「今月の数字、どうなっているんだ?」 「あといくら足りない? どうやって埋めるつもりだ?」
月末になると、全国のオフィスでこのような会話が飛び交っています。経営者や営業責任者の皆様にとって、目標数字の達成は避けては通れないミッションです。しかし、毎月のように綱渡りの達成を繰り返したり、特定のエース社員の頑張りに依存していたりする状況に、一抹の不安を感じてはいないでしょうか。
「彼が辞めたら、うちの売上はどうなるんだろう」 「採用してもなかなか育たない。結局、昔からいるメンバーだけで回している」
もし、このような悩みが頭をよぎるなら、それは組織のフェーズを変えるタイミングが来ている合図です。 営業組織には、明確な進化の段階があります。多くの企業が「個人技」や「戦術」の段階で足踏みしていますが、本当に強い組織は、その先の「文化」で売るステージに到達しています。
本稿では、営業組織が目指すべき進化のプロセスと、そのために経営者が打つべき具体的な手についてお話しします。
レベル1:三流は「個人技」で売る
創業期や小規模な組織でよく見られるのがこの段階です。 圧倒的なセンスやバイタリティを持つ「スター選手」が売上の大半を作り出します。彼らは独自のやり方で顧客の懐に入り込み、クロージングまで持っていきます。
一見すると頼もしい存在ですが、組織として見ると極めて脆い状態です。なぜなら、彼らのノウハウはブラックボックス化しており、他のメンバーには真似ができないからです。 「あの人だから売れる」という言葉が社内で聞かれるようになったら危険信号です。それは、組織としての学習機能が停止していることを意味します。エースの退職やスランプが、そのまま企業の業績ダウンに直結する。この不安定さから脱却しない限り、会社としての成長は見込めません。
レベル2:二流は「戦術」で売る
個人頼みの限界に気づいた企業が次に進むのが、この「戦術」の段階です。 SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)を導入し、行動量を管理し、トークスクリプトを整備する。KPI(重要業績評価指標)を細かく設定し、達成率をモニタリングする。
これ自体は間違っていませんし、必要なことです。しかし、ここに大きな落とし穴があります。 「管理」が目的化してしまうのです。
「訪問件数は足りているか」「日報は書いたか」というチェック機能ばかりが強化され、現場の営業担当者は「やらされ仕事」に追われるようになります。上からの指示通りに動くことが正解とされ、自分の頭で考えることをやめてしまう。 結果として生まれるのは、言われたことしかやらない、指示待ちの集団です。 戦術やツールはあくまで武器であり、それを使う「人」の心が死んでいては、どんなに高価なツールも宝の持ち腐れとなってしまいます。
レベル3:一流は「文化」で売る
では、トップレベルの営業組織は何が違うのでしょうか。 彼らは、特定のスター選手に依存せず、ガチガチの管理で縛り付けることもしません。彼らが持っているのは、**「売れることが当たり前」という空気、すなわち「文化」**です。
ここで言う「文化」とは、精神論ではありません。 組織全体に浸透した「共通の思考様式」と「行動基準」のことです。
例えば、うまくいかないことがあった時。 二流の組織では「なぜできなかったのか?」という犯人探しが始まります。 一方、一流の組織では「どうすればできるようになるか?」という未来志向の対話が自然発生します。
また、一流の組織では、メンバー一人ひとりが仕事を楽しんでいます。 「楽しむ」といっても、楽をするという意味ではありません。 自分の提案が顧客の役に立ったという**「貢献実感」。 先月できなかったことができるようになったという「成長実感」。 そして、自分たちの目標を自分たちの手でクリアしたという「達成実感」**。
これらを感じられる環境があるからこそ、人は自発的に動き出します。上司が見ていなくても、顧客のためにベストを尽くし、チームのために情報を共有する。そういった行動が「当たり前」になっている状態こそが、文化で売るということです。
「文化」を作るための具体的なアプローチ
では、どうすればこの「文化」を作り出すことができるのでしょうか。 スローガンを壁に貼るだけでは文化は生まれません。日々の地道な積み重ねが必要です。
1. 事実の見える化と、健全な「なぜ?」
まずは、現状を正しく認識することから始まります。 売上数字だけでなく、プロセスのどこでつまづいているのか、誰がどんな動きをしているのかを、感情抜きでデータとして見ることです。 そして、そのデータをもとに振り返りを行います。この時重要なのは、詰めるための会議にしないことです。 「この数字が出た背景には何があると思う?」 「うまくいったあの件と、今回の違いはどこだろう?」 このように、事実をもとに仮説を立て、検証するサイクルを回すこと。これを繰り返すことで、組織全体に「ロジカルに改善する癖」がつきます。これが文化の土台となります。
2. 個性を殺さず、活かす「型」を作る
属人化を排除するといっても、全員を金太郎飴のように同じにする必要はありません。むしろ、それぞれの個性を活かすことが重要です。 「誰がやっても一定の成果が出る仕組み(型)」は用意しつつ、その上での表現方法は個人の裁量に任せる。 「守破離」という言葉があるように、まずは基本の型を身につけ、そこから自分なりの工夫を加えていく。このバランスが、メンバーの主体性を引き出します。
3. マネージャーの役割を変える「1on1」
そして最も重要なのが、上司と部下の関わり方です。 従来の面談は、進捗確認という名の「尋問」になりがちでした。しかし、文化を作るための面談、いわゆる「1on1」は違います。
1on1の主役は部下です。 「今後、どうなりたいのか?」 「今の仕事で、何にやりがいを感じているか?」 「逆に、何がストレスになっているか?」
このような対話を通じて、本人のキャリアビジョンと、会社の目標をすり合わせていきます。 人は、他人から押し付けられた目標には反発しますが、自分で決めた目標、あるいは自分の成長につながると腹落ちした目標には、驚くほどの熱量で取り組みます。
マネージャーの役割は、部下を管理することではなく、部下の邪魔をしている障害物を取り除き、走るためのコースを整えてあげることです。 週に一度、あるいは隔週に一度、わずか30分でも構いません。数字の話を脇に置き、「その人」自身に向き合う時間を作る。この積み重ねが、心理的安全性(何を言っても大丈夫だという安心感)を生み、挑戦する風土を醸成します。
組織のOSを書き換える
営業組織の変革は、一朝一夕にはいきません。 しかし、個人技頼みの綱渡りや、疲弊を生むだけの管理体制から抜け出さない限り、長期的な繁栄は望めません。
目指すべきは、メンバー一人ひとりがベストパフォーマンスを発揮し、それが組織全体の成果として最大化される状態。 エースがいなくなっても、市場環境が変わっても、組織の中に「改善し続ける仕組み」と「挑戦を楽しむ文化」があれば、会社は揺らぐことなく成長を続けます。
「三流は個人技、二流は戦術、一流は文化」
貴社の営業組織は今、どのステージにいるでしょうか。 そして、次のステージに進むために、今日から何を変えていきますか。
もし、現状の組織に閉塞感を感じているのなら、それは進化のチャンスです。 外からの客観的な視点を取り入れ、データに基づいた「見える化」を行い、メンバーの心に火をつける「対話」を始める。 その少しずつの変化が、やがて強い組織という大きな果実となって実を結びます。
組織の文化を変えることは、容易ではありませんが、経営者が取り組むべき最も価値のある投資の一つです。 まずは、貴社の営業の「現在地」を正しく知ることから始めてみませんか。
「自社の営業プロセスのどこにボトルネックがあるのか客観的に知りたい」「効果的な1on1の進め方がわからない」と感じられた方は、ぜひ一度お話ししませんか? 貴社の現状をヒアリングし、次のステージへ進むための視点をご共有いたします。
