「せっかくアポイントを取ったのに、フィールドセールスから『確度が低い』と不満が出る」 「商談に行ってみたら、お客様の温度感が低く、話が噛み合わなかった」 「インサイドセールスは数を追うだけで、質の高いリードが回ってこない」
営業組織の分業化が進む中で、こうした声が現場から聞こえてくることはないでしょうか。 インサイドセールス(IS)がアポイントを獲得し、フィールドセールス(FS)が商談・クロージングを行う。この「THE MODEL」型の分業体制は、効率化の面で非常に合理的です。しかし、多くの企業で、この二つのチームの間に「見えない壁」が生じ、組織全体のパフォーマンスを下げてしまっているケースが散見されます。
それぞれのチームが優秀であっても、連携がうまくいかなければ成果にはつながりません。重要なのは、各工程の担当者が個別に頑張ることではなく、スムーズにバトンを渡すことです。 今回は、インサイドセールスとフィールドセールスの連携ミスをなくし、受注率を最大化するための「情報のバトンパス」について、その本質と具体的な仕組みづくりを掘り下げていきます。
なぜ、バトンはうまくつながらないのか?
まず、連携不全が起きる根本的な原因を考えてみましょう。多くの場合、それは「目的の不一致」と「情報の解像度の低さ」に起因しています。
インサイドセールスの主な評価指標(KPI)が「アポイント獲得数」に設定されている場合、ISの担当者はどうしても「まずはアポを取ること」を最優先に行動します。多少強引でも、顧客のニーズが不明確でも、アポイントの日時さえ決まれば「1件」としてカウントされるからです。 一方で、フィールドセールスは「受注数」や「受注金額」を追っています。彼らが求めているのは、単なるアポイントではなく「受注につながる可能性が高い商談」です。
ここに構造的な対立が生まれます。 ISは「これだけアポを送ったのに、なぜ決められないのか」と思い、FSは「こんな薄いアポばかり送られても、時間の無駄だ」と感じる。お互いが自分のKPIを守ることに必死になり、相手の状況を想像できなくなってしまうのです。
この状態を放置すると、単なる業務上のミスにとどまらず、チーム間の信頼関係が崩れ、組織全体の士気が低下します。これを解決するには、単に「仲良くやろう」と精神論を説くのではなく、構造的なアプローチで情報の質を変えていく必要があります。
「データ」ではなく「文脈」を渡す
連携をスムーズにするために、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)を活用している企業は多いでしょう。しかし、ツールに入力された「データ」だけでは、十分なバトンパスとは言えません。
「〇月〇日 14時 アポイント」「担当:佐藤様」「興味あり」 このような無機質な情報だけを見て、フィールドセールスは最適な提案の準備ができるでしょうか。できません。商談の現場で必要なのは、データそのものではなく、そのデータに至るまでの「文脈(コンテキスト)」です。
- なぜ、その顧客はアポイントを承諾したのか?(興味の核心)
- 電話口での声のトーンや話し方はどうだったか?(緊急度や本気度)
- 現状の課題について、どのような言葉で不満を漏らしていたか?(感情の動き)
- 決裁権者にどの程度アプローチできそうか?(組織力学)
これらは、選択式のプルダウンメニューだけでは伝えきれない情報です。 優れたバトンパスとは、陸上競技のリレーのように、前走者のスピード(顧客の温度感)を落とさずに、次走者がトップスピードで走り出せる状態で渡すことを指します。
「とりあえず会ってくれるそうです」と渡されたバトンと、「今の業務フローの〇〇という部分に強いストレスを感じていて、来期予算での導入を検討したいというトーンでした」と渡されたバトンでは、フィールドセールスが初手の挨拶で発する言葉が変わります。準備する資料も、想定される反論への対策も変わります。 結果として、商談の質が劇的に向上し、受注率という成果に直結するのです。
フィードバックループという「仕組み」を作る
情報の質を高めるためには、一方通行の伝達では不十分です。インサイドセールスからフィールドセールスへの「送り出し」だけでなく、フィールドセールスからインサイドセールスへの「フィードバック」がセットになって初めて、組織学習が回ります。
商談が終わった後、FSはISに対して、必ず結果を共有するルールを設けましょう。 「今回のアポは受注できそうだ」という報告だけでなく、より重要なのは「なぜ良かったのか」「何が不足していたのか」という定性的なフィードバックです。
- 「事前に共有してくれた〇〇という課題感が的確だったので、そこを深掘りしたら刺さった」
- 「決裁者が同席していないアポだったため、次回のアポ設定が難航した。次は事前に同席を打診してほしい」
- 「お客様の関心は機能面ではなく、コスト削減効果にあった。ヒアリングの視点を変えてみてほしい」
こうした具体的なフィードバックがあれば、ISの担当者は「自分のアポがどう役立ったのか」を実感できます。また、次の架電からヒアリングの質を修正することができます。 このサイクルが高速で回ることで、組織全体の中に「売れるアポイント」の定義が明確になり、属人化していたノウハウがチーム全体の資産として蓄積されていきます。
1on1で「つなぎ目」の意識を育てる
こうした仕組みを現場に定着させるためには、マネジメントの関わり方が極めて重要です。ここで効果を発揮するのが、定期的な1on1ミーティングです。
通常、1on1では個人の目標達成度やモチベーション管理に目が行きがちですが、分業体制においては「他部門との連携」をテーマに組み込むことを強く推奨します。
インサイドセールスのメンバーとの1on1では、単に架電数やアポイント数をチェックするだけでなく、「フィールドセールスが商談しやすい情報を聞き出せているか?」「FSからのフィードバックをどう次のアクションに活かすか?」といった問いかけを行います。 逆に、フィールドセールスのメンバーには、「ISからのパスをどう活かしたか?」「ISのモチベーションを下げるような伝え方をしていないか?」を確認します。
マネージャーが「自分の数字さえ良ければいい」というスタンスではなく、「前後の工程を含めたチーム全体で成果を出すこと」を評価し、称賛することで、メンバーの意識は変わります。 社員一人ひとりの個性を活かしながらも、その個性が孤立するのではなく、組織という大きな流れの中で機能するように導くこと。それが、マネージャーに求められる「育成」の本来の姿です。
「顧客体験」を主語にする
最後に、この連携強化が誰のためにあるのかを再確認しましょう。それは自社の売上のためであると同時に、何より「顧客のため」です。
顧客にとって、電話をかけてきた人と商談に来た人が別人であるかどうかは、本質的な問題ではありません。彼らが気にしているのは、「自分の課題を理解し、解決してくれるかどうか」です。 電話で一度話したことを、商談の場でもう一度ゼロから説明させられることほど、顧客にとってストレスなことはありません。逆に、電話で話した些細な悩みまで商談担当者が理解していれば、「この会社は自分のことを大切にしてくれている」「信頼できる組織だ」という安心感が生まれます。
情報のバトンパスがスムーズであることは、そのまま優れた顧客体験(CX)につながります。 組織の壁を取り払い、情報が血液のようにスムーズに循環する状態を作ることは、顧客からの信頼を勝ち取り、競合他社との差別化を図るための大きな武器となるでしょう。
組織全体で「勝ちパターン」を創り出す
インサイドセールスとフィールドセールスの連携ミスは、個人の能力不足ではなく、情報の流通経路と評価の仕組み、そしてコミュニケーションの質に起因する問題です。
- KPIの達成だけでなく、バトンの「質」に目を向けること。
- 定性的な情報(文脈)を言語化して伝えること。
- 相互のフィードバックを日常的な業務フローに組み込むこと。
- マネジメントが「連携」を評価し、対話を促進すること。
これらを地道に積み重ねることで、組織は「個人の寄せ集め」から「自走する強いチーム」へと進化します。 特定のトップセールスの個人的な能力に依存するのではなく、組織全体で情報を共有し、誰もが一定レベル以上の成果を出せるような「勝ちパターン」を構築する。それこそが、変化の激しい市場環境において、企業が長く安定して成長していくための土台となります。
もし、貴社の営業組織で「部門間の壁」や「情報の分断」を感じているのであれば、まずは現場のメンバー同士が、お互いの仕事の「文脈」を話し合う場を設けることから始めてみてはいかがでしょうか。 そこにある小さな「対話」の積み重ねが、やがて大きな成果の違いとなって表れるはずです。
