かつて、上司は部下に対して「報・連・相」の徹底を説いていました。これは、報告、連絡、相談の略称であり、情報共有の重要性を強調するものでした。確かに、トップダウン型の組織において、上司の指示に従って業務を遂行することが求められていた時代には、報・連・相は円滑なオペレーションを支える重要な役割を果たしていました。
しかし、近年急速に変化するビジネス環境において、「報・連・相」のみに基づいたコミュニケーションスタイルが、必ずしも有効とは言えなくなっています。むしろ、自律型人材の育成やイノベーション創出といった現代の経営課題を解決するためには、上司と部下双方が主体的に情報共有を行い、相互理解を深める「双方向コミュニケーション」こそが求められているのです。
時代遅れとなった「報・連・相」の限界
従来の「報・連・相」は、上司が指示を与え、部下が従うというトップダウン型の組織構造を前提としています。しかし、現代社会における企業活動は、刻々と変化する市場環境や顧客ニーズへの迅速な対応が求められます。そのため、上司が常に的確な指示を与えられるとは限りません。
さらに、近年求められているのは、自ら考え判断し行動できる自律型人材です。律型人材には上司の指示を待つのではなく、状況に応じて柔軟な対応が求められます。しかし、「報・連・相」では、部下が主体的に思考・行動することを想定しておらず、自律型人材の育成を阻害する要因となる可能性さえあります。
双方向コミュニケーションの重要性
現代の企業において求められるのは、上司と部下双方が主体的に情報を共有し、相互理解を深める「双方向コミュニケーション」です。具体的には、以下のような点が重要となります。
- 上司による積極的な情報発信: 上司は、単に指示を出すだけでなく、自身が抱えている課題やビジョン、考え方を部下と共有することが重要です。部下は、上司の意図を理解することで、より主体的に業務に取り組むことができます。
- 部下からの意見・提案の場を設ける: 部下は、上司の指示に従うだけでなく、積極的に意見や提案を行うことが奨励されるべきです。上司は、部下の意見に耳を傾け、評価することで、部下のモチベーション向上やエンゲージメントの強化に繋げることができます。
- 双方向の対話を通じた相互理解: 上司と部下は、定期的な面談やミーティングだけでなく日常的な会話を通じて、双方向の対話を行い、相互理解を深めることが重要です。互いの考えや価値観を理解することで、より効果的なコミュニケーションが可能となります。
双方向コミュニケーションを実現するためのポイント
双方向コミュニケーションを実現するためには、以下の点に留意する必要があります。
- 心理的な安全性の確保: 上司と部下双方が、自由に意見を言い合える心理的な安全性を確保することが重要です。上司は、部下の発言を尊重し、否定的な評価を控えることが求められます。
- アクティブリスニングの徹底: 相手の話を最後までしっかりと聞き、理解しようと努めるアクティブリスニングを徹底することが重要です。聞き流したり、自分の意見ばかりを主張したりすることは、誤解を生む原因となります。
- 非言語コミュニケーションの重要性: 言葉だけでなく、表情や声のトーン、ジェスチャーなど、非言語コミュニケーションにも気を配ることが重要です。非言語コミュニケーションは、言葉以上に本音や真意を伝えることができます。
まとめ
「報・連・相」は、かつてのトップダウン型組織においては有効なコミュニケーションツールでしたが、現代の組織においては、必ずしも十分とは言えません。
現代の企業がイノベーションを起こし、持続的な成長を遂げるためには、上司と部下双方が主体的に情報共有を行い、相互理解を深める「双方向コミュニケーション」を積極的に導入することが重要です。 双方向コミュニケーションを実現することで、自律型人材の育成、迅速な意思決定、イノベーション創出、そして組織全体の活性化を期待することができます。