「あのトップセールスが辞めたら、うちの売上はどうなってしまうのか」
もし、この不安が少しでも頭をよぎるとすれば、貴社の営業組織は非常にリスキーな状態にあると言わざるを得ません。多くの経営者や営業責任者が抱える悩みの本質は、売上の数字そのものよりも、その数字が「特定個人の能力やセンス」に過度に依存しているという構造的な脆さにあります。
天才的な営業センスを持つ社員がいれば、確かに一時的な売上は立ちます。しかし、天才は採用できませんし、育てることも困難です。さらに言えば、彼らが定着してくれる保証もありません。
企業が目指すべきは、天才に頼ることではありません。普通の能力を持った社員が、仕組みの中で天才に負けない成果を上げられる「再現性のある組織」を作ることです。今回は、属人化を脱し、組織全体で勝つための営業改革についてお話しします。
営業を「ブラックボックス」のままにしない
なぜ、営業組織は属人化しやすいのでしょうか。最大の要因は、営業プロセスが個人の頭の中だけにあり、周囲から見えなくなっていることです。
「あいつは勘がいいから売れる」「彼はトークが上手いから」といった感覚的な言葉で片付けていては、いつまでたっても組織力は上がりません。成果が出ない原因が、アポイントの数なのか、商談の質なのか、あるいはクロージングのタイミングなのか。ここが曖昧なままでは、精神論で「もっと頑張れ」と発破をかけるしかなくなります。これでは社員は疲弊し、離職につながります。
組織改革のスタートは、徹底的な「見える化」です。 誰が、いつ、どのような行動をとり、どこでつまずいているのか。トップセールスは商談でどんな質問を投げかけ、どのような資料をどのタイミングで見せているのか。
これらをデータや事実として並べることで初めて、個人の「センス」だと思われていたものが、実は「適切なタイミングでの適切な行動」の積み重ねであることに気づきます。ここまで分解できれば、それはもはや特殊能力ではなく、誰もが真似できる「手順」になります。
「勝ちパターン」を標準化し、凡人を底上げする
プロセスが見えてきたら、次はそれを組織の共通言語にします。これが「仕組み化」です。
トップセールスが無意識に行っている「勝ちパターン」を抽出し、標準的なプロセスとして落とし込みます。 しかし、ここで注意が必要なのは、ガチガチのマニュアルで縛り付けることではありません。営業活動において重要なのは、社員がロボットのように動くことではなく、成功確率の高いルートを全員が知っている状態を作ることです。
例えば、初回訪問でのヒアリング項目、提案書の構成、クロージングへの移行条件など、成果に直結するポイントを明確にします。これにより、新人や成績が伸び悩んでいる社員でも、迷うことなく「正解に近い動き」ができるようになります。
個人の能力に依存せず、プロセスに従って行動すれば一定の成果が出る。この安心感こそが、社員の心理的負担を減らし、組織全体の底上げにつながります。
仕組みに命を吹き込むのは「対話(1on1)」である
ここまで「仕組み」の重要性をお伝えしましたが、立派な仕組みやツール(SFAやCRM)を導入しただけでは、組織は変わりません。むしろ、「管理されている」という窮屈さを感じさせ、社員のモチベーションを下げてしまう失敗例が後を絶ちません。
仕組みはあくまで道具です。それを使うのは「人」です。 ここで重要になるのが、社員一人ひとりの意欲を引き出し、成長を支援する「育成」の視点です。そのために最も有効な手段の一つが、定期的な「1on1ミーティング」です。
多くの企業で行われている1on1は、単なる「進捗確認」や「詰め」の場になりがちです。「目標まであといくら足りないんだ?」「どうやって埋めるんだ?」という会話だけでは、社員は萎縮し、思考停止に陥ります。
成果を出す組織の1on1は、視点が全く異なります。 「今回の商談で、上手くいった要因は何だったと思う?」 「勝ちパターンと比べて、どこが違っていた?」 「次はどのような工夫ができそうか?」
このように、データを共通の事実として置きながら、社員自身に「振り返り」を促すのです。 上司が一方的に答えを教えるのではなく、問いかけによって本人に気づきを与える。そうすることで、社員は「やらされている仕事」ではなく、「自ら工夫し、成長できる仕事」として営業を捉え直すようになります。
仕事を楽しむためには、自分の成長を実感できることが欠かせません。「先月できなかったことが今月はできた」という小さな成功体験の積み重ねが、社員の自信となり、さらなるパフォーマンス向上への原動力となります。
「仕組み」と「人」の両輪が回れば、組織は自走する
営業組織の強化には、論理的な「仕組みの構築」と、感情に寄り添う「人の育成」の両方が必要です。どちらか片方だけでは、組織は長続きしません。
- 見える化と標準化(仕組み): 誰がやっても成果が出る土台を作る
- 振り返りと対話(人): 仕組みを使いこなし、自律的に改善できる人材を育てる
この2つが噛み合ったとき、組織は劇的に変わります。トップセールスがいなくなっても揺るがない、盤石な基盤が出来上がります。そして何より、社員一人ひとりが自分の仕事に誇りを持ち、主体的に動く「自走する組織」へと進化します。
「今のメンバーのままでは限界だ」と諦める前に、まずは組織の中に埋もれている「勝ちパターン」を探し出すことから始めてみてはいかがでしょうか。 天才に頼る経営から卒業し、組織の力で勝ち続ける。そのための具体的な設計図を描く準備は、すでに貴社の中に眠っています。
自社の営業プロセスにおいて、どこが「ブラックボックス」になっているか、一度点検してみませんか?組織の現状分析や、効果的な1on1の導入方法について、壁打ち相手としてお話しすることも可能です。お気軽にご相談ください。
