「どうすれば、もっと彼らが自分から動いてくれるのだろうか」
もしあなたが、日々の業務の中で部下の行動に対し、このようなもどかしさを感じているとしたら、それはあなただけではありません。多くの経営者や営業責任者が抱える、共通の悩みです。
「次のアポはどうしましょうか?」 「見積もりはこの金額で出していいですか?」 「A社への返信はどう書けばいいですか?」
一つひとつ指示を出せば、確かに業務は回ります。しかし、それではいつまで経ってもあなたの時間は空きません。本来、経営者やリーダーが費やすべき「未来のための戦略」を考える時間が、日々の細かな判断業務に奪われてしまっているのが現状ではないでしょうか。
また、指示を出し続けることの弊害は、あなたの時間がなくなることだけではありません。 常に答えをもらえる環境にいると、営業社員は「正解は上司が持っている」と認識し、自分で考えることをやめてしまいます。これが、いわゆる「指示待ち人間」を生み出すメカニズムです。
では、どうすれば営業社員は「指示待ち」を卒業し、自ら状況を判断して動く「提案型」へと変われるのでしょうか。
精神論で「もっと主体性を持て」と伝えるだけでは、人は変わりません。必要なのは、彼らが自ら動けるようになるための「環境」と「順序」です。
今回は、組織全体を「自ら考えて動くチーム」へと変えていくための、具体的な3つのステップについてお話しします。
ステップ1:動き方の「正解」を見えるようにする
営業社員が動けない最大の理由は、実は「やる気がない」からではありません。「どう動けば正解なのかがわからない」から動けない、というケースが大半です。
特に営業という仕事は、プロセスがブラックボックスになりがちです。トップセールスマンがなぜ売れているのか、その具体的な行動やトーク、タイミングが他のメンバーには見えていないことがよくあります。 見えていないものを真似することはできませんし、基準がなければ、自分の行動が良いのか悪いのかの判断もつきません。
まず最初に取り組むべきは、営業活動のプロセスを分解し、成果が出ている行動パターンをチーム全体で共有できる状態にすることです。
例えば、 「初回訪問では、自社の説明よりも先に、顧客の課題を3つ以上ヒアリングする」 「見積提出後のフォローは、メールではなく電話で2日以内に行う」
このように、具体的で再現可能な行動の基準を設けます。これはマニュアルを作って型にはめるという意味ではありません。「成果につながりやすい行動」という共通の物差しを持つことが目的です。
基準があれば、営業社員は迷わずに済みます。「次はどうすればいいですか?」と聞く前に、「基準ではこうなっているから、次はこう動こう」と自分で判断できる材料が手に入るのです。
まずは、社内でなんとなく行われている業務の流れを整理し、誰が見てもわかる状態に整えること。これが、自走する組織を作るための最初の土台となります。
ステップ2:1on1で「報告」ではなく「思考」を促す
行動の基準ができたら、次はそれを運用しながら、営業社員の「考える力」を養うフェーズに入ります。ここで非常に有効なのが、定期的な1on1ミーティングです。
しかし、多くの企業で行われている1on1や営業会議は、単なる「進捗確認」や「尋問」になってしまっています。
「今月の数字はどうなっている?」 「なぜ未達なんだ?」 「次はどうするつもりだ?」
これでは、営業社員は叱責を避けるための言い訳を考えることに必死になり、建設的な思考が停止してしまいます。 自ら動く営業社員を育てるための1on1は、問いかけの質を変える必要があります。
具体的には、「事実の報告」をさせた後に、必ず「考察」をセットで聞くようにします。
「今回の商談で、お客様の反応が一番良かったのはどの部分だったと思う?」 「失注にはなったけれど、前回の商談と比べて改善できた点はどこかな?」 「もしもう一度やり直せるとしたら、どのプロセスを変える?」
このように問いかけることで、営業社員は自分の行動を振り返らざるを得なくなります。 成功したときも、失敗したときも、その要因がどこにあったのかを言語化させるのです。
上司が答えを教えるのではなく、本人に答えを導き出させる。このプロセスを繰り返すことで、営業社員の中に「次からはこうしてみよう」という仮説思考が生まれます。
また、1on1の時間は、営業社員の個性を理解する場でもあります。 何にやりがいを感じるのか、どんな営業スタイルが得意なのか。一人ひとりの特性を知り、それを認めることで、彼らは「自分はこの組織で大切にされている」という安心感を持ちます。この安心感こそが、失敗を恐れずに新しい提案や行動を起こすためのエネルギー源となるのです。
ステップ3:小さな「改善」を評価し、組織の仕組みにする
自分で考えられるようになった営業社員が、実際に新しい行動を起こすために必要なこと。それは「失敗への許容」と「改善への評価」です。
新しいことに挑戦すれば、必ず失敗は起こります。そのたびに「余計なことをするな」と咎められてしまえば、また元の指示待ちの状態に逆戻りです。
大切なのは、結果の良し悪しだけでなく、そのプロセスにおける「工夫」や「改善の試み」を評価することです。
「商談資料の構成を少し変えてみました」 「トークスクリプトのこの部分を、自分の言葉に変えてみました」
こうした小さな工夫を拾い上げ、「それは良い視点だね」「その結果どうだった?」と関心を寄せてください。そして、もしその工夫が良い結果を生んだのであれば、それを個人の手柄で終わらせず、チーム全体の「新しい勝ちパターン」として組織の仕組みに取り入れていきます。
「A君が試したこの方法でアポ率が上がったから、みんなで共有しよう」
このように、個人の工夫が組織全体の成果に直結し、評価される経験を積むと、営業社員は仕事に面白みを感じ始めます。「やらされる仕事」から「自分たちで作る仕事」へと意識が変わる瞬間です。
組織として、大きな改革を一気に行う必要はありません。現場レベルの小さなPDCA(計画・実行・評価・改善)を高速で回し続けること。そして、そこから生まれた知見を組織の財産として蓄積していくこと。このサイクルが回り始めれば、組織は特定のエース営業マンに依存することなく、チーム全体で成果を出し続けることができるようになります。
自走する組織がもたらす未来
ここまで、「見える化」「問いかけによる育成」「改善の仕組み化」という3つのステップをお伝えしてきました。
これらは、決して魔法のような即効性のあるテクニックではありません。しかし、地道に取り組むことで、組織の体質は確実に変わります。
営業社員一人ひとりが、自分の役割を理解し、自ら課題を見つけ、改善策を提案して実行する。 そんなチームができあがれば、経営者であるあなたは、現場の細かな管理から解放されます。そして、本来の役割である「会社の未来を描くこと」に全力を注げるようになるはずです。
また、働く営業社員にとっても、自分の頭で考えて成果を出すプロセスは、仕事の楽しさそのものです。 「売れと言われるから売る」のではなく、「どうすればお客様に喜んでもらえるか、どうすればもっと効率よく成果が出せるか」を自分たちで追求できる組織は、活気に満ち溢れ、自然と優秀な人材が育っていきます。
もちろん、これらすべてを自社だけで一から構築するのは、時間も労力もかかる大変な作業です。 客観的な視点で自社の現状を分析し、適切な手順で仕組みを整えていくためには、外部の専門的な知見を借りるのも一つの賢い選択肢と言えるでしょう。
「うちの営業社員は指示待ちだから」と諦める前に、まずは彼らが動き出せるための「土台」が整っているか、一度見直してみてはいかがでしょうか。 組織の仕組みが変われば、人は必ず変わります。そして人が変われば、会社の業績も、未来も、大きく変わっていくのです。
もし、貴社の現状において、 「プロセスの見える化がどこまでできているかわからない」 「効果的な1on1のやり方が定着しない」 「組織として仕組み化を進めたいが、何から手をつければいいか迷っている」
といったお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちにお話を聞かせてください。 貴社の営業組織が抱える課題を整理し、自走するチームへと生まれ変わるための具体的な道筋を、一緒に考えさせていただきます。
まずはお気軽にご相談ください。
