営業強化に必要なのは「研修」か「コンサル」か?「仕組」と「個人の成長」を同時に実現する、失敗しない営業改革の進め方

「営業の数字が伸び悩んでいる」「メンバーが育たない」 こうした課題に直面したとき、多くの経営者や営業責任者が検討するのが、外部のプロフェッショナルによる支援です。

しかし、ここで最初の分岐点が訪れます。 「有名な講師を呼んで営業研修をするべきか」 「コンサルティング会社に入れて戦略を見直すべきか」

結論から申し上げますと、この「研修か、コンサルか」という二者択一の問い自体が、実は成果を遠ざけている原因かもしれません。多くの企業が外部支援を導入しても期待した成果が得られないのは、自社の課題の「深さ」と、選んだ解決策の「種類」がミスマッチを起こしているからです。

本コラムでは、営業組織を強くするために本当に必要な視点は何か、そして自社に合った外部支援をどのように選ぶべきかについて、論理的に紐解いていきます。

「研修」と「コンサルティング」の決定的な違い

まず、一般的にイメージされる「研修」と「コンサルティング」の役割を整理してみましょう。

1. 研修(トレーニング):個人の「スキル」へのアプローチ 研修は主に、営業担当者個人の知識や技術を向上させることを目的とします。 商談の進め方、ヒアリング技術、クロージングのトーク術など、不足しているスキルを「インプット」する場です。 メリットは、短期間で新しい知識を得られることや、メンバー全員に共通の言語を持たせられることです。

2. コンサルティング:組織の「戦略・仕組み」へのアプローチ 一方でコンサルティングは、組織としての勝ち筋を描くことを目的とします。 ターゲット選定、営業プロセスの再設計、KPIの設定など、組織が動くための「ルールや構造」を作ります。 メリットは、客観的な視点でボトルネックを発見し、論理的な解決策(To-Do)を提示してもらえることです。

これらはどちらも重要な要素です。しかし、多くの企業で起きている失敗は、このどちらか一方だけを取り入れて、安心してしまうことにあります。

なぜ「研修」だけでは現場が変わらないのか

よくある失敗例の一つが、「モチベーションアップ研修」や「最新セールス手法研修」を実施して終わり、というパターンです。

研修を受けた直後は、メンバーの士気も上がり、新しい手法を試そうという意欲に満ちています。しかし、一週間も経てば元のやり方に戻ってしまう。これは、個人の意識が低いからではありません。 **「学んだことを実践し続けるための環境(仕組み)」**が整っていないからです。

例えば、新しいヒアリング手法を学んだとしても、上司が従来通りの「とにかく件数を回れ」というマネジメントをしていれば、新しい手法を使う時間は失われます。また、評価制度が古いままでは、新しい挑戦をするメリットをメンバーが感じられません。

個人のスキルだけに頼る改善は、その人が辞めてしまえば終わりです。また、組織としてのバックアップがない状態で個人の頑張りに期待するのは、舗装されていない凸凹道をスポーツカーで走らせるようなものです。これでは、どんなに優秀なドライバー(営業マン)でも本来の力を発揮できません。

なぜ「コンサル」だけでは現場が動かないのか

逆のパターンもあります。立派な戦略書やマニュアルが完成したものの、現場が全くその通りに動かないケースです。

コンサルタントが作成した戦略は、論理的には正しいでしょう。しかし、現場のメンバーからすれば「現場を知らない人が勝手に決めたルール」と受け取られてしまうことがあります。 「理屈はわかるけれど、今の忙しさではできない」「そのやり方は自分には合わない」といった心理的な反発が生まれ、絵に描いた餅になってしまうのです。

仕組みや戦略は、それを実行する「人」がいて初めて機能します。 メンバー一人ひとりが「なぜこの作業が必要なのか」を理解し、「これをやることで自分にもメリットがある」と感じられなければ、どんなに精緻なシステムも形骸化します。また、それぞれのメンバーには得意・不得意といった個性があります。画一的な型に嵌めるだけでは、仕事の面白さが失われ、結果としてパフォーマンスが下がることさえあります。

必要なのは「仕組み」と「育成」の統合

ここまで見てきたように、営業強化には「仕組み(ハード)」と「人(ソフト)」の両輪が必要です。 どちらか一方ではなく、この二つを行き来しながら、組織全体をレベルアップさせていくアプローチが求められます。

外部支援を選ぶ際に重視すべきは、単なるノウハウの提供(研修)や、戦略の提示(コンサル)ではなく、「現状の見える化」から「実行・定着」までを一緒に進めてくれるパートナーかどうかという点です。

成果が出る組織改革には、以下のサイクルが必要です。

  1. 事実に基づく「見える化」 感覚的な「頑張れ」や「気合い」ではなく、データに基づいて「どこでつまづいているのか」を明らかにすること。プロセスごとの数字、メンバーの行動量、あるいはメンバーの適性などを客観的に直視することから始まります。
  2. 現場に即した「小さな改善」 いきなり壮大な戦略を押し付けるのではなく、現場が「これならできそうだ」と思える小さな改善を積み重ねること。小さな成功体験が、チームの自信になります。
  3. 個性を活かす「人材育成」 標準化された仕組みは必要ですが、ロボットを作るわけではありません。仕組みの上で、一人ひとりがどう個性を発揮するか。ここを支援するのが教育です。

マネージャーの役割と「1on1」の重要性

この「仕組み」と「人」をつなぐ役割を果たすのが、現場のマネージャーであり、経営層です。 外部のパートナーを入れたとしても、最終的にメンバーと対話をするのは社内の人間です。

ここで強く推奨したいのが、質の高い「1on1ミーティング」の実施です。 単なる案件の進捗確認(ヨミ管理)の場にしてはいけません。それはSFA(営業支援ツール)を見ればわかることです。

1on1は、データの「見える化」で明らかになった課題に対し、「なぜそうなったのか?」「どうすれば解決できそうか?」を本人に考えさせ、成長を促す時間にするべきです。 また、組織として新しく導入した仕組みに対して、メンバーがどう感じているか、どこに躓いているかを吸い上げる場でもあります。

個人の悩みやキャリアビジョンに寄り添い、「会社が目指す方向」と「個人のやりがい」の重なりを見つけること。 営業という仕事を通じて、自分がどう成長できるのか、どう貢献できるのかを実感できたとき、人は自ら考え、動き出します。この内発的な動機づけこそが、組織を長く強い状態に保つエネルギー源です。

「楽しむ」ことがパフォーマンスを最大化する

営業は厳しい仕事だと思われがちですが、本来は顧客の課題を解決し、感謝される非常にやりがいのある仕事です。 もし、今の営業組織が疲弊しているのであれば、それは「勝てる仕組み」がないまま戦場に送り出されているか、あるいは「個人の成長」が無視されているからかもしれません。

成果が出るから、仕事が楽しくなる。 仕事が楽しいから、さらに工夫したくなる。

この好循環を生み出すためには、正しい現状分析に基づいた「仕組みの構築」と、一人ひとりの可能性を引き出す「丁寧な育成」の両方が必要です。

これらを社内のリソースだけで完結させるのが難しい場合も多々あります。 日々の業務に追われ、客観的な分析や、一人ひとりに向き合う時間が取れないことは珍しくありません。

そうした際に、 「研修屋」として知識だけを置いていくのでもなく、 「先生」として理屈だけを説くのでもない。

共にデータを読み解き、現場に入り込んで汗をかき、マネージャーと共にメンバーの成長を喜べる。 そんな「伴走型」の支援こそが、今の時代の営業組織には必要ではないでしょうか。

一時的なカンフル剤ではなく、組織の体質そのものを強くし、自分たちで走り続けられる組織を作る。 そんな視点で、外部パートナーを選んでみてはいかがでしょうか。