毎月の月末、売上目標の達成状況を確認する際、特定の「エース社員」の数字だけを頼りにしていませんか?
「彼(彼女)がいれば今月もなんとかなる」 そう安堵する一方で、心のどこかに拭えない不安があるはずです。 「もし、このエースが突然辞めたいと言い出したら、来月の経営はどうなるだろうか」
多くの企業において、売上の8割を上位2割の優秀な営業マンが作っているという現状があります。いわゆる「パレートの法則」ですが、経営の安定性という観点から見れば、これは非常にリスクの高い状態です。トップセールスの個人的な能力やセンス、キャラクターに依存した組織は、その支柱が一本抜けるだけで大きく揺らぎます。
本コラムでは、トップセールスの個の力に依存する「属人化」した状態から脱却し、チーム全体で成果を底上げするための「標準化」への道筋についてお伝えします。
「見て盗め」が通用しない時代の育成課題
かつての営業現場では、「先輩の背中を見て盗め」という教育が主流でした。同行営業を繰り返し、先輩のトークや立ち居振る舞いを感覚的に学び取る。これで育つ人材も確かにいましたが、それはごく一部の「勘の良い」人たちだけです。
多くのメンバーは、トップセールスが「なぜそのタイミングでその話をしたのか」「なぜ顧客が心を開いたのか」という背景にある論理や意図までは汲み取れません。その結果、表面的なトークだけを真似て失敗したり、「自分には才能がない」と自信を失ってしまったりします。
組織として成果を出し続けるためには、特別な才能を持った一部の人間だけでなく、大多数を占める「普通の社員」がコンスタントに成果を出せる状態を作る必要があります。 そのためには、トップセールスが無意識に行っている「勝てる行動」を分析し、誰でも実践できる形に翻訳して共有することが求められます。
営業の「標準化」とは、ロボットを作ることではない
「標準化」や「マニュアル化」という言葉を聞くと、社員を型にはめ、自由を奪い、ロボットのように働かせることをイメージされるかもしれません。また、営業という仕事は相手が人間であるがゆえに、画一的な対応は不可能だという反論もあるでしょう。
しかし、ここで言う標準化とは、すべての言動を一言一句決めることではありません。 成果につながる「勝ちパターン」を共通の道具として持たせることです。
例えば、初回商談において、トップセールスは必ず「顧客の現状」と「理想の状態」のギャップを確認しています。一方で、成果が出ない営業マンは、すぐに自社商品の説明を始めてしまいます。 この場合、「初回商談では必ずギャップを確認する」というプロセスをチームのルール、つまり標準にするのです。
どのような質問を投げかければ本音を引き出せるのか、どのような資料を見せれば興味を持ってもらえるのか。トップセールスが持っている「正解」を、チーム全員が使える「共有財産」にする。 これにより、経験の浅いメンバーでも、一定レベルの商談品質を担保できるようになります。迷いや無駄な動きが減り、本来注力すべき「顧客への提案」や「関係構築」に頭を使う余裕が生まれます。
つまり、標準化とは個性を消すことではなく、「成果を出すための土台」を整え、その上で一人ひとりの個性を発揮させるための準備なのです。
見える化から始まる、組織の意識改革
では、具体的にどう進めればよいのでしょうか。 最初のステップは、現在の営業活動における「事実」を正しく把握することです。
成果が出ている人と出ていない人で、行動量に差があるのか、提案の内容が違うのか、あるいは商談の進め方が違うのか。 感覚的な「頑張っている」「元気がない」といった評価ではなく、プロセスごとの数字や具体的な行動事実を比較します。
そうすると、意外な事実が見えてきます。 「エースのAさんは、実は商談数は多くないが、決裁者に会う確率が極端に高い」 「伸び悩んでいるBさんは、資料作成に時間を使いすぎて、顧客との接触時間が短い」
こうした事実が見えれば、打つべき手は明確になります。Aさんの「決裁者にアプローチする方法」をチームで共有し、Bさんには資料作成の効率化やテンプレートの使用を促すことができます。
大切なのは、これをマネージャーが一方的に管理・指導する材料にするだけではなく、チーム全体の「知恵」として蓄積することです。 「なぜうまくいったのか」「なぜ失敗したのか」をチームで振り返り、その要因を言葉にして残していく。この積み重ねが、組織の筋肉となっていきます。
育成の要となる「1on1」の本当の役割
仕組みやルールを作っても、それを実行するのは「人」です。 ここで重要になるのが、社員一人ひとりと向き合う「1on1(ワンオンワン)」ミーティングです。
ただし、単なる「業務進捗の確認」や「数字の詰め」の場にしてはいけません。それではメンバーは萎縮し、言われたことだけをこなす受動的な姿勢になってしまいます。
標準化されたプロセスを回す中で、メンバーは必ず壁にぶつかります。 「このプロセスが必要なのはわかるが、自分のキャラには合わない気がする」 「教わった通りにやったが、うまくいかなかった」
こうした現場の悩みや違和感に耳を傾け、解決策を共に考えるのが1on1の役割です。 また、仕事に対するモチベーションや、将来どうなりたいかというキャリアの展望を聞き出し、会社の目標と個人の成長をリンクさせることも大切です。
「この営業プロセスを身につけることは、君の将来の〇〇という目標にこう役立つよ」 「君の強みである〇〇を活かすために、この部分はアレンジしてみよう」
このように、個人の「ありたい姿」や「強み」を尊重しながら、組織の仕組みに乗せていく。 人は、自分の成長や貢献を実感できたときに、最も仕事を楽しむことができます。仕事を楽しみ、前向きに取り組む社員が増えれば、自然と組織の雰囲気も良くなり、成果も後からついてきます。
組織で勝つ文化を作る
トップセールス個人の力に頼る組織から、チーム全体で勝つ組織へ。 この転換は、一朝一夕にできることではありません。しかし、着実に取り組むことで、企業の体質は劇的に変わります。
特定の誰かがいなくなっても揺るがない、盤石な基盤。 新人が入ってきても、早期に戦力化できる教育体制。 そして何より、メンバー全員が「自分たちには勝てるノウハウがある」という自信を持って働ける環境。
営業の標準化と仕組み化は、経営者の皆様を「来月の売上への不安」から解放するだけでなく、社員一人ひとりが輝き、長く活躍できる組織を作るための土台となります。
まずは、貴社の営業チームの中で「なぜ売れているのかわからない」「なぜ売れないのかわからない」というブラックボックスになっている部分がないか、見渡してみてください。 そこにある「差」を埋めるための対話と仕組みづくりが、強い組織への入り口となるはずです。
貴社の営業組織において、現在「属人化」していると感じる業務やプロセスはどこでしょうか? まずは、トップセールスの行動と他のメンバーの行動を一つだけ比較し、その違いを書き出してみることから始めてみてはいかがでしょうか。もし、その分析や仕組み化の進め方でお悩みであれば、壁打ち相手として私たちをご活用ください。
