「最近の若手は…」と嘆く前に。Z世代営業の力を引き出す、新しい組織のあり方

はじめに

「最近の若手は、どうも覇気がない」 「少し厳しいフィードバックをすると、すぐに落ち込んでしまう」 「こちらが指示したことしかやらない。もっと自発的に動いてほしいのだが…」

経営者や営業責任者の方々と意見交換をさせていただく中で、このようなお悩みを伺う機会が少なくありません。特に、デジタルネイティブであり、新しい価値観を持つとされる「Z世代」(一般的に1990年代後半から2010年代序盤生まれ)の営業社員との向き合い方に、戸惑いを感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

「我々の若い頃は、上司の背中を見て仕事を覚え、夜遅くまで顧客のために奔走したものだ。それに比べて今の若手は…」という嘆きは、多くの経営者が一度は抱いたことのある感情かもしれません。しかし、その嘆きだけで思考を止めてしまうのは、非常にもったいないことです。

彼らが「やる気がない」のではなく、私たちが彼らの「やる気の源泉」を理解できていないだけだとしたら? 私たちが当たり前だと思ってきた働き方やコミュニケーションのスタイルが、彼らのポテンシャルを最大限に引き出す上で、足かせになっているとしたら?

本稿では、「最近の若手は…」という一方的な見方を一旦脇に置き、彼らZ世代が持つ価値観の背景を紐解きながら、彼らが自発的に、そして楽しみながらパフォーマンスを発揮できる組織作りのヒントを、具体的かつ論理的に解説していきます。これは、単なる若手育成の話ではありません。変化の激しい時代を乗り越え、持続可能な営業組織を構築するための、経営戦略そのものなのです。

第1章:なぜ彼らの言動は理解しがたいのか? – Z世代の価値観を形成した4つの時代背景

彼らの行動を理解するためには、まず彼らがどのような時代を生きてきたのかを知る必要があります。根性論や精神論で片付けるのではなく、その背景にある価値観を冷静に分析することが、有効な打ち手を考える上での第一歩となります。

1. デジタルネイティブという当たり前 Z世代は、生まれた時からインターネットやスマートフォンが身近にある「デジタルネイティブ」です。情報収集、コミュニケーション、自己表現のすべてにおいて、デジタルツールを駆使することが当たり前となっています。分からないことがあれば、上司に聞く前にまず検索する。この行動は、彼らにとって極めて合理的です。また、オンラインでのオープンなコミュニケーションに慣れており、クローズドな環境や一方的な情報伝達には違和感を覚える傾向があります。

2. 経済の停滞と不安定な社会 彼らが物心ついた頃から、日本経済は「失われた20年(30年)」と呼ばれる低成長期にありました。終身雇用や年功序列といった、かつての日本的経営モデルが崩壊していく過程を目の当たりにして育っています。企業に尽くせば将来が安泰だとは、もはや誰も信じていません。だからこそ、会社への帰属意識よりも、「個人の成長」や「市場価値」を重視する傾向が強くなるのです。この会社で働き続けることで、自分はどんなスキルを身につけ、どう成長できるのか。それを常にシビアな視点で見定めています。

3. 多様性の尊重とSNSによる自己表現 SNSの普及は、誰もが自分の意見を発信し、多様な価値観に触れる機会を飛躍的に増加させました。画一的な「正解」はなく、人それぞれの「個性」や「自分らしさ」が尊重されるべきだという考え方が、彼らの間では標準となっています。仕事においても、会社から与えられた役割をこなすだけでなく、その中でいかに「自分らしさを表現できるか」を無意識に探しています。全員に同じやり方を強要するマネジメントは、彼らの自己表現の機会を奪い、モチベーションを著しく低下させる原因となります。

4. 目的意識と社会貢献への関心 不安定な社会情勢や環境問題などを背景に、Z世代は社会的な課題に対する関心が高いと言われています。ただ利益を追求するだけでなく、その事業が「社会に対してどのような価値を提供しているのか」「何のために存在するのか」といった、仕事の「意味」や「目的」を強く求めます。目の前の仕事が、どのような形で社会や顧客への貢献に繋がっているのか。その繋がりを実感できないと、彼らは仕事に対する意義を見出せず、やりがいを感じることができません。

これらの背景から見えてくるのは、「打たれ弱い」のではなく「納得感を重視する」。「指示待ち」なのではなく「目的を求めている」。「冷めている」のではなく「自分なりの貢献の形を探している」という、Z世代の偽らざる姿です。

第2章:その育成法、逆効果かもしれません – Z世代のモチベーションを奪う古いマネジメント

良かれと思って行っている指導や、これまで当たり前とされてきたマネジメント手法が、Z世代のやる気を削いでいるケースは少なくありません。ここでは、特に陥りがちな注意すべき育成法を3つ挙げ、なぜそれが通用しないのかを解説します。

1. 「とにかくやれ」―目的を伝えない指示命令 「今月はこのリストに100件電話しろ」「この資料、今日中に作っておいて」 このように、作業の目的や背景を説明せずに、ただ指示だけを与えるコミュニケーションは最も避けるべきです。前章で述べた通り、Z世代は仕事の「意味」や「貢献」を重視します。この電話がどのような戦略に基づいたもので、成約すれば顧客にどんな未来を提供できるのか。この資料が会議でどう使われ、会社の意思決定にどう影響するのか。その全体像が見えないままでは、単なる「作業」としか認識できず、「やらされ感」が募るばかりです。結果として、指示されたこと以上のパフォーマンスを発揮しようという意欲は湧いてきません。

2. 「背中を見て学べ」―フィードバックなき放置 かつては、上司の商談に同行させ、その技術を盗ませる「見て学べ」というスタイルが主流でした。しかし、これは育成の放棄とも言えます。Z世代は、スピーディーな成長を望み、そのための具体的なフィードバックを求めています。放置されることは、彼らにとって「期待されていない」「成長の機会を与えられていない」という不安に直結します。 また、トップセールスのやり方が必ずしも全員に当てはまるわけではありません。その人の個性や強みを無視して、成功体験だけを模倣させようとしても、再現性は低く、本人の自己肯定感を下げるだけです。大切なのは、一人ひとりの商談を具体的に振り返り、「今のトークのこの部分は、顧客の心に響いていた」「次は、この点を改善すればもっと良くなる」といった、具体的でタイムリーなフィードバックを与えることです。

3. 「気合で乗り切れ」―画一的な精神論 「目標達成は営業の使命だ。気合で乗り切れ」 「若いうちの苦労は買ってでもしろ」 こうした抽象的な精神論は、論理性を重んじるZ世代にはほとんど響きません。彼らが求めているのは、感情論ではなく、目標達成のための具体的な戦略や戦術です。なぜ目標が未達なのか、その原因はどこにあるのか(アポイントの数か、商談の質か、提案の内容か)。課題をデータに基づいて特定し、それを解決するための具体的な行動計画を共に考える。そのようなロジカルなアプローチこそが、彼らの納得感を引き出し、主体的な行動を促します。

これらの古いマネジメントは、Z世代の「貢献実感」「成長実感」「自己表現」といった、仕事を楽しむ上で重要な感覚を根本から阻害してしまうのです。

第3章:Z世代が自ら輝き出す!モチベーションを引き出す3つの環境作り

では、具体的にどのような環境やアプローチがZ世代営業のモチベーションを引き出すのでしょうか。ここでは、明日からでも実践できる3つの視点をご紹介します。これは、単なる「Z世代対策」ではなく、あらゆる社員のパフォーマンスを最大化し、持続可能な営業組織を構築するための本質的な取り組みです。

1. 「WHY」から始める対話 ― “貢献実感”を育む すべての業務指示において、「WHY(なぜ、これを行うのか)」から伝えることを徹底します。 例えば、新規顧客リストへのテレアポを依頼する際も、「今月、我々は新しい市場を開拓するために、このリストにある企業へアプローチする。君の最初の電話が、未来の優良顧客との出会いを生み、会社の成長の大きな一歩になるんだ」というように、その業務の「目的」と会社全体における「位置づけ」を丁寧に説明します。

さらに重要なのが、会社のビジョンやミッションと、個人の業務を結びつける対話です。これを効果的に行う場が「1on1ミーティング」です。週に一度、あるいは隔週に一度、30分程度の短い時間でも構いません。上司と部下が1対1で向き合い、進捗確認だけでなく、本人が感じている課題やキャリアについての考え、仕事を通じて何を実現したいかなどを話し合うのです。

この対話を通じて、「君のこの仕事が、お客様のこんな課題を解決し、社会にこんな価値を提供しているんだ」という繋がりを、本人が実感できるように導きます。自分の仕事が誰かの役に立っているという「貢献実感」は、何よりのモチベーションの源泉となります。

2. 成長の”見える化”と伴走 ― “成長実感”と”達成実感”を醸成する Z世代は、ゲームのようにレベルアップしていく感覚で、自身の成長を可視化したいと考えています。そこで有効なのが、営業として必要なスキルを細分化し、習熟度を段階的に評価する仕組みです。例えば、「ヒアリング力」「提案力」「クロージング力」といった大項目を、さらに具体的な行動レベルにまで分解し、現在のレベルと次のレベルに上がるための要件を明確に示します。

これにより、本人は次に何をすべきかが明確になり、漠然とした不安から解放されます。そして、上司は1on1などの場で、その成長段階に合わせた具体的なフィードバックやコーチングを行うことができます。

「先週の商談、以前は一方的に話してしまっていたけれど、今回はお客様の話を深く聞けていたね。ヒアリング力がレベルアップしている証拠だ。次は、そのヒアリング内容を基にした、より鋭い提案の練習をしてみようか」

このように、結果(受注したか否か)だけでなく、そのプロセスにおける成長を具体的に承認することが重要です。小さな成功体験を積み重ね、着実に前に進んでいるという「成長実感」、そしてそれを乗り越えたという「達成実感」が、次のより高い壁に挑戦する勇気を生み出します。

3. “個性の尊重”と”挑戦の許容” ― “自己表現”の場を創る 営業のやり方に、唯一絶対の正解はありません。論理的な説明が得意な者、顧客との関係構築に長けている者、データ分析から仮説を立てるのが得意な者など、個性は様々です。全員に同じ「勝ちパターン」を押し付けるのではなく、それぞれの強みや個性を活かした営業スタイルを、本人と一緒に見つけていく姿勢が求められます。

「君の丁寧な人柄は、お客様に安心感を与える大きな武器だ。その強みを活かして、まずはじっくり関係を築くスタイルを極めてみてはどうだろう」

このように、個性をポジティブに捉え、それをどう業務に活かすかを一緒に考えるのです。

また、新しいアプローチへの挑戦を奨励し、失敗を許容する文化も不可欠です。挑戦した結果の失敗は、本人にとっても組織にとっても貴重な学びの機会です。失敗を責めるのではなく、「なぜうまくいかなかったのか」を冷静に分析し、次の成功につなげる。こうした心理的安全性の高い環境があって初めて、社員は萎縮することなく、自分らしさを発揮しながら主体的に仕事に取り組むようになります。

そして、個々の社員が生み出した成功パターンやうまくいったトークスクリプトなどを、組織全体で共有し、誰もが活用できる仕組みを構築することも重要です。一人の成功体験を組織の資産へと転換していくことで、属人化を防ぎ、チーム全体の営業力を底上げしていくことができます。

おわりに

「最近の若手は…」という言葉は、見方を変えれば、旧来のマネジメントや組織のあり方が、もはや現代に適合していないというサインなのかもしれません。Z世代は、変化の時代の最前線に立つ、新しい価値観の体現者です。彼らの声に耳を傾け、彼らが働きがいを感じる環境を整えることは、目先の業績向上だけでなく、企業の未来を創る上で極めて重要な投資と言えるでしょう。

彼らが求める「貢献実感」「成長実感」「達成実感」「自己表現」。これらが満たされる職場環境を構築できた時、Z世代は私たちが想像する以上のパフォーマンスを発揮し、組織に新しい風を吹き込み、持続的な成長の原動力となってくれるはずです。

その第一歩は、まず彼らを理解しようと努めること。そして、一方的な指示や精神論ではなく、対話を通じて共に未来を創っていくという姿勢を持つことです。

もし、自社の営業組織の変革に何から手をつければ良いか分からない、あるいは、具体的な仕組み作りや人材育成の進め方にお困りでしたら、一度、外部の専門家の視点を取り入れてみるのも一つの有効な選択肢かもしれません。貴社の持続可能な成長に向けた一歩を、共に踏み出せれば幸いです。