「もっとPDCAを回せ」 「計画(Plan)通りに行動(Do)して、ちゃんと検証(Check)しろ」
経営会議や営業の現場で、このような言葉が飛び交っていないでしょうか。 どの企業でも、成果を出すために「改善」が必要であることは理解されています。しかし、実際に現場でPDCAサイクルがきれいに回っている組織は、驚くほど少ないのが現実です。
多くの経営者様や営業責任者様からご相談いただくのは、「PDCAを回そうとすればするほど、現場が疲弊していく」という悩みです。日報は書くだけの作業になり、会議は言い訳の場になり、結局いつものやり方に戻ってしまう。
なぜ、基本中の基本であるはずのPDCAが機能しないのでしょうか。 今回は、営業組織においてPDCAが回らない「本当の原因」と、現場のやる気を削ぐことなく、着実に成果を積み上げるための「小さな改善」のアプローチについてお話しします。
多くの企業が陥る「PDCAの罠」
まず、多くの営業組織でPDCAがうまくいかない最大の理由は、「P(計画)」が大きすぎること、そして「C(検証)」が「詰め(叱責)」になっていることにあります。
1. 「P」が現場の実感と乖離している
期初に立てる目標数字は、経営としての必達目標です。しかし、それをそのまま個人の「Plan」として落とし込んでいないでしょうか。「売上〇〇万円」という目標はあくまで結果であり、行動計画ではありません。 現場のメンバーからすれば、達成への道筋が見えないまま「とにかくやれ」と言われているように感じます。これでは、計画を実行しようという主体性は生まれません。
2. 「C」が「尋問」になっている
最も深刻なのが「Check(振り返り・検証)」のプロセスです。 本来、検証とは「なぜうまくいったのか」「なぜうまくいかなかったのか」を客観的事実に基づいて分析し、次につなげるための作業です。
しかし、多くの営業会議や上司との面談では、未達成の数字に対して「なぜできなかったんだ?」「どう責任を取るんだ?」「やる気はあるのか?」という精神論や責任追及に終始してしまいがちです。 これでは、部下は「怒られないための言い訳」を考えることにエネルギーを使います。正確な報告よりも、耳障りの良い報告が優先され、現場の本当の課題が見えなくなってしまいます。これでは改善どころではありません。
目指すべきは、壮大な計画よりも「小さな改善」
現場を疲弊させずに、組織としての力を高めていくために必要なのは、大きな改革を一気に行うことではありません。 今日からできる「小さな改善」を積み重ねることです。
私たちはこれを「ベビーステップ(赤ちゃんの歩み)」と呼ぶこともありますが、要はハードルを極限まで下げることです。
例えば、「来月の成約率を2倍にする」という目標は現実味がなく、動けなくなります。 しかし、「商談の最初の5分で、必ずこの質問をしてみる」あるいは「提案書のこの1ページだけ、見せ方を変えてみる」といったことなら、誰でも明日から実行できます。
この「小さな改善」には、3つの大きなメリットがあります。
- 心理的な負担が少ない 失敗してもダメージが小さいため、メンバーが新しいことに挑戦する恐怖心が薄れます。
- 結果がすぐに出る 行動が具体的であるため、それが良かったのか悪かったのか、数日以内に判断できます。
- 「できた」という実感が湧く 小さな成功体験を積むことで、仕事に対する楽しさや自己効力感(自分はできるという感覚)が生まれます。
営業社員のパフォーマンスを最大化するために最も大切なのは、実はスキル以上に「仕事を楽しめているか」「自分が成長していると感じられるか」というマインドの部分です。 壮大なPDCAを回そうとして挫折感を味あわせるよりも、小さな改善を繰り返し、「自分たちの工夫で結果が変わった」という実感を持たせることが、強い組織を作る第一歩となります。
改善の質を決める「振り返り」と「1on1」の役割
この「小さな改善」を組織に定着させるために、なくてはならないのがマネージャーによる関わり方です。ここで重要になるのが「1on1ミーティング」の質です。
1on1を単なる「業務進捗の確認」や「数字の詰め」に使ってはいないでしょうか。 改善を回すための1on1の目的は、部下の思考を整理し、次の行動を具体化させる手助けをすることです。
具体的には、以下のようなアプローチが有効です。
1. 結果ではなく「プロセス」と「事実」を見る
「売れなかった」という結果だけを見ても改善策は出ません。 「どの段階でお客様の反応が鈍くなったのか」「ヒアリングで聞き出せなかったことは何か」など、プロセス(過程)に焦点を当てます。このとき、主観(〜だと思いました)ではなく、客観的な事実(お客様は〜と言いました)を確認することが大切です。これを丁寧に行うことで、ボトルネックがどこにあるのかが「見える」ようになります。
2. 「なぜ?」を一緒に深掘りする
マネージャーが答えを教えるのではなく、「どうすればよかったと思う?」「次はどう変えてみる?」と問いかけることで、メンバー自身に考えさせます。自分で決めた改善策(Action)であれば、やらされ仕事にならず、主体的に取り組むことができます。
3. 個性を活かす視点を持つ
トップセールスのやり方をそのまま押し付けても、うまくいかないことが多々あります。人にはそれぞれ得意・不得意があるからです。 「君の強みである『関係構築力』を活かすなら、このフェーズでこういうアプローチをするのも手ではないか?」といったように、その人の個性に合わせた改善案を一緒に考えることが、成長を加速させます。
このように、1on1は管理のための時間ではなく、「育成」と「作戦会議」の時間と定義し直す必要があります。上司と部下が対等な立場で現状を分析し、小さな「次の一手」を合意する。この繰り返しが、現場のPDCAを自然と回す動力源となります。
「個人の工夫」を「組織の仕組み」へ
小さな改善を繰り返していくと、必ず「勝ちパターン」が見えてきます。 「この資料を見せると反応が良い」「この切り返しトークを使うとアポが取れる」といった発見です。
多くの企業では、こうした発見が個人の頭の中だけに留まり、その人が辞めたらノウハウも消えてしまう「属人化」が起きています。これは非常にもったいないことです。
小さな改善で得られた成果は、すぐにチーム全体で共有し、「仕組み」として標準化する必要があります。 特別な才能がある人しかできないやり方ではなく、誰がやってもある程度の成果が出る方法を形式化するのです。
- うまくいった商談の録音を共有する
- 効果の高かった提案書をテンプレート化する
- ヒアリング項目をリスト化し、全員が使えるようにする
このように、個人の「小さな改善」を組織全体の「資産」に変えていくこと。これこそが、営業組織構築の要です。 「仕組み」があれば、新しく入ってきたメンバーも早く育ちますし、特定のスタープレイヤーに依存する必要もなくなります。
まとめ:遠回りに見えて一番の近道
営業組織を強化しようとすると、つい画期的なツールを入れたり、外部から凄腕の営業部長を連れてきたくなったりするものです。しかし、土台となる現場の改善サイクルが回っていなければ、どんな施策も一過性で終わってしまいます。
- 現状を正しく「見る」(事実の把握)
- 現場を追い詰めない「振り返り」を行う(心理的安全性の確保)
- 明日からできる「小さな改善」を実行する(成功体験の積み上げ)
- うまくいった方法を「仕組み」にする(組織知化)
このサイクルを丁寧に回すことこそが、結果として最短で強い営業組織を作る道です。 社員一人ひとりが、昨日の自分よりも少しだけ成長し、工夫することを楽しめるようになれば、数字は後から必ずついてきます。
「うちの組織は、基本ができているだろうか?」 「マネージャーは正しく部下の力を引き出せているだろうか?」
もし、今の営業組織のあり方に少しでも違和感や行き詰まりを感じていらっしゃるのであれば、一度、外部の視点を入れて現状を整理してみるのも一つの手です。 私たちは、貴社の営業プロセスを「見える化」し、現場の皆様が前向きに取り組める「改善の土台作り」からお手伝いをしております。
無理な変革ではなく、御社の良さを活かした着実な一歩を、一緒に踏み出してみませんか。
