営業組織を率いる経営者やマネージャーの皆様と対話をしていると、よくこのような悩みを耳にします。
「自分がやった方が早いし、確実だ」 「部下に任せると、どうしてもクオリティが落ちる」 「背中を見せているつもりだが、なかなか育たない」
責任感が強く、ご自身が優秀なプレイヤーであった方ほど、このジレンマに陥りやすいものです。かつては、圧倒的な成果を上げるトップセールスの背中を見て、部下が勝手に技を盗み、育っていく時代がありました。しかし、ビジネス環境が複雑化し、働く個人の価値観も多様化した現代において、そのスタイルは通用しにくくなっています。
組織全体としての成果を最大化し、長期的に成長し続けるチームを作るためには、マネジメントのあり方をアップデートする必要があります。その中心となるテーマが、「言葉で伝え、60点で任せ、個性を武器にする」というアプローチです。
今回は、なぜこのアプローチがいま必要なのか、そして具体的にどう実践すればよいのかについて、論理的に紐解いていきます。
1. 「60点で任せる」勇気が、成長のスピードを決める
多くのマネージャーが部下に仕事を任せられない最大の理由は、「失敗への懸念」と「完璧主義」です。「お客様に失礼があってはならない」「もっと良い提案ができるはずだ」という思いから、提案書の細部まで修正を入れたり、商談の最後に自分がクロージングをしてしまったりしていませんか。
しかし、リーダーが100点満点の状態になるまで抱え込んでしまうと、二つの弊害が生まれます。
一つは、スピードの低下です。リーダーの時間は有限であり、全ての案件に目を通していたら、組織全体の動きは必ず停滞します。 もう一つは、部下の思考停止です。「どうせ最後に上司が直してくれる」「上司の言う通りにすればいい」という意識が芽生え、自ら考え、工夫する余地を奪ってしまいます。
ここで推奨したいのが、「60点で任せる」という考え方です。 方向性と目的さえ合っていれば、多少の粗さはあっても部下に任せてみる。60点の完成度であっても、まずはバトンを渡すのです。
もちろん、これは「丸投げ」とは異なります。重要なのは、残りの40点をどう埋めるかについて、部下自身に考えさせるプロセスです。失敗したとしても、それが致命的なものでなければ、それは組織にとっての「学習コスト」と捉えるべきです。
60点で任せることで、業務のスピードは上がり、部下には「任された」という責任感と、「自分で何とかしなければならない」という当事者意識が生まれます。この経験の積み重ねこそが、人を育てるもっとも確実な土壌となります。
2. 「背中」ではなく「言葉」で伝える
「60点で任せる」ためにどうしても必要になるのが、リーダーによる「言語化」です。
かつての日本企業に多かった「あうんの呼吸」や「見て覚えろ」という指導は、同質性の高い組織でしか機能しません。多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まる現代の組織では、リーダーが考えていること、求めている基準、その仕事の目的を、明確な「言葉」にする必要があります。
例えば、部下から上がってきたアウトプットが期待外れだったとします。その時、「センスがない」「もっと考えろ」といった曖昧なフィードバックをしていないでしょうか。 これでは部下は何を改善すればいいのか分かりません。
- 「ターゲットの選定は合っているが、課題の深掘りが浅い」
- 「競合との差別化ポイントが、顧客のメリットとして翻訳されていない」
- 「この資料の目的は、契約を取ることではなく、次回の役員面談のアポを取ることだ」
このように、具体的かつ論理的な言葉でフィードバックすることで初めて、部下は「60点」と「100点」の差分を認識できます。
また、言語化はナレッジの共有という意味でも重要です。トップセールスがなぜ売れるのか。それは単なる「キャラ」や「勘」ではなく、必ず論理的な理由があります。 「どのような質問でお客様の課題を引き出したのか」 「どのタイミングで事例を紹介したのか」 こうした行動や思考を言葉にし、チーム全体で共有できる資産に変えていくこと。それが、特定のスタープレイヤーに依存しない、強い組織を作るための基礎となります。
3. 「型」にはめず、個性を武器にする
営業組織の構築において陥りがちな罠が、全員を同じ「理想の営業マン」に育てようとすることです。 確かに、挨拶やマナー、基本的な商談プロセスといった「守るべき基本」は存在します。しかし、全員が同じような話し方、同じようなアプローチをする必要はありません。むしろ、それは組織としての弱点になり得ます。
- 論理的な説明が得意で、信頼を積み重ねるのが上手なタイプ
- 懐に入るのがうまく、感情的なつながりを作るのが得意なタイプ
- 圧倒的な行動量で、接点を増やしていくタイプ
人にはそれぞれ、得意なスタイルや個性があります。その個性を無視して、画一的な型に押し込めようとすると、社員は窮屈さを感じ、パフォーマンスを落としてしまいます。結果として、「仕事がつまらない」と感じ、離職につながるケースも少なくありません。
仕事を楽しむためには、自分の強みが活かされているという「自己表現」の感覚が必要です。 60点で任せ、言葉で方向性を修正しつつも、やり方の部分ではその人の個性を尊重する。 「君の強みはここだから、この顧客層にはこうアプローチしてみよう」 「君は分析が得意だから、提案書のデータ部分を任せたい」 このように、個々の強みを見極め、それをチーム全体の武器として組み合わせていくことこそが、マネジメントの醍醐味と言えます。
4. 1on1で「対話」の質を高める
では、これまで述べてきた「60点で任せる」「言語化する」「個性を活かす」を、日常の業務の中でどう実践すればよいのでしょうか。 最も有効な手段の一つが、定期的な「1on1ミーティング」です。
ただし、ここで言う1on1は、単なる進捗確認や数字の詰めを行う場ではありません。それは日報やSFA(営業支援システム)を見れば分かることです。 1on1は、部下の思考プロセスを確認し、ズレを修正し、強みを見つけるための「対話の時間」であるべきです。
例えば、60点で任せた仕事に対して、 「なぜこのアプローチを選んだのか?」 「やってみて何が難しかったか?」 「次はどうすればもっと良くなると思うか?」 と問いかけます。
部下は自分の言葉で語ることで、思考が整理されます。リーダーはその言葉を聞くことで、部下がどこでつまずいているのか、あるいはどのような場面で生き生きとしているのかを観察できます。
この対話の積み重ねが、部下との信頼関係を築き、「安心して任せられる」状態を作ります。また、部下自身も「自分のことを見てくれている」「期待されている」と感じ、貢献意欲や成長意欲が高まります。
1on1を通じて、一人ひとりの個性や価値観を理解することは、適切な役割分担や配置にも役立ちます。個人の成長と組織の目標がリンクした時、営業組織は驚くほどのパワーを発揮します。
5. 小さな成功体験を組織の力に
ここまでお伝えしてきた変革は、一朝一夕にできるものではありません。リーダー自身も、部下に任せる不安と戦わなければなりませんし、言語化するスキルの習得にはトレーニングが必要です。
まずは、小さなことから始めてみてはいかがでしょうか。 完璧を求めすぎず、一つの商談、一つの資料作成から「60点で任せてみる」。 そして、その結果について、感情ではなく論理的な言葉でフィードバックし、部下の考えを聞いてみる。
そうして生まれた小さな成功体験や、部下の予想外の成長は、リーダーにとっても大きな喜びとなるはずです。 部下が仕事を通じて「貢献できている」「成長している」と実感できる環境を作ること。それができれば、組織は自然と活性化し、数字は後からついてきます。
しかし、長年染み付いたマネジメントスタイルを変えることや、客観的に組織の現状を把握することは、内部の人間だけでは難しい場合もあります。 「任せたいが、どこまで任せていいかわからない」 「部下の強みを見つける具体的な手法が知りたい」 「1on1をやっているが、雑談で終わってしまう」
もし、そのような課題を感じられているのであれば、第三者の視点を取り入れることも有効な選択肢です。 組織の現状をデータで可視化し、ボトルネックを特定する。そして、御社の文化に合った「任せ方」や「育て方」の仕組みを共に構築する。 私たちは、そのようなアプローチで、多くの企業の営業改革をご支援してきました。
個人の頑張りに依存するのではなく、組織全体で勝てる仕組みを作りたいとお考えの経営者様は、ぜひ一度、現状の悩みをお聞かせください。 御社の営業組織が持つポテンシャルを最大限に引き出すための、具体的な道筋をご提案させていただきます。
