同行営業は「見せる」だけじゃダメ。新人が育つ効果的なフィードバックの型

「俺の背中を見て覚えろ」

かつて、営業の世界ではこの言葉が金科玉条のように扱われてきました。優秀なマネージャーや先輩社員が商談の場を支配し、鮮やかなトークで契約を勝ち取る。その姿を隣で見ているだけで、新人は何かを学び取るはずだ――。

もし、あなたが経営者や営業責任者として、この古い慣習に少しでも頼っているとしたら、今すぐその考えを改める必要があります。なぜなら、多くの場合、同行営業で上司が活躍すればするほど、部下の思考は停止し、育成の機会が失われているからです。

営業組織の拡大や、次世代リーダーの育成に悩む企業の多くが、この「同行営業の落とし穴」にはまっています。今回は、単なる商談のサポートで終わらせず、同行営業を確実な「人材育成の場」に変えるための、ロジカルで実践的なフィードバックの型についてお話しします。

なぜ「背中を見せる」だけでは伝わらないのか

まず、根本的な認識のズレを解消しましょう。成果を出しているベテラン営業と、経験の浅い新人では、商談中に「見えている景色」が全く異なります。

ベテランであるあなたは、顧客の表情、声のトーン、室内の雰囲気、競合の動きなど、膨大な情報を無意識のうちに処理し、瞬時に最適なトークを選んでいます。しかし、新人はその「判断のプロセス」が見えません。彼らに見えるのは、あなたが流暢に話し、顧客が頷いているという「結果」としての現象だけです。

例えば、あなたが顧客の反論に対して、あえて一歩引いて共感を示したとします。あなたの中には「ここで押すと心象が悪くなる、一度受け止めてから別の角度で提案しよう」という高度な計算があります。しかし、横で見ている新人は「ここでは引いたほうがいいんだな」としか捉えません。その背景にある論理や文脈が伝わらなければ、別の場面で同じことをして失敗するか、あるいは何も応用できずに終わります。

つまり、「見せる」だけでは、あなたのスキルの本質は伝承されません。必要なのは、あなたの頭の中で起きている情報処理のプロセスを言葉にし、部下に追体験させることです。

同行営業を成功させる「準備」と「役割分担」

効果的な同行営業は、客先に向かう車中や移動中、あるいは前日の時点で始まっています。ここでやるべきは、「今日のテーマ」の共有です。

漠然と「勉強のために着いてこい」と言うのはやめましょう。人間は、意識していない情報は脳に入ってきません。

「今日は、顧客が課題を口にした瞬間の私の切り返し方に注目してほしい」 「前半のアイスブレイクで、どうやって本題への接続点を作るかを見ていてほしい」

このように、見るべきポイントを一点に絞ります。焦点が定まることで、新人は漫然と時間を過ごすのではなく、目的意識を持って観察するようになります。

また、商談中の役割分担も明確にしてください。もし新人の育成が主目的であれば、主役はあくまで新人であり、あなたは黒子に徹するべきです。「危なくなったら助け舟を出すが、基本的には君が進めてくれ」と伝え、心理的な安全性を確保しつつ、当事者意識を持たせることが大切です。あなたがすべてを喋ってしまっては、新人は「今日も部長が上手だったな」という感想しか抱けず、自身の成長課題が見つかりません。

成長を加速させる「フィードバック」の黄金パターン

商談が終わった直後、あるいは帰社後の振り返りこそが、育成における最も重要な時間です。ここで多くのマネージャーがやりがちなのが、一方的な「ダメ出し」です。

「あの場面ではもっと強く押さないと」 「資料の説明が長すぎるよ」

これらは正論かもしれませんが、言われた側は「すみません、次は気をつけます」と答えるしかありません。これでは思考力が育ちません。部下を自走できる営業パーソンに育てるためには、一方的に教えるのではなく、「問いかけて、気づかせる」アプローチが必要です。

以下のステップでフィードバックを進めてみてください。

1. 事実の確認(客観視) まずは感情や評価を抜きにして、何が起きたかを共有します。「あの時、お客様が腕を組んだね」「価格の話が出た時、君の説明が少し早口になったね」といった具合です。データや事実に基づく共通認識を作ります。

2. 本人の内省を促す問いかけ 次に、あなたの評価を伝える前に、必ず本人に喋らせます。 「今の商談、自分では何点くらいだと思う?」 「準備していたことと、実際にできたことのギャップは何だった?」 「お客様が一番反応したのはどこだったと思う?」

ここで大切なのは、彼らが感じた「違和感」や「手応え」を言語化させることです。自分で口にした反省点は、他人から言われた指摘よりも何倍も深く定着します。

3. マネージャーの視点(思考の開示) 本人の振り返りを聞いた上で、初めてあなたの視点を伝えます。ここでは「答え」を教えるのではなく、あなたの「思考プロセス」を共有します。 「君はあそこで資料を閉じたけど、私ならあえて開いたままにして、グラフを指差しながら沈黙を使ったと思う。なぜなら、お客様が迷っている様子だったから、考える時間を与えたかったんだ」

このように「Why(なぜそうするのか)」をセットで伝えることで、単なるテクニックではなく、応用可能な考え方として部下にインストールされます。

1on1で「点」を「線」にする

同行営業でのフィードバックは、あくまでその商談という「点」の改善です。これを彼らのキャリアや長期的な成長という「線」に繋げるために有効なのが、定期的な「1on1ミーティング」です。

日々の業務報告とは別に、週に一度や隔週で時間を設け、同行営業で浮き彫りになった課題が、彼らの目指す姿とどう関係しているかを話し合います。

「最近、ヒアリングの深掘りができるようになってきたね。これは君が目標にしている『顧客のパートナーになる』という状態に近づいている証拠だよ」

このように、個別のスキル改善が、彼ら自身の「成長」や「貢献」にどう結びついているかを確認してください。営業社員が仕事を楽しむためには、「やらされている感」ではなく、「自分の成長のためにやっている」という実感が必要です。

1on1というクローズドな場で、じっくりと対話を行うことで、部下は「上司は自分の数字だけでなく、キャリアや成長を見てくれている」という安心感を持ちます。この信頼関係があって初めて、厳しいフィードバックも素直に受け入れられるようになるのです。

属人化からの脱却と組織への定着

個別の同行指導で得られた「勝ちパターン」や「失敗の傾向」は、そのペアだけのものにしておくのは非常にもったいないことです。

「A君がやっていたこの切り返しは非常に有効だった」 「B君が陥ったこのミスは、他のメンバーもやりがちだから共有しよう」

このように、個人の経験から得られた知見を、組織全体の「仕組み」として還元していく視点を持ってください。優秀なマネージャーの役割は、自分自身のコピーを作ることではなく、誰がやっても一定の成果が出るような土台を整えることです。

個人の感覚に頼っていた営業手法を、論理的に分解し、チーム全体で共有できる言葉やツールに落とし込む。そうすることで、特定のスタープレイヤーに依存しない、強く安定した組織が生まれます。

まとめ:育成とは、思考の枠組みを渡すこと

同行営業は、単に売上を作るための手段ではありません。それは、現場というリアルな教材を使って、部下に「売れる営業の思考回路」をインストールする絶好の機会です。

「見せる」から「考えさせる」へ。 「教える」から「気づかせる」へ。

この転換ができれば、あなたの時間は部下のフォローに追われるものではなく、未来の投資へと変わります。部下一人ひとりが自らの頭で考え、改善し、仕事を楽しめるようになれば、組織全体のパフォーマンスは飛躍的に向上するでしょう。

もし、こうした育成の仕組みづくりや、効果的なフィードバックの定着、マネージャー自身の指導力向上に課題を感じていらっしゃるなら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。 貴社の営業プロセスを可視化し、個人の能力を最大限に引き出すための具体的なステップを、共に設計させていただきます。