その営業マンは本当に能力不足か?「扱いづらさ」を「強み」に転換するマネジメントの視点

「何度言っても、彼はこちらが意図した通りに動かない」 「能力はあるはずなのに、なぜか成果につながらない」

経営者や営業部門を統括するリーダーの方々から、このような嘆きを耳にすることが少なくありません。 特に、ご自身がトップセールスとして実績を積んでこられた方ほど、自分とは異なるタイプの部下に対して「使いにくさ」や「もどかしさ」を感じてしまうものです。

しかし、その「使いにくい」という感覚の正体は何でしょうか。 もしかすると、それは部下の能力不足ではなく、彼らの個性に合わない「役割」や「動き方」を求めてしまっている、こちらの「見立て」のズレにあるのかもしれません。

今回は、一見すると扱いづらい部下を、組織にとってなくてはならない「最強の戦力」へと変えるための視点、**「個性を一言で定義する技術」**についてお話しします。

「優秀な営業」の定義を疑ってみる

多くの営業組織で起きている問題の一つに、「優秀な営業マンの定義が一つしかない」ということがあります。

例えば、「足で稼ぎ、圧倒的な行動量で顧客の懐に飛び込むこと」こそが正義とされる組織があるとします。 この環境下では、行動量よりも分析や戦略立てを好むタイプの社員は、「動きが鈍い」「消極的だ」と評価されがちです。逆に、論理的な提案書作りこそが営業の本質だと考える組織では、感性と勢いで売るタイプの社員は「雑だ」「危なっかしい」とレッテルを貼られてしまいます。

経営者やマネージャーが成功体験を持っている場合、無意識のうちに「過去の自分」を理想像として設定し、そこから外れる部下を「能力が低い」と判断してしまう傾向があります。

しかし、市場環境は刻一刻と変化し、顧客のニーズも多様化しています。 画一的な営業スタイルだけでは対応しきれない場面が増えている今、求められているのは「全員を同じ型にはめること」ではありません。むしろ、一人ひとりの凹凸(おうとつ)を見極め、それを組織全体の武器として組み合わせることです。

そのために有効なのが、部下の個性を**「ポジティブな一言」で定義し直す**というアプローチです。

ネガティブをポジティブに変換する「タグ付け」

部下に対して抱いているネガティブな印象を、一度フラットな視点で捉え直し、別の言葉に置き換えてみてください。

例えば、以下のような変換です。

  • 「動きが遅い、優柔不断」「慎重である、リスク管理能力が高い」
  • 「いちいち細かいことを気にする」「緻密である、正確性を重んじる」
  • 「強引すぎる、空気が読めない」「突破力がある、物怖じしない」
  • 「飽きっぽい、継続力がない」「好奇心旺盛、新しいことへの適応が早い」

このように、欠点に見える要素は、裏を返せばその人だけの強力な武器になります。 「あいつは使いにくい」と切り捨てるのではなく、「彼は『慎重さ』という武器を持っている」と定義(タグ付け)し直すのです。

この「一言で定義する」という行為には、二つの大きな効果があります。

一つは、マネージャー自身の意識変革です。 「どう矯正するか」という減点方式の思考から、「この特性をどこで活かすか」という加点方式の思考へシフトします。これにより、部下に対する接し方や指示の出し方が自然と変わります。

もう一つは、役割分担の最適化です。 個性が明確になれば、任せるべき仕事やポジションが見えてきます。 「慎重で緻密」なメンバーには、既存顧客の深耕や、複雑な仕様調整が必要な案件を。「突破力がある」メンバーには、断られることを恐れずに飛び込む新規開拓を。 適材適所に配置された人材は、水を得た魚のようにパフォーマンスを発揮し始めます。

1on1で「原石」を見つける

では、部下の個性を正しく定義するためにはどうすればよいのでしょうか。 日々の業務観察も重要ですが、最も効果的なのは**質の高い対話、つまり「1on1」**です。

ここでの1on1は、単なる業務進捗の確認や、目標数字の詰めを行う場ではありません。それは朝会や夕会で十分です。 目的は、その社員が「何に喜びを感じ、何にストレスを感じるのか」という、内面的な特性や価値観を掘り起こすことにあります。

例えば、次のような問いかけをしてみます。

  • 「これまで仕事をしていて、時間を忘れるほど没頭できたのはどんな時?」
  • 「逆に、すごくエネルギーを消耗した、二度とやりたくないと感じた業務は?」
  • 「顧客から言われて一番嬉しかった言葉は?」

これらの質問から返ってくる答えには、彼らの「勝ちパターン」のヒントが隠されています。 ある社員は「お客様の困りごとを解決して感謝された時」と答えるかもしれませんし、別の社員は「誰も落とせなかった難しい企業から契約をもらった時」と答えるかもしれません。前者は「貢献・サポート型」、後者は「達成・狩猟型」という定義ができるでしょう。

また、対話を通じてマネージャーが部下の個性を認め、それを言葉にして伝えることは、部下の自己肯定感を高めます。 「君のこの慎重さは、チームにとって大きな安心材料だ」と伝えられれば、部下は自分の特性を肯定的に捉え、より自信を持って仕事に取り組むようになります。 仕事を楽しむための要素である「貢献実感」や「自己表現」は、こうした対話の中から生まれてくるのです。

「個」を活かすことで「組織」が回る仕組みを作る

個性を定義し、それぞれの強みが分かったところで、それを組織としてどう活かすか。ここで「仕組み」の出番となります。

従来の営業組織は、一人の営業マンがリストアップからアポ取り、商談、クロージング、アフターフォローまで全てをこなす「総合格闘技」のようなスタイルが主流でした。 しかし、これでは全方位に高い能力を持つスーパーマンしか生き残れません。

メンバーの個性が定義できていれば、プロセスそのものを見直し、分業や協業の仕組みを作ることができます。

  • アプローチが得意な「突破型」メンバーが商談のきっかけを作る
  • 関係構築が得意な「農耕型」メンバーが信頼を深める
  • ロジカルな「分析型」メンバーが提案書を固める

このように、互いの凸凹を補完し合うチーム編成や業務フローを構築することで、属人化を防ぎ、組織全体としての成果を最大化することが可能になります。 誰かが欠けても組織が止まらない、再現性の高い営業体制。それは、個人の能力に依存するのではなく、個人の能力をパズルのピースのように組み合わせることで完成します。

「使いにくい」は「まだ使いこなせていない」だけ

「使いにくい部下」など存在しません。 いるのは、「まだその活かし方が見つかっていない部下」と、「活かし方を見つけられていない上司」だけです。

もし今、思うように動いてくれない部下に頭を悩ませているのであれば、一度立ち止まって考えてみてください。 彼らの行動の裏側にある特性を、ポジティブな言葉で定義できているでしょうか。 そして、その特性が輝く場所を用意できているでしょうか。

社員一人ひとりが自分の持ち味を理解し、それを発揮できる場所があれば、仕事はもっと楽しくなります。 仕事を楽しんでいる営業マンは、顧客に対してもポジティブなエネルギーを伝播させ、結果として売上という成果を引き寄せます。

人材育成とは、足りないものを埋める作業ではなく、持っているものを磨き上げること。 そして組織構築とは、磨き上げられた個性が最大限に機能する舞台を整えること。

まずは、目の前の部下を「一言」で表すことから始めてみませんか? その言葉が変わった瞬間、彼らはあなたの組織にとって、代わりの利かない最強の戦力へと変わるはずです。

もし、「自社のメンバーの個性を客観的に分析してほしい」「個性を活かした配置や育成プランの設計に悩んでいる」とお感じであれば、私たちがお手伝いできることがあります。 組織の内側から、確かな変化を起こしていきましょう。