「なぜ、いちいち指示を出さないと動けないのか」 「もっと自分で考えて、能動的に動いてほしい」
日々、現場で奮闘する経営者や営業責任者の方から、このような嘆きをよく耳にします。 自分のコピーがもう一人いれば、もっと売上が上がるのに。そう思いながら、結局は自分が一番動き回り、プレイングマネージャーとして疲弊してしまう。これは、成長過程にある多くの企業が直面する壁です。
しかし、少し厳しい言い方になるかもしれませんが、部下が「指示待ち」になってしまう原因の多くは、実は部下のやる気や能力の問題ではなく、組織の「構造」にあります。
もし、貴社の営業チームが、トップの号令がないと動かない、あるいは特定の優秀なエース社員だけが数字を稼いでいる状態だとしたら、それは組織としての「勝ちパターン」が共有されていないサインかもしれません。
今回は、特定のスタープレイヤーに依存せず、普通の社員が自ら考え、行動し、成果を出し続ける「自走する組織」を作るためのポイントについてお話しします。
なぜ、彼らは「自分で考えない」のか?
まず、根本的な原因を探ってみましょう。 「自分で考えろ」と言われても、部下が動けない理由はシンプルです。「判断するための材料」と「失敗しても大丈夫な環境」がないからです。
営業の現場は、毎日が選択の連続です。どのアプローチが正しいのか、どの顧客を優先すべきのか。その判断基準が「社長の勘」や「エースの背中を見て盗め」といった曖昧なものになっていると、経験の浅いメンバーは迷います。迷った結果、失敗して怒られるのを避けるために、「どうすればいいですか?」と指示を仰ぐようになります。これが指示待ち人間の正体です。
これを解消するために必要なのは、精神論的な「意識改革」ではありません。 彼らが安心してアクセルを踏めるように、道路を整備し、信号機を設置すること。つまり、「事実に基づいた判断基準(データ)」と「成功への道筋(プロセス)」を用意することです。
「見える化」が、自走のスタートライン
営業が自ら走るために絶対に欠かせないもの。それは現状の「見える化」です。
多くの組織では、結果の数字(売上目標と実績)だけが管理されています。しかし、結果が出るまでのプロセス、つまり「誰が、いつ、どこで、何をして、どうなったか」がブラックボックスになっていることが少なくありません。
例えば、 「Aさんはなぜ今月達成できたのか?」 「Bさんはなぜ失注が続いているのか?」
この問いに対して、「Aさんは気合が入っていた」「Bさんは押しが弱かった」といった感覚的な言葉で片付けていては、再現性は生まれません。 Aさんがどのタイミングでどんな提案をしたのか、Bさんがプロセスのどの段階でつまずいているのか。これらを客観的な事実として誰もが見える状態にすることからすべては始まります。
自分の行動がデータとして見え、それが成果とどう結びついているかが分かれば、営業担当者は初めて「自分の意志」で改善点を見つけることができます。
「感覚」ではなく「事実」を共通言語にすること。 これが、上司の顔色を伺う組織から、事実を見て判断する組織へと変わるための、最初の一歩です。
1on1は「尋問」ではなく「作戦会議」にする
組織を自走させるためには、マネジメントの手法も変える必要があります。 ここで重要になるのが、部下との「1on1(定期的な個人面談)」の質です。
多くの企業で導入されている1on1ですが、残念ながら「進捗確認」や「詰め」の場になっているケースが散見されます。 「今月の数字、いく?」 「なんでこれ、やってないの?」 これでは、部下は言い訳を考えることに必死になり、思考停止に陥ります。
自走する組織における1on1の目的は、管理ではなく「育成」と「支援」です。 先ほど触れた「見える化」されたデータを前に置いて、上司と部下が横並びで未来の話をする場に変えてみてください。
「このデータを見ると、初回訪問からの次回アポ率が下がっているね。何が原因だと思う?」 「提案の準備に時間がかかりすぎているみたいだね。どうすれば効率化できるかな?」
ここでは、上司が答えを教える必要はありません。問いかけを通じて、部下自身に「気づき」を与えることが重要です。 「あ、自分はここでつまづいていたのか」「次はこうしてみよう」という発見こそが、本人の成長意欲に火をつけます。
また、1on1は、部下の個性を活かす場でもあります。 全員を同じ型にはめるのではなく、「君は新規開拓の突破力がすごいから、そこを伸ばそう」「君は顧客との関係構築が丁寧だから、既存顧客の深耕を任せたい」というように、データと対話に基づいて個々の強みを引き出す配置ができれば、仕事に対する「楽しさ」や「貢献している実感」が生まれます。
仕事を楽しんでいる人間は、放っておいても自ら工夫し、走り出します。その状態を作ることこそが、マネージャーの本来の役割なのです。
「個人の頑張り」を「組織の仕組み」へ
育成と同時に進めなければならないのが、「仕組み化」です。 優秀な営業マンが一人育っても、その人が辞めたら元通り、では組織としては脆弱です。
誰がやっても一定の成果が出る状態を作るには、うまくいった方法を「個人の手柄」で終わらせず、「組織の資産」として定着させる必要があります。
- 成功した商談のトークスクリプトを共有する
- 失注しがちなパターンの対策をルール化する
- 提案書のひな形を整備する
こうした地道な「標準化」を進めることで、新人が入ってきても迷わずに行動できるようになります。 「仕組み」があると聞くと、マニュアル通りのロボットのような営業になるのでは?と懸念される方もいますが、逆です。 基本的な「型」があるからこそ、そこに個人のアイデアや工夫を上乗せする余裕が生まれるのです。守るべきルールが明確であればあるほど、その内側で人は自由に動くことができます。
小さなPDCAが自信を生む
ここまで、見える化、1on1による育成、仕組み化についてお話ししてきましたが、これらを一気に完璧にやろうとする必要はありません。 むしろ、壮大な計画を立てて現場を混乱させるよりも、明日からできる「小さな改善」を積み重ねることの方が大切です。
「まずは、訪問件数と商談内容だけ記録してみよう」 「毎週金曜日の30分だけ、チームで『今週のグッドニュース』を共有しよう」
このように、無理なく回せる小さなサイクル(PDCA)から始めてみてください。 「自分たちで決めたことをやってみたら、少し成果が出た」という小さな成功体験の積み重ねが、チームの自信となり、「もっと良くしたい」という自発的なエネルギーを生み出します。
最後に:社長がいなくても回る組織を目指して
「営業が自ら考え、行動する組織」 それは決して夢物語ではありません。正しい手順と、ちょっとした視点の転換があれば、どんなチームでも実現可能です。
- 感覚ではなく、客観的なデータ(事実)に基づいているか。
- 個人の資質に頼らず、勝てる仕組みがあるか。
- 部下の「やりたい」を引き出す対話ができているか。
これらが噛み合ったとき、貴社の営業組織は、社長やマネージャーが細かく指示を出さなくても、メンバー一人一人が生き生きと働き、目標に向かって走り続ける「強いチーム」へと生まれ変わります。
働く人が自分の仕事に誇りを持ち、ベストパフォーマンスを発揮できる環境を作ることは、結果として企業の持続的な成長、そして利益の最大化につながります。
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