もしかして「もぐら叩き」になっていませんか?今、あなたの会社が本当に向き合うべき課題の見つけ方

経営者の皆様は、日々、数多くの課題と向き合っておられることと思います。

「今月の売上目標を達成しなければ」 「新しいお客様をどうやって獲得しようか」 「社員の残業時間を減らして、業務を効率化したい」 「競合他社が新しいサービスを始めたようだ」

次から次へと現れる課題に対して、迅速に判断し、指示を出す。その連続で一日があっという間に終わってしまう、という方も少なくないのではないでしょうか。

しかし、ここで一度、立ち止まって考えてみていただきたいのです。

「今、取り組んでいるその改善策は、本当に会社の未来にとって最も重要なことでしょうか?」

一生懸命に対策を講じているにもかかわらず、なぜか状況が大きく好転しない。一つの問題を解決したと思ったら、また別の場所から新しい問題が顔を出す。まるで「もぐら叩き」のように、目の前の問題に対応するだけで手一杯になってしまっている…。もし、少しでも思い当たる節があれば、それは課題へのアプローチ方法を見直すサインかもしれません。

今回は、日々の忙しさの中で見失いがちな、「本当に解決すべき問題」を見つけ出し、会社の成長を確かなものにするための考え方について、一緒に探っていきたいと思います。

第1章:なぜ、私たちは目の前の問題に飛びついてしまうのか?

そもそも、なぜ私たちは、根本的な問題よりも、目の前の分かりやすい問題に時間と労力を費やしてしまいがちなのでしょうか。これには、いくつかの心理的な、そして組織的な理由が考えられます。

1. 「緊急性」が「重要性」に見えてしまう罠

私たちの脳は、「緊急なこと」を「重要なこと」だと錯覚しやすいようにできています。鳴り響く電話、お客様からのクレーム、迫りくる締め切り。これらはすぐに対応しないと、短期的に見て面倒なことになります。そのため、私たちは反射的にこれらの「緊急なタスク」を優先してしまいます。

もちろん、これらに対応することは必要です。しかし、一日を振り返った時、「緊急なこと」に振り回されるだけで終わり、「本当に重要なこと」に全く手付かずだった、という経験はないでしょうか。例えば、「会社の長期的な戦略を考える」「新しい事業の種を探る」「社員の育成計画を立てる」といった、緊急ではないけれど、会社の未来を創る上でとても重要な活動です。これらは、後回しにされがちです。

2. 手軽な「達成感」という誘惑

もう一つの理由は、手軽に得られる「達成感」です。

例えば、「営業リストの上から100件に今日中に電話する」というタスクは、行動が明確で、完了すれば「100件電話した」という目に見える達成感を得られます。一方で、「なぜ、最近アポイントの質が落ちているのかを分析する」という課題は、すぐに答えが出るわけではなく、時間もかかり、達成感を得にくいかもしれません。

しかし、会社の成長に大きな影響を与えるのは、どちらの活動でしょうか。多くの場合、後者であるはずです。私たちは無意識のうちに、大変で時間がかかる本質的な課題解決よりも、手軽に達成感を得られる短期的なタスクを選んでしまう傾向があるのです。

【具体例】売上が足りない時の、二つのアプローチ

ある月の売上目標達成が厳しい状況だとします。

アプローチA(目の前の問題に飛びつく) 経営者は「とにかく行動量が足りない!」と考え、営業チームに「今月はとにかくテレアポの件数を2倍にしろ!」と指示を出します。 結果、社員は疲弊しながらも電話をかけ続けます。アポイントの数は一時的に増えるかもしれませんが、質が低いためなかなか成約には結びつきません。現場からは不満の声が上がり、翌月にはさらに状況が悪化してしまうかもしれません。

アプローチB(一度立ち止まって考える) 経営者は「なぜ、売上が足りないのだろう?」と問いを立てます。そして、いくつかの可能性を考えます。「そもそも市場のニーズが変化しているのではないか?」「競合製品と比べて、自社のサービスに魅力がなくなっているのか?」「営業担当者の提案力に課題があるのか?」「ターゲットとなるお客様の選び方が間違っているのではないか?」

このように、目の前の「売上不足」という事象の裏にある、本当の原因を探ろうとします。このアプローチは、Aに比べて時間も手間もかかりますが、もし根本的な原因を特定できれば、より効果的で持続性のある解決策を打つことができます。

多くの企業が、無意識のうちにアプローチAに陥ってしまっています。これが「もぐら叩き」経営の正体です。

第2章:「視野」を広げ、「視座」を高く持つということ

では、「もぐら叩き」経営から抜け出すためには、何が必要なのでしょうか。それが、「視野を広げる」ことと「視座を高く持つ」ことです。似たような言葉ですが、少し意味合いが異なります。

  • 視野を広げる: 物事を多角的に見ることです。自分の会社の視点だけでなく、お客様の視点、競合の視点、市場全体の視点など、様々な角度から状況を捉えようとすることです。
  • 視座を高く持つ: 時間軸や空間軸をより大きく捉えることです。例えば、今の状況を5年後、10年後の未来から見たらどう見えるか。自分の部署だけでなく、会社全体にとって最適な判断は何か。まるで、ビルの1階から景色を見るのではなく、最上階から街全体を眺めるようなイメージです。

経営者にとって、この「高い視座」は特に重要です。現場の社員は、日々の業務に集中するあまり、どうしても視点が目の前のことに向きがちです。だからこそ経営者は、意識して視座を高く保ち、組織全体が向かうべき方向を示す必要があります。

先ほどの「売上が足りない」という例で考えてみましょう。

  • 低い視座:「今月」の売上が足りない → どうやって埋めるか? → テレアポを増やそう!
    • 時間軸は「今月」、空間軸は「営業部門の行動量」に限定されています。
  • 高い視座:「そもそも」なぜ売上が伸び悩んでいるのか? → お客様の成功に、私たちは貢献できているか? → 3年後もお客様に選ばれ続けるためには、何が必要か? → もしかしたら、今の営業のやり方そのものが時代に合っていないのかもしれない。
    • 時間軸は「3年後」、空間軸は「お客様」や「市場」にまで広がっています。

この視座の違いが、打ち手の質を大きく変えるのです。経営者が低い視座で目先の指示ばかり出していると、社員もその視座でしか物事を考えなくなってしまいます。逆に、経営者が常に高い視座から「なぜ?」を問いかけ、未来のありたい姿を語ることで、組織全体の思考レベルを引き上げることができます。

第3章:本当に解決すべき問題を見つけるための、シンプルな方法

「高い視座が重要なのは分かった。でも、具体的にどうすればいいのか?」

ここでは、感覚や経験だけに頼らず、ロジカルに優先順位を付けていくためのシンプルな方法を2つご紹介します。

方法1:「なぜ?」を5回繰り返してみる

これは、トヨタ生産方式で有名な「なぜなぜ5回」という考え方です。表面的な問題に対して、「なぜ、そうなったのか?」を繰り返し問いかけることで、隠れた根本原因にたどり着くことができます。

例:社員の残業が多い

  1. なぜ? → 担当している業務が終わらないから。
  2. なぜ? → お客様への提案資料の作成に時間がかかりすぎているから。
  3. なぜ? → 上司への確認で、何度も手戻りが発生しているから。
  4. なぜ? → 上司が求める資料のイメージと、部下が作る資料にズレがあるから。
  5. なぜ? → そもそも案件の初期段階で、上司と部下の間で目的やゴールについてのすり合わせが十分にできていないから。

いかがでしょうか。「残業が多い」という表面的な問題から、「新しい効率化ツールを導入しよう」という安易な解決策に飛びつくのではなく、「案件初期のコミュニケーションの仕組みを見直そう」という、より本質的な課題が見えてきました。

この「なぜなぜ分析」を、今あなたの会社が抱えている問題に当てはめてみてください。きっと、今まで見えていなかった原因が浮かび上がってくるはずです。

方法2:インパクト(効果)と実現性の2軸で考える

「なぜなぜ分析」で根本原因らしきものが見つかったら、次はその課題に優先順位を付けます。考えられるすべての課題を解決しようとすると、リソースが分散してしまい、結局どれも中途半端に終わってしまいます。

そこで有効なのが、以下の2つの軸で課題を整理する方法です。

  • 横軸:インパクト(その課題を解決した時の、会社へのプラスの効果の大きさ)
  • 縦軸:実現性(その課題解決にすぐ取り組めるか、難易度は高くないか)

この2軸でマトリクスを作り、課題を4つのエリアに分類してみましょう。

  • 【インパクト:大 × 実現性:大】エリア:最優先で取り組むべき課題
    • 効果が大きく、すぐに着手できる、まさに「今すぐやるべきこと」です。ここに分類された課題から、まず計画を立てて実行に移しましょう。
  • 【インパクト:大 × 実現性:小】エリア:長期的に取り組むべき課題
    • 解決すれば非常に大きな効果が見込めますが、時間やコストがかかる、難易度の高い課題です。すぐに結果は出ませんが、会社の未来を創る重要なテーマです。じっくりと計画を練り、粘り強く取り組む必要があります。
  • 【インパクト:小 × 実現性:大】エリア:余裕があればやる、または効率化する課題
    • 手軽にできますが、会社全体への影響は小さいものです。こうした課題に時間を使いすぎていないか、見直すきっかけになります。誰かに任せたり、やり方をシンプルにしたりして、なるべく時間をかけずに処理するのが賢明です。
  • 【インパクト:小 × 実現性:小】エリア:今はやらないと決める課題
    • 効果も小さく、実現も難しい課題です。こうした課題は、思い切って「やらない」と決断することも重要です。

このフレームワークを使うことで、「緊急だから」「やりやすいから」という理由ではなく、「会社へのインパクト」という視点で、冷静に優先順位を判断できるようになります。

第4章:解決策を実行し、組織を成長させるために

さて、根本原因を特定し、取り組むべき優先順位も決まりました。しかし、最も難しいのは、それを「実行」し、組織に「定着」させることです。どんなに素晴らしい戦略や計画も、実行されなければ絵に描いた餅です。

そして、その実行の主役は、言うまでもなく「人」、つまり社員一人ひとりです。特に、営業活動のように、個人のスキルや考え方が成果に直結しやすい領域では、社員の成長なくして、組織の持続的な成長はあり得ません。

ここで、二つの大切な考え方が出てきます。それは「対話」と「仕組み化」です。

1. 社員の成長を促す「対話」の力

経営者が高い視座で課題を捉え、「よし、この方向でいくぞ!」と決めても、それを一方的にトップダウンで指示するだけでは、社員は動きません。やらされ仕事になり、本来のパフォーマンスを発揮できないでしょう。

大切なのは、経営者が見ている景色と、社員が見ている景色をすり合わせることです。

「なぜ、今この課題に取り組む必要があるのか」 「この取り組みが、会社の未来にとって、そして君自身の成長にとって、どういう意味を持つのか」

こうした背景や想いを、丁寧に言葉にして伝える。そのための有効な場が、定期的な1on1ミーティングです。

1on1は、単なる進捗確認の場ではありません。上司が部下の話に耳を傾け、キャリアの相談に乗ったり、日々の業務で困っていることを引き出したりする、信頼関係を築くための時間です。

経営者や管理職が、こうした「対話」の時間を意識的に作ることで、社員は「自分は大切にされている」「自分の仕事には意味がある」と感じ、主体的に動くようになります。また、現場でしか得られないリアルな情報や、新たな課題の発見につながることも少なくありません。社員一人ひとりと向き合う時間が、結果として組織全体の力を底上げするのです。

2. 属人化を防ぎ、成果を再現する「仕組み化」

個人の頑張りや才能だけに頼る組織は、その人がいなくなると急に成果が出なくなるという脆さを抱えています。特定のスーパー営業マンの活躍に依存している状態は、非常にリスクが高いと言えるでしょう。

そこで重要になるのが、誰がやっても一定レベルの成果を出せるようにする「仕組み化」です。

例えば、営業活動であれば、

  • お客様の課題をヒアリングするための質問リスト
  • 成約率の高い商談の進め方の共有
  • 効果的だった提案資料のテンプレート化

など、うまくいったやり方を個人の経験の中に留めておくのではなく、組織の共有財産として「型」にしていくのです。

この「仕組み化」を進める上でも、やはり現場の社員との「対話」が中心になります。「どういう時にうまくいった?」「どんな工夫をしている?」といった対話の中から、成功のコツを吸い上げ、それを整理し、組織全体で使えるように磨き上げていく。このプロセスそのものが、組織の学習能力を高めていきます。

「人」の育成と「仕組み」づくり。この二つは、車の両輪のようなものです。どちらか一方だけでは、組織は前に進みません。両方をバランスよく回していくことで初めて、持続的に成果を出し続ける、強い組織が生まれるのです。

おわりに

今回は、日々の業務に追われる中で、いかにして本当に重要な課題を見つけ、会社の成長につなげていくか、というテーマでお話ししてきました。

  1. 「緊急性の罠」や「手軽な達成感」に惑わされず、目の前の問題に飛びつく「もぐら叩き」経営から抜け出すこと。
  2. 「高い視座」を持ち、「なぜ?」を繰り返すことで、問題の根本原因を探ること。
  3. 「インパクト」と「実現性」で、取り組むべき課題の優先順位を冷静に判断すること。
  4. そして、解決策を実行するためには、「人」の成長を促す「対話」と、成果を再現する「仕組み化」が両輪であること。

もし今、あなたの会社が「頑張っているのに、なぜか前に進んでいる気がしない」という停滞感を感じているとしたら、それは能力や努力が足りないからではないのかもしれません。ただ、向かうべき方向と、力の注ぎどころが、少しだけズレているだけなのです。

ぜひ一度、日々の喧騒から少しだけ離れて、ご自身の会社を高い場所から眺める時間を作ってみてはいかがでしょうか。

「今、私たちの会社が本当に改善すべきことは、一体何だろうか?」

その問いと向き合うことが、持続的な成長への、確かな一歩となるはずです。まずは、身近な社員の方と15分でも向き合って話す時間を作ってみる。そんな小さな一歩から、新しい変化が始まるかもしれません。