企業の持続的な成長において、「営業力」が重要であることに異論を唱える経営者の方はいらっしゃらないでしょう。そして、その営業力を高めるために、多くの企業が「営業研修」に時間とコストを投じています。
「最新の営業理論を学ばせたい」「交渉力を強化したい」「若手の底上げを図りたい」
目的は様々ですが、高額な費用をかけて外部の研修を導入したり、社内で育成プログラムを組んだりといった努力を重ねておられます。
しかし、その研修は本当に「成果」に繋がっているでしょうか?
- 研修の直後は参加者の意欲が高まっていたが、1ヶ月もすれば元通りになっている。
- 「勉強になりました」という感想は聞くが、実際の営業数値に変化が見られない。
- 研修で学んだはずの新しい手法が、現場の営業活動で使われている気配がない。
もし、このような状況に心当たりがあるとしたら、それは研修の内容が悪いのではなく、研修を「成果」に結びつけるための「設計」そのものに問題があるのかもしれません。
本日は、多額の投資をしても成果に繋がらない「意味のない営業研修」に共通する5つの落とし穴と、そこから脱却するための考え方について解説します。
1. 研修が「単発イベント」で終わっている
最も多く見られるのが、研修を「やりっぱなし」にしてしまうケースです。
有名な講師を呼んで研修を実施し、参加者アンケートで「満足度95%」という結果が出ると、人事部や経営企画部は「良い研修を実施した」と満足してしまいがちです。
しかし、研修は「実施すること」が目的ではありません。「現場の行動が変わり、成果が上がること」が目的のはずです。
人の記憶は曖昧なもので、研修で学んだことの多くは、翌日には大半が忘れられてしまいます。学んだ知識を「使える技術」として定着させるには、研修後の継続的な「実践」と「振り返り」の場が不可欠です。
研修という「点」で満足するのではなく、研修前後のプロセスを含めた「線」で育成を設計しなければ、それは一時的な刺激を与えるだけの「イベント」で終わってしまいます。
2. 「あるべき論」と「現場の実態」がかけ離れている
外部の研修プログラムをそのまま導入した際によく起こる問題です。その研修で語られる「理想的な営業プロセス」や「最新の営業理論」が、自社の扱っている商材、顧客層、あるいは現在の営業メンバーのレベル感と、大きくかけ離れていることがあります。
研修内容が高度すぎたり、逆に基礎的すぎたり。あるいは、自社の営業スタイルとは根本的に異なるアプローチ(例:徹底した電話営業 vs. 関係性構築型の営業)であったり。
現場の営業担当者から「あの理論は、ウチの業界じゃ通用しない」「そんなやり方、今のお客様にはできない」という本音が漏れだした時点で、研修の効果は期待できません。
重要なのは、外部の「一般的な正解」を学ぶことではなく、自社の営業活動における「今、解決すべき課題」に焦点を当てた内容になっているかどうかです。
3. 「全員一律」の画一的な内容を押し付けている
営業組織には、入社2年目の若手もいれば、15年選手のベテランもいます。新規開拓が得意な人もいれば、既存顧客との関係を深めるのが得意な人もいます。
にもかかわらず、「営業部員」とひと括りにして、全員に同じ内容の研修を受けさせてはいないでしょうか。
若手にとっては内容が難しすぎて消化不良を起こし、ベテランにとっては「そんなことは知っている」と退屈な時間になってしまいます。これでは、個々の強みを伸ばすどころか、組織全体の学習意欲を削ぐ結果になりかねません。
もちろん、組織としての「共通言語」や「基本動作」を揃えるための基礎研修は必要です。しかし、一定のレベルを超えた育成においては、一人ひとりの現状の課題や、持っている個性・強みに合わせたアプローチを考えなければ、真の成長には繋がりません。
4. 現場の「管理職」が育成プロセスに関与していない
研修の成果を左右する最大の要因は、実は研修の内容そのものよりも、「現場の上司(マネージャー)」の関わり方にあります。
研修を部下に受けさせても、現場に戻った部下に対し、マネージャーが研修で学んだ内容と全く異なる指示を出したり、古いやり方を強要したりしていては、部下は何を信じてよいか分からなくなります。
「研修は研修、仕事は仕事」と切り離されてしまうのです。
本来、マネージャーは研修で学んだことを部下が現場で実践できているかを見守り、「この前の研修で学んだこと、あの顧客で試してみたか?」「やってみてどうだった?」と声をかけ、実践を後押しする「コーチ」の役割を担うべきです。
しかし、多くの現場では、マネージャー自身がプレイングマネージャーとして自分の数字に追われ、部下の育成にまで手が回っていないか、あるいは、そもそも「人を育てる具体的な方法」を知らないケースが散見されます。
育成の責任を研修会社や人事に丸投げし、現場の管理職が「傍観者」になっている組織では、研修の成果は定着しません。
5. 「手法(テクニック)」の習得だけを目的としている
「テレアポのトークスクリプト」「反論への切り返しトーク集」「クロージングの必殺技」
こうした「手法(テクニック)」を学ぶ研修は、即効性があるように見えます。しかし、本質的な課題解決から目をそらしている可能性もあります。
なぜなら、小手先のテクニックは、顧客や市場の変化によってすぐに通用しなくなるからです。また、テクニックに頼りすぎると、顧客の真のニーズを深掘りすることや、自分で考えて工夫することを放棄してしまう「思考停止」状態に陥る危険性があります。
本当に必要なのは、表面的なテクニックを覚えることよりも、「なぜ、この顧客はこの課題を抱えているのか?」「どうすれば、自社の商品で貢献できるのか?」を自ら考え抜き、行動を設計できる力です。
テクニック偏重の研修は、「自分で考える力」を育てず、かえって営業担当者の主体性や仕事の面白み(=成長実感や貢献実感)を奪ってしまうことにも繋がりかねません。
研修を「成果」に繋げるために必要な視点
では、どうすれば研修を「意味のある投資」に変えることができるのでしょうか。それは、研修を「単発の施策」としてではなく、「営業組織を継続的に成長させる仕組み」の一部として位置づけることです。
1. 育成の土台は「現状の見える化」
まず必要なのは、「今、自社の営業組織の何が課題なのか」を客観的に把握することです。
- 営業プロセス(訪問から受注まで)の、どこにボトルネックがあるのか?
- 成果を出している人と、出していない人の行動には、具体的にどんな違いがあるのか?
- マネージャーは、部下の育成のために具体的に何をしているか?
- メンバーは、何にやりがいを感じ、何に悩んでいるのか?
こうした「現状」を正確に把握しないまま研修を実施しても、的が外れた施策になるだけです。まずは組織の「健康診断」を行い、どこに・どんな「育成(研修)」が必要なのかを明確にすることが第一歩です。
2. マネージャーによる「1on1(面談)」を機能させる
研修で学んだことを現場で定着させる「鍵」は、前述の通りマネージャーが握っています。そして、そのための最も有効な手段が、定期的な「1on1ミーティング(面談)」です。
ただし、これは単なる「進捗確認会議」ではありません。
「研修で学んだことを、今週はどの場面で試してみるか?」 「実際に試してみて、何が上手くいき、何が難しかったか?」 「次はどう工夫すれば、もっと良くなると思うか?」
このように、**研修での学びと日々の行動を結びつけ、部下自身に「振り返り」を促し、次の行動を具体化させる「コーチングの場」**として1on1を機能させることが重要です。
部下は「見てもらえている」という安心感(貢献実感)と、小さな成功体験の積み重ね(成長実感)を得ることができ、これが主体的な行動に繋がっていきます。
3. 「仕組み」と「育成」を連動させる
研修で「顧客情報を詳細にヒアリングしよう」と教えても、現場の報告フォーマット(SFAや日報)がそれに合わせて設計されていなければ、行動は定着しません。
研修で「新しい営業プロセス」を学んだなら、そのプロセスを組織の「標準的な型」として定義し、誰もがアクセスできるようにする必要があります。
「育成(研修)」と「組織の仕組み(ルールやツール)」が連動して初めて、個人の学びは組織の力に変わります。 研修でインプットしたことを、日々の業務の中で自然にアウトプットできるような「仕組み」を整えることが、経営者や営業責任者の役割です。
終わりに
「営業研修を実施しているのに、成果が出ない」
その背景にあるのは、研修内容の良し悪し以前に、「個人の頑張り」に依存したままの営業体制や、「人を育てる機能」が欠如した組織構造そのものの問題であるケースが非常に多いのです。
研修という「点」の施策に投資し続けることに疑問を感じておられるならば、一度立ち止まり、自社の「営業の仕組み」や「マネージャーの育成機能」といった、より根本的な土台を見直す時期に来ているのかもしれません。
営業担当者一人ひとりが、やらされ感ではなく、自ら考えて行動し、成長を実感しながら働ける。そんな「自走する営業組織」を築くことこそが、研修投資を最大化し、持続的な成長を実現する唯一の道です。
もし、貴社が「研修はしているが成果が出ない」「管理職が部下を育てられず困っている」「営業組織の仕組みを根本から見直したい」といった課題をお持ちでしたら、まずは一度、情報交換の場としてお話をお聞かせいただけませんでしょうか。
