会議室で「新しい提案はないか」と問いかけても、誰も手を挙げない。 営業目標の未達が続いているのに、現場からは「既存顧客のフォローで手一杯です」という言い訳ばかりが聞こえてくる。 もし、貴社の営業組織がこのような閉塞感に包まれているとしたら、それは社員の能力不足ではなく、組織の「空気」に原因があるかもしれません。
多くの経営者様から「もっと社員に挑戦してほしい」「待ちの姿勢ではなく、攻めの営業をしてほしい」というご相談をいただきます。しかし、そう願う一方で、現場では「ミスをしたら詰められる」「新しいことをやって失敗するより、言われたことを無難にこなす方が評価される」という心理が働いているケースが少なくありません。
今日は、停滞する組織の空気を変え、メンバーが前向きに挑戦できるチームへと変貌させるための、具体的なアプローチについてお話しします。
「正しい失敗」と「悪い失敗」を定義する
まず見直すべきは、社内における「失敗」の定義です。 営業活動において、失敗は二種類あります。一つは、連絡の不備や準備不足など、注意不足による「防げるミス」。もう一つは、仮説を持って新しいアプローチを試みた結果、うまくいかなかった「検証結果としてのミス」です。
多くの組織では、この二つが混同され、すべて一括りに「失敗」として処理されていないでしょうか。 「なぜ受注できなかったんだ」と結果だけを問い詰めてしまうと、社員は萎縮し、失敗を隠そうとするか、そもそも失敗する可能性のある新しい行動を避けるようになります。
重要なのは、後者の「検証結果としてのミス」を、組織の資産として捉え直すことです。 「このトークでは響かないことがわかった」「この業界にはこのアプローチは時期尚早だった」という事実は、次に成功するための貴重なデータです。このデータを集めるために行動したことを評価する。その意識の転換が、組織を変えるスタートラインになります。
データを「監視」ではなく「発見」のために使う
営業改革において、活動の数値化やプロセスの可視化は非常に有効です。しかし、導入の目的を間違えると逆効果になります。 多くの現場で嫌がられるのは、データが「サボっていないか監視するツール」として使われているからです。
「訪問件数が足りない」「架電数が目標にいっていない」と、不足を指摘するためだけに数字を使うと、社員は数字を作るためだけの行動、いわゆる「アリバイ作り」の営業活動を始めます。これでは本質的な成果には結びつきません。
データを活用する本当の目的は、現状を正しく把握し、改善のポイントを発見することにあります。 「なぜAさんのチームは成約率が高いのか?」「どのプロセスで顧客が離脱しているのか?」 これらを客観的な事実として捉えることで、精神論ではない、論理的な対策が打てるようになります。数字は社員を管理するためではなく、社員が自分の現在地を知り、迷わずにゴールへ向かうための地図のようなものです。
1on1の質を変える:報告から「作戦会議」へ
組織の文化を変える上で、最も影響力があるのがマネージャーとメンバーのコミュニケーション、特に1on1ミーティングです。 ここでもし、「今月の数字はどうなっている?」という進捗確認だけが行われているとしたら、それは非常にもったいない時間の使い方です。数字の確認はチャットやレポートで済みます。
1on1は、メンバーの思考を整理し、次の行動への意欲を引き出す場であるべきです。 推奨したいのは、メンバー自身に「なぜうまくいったのか」「なぜうまくいかなかったのか」を考えてもらうアプローチです。
「今回の商談、手応えがなかった要因は何だと思う?」 「次はどんな切り口でアプローチしてみようか?」
このように問いかけることで、メンバーは自分の行動を客観的に振り返ることができます。上司が一方的に答えを教えるのではなく、対話を通じてメンバー自身が「次はこうしてみよう」という仮説(改善案)を導き出せるようサポートする。これこそが、自律的に動く人材を育てる育成の本質です。
また、この対話の中で、メンバーの小さな挑戦や工夫を見逃さずに承認することも大切です。 「結果はダメだったけれど、あの資料の切り口は斬新で良かった」 「新しいターゲットにアプローチしたその行動力は評価できる」 このようにプロセスや意図を承認されることで、メンバーは「また挑戦しても大丈夫だ」という安心感を持ちます。いわゆる心理的安全性が確保された状態でこそ、人は本来のパフォーマンスを発揮し、仕事を楽しむことができるのです。
個人の経験を組織の力に変える
挑戦を称賛する文化が根付くと、不思議なことに「失敗の共有」が活発になります。 「このパターンはうまくいかなかった」という情報がオープンになれば、他のメンバーは同じ轍を踏まずに済みます。逆に「こうしたらうまくいった」という成功事例も、個人の手柄として隠されることなく、チーム全体のノウハウとして展開されるようになります。
トップセールスの個人的な感覚に頼るのではなく、チーム全員が実験と検証を繰り返し、その知見を積み上げていく。 そうすることで、特定のスタープレイヤーがいなくても、組織全体として高い成果を出し続ける仕組みが出来上がります。これが、「組織で勝つ」ということです。
最後に
「失敗を恐れるな」と口で言うのは簡単ですが、実際にそのような文化を根付かせるには、評価の視点や日々のコミュニケーション、そしてそれを支える仕組みの変革が必要です。
しかし、これは決して不可能なことではありません。 現状を正しく見る(見える化)。 事実に基づいて振り返る。 小さな改善を積み重ねる。 そして、そのプロセスを承認し合う。
このサイクルを回し始めることができれば、組織は確実に変わり始めます。 仕事における「楽しさ」とは、楽をすることではありません。自分の工夫が成果につながり、自身の成長や他者への貢献を実感できたときにこそ、人は仕事に夢中になれます。社員一人ひとりが生き生きと働き、その結果として業績が向上していく。そんな好循環を生み出す組織づくりを、今ここから始めてみませんか。
もし、どこから手をつければ良いかわからない、あるいは現在の取り組みに行き詰まりを感じているようでしたら、ぜひ一度、私どもの視点をお役立てください。貴社の現状に合わせた、最適な変革のシナリオを共に描かせていただきます。
