「なんとなく」のマネジメントを卒業。最強のチームを作る「マネージャーの見える化」

はじめに:なぜ、貴社の営業チームは本来の力を発揮しきれていないのか

「最近、営業チームに活気がない」「期待している若手がなかなか育たない」「マネージャーによってチームの成果に大きな差がある」 経営者の皆様から、このようなお悩みを伺うことは少なくありません。優秀な人材を採用し、手厚い研修も行い、最新の営業ツールも導入している。それにもかかわらず、なぜかチーム全体のパフォーマンスが上がらない。その原因は、一体どこにあるのでしょうか。

多くの企業で、その根源的な問題は「マネジメントの曖昧さ」にあります。特に、経営と現場の結節点である営業マネージャーの活動が、客観的な評価や分析の難しい「ブラックボックス」になってしまっているケースが非常に多く見られます。

「あのマネージャーは人望があるから」「彼はトップ営業だったから任せておけば大丈夫だろう」といった、過去の実績や印象に基づいた「なんとなく」の信頼。あるいは、「とにかく目標を達成しろ」という結果のみを求める「なんとなく」の指示。こうした曖昧なマネジメントが、知らず知らずのうちにチームの成長を阻害し、貴重な人材の可能性を潰してしまっているのかもしれません。

本稿では、こうした「なんとなく」のマネジメントから脱却し、データに基づいた論理的なアプローチで最強の営業チームを構築するための考え方、「マネージャーの見える化」について解説します。これは、一部の特別な才能を持つ管理職に依存するのではなく、組織全体でマネージャーを育成し、チームの成果を安定的に最大化していくための、実践的な手法です。

第1章:多くの企業が陥る「マネジメントのブラックボックス化」という罠

企業の成長において、営業マネージャーが果たす役割は極めて重要です。彼らは、経営が定めた戦略を現場の戦術に落とし込み、チームを率いて目標達成へと導く司令塔の役割を担います。しかし、その重要性とは裏腹に、多くの企業でマネージャーの評価や育成は、個人の資質や感覚に大きく依存してしまっているのが実情です。

なぜ、マネジメントはブラックボックス化しやすいのか?

その理由は主に3つ考えられます。

1. 評価基準の曖昧さ 多くの企業では、マネージャーの評価は「チームの目標達成率」という結果指標に偏りがちです。もちろん結果は重要ですが、その結果に至るまでのプロセス、つまり「どのようにチームを動かし、目標を達成したのか」というマネジメント行動そのものが評価される機会は多くありません。そのため、短期的な成果を上げるために部下に過度なプレッシャーをかけるマネージャーや、自身のプレイヤーとしての能力で強引に目標を達成するマネージャーが評価され、長期的なチームの成長が犠牲になるという事態が起こり得ます。

2. プレーヤーからマネージャーへの移行の難しさ 優秀な営業担当者が、その実績を買われてマネージャーに昇進するケースは一般的です。しかし、個人の目標を追求する「プレーヤー」として必要なスキルと、チームのメンバーを動かして組織としての成果を最大化する「マネージャー」として必要なスキルは全く異なります。多くの場合、十分なトレーニングやサポートがないまま管理職の立場に置かれるため、過去の成功体験に基づいた自己流のマネジメントに頼らざるを得なくなります。その結果、部下に対して自分がプレーヤーだった頃と同じレベルを求めたり、効果的な指導ができずに「背中を見て学べ」というスタイルに陥ったりしてしまいます。

3. マネージャー自身の孤独とプレッシャー マネージャーは、経営陣からの目標達成へのプレッシャーと、現場の部下からの様々な要望との板挟みになりやすい、孤独なポジションです。自身のマネジメント手法に迷いや不安を感じていても、それを誰かに相談する機会は多くありません。「弱音を吐けない」「部下には格好悪いところを見せられない」という思いから、一人で課題を抱え込み、客観的な視点を失ってしまうのです。

このような状況が続くと、マネジメントは完全に個人の経験と勘に依存するようになり、組織としてノウハウを蓄積したり、再現性のある形で他のマネージャーに共有したりすることができなくなります。これが「マネジメントのブラックボックス化」の正体であり、組織の成長を阻む大きな壁となるのです。

第2章:「マネージャーの見える化」で、何を明らかにするのか

「マネジメントのブラックボックス化」を解消し、組織として管理職を育成していくための第一歩が、「マネージャーの見える化」です。これは、マネージャー個人の能力や状態を、客観的な視点で多角的に把握し、分析することを指します。単に「良い」「悪い」のレッテルを貼るためのものではなく、強みをさらに伸ばし、課題を克服するための具体的な方策を見出すために行います。

具体的には、以下の3つの側面からマネージャーを「見える化」していきます。

1. マネジメント能力の客観的把握:強みと改善点の明確化 まずは、マネージャーが保有するスキルを客観的に評価します。これは、単に営業に関する知識や経験だけを指すのではありません。具体的には、以下のようなスキルが挙げられます。

  • 目標設定・計画立案能力: チームの目標を、個々のメンバーが納得し、実行可能なレベルの行動計画にまで分解できるか。
  • 進捗管理・課題発見能力: 計画通りに進んでいるかを定期的に確認し、問題が発生した際にその根本原因を特定できるか。
  • 指導・育成能力: メンバー一人ひとりの特性を理解し、適切なフィードバックやアドバイスを通じて成長を促せるか。
  • 動機付け・コミュニケーション能力: チームの士気を高め、メンバーが主体的に動きたくなるような環境を作れるか。

これらの能力を客観的に把握することで、「Aマネージャーは計画立案は得意だが、部下との対話に課題がある」「Bマネージャーはチームの雰囲気作りは上手だが、数字に基づいた管理が苦手だ」といった、個々の強みと改善点が具体的に見えてきます。

2. マネジメントスタイルの理解:最適な関わり方の発見 マネジメントに唯一絶対の正解はありません。メンバーを細かく管理し、具体的な指示を与えるスタイル(マイクロマネジメント)が有効な場面もあれば、メンバーを信頼して大きな裁量を与えるスタイル(権限委譲)が有効な場面もあります。

「見える化」を通じて、それぞれのマネージャーがどのような価値観を持ち、どのようなスタイルでチームを運営しているのかを理解します。そして、そのスタイルが、チームの成熟度(新人中心か、ベテラン中心かなど)や、担当している業務の特性、さらにはメンバー一人ひとりの個性と適合しているかを検証します。スタイルそのものに優劣はありません。重要なのは、状況に応じた最適な関わり方を選択できているか、という点です。

3. マネージャー自身のコンディションの把握:心身の健全性の確認 前述の通り、マネージャーは強いプレッシャーに晒されています。彼らのパフォーマンスは、その時々の心身のコンディションに大きく左右されます。業務に対するモチベーションは高いか、過度なストレスを抱え込んでいないか、燃え尽き症候群のような状態に陥っていないか。

定期的にマネージャー自身の状態を把握し、必要なケアを提供することは、組織の重要な責任です。最高のパフォーマンスは、心身の健全性という土台があってこそ発揮されるものです。マネージャーが安心して自身の役割に集中できる環境を整えることは、巡り巡ってチーム全体の利益に繋がります。

第3章:「見える化」から始める、最強のチームを作るための具体的なアクション

「マネージャーの見える化」によって客観的な事実が明らかになったら、次はいよいよ、それを具体的な改善アクションに繋げていく段階です。見える化は、あくまでスタート地点に過ぎません。そこから得られた情報を基に、組織とマネージャー自身が共に成長していくための取り組みが不可欠です。

1. 経営者・人事部が主導すべきこと:個に合わせた育成環境の構築

  • データに基づいた対話(1on1)の実施 経営者や人事担当者がマネージャーと定期的に行う1on1ミーティングの質を向上させましょう。これまでの「最近どうだ?」といった曖昧な会話ではなく、「見える化」によって得られた客観的なデータを基に対話を行います。「あなたの計画立案能力は素晴らしい評価が出ている。この強みを他のマネージャーにも共有できないか」「一方で、メンバーへのフィードバックに改善の余地がありそうだ。具体的にどのような場面で難しさを感じるか」といったように、具体的な事実に基づいて話すことで、マネージャーは自身の状況を客観的に受け入れやすくなり、前向きな改善意欲を引き出すことができます。
  • 画一的ではない、個別最適な育成プランの提供 全てのマネージャーに同じ内容の管理職研修を受けさせるだけでは、効果は限定的です。見える化された個々の課題に合わせて、「課題発見力を高めるための研修」や「コーチングスキルを学ぶワークショップ」など、必要な支援を個別に提供することが重要です。これにより、育成の費用対効果を最大化することができます。
  • マネージャー同士の学びの場の創出 同じ立場で悩みを抱えるマネージャー同士が、自社の成功事例や失敗談を共有し、学び合う場を設けましょう。他のマネージャーの取り組みを知ることで、自身のマネジメントの引き出しが増えるだけでなく、「悩んでいるのは自分だけではない」という安心感が得られ、孤独感の解消にも繋がります。

2. マネージャー自身が取り組むべきこと:自己変革と部下との関係性強化

  • 自己理解の深化と行動変容 客観的なデータによって自身の強みと課題を認識することは、自己変革の第一歩です。例えば、「自分は指示を出すのが苦手で、つい自分でやってしまう傾向がある」と分かれば、意識的に部下に仕事を任せてみる、という具体的な行動変容に繋がります。自分のマネジメントを定期的に振り返る習慣を持つことが、継続的な成長を支えます。
  • 部下一人ひとりとの対話の質の向上 マネージャー自身の状態が見える化されると、部下との関わり方も見直すきっかけになります。特に、1on1ミーティングは、部下の育成において非常に重要な機会です。これまでの進捗確認や指示伝達の場から、部下一人ひとりのキャリアプランに寄り添い、彼らが仕事を通じて何を実現したいのか(貢献実感)、どのように成長したいのか(成長実感)を引き出す対話の場へと変えていくことが求められます。マネージャーが部下の個性や価値観を深く理解しようと努める姿勢が、チームの信頼関係を育み、メンバーの主体性を引き出します。
  • 「チームで勝つ」ための役割分担 自分の苦手な部分が見えたら、それを全て一人で克服しようとする必要はありません。例えば、緻密なデータ分析が苦手なマネージャーであれば、そのスキルを持つ部下に分析を任せ、自身は分析結果を基にした戦略立案やチームの動機付けに集中するといった、チーム内での役割分担も有効です。マネージャーが完璧である必要はなく、チーム全体の力を最大限に引き出すことが最も重要な役割なのです。

まとめ:持続的に成長する組織の土台を築くために

本稿では、「なんとなく」の属人的なマネジメントから脱却し、データに基づいた客観的なアプローチで最強のチームを作るための考え方として、「マネージャーの見える化」を解説しました。

マネージャーの能力、スタイル、そしてコンディションを客観的に把握し、それに基づいた適切な育成とサポートを行うこと。それは、短期的な業績向上だけでなく、企業が長期にわたって成長し続けるための強固な土台を築くことに他なりません。

マネージャーという重要な役割を個人の資質や努力だけに依存させる時代は終わりを告げました。これからは、組織全体でマネージャーを支え、育て、その能力を最大限に引き出す仕組みを構築することが、企業の競争力を左右します。

部下が仕事に楽しみを見出し、自らの成長を実感しながら、チームの目標達成に貢献する。そのような、一人ひとりが最高のパフォーマンスを発揮できる「自走する営業組織」の実現は、決して夢物語ではありません。

もし、貴社が今、営業組織の成長に課題を感じているのであれば、まずはその要である「マネージャー」という存在に、改めて目を向けてみてはいかがでしょうか。彼らの内に秘められた可能性を「見える化」すること。それが、未来を切り拓くための、確かな一歩となるはずです。