営業マネージャーは「何をする人」か? 成果を出し続けるチームを作るための2つの役割

「営業目標がなかなか達成できない」 「新人が育たず、いつも中堅社員とベテラン頼みだ」 「エース営業マンはいるが、その人の成果にチーム全体の数字が左右されてしまう」

こうしたお悩みを抱える経営者や営業責任者の方は少なくないでしょう。 多くの企業が、この問題を解決するために「営業メンバーのスキルアップ」や「新しい営業ツールの導入」に目を向けがちです。しかし、本当に見直すべきは、チームの「要」である営業マネージャーの「役割」そのものかもしれません。

特に、優秀な営業パーソンがマネージャーに昇進したケースで、陥りやすい罠があります。 それは、マネージャー自身が「最強のプレイングマネージャー」として、自らの営業活動でチームの目標達成の不足分を補おうとすることです。

一見、チームに貢献しているように見えますが、これは深刻な問題を引き起こします。マネージャーが「プレイヤー」としての仕事に追われれば追われるほど、部下は育ちません。難しい案件はマネージャーが処理し、部下は指示を待つだけ。結果として、マネージャーの個人的な能力がチームの成果の上限となり、組織としての成長は止まってしまいます。

では、営業組織を強くし、成果を出し続けるチームを作るために、マネージャーは本来、どのような存在であり、何をすべきなのでしょうか。

本日は、多くの企業が見落としがちな、「営業マネージャーが果たすべき本来の役割」について、深掘りしてみたいと思います。

マネージャーの仕事は「自分が成果を出す」ことではない

まず、根本的な認識を合わせる必要があります。 マネージャーの仕事は、「自分がプレイヤーとして成果を出すこと」ではありません。 マネージャーの仕事は、「チームのメンバーが、自ら成果を出せるようにすること」であり、「チームとして継続的に成果を出し続けられる環境を作ること」です。

この定義に基づくと、マネージャーが注力すべき仕事は、大きく2つに集約されます。 それは「仕組みづくり」「人づくり」です。

1. マネージャーの役割①:環境整備と「仕組みづくり」

「仕組みづくり」と聞くと、大掛かりなシステム導入を想像されるかもしれませんが、そうではありません。ここで言う仕組みとは、「個人の感覚や頑張りに頼らず、チームとして安定した成果を出すためのルールや共通認識」のことです。

営業活動を「見える化」する

多くの営業組織では、「なぜ売れたのか」「なぜ失注したのか」が曖昧なままです。 「あの顧客は相性が良かった」「最近、景気が悪いから」といった感覚的な理由で片付けられ、成功も失敗も、次につながる学びになっていません。

マネージャーの重要な仕事は、このブラックボックスをなくすことです。

  • プロセスの見える化: お客様との出会いから受注に至るまでの営業プロセスを、チーム全体で明確に分けて管理しているでしょうか。「アポイント」「初回訪問」「ヒアリング」「提案」「クロージング」など、各段階で「何をすべきか」「次の段階に進むための条件は何か」を明確にします。 これにより、チームの誰が、今どの段階でつまずいているのかが客観的にわかります。
  • 行動の見える化: 成果を上げているメンバーと、そうでないメンバーの「行動の違い」を明らかにします。例えば、成果を出す人は、初回訪問で必ず特定の質問をしているかもしれません。あるいは、提案書の前に必ず議事録を送付し、認識のズレをなくしているかもしれません。 こうした「成果につながる行動」を見つけ出し、チームの標準的な動きとして共有するのも、マネージャーの仕事です。

「個人の才能」に依存するのではなく、こうした「勝つための型」を整備し、チームの誰もが一定水準のパフォーマンスを発揮できる環境を整えること。これが一つ目の役割です。

2. マネージャーの役割②:部下の成長を促す「人づくり」

どれほど優れた仕組みを作っても、それを動かすのは「人」です。 そして、人は機械ではありません。一人ひとり個性も違えば、得意・不得意、やる気の源泉も異なります。

マネージャーの二つ目の役割は、この「人」に向き合い、その可能性を最大限に引き出すことです。

「ティーチング」から「コーチング」へ

よくある間違いは、マネージャーが自分の成功体験だけを部下に押し付ける「ティーチング(指導)」に終始してしまうことです。 「俺が若い頃はこうやったんだ」「いいから、この通りにやれ」 これでは、部下は思考を停止し、指示待ち人間になってしまいます。

マネージャーに求められるのは、部下が「自ら考え、行動する力」を育む「コーチング(支援)」的な関わりです。

「1on1ミーティング」は「進捗確認会議」ではない

そのために有効なのが、定期的な「1on1ミーティング」です。 しかし、多くの現場で、この1on1が「今月の数字、どうなってるんだ?」という単なる「進捗確認」や「詰めの場」になってしまっています。

本来1on1は、部下の「振り返り」を支援する場であるべきです。

マネージャーが問いかけるべきは、結果(数字)そのものではなく、その結果に至ったプロセスと思考です。

  • 「今週の活動で、一番うまくいったことは何ですか? それはなぜだと思いますか?」
  • 「逆に、うまくいかなかったと感じる点はどこですか?」
  • 「その課題を乗り越えるために、どんな工夫ができそうだと思いますか?」
  • 「来週、新しく試してみたいことはありますか?」

こうした対話を通じて、部下自身に「何が良くて、何を改善すべきか」を考えてもらうのです。 マネージャーは答えを与えるのではなく、部下が自分で答えを見つけるのを手助けします。

この「自分で考えて行動し、振り返る」という小さなサイクルを回し続けることこそが、部下の成長実感につながり、ひいては自律的に動ける人材を育てることになります。 部下が自分の成長を感じ、仕事に楽しさを見出せば、パフォーマンスは自然と向上していきます。

まとめ:「管理する人」から「支援する人」へ

営業マネージャーは、部下を上から「管理(Control)」する存在ではありません。 部下が成果を出せるように「仕組み(System)」を整え、部下の成長を「支援(Support)」する存在です。

経営者・営業責任者の皆様に、ぜひ自社のマネージャーの姿を振り返っていただきたいと思います。

  • あなたの会社のマネージャーは、「プレイヤー」として自分の仕事に追われていませんか?
  • 部下に対して、一方的な「指示」や「詰問」ばかりをしていませんか?
  • チームの成功パターンを「見える化」し、共有する動きはありますか?
  • 部下一人ひとりの個性や考えに関心を持ち、対話を通じてその成長を支援できていますか?

もし、マネージャーが「最強のプレイヤー」であり続けているならば、その組織は短期的には良くても、いつか必ず限界を迎えます。

営業組織を盤石にし、継続的な成長を実現するためには、マネージャーが「プレイヤー」から脱却し、「仕組みづくり」と「人づくり」という本来の役割に集中できる環境を整えることが不可欠です。

マネージャーの育成や、営業組織の仕組みづくりは、一朝一夕にはいきません。自社だけで何から手をつければ良いか分からない、あるいはマネージャーをどう育てればよいか悩んでいる、という経営者の方も多いかと思います。

そうした課題意識をお持ちでしたら、一度、外部の専門家の視点も交えながら、自社の営業体制やマネジメントのあり方を整理してみるのも一つの方法かもしれません。