の「素敵なところ」「得意なこと」を一つ見つけて、それを言葉にして伝えてみることから始めてみませんか。その小さな一歩が、停滞した空気を打ち破り、社員全員が生き生きと活躍する、強い組織への扉を開くことになるはずです。