【10項目で診断】あなたの営業組織、「指示待ち」から「自走」へ、今どの段階?

「今月の目標達成は厳しそうだ。全員、気合を入れ直して頑張ってくれ」 「新商品の説明会はやったはずなのに、なぜ誰も提案しないんだ」 「あのエース社員が辞めてから、チームの売上が一気に落ち込んでしまった」

経営者や営業責任者の皆様であれば、一度はこのような課題に直面し、頭を抱えた経験がおありではないでしょうか。売上という結果に対して指示や檄を飛ばしても、現場はなかなか思うように動かない。新たな施策を打ち出しても、浸透せずに形骸化してしまう。特定個人の頑張りに依存した組織は、その人がいなくなればあっという間に立ち行かなくなる。

これらの問題の根底には、共通する一つの原因が潜んでいます。それは、営業組織が**「自走」**できていない、という問題です。

「自走する組織」とは、外部から細かく指示されなくても、組織のメンバー一人ひとりが自社の目標を自分事として捉え、自ら課題を見つけ、考え、行動し、周囲と協力しながら改善を続けていける状態の組織を指します。このような組織は、一部のスタープレイヤーに依存することなく、変化の激しい市場環境にも柔軟に対応し、安定的に成果を出し続けることができます。

では、貴社の営業組織の「自走レベル」は、今どの段階にあるのでしょうか。

本記事では、組織の現状を客観的に把握するための10個の診断項目をご用意しました。ぜひ、自社の状況を思い浮かべながら、「はい」か「いいえ」で答えてみてください。一つひとつの項目が、貴社の組織が次のステージへ進むための重要なヒントとなるはずです。

営業組織の「自走レベル」診断10項目

【仕組みに関する診断項目】

1. 新人でも理解できる「営業活動の地図」はありますか? 営業担当者がお客様と出会い、関係を築き、契約に至るまでの一連の流れについて、その全体像と各段階で「誰が」「何を」「どのように」行うべきかが明確に示されているでしょうか。ベテラン社員の頭の中にしかない暗黙のルールではなく、新しく加わったメンバーでも理解できるような、客観的なプロセスとして共有されていますか。

「はい」の場合、貴社には営業活動の土台となる共通認識が存在します。これにより、メンバーは自分が今どの地点にいて、次に何をすべきかを迷わず判断でき、組織として一貫した動きが取りやすくなります。

「いいえ」の場合、営業活動が個人の感覚や経験に委ねられている状態です。これでは、人によってやり方がバラバラになり、非効率な動きが生まれたり、トラブルが発生したりする原因となります。また、新人の立ち上がりにも時間がかかってしまうでしょう。

2. 営業会議は「未来志向の作戦会議」になっていますか? 週次や月次で行われる営業会議は、どのような場になっているでしょうか。単に「売上目標に対して、現在の進捗はこれだけです」という数字の報告会で終わっていませんか。重要なのは、その数字に至った背景、「なぜ上手くいったのか」「なぜ目標に届かなかったのか」という原因を掘り下げ、そこから得られた学びを基に「では、次はどうするか」という具体的な行動計画を話し合うことです。

「はい」の場合、会議がチームの学習と成長を促進する貴重な機会となっています。成功も失敗も組織全体の資産として捉え、未来の成果に繋げる文化が育ちつつあります。

「いいえ」の場合、会議の時間が形骸化している可能性があります。メンバーは報告義務を果たすだけの受け身の姿勢になり、前向きな改善活動が生まれにくくなります。

3. 顧客や商談の情報は「組織の資産」として蓄積されていますか? お客様とのやり取りの履歴や商談の進捗状況、失注した理由といった重要な情報が、特定の営業担当者のパソコンや手帳の中にだけ眠っていませんか。担当者が不在の時に他の誰も状況を把握できない、あるいは担当者が退職した際に貴重な情報が失われてしまう、といったことはないでしょうか。

「はい」の場合、組織として情報を一元管理し、活用する基盤が整っています。これにより、担当者が変わってもお客様に迷惑をかけることなくスムーズな引き継ぎができ、過去の事例から学ぶことで組織全体の営業力を高めることができます。

「いいえ」の場合、営業活動が深刻な「属人化」に陥っています。これは、組織にとって非常に大きなリスクです。情報共有の仕組みを整えることは、安定した組織運営の第一歩です。

4. 個人の成功体験をチームで共有し、試せる仕組みはありますか? 成果を上げている営業担当者の「勝ちパターン」を、その人だけの特殊なスキルとして終わらせていませんか。例えば、効果的だった提案資料やお客様の心を掴んだトークスクリプトなどを、チーム全体で共有し、他のメンバーも試せるような仕組みはありますか。

「はい」の場合、組織全体で学習し、成長するサイクルが生まれています。一人の成功がチーム全体の成功へと波及し、組織のレベルが底上げされていきます。

「いいえ」の場合、せっかくの成功事例が活かされず、非常にもったいない状態です。他のメンバーは我流で試行錯誤を続けることになり、組織全体の成長スピードが鈍化してしまいます。

【人材育成に関する診断項目】

5. マネージャーは「ティーチング」と「コーチング」を使い分けられていますか? 営業マネージャーの役割は、ただ指示を出し、メンバーを管理することだけではありません。時には手本を見せて教える「ティーチング」も必要ですが、それ以上に、メンバーに質問を投げかけ、考えさせ、自ら答えを導き出す手助けをする「コーチング」的な関わりが重要になります。マネージャーは、メンバーの育成にどれくらいの時間を割けているでしょうか。

「はい」の場合、マネージャーがメンバーの主体性と考える力を引き出す役割を担っており、次世代のリーダー育成にも繋がっています。

「いいえ」の場合、メンバーが指示待ちの状態に陥りやすくなります。マネージャーがプレイング業務に追われ、メンバー一人ひとりと向き合う時間が不足しているのかもしれません。

6. メンバー一人ひとりの強みや課題を客観的に把握していますか? 「Aさんは粘り強い」「Bさんはコミュニケーション能力が高い」といった感覚的な評価だけでなく、各メンバーの営業スキルや行動特性、モチベーションの状態などを、客観的な事実やデータに基づいて把握できているでしょうか。そして、その特性を活かせるような役割分担や指導ができているでしょうか。

「はい」の場合、適材適所が実現しやすく、メンバーは自分の強みを活かして気持ちよく働くことができます。その結果、個人のパフォーマンスが最大化され、組織全体の成果に繋がります。

「いいえ」の場合、メンバーの可能性を見過ごしてしまっているかもしれません。苦手なことを無理に矯正しようとして本人のモチベーションを下げてしまったり、本来の力を発揮できない役割を与えてしまったりするリスクがあります。

7. 定期的に1対1で対話し、成長とキャリアを支援する場がありますか? 日々の業務報告とは別に、マネージャーとメンバーが1対1でじっくりと話す機会(1on1ミーティングなど)を定期的に設けているでしょうか。そこでは、短期的な業績の話だけでなく、中長期的なキャリアプランや仕事を通じて実現したいこと、現在の悩みなどについて対話し、本人の成長を支援する働きかけができていますか。

「はい」の場合、メンバーは会社が自分の成長を気にかけてくれていると感じ、エンゲージメントが高まります。課題の早期発見や離職防止にも繋がり、信頼関係に基づいた強い組織が育まれます。

「いいえ」の場合、メンバーは「自分は駒の一つに過ぎない」と感じ、働く意欲を失ってしまう可能性があります。日々の業務に追われ、自分の将来像を描けずにいるかもしれません。

【文化・風土に関する診断項目】

8. 失敗を恐れずに挑戦できる心理的な安全性はありますか? 新しい営業手法やアプローチを試した結果、上手くいかなかった場合、そのメンバーはチーム内で非難されるでしょうか。それとも、「なぜ失敗したのか」を冷静に分析し、「良い挑戦だった。次はこうしてみよう」と前向きに捉える文化があるでしょうか。メンバーが萎縮することなく、安心して挑戦できる雰囲気は、組織の成長に欠かせません。

「はい」の場合、組織に革新が生まれやすくなります。メンバーは失敗を恐れずに行動できるため、試行錯誤の中から新たな成功パターンが生まれる可能性が高まります。

「いいえ」の場合、メンバーは「余計なことをして怒られるくらいなら、言われたことだけやっていればいい」という思考に陥ります。組織は現状維持に甘んじ、変化に対応できなくなってしまうでしょう。

9. 会社の目標と個人の業務がどう繋がっているか、メンバーは理解していますか? 経営者が掲げる会社のビジョンや全社的な売上目標が、現場の営業メンバーの日々の活動とどのように結びついているか、メンバー自身が自分の言葉で説明できるでしょうか。「なぜこの目標を追いかけるのか」「自分の仕事が会社の成長にどう貢献しているのか」を理解しているかどうかは、仕事への意欲に大きく影響します。

「はい」の場合、メンバーは自分の仕事に意義を見出し、高いモチベーションで業務に取り組むことができます。やらされ感ではなく、当事者意識を持って目標達成に向かうことができます。

「いいえ」の場合、メンバーはただ目の前の数字をこなすだけの作業になりがちです。目標が自分事として捉えられず、困難な状況に直面した際に踏ん張りが効かなくなります。

10. 成果だけでなく、そこに至るプロセスも評価する仕組みがありますか? 最終的な契約件数や売上金額といった「結果」だけで評価が決まっていませんか。たとえ結果に結びつかなくても、地道な顧客との関係構築や、チームに貢献する情報共有、新しいアプローチへの挑戦といった「プロセス」の部分もきちんと見て、評価やフィードバックを行う仕組みがありますか。

「はい」の場合、メンバーは短期的な成果だけを追うのではなく、長期的な視点で正しい努力を続けることができます。結果が出ない時でも正当に評価される安心感が、挑戦する文化を支えます。

「いいえ」の場合、営業担当者はどうしても目先の契約を追いかける近視眼的な行動に走りがちです。無理な値引きや、後々のトラブルに繋がりかねない安易な約束をしてしまうリスクも高まります。


診断結果と、自走する組織への道筋

さて、10個の質問のうち、「はい」はいくつあったでしょうか。 この結果から、貴社の営業組織の「自走レベル」を大まかに把握することができます。

はいが0~3個:【レベル1】属人的・指示待ち組織 この段階では、組織としての仕組みがほとんど機能しておらず、営業活動の大部分を個人の能力や頑張りに依存している状態です。エース社員がいなくなれば業績が大きく傾くなど、常に不安定な状況にあります。メンバーは指示がないと動けず、マネージャーは日々の管理業務と自身のプレイング業務に忙殺されている可能性が高いでしょう。 まずは、**営業活動の「見える化」**から始めることが急務です。誰が何をしているのか、何が成果に繋がっているのかを客観的に把握し、組織としての共通言語を持つことからスタートしましょう。

はいが4~6個:【レベル2】部分的な仕組み化組織 組織化への意識はあり、一部では仕組みづくりや人材育成の取り組みが始まっている段階です。しかし、その取り組みがまだ組織全体には浸透しておらず、特定のチームや部署、一部の意欲的なマネージャーの努力に留まっている状態かもしれません。成功事例の共有や、良い取り組みの横展開が今後の課題となります。 この段階では、「振り返り」の文化を定着させることが重要です。成功や失敗の要因をデータや事実に基づいて分析し、そこから得た学びを組織全体で共有するサイクルを意識的に回していくことで、改善の動きが加速します。

はいが7~9個:【レベル3】仕組み化推進組織 組織全体で「自走する組織」を目指すという方向性が明確になり、多くの仕組みが導入・運用されている段階です。メンバーも自ら考え行動しようという意識が高まっています。しかし、まだ仕組みを「回す」ことにエネルギーが必要で、完全に定着しているとは言えない部分もあるかもしれません。 このステージでは、**「仕組みを動かす人材の育成」**にさらに注力することが求められます。特に、メンバーの主体性を引き出し、成長を支援するマネージャーの育成が、組織がもう一段階進化するためのポイントとなります。定期的な1on1などを通じて、メンバー一人ひとりの成長と向き合う時間を確保することが有効です。

はいが10個:【レベル4】自走する組織 貴社は、メンバー一人ひとりが自律的に行動し、組織全体で学習と改善を続けられる、非常にレベルの高い組織を築かれています。市場や顧客の変化にも柔軟に対応し、持続的な成長が期待できる状態です。現状に満足することなく、この素晴らしい文化を維持し、さらに発展させていくことが次のテーマとなるでしょう。

おわりに

今回の診断を通じて、貴社の営業組織の現在地と、これから取り組むべき課題が少しでも明確になりましたら幸いです。

「自走する組織」への道のりは、決して平坦なものではありません。特効薬や魔法の杖はなく、一つひとつの課題と向き合い、地道な改善を粘り強く続けていくことが求められます。しかし、その先には、経営者であるあなたが常に現場に張り付いていなくても、社員一人ひとりが生き生きと働き、自ら考え、組織を成長させてくれるという、盤石な経営基盤が待っています。

その変革のスタートは、まず自社の現状を正しく認識することから始まります。

もし、今回の診断結果を踏まえ、「自社の課題の根本原因がどこにあるのか、より詳しく知りたい」「何から手をつければ最も効果的なのか、客観的なアドバイスが欲しい」と感じていらっしゃるのであれば、一度、外部の専門家の視点を取り入れてみることも有効な選択肢の一つです。