プレイングマネージャーの限界「営業マネージャーが育たない」では済まされない。持続的成長を実現するには

はじめに:成長の先に現れる「見えない壁」

事業が軌道に乗り、企業が急成長を遂げるフェーズは、経営者にとって大きな喜びであると同時に、新たな課題が次々と生まれる時期でもあります。特に多くの経営者が頭を悩ませるのが、「営業組織」に関する問題です。

「創業期から会社を支えてきたトップセールスにマネジメントを任せたが、チーム全体の成果が上がらない」 「営業担当者を増やしているのに、売上が思うように伸びない」 「受注はできるものの、顧客の満足度が低く、解約が後を絶たない」 「営業担当者によって成果に大きなバラつきがあり、組織としての成長が見えない」

このような課題は、成長企業が次のステージへ進むために乗り越えなければならない「壁」と言えるでしょう。そして、この壁の正体は、多くの場合、個々の営業担当者の能力不足ではなく、**「営業組織の仕組み」**そのものに起因しています。

これまで順調に成長してきたにも関わらず、ある時点から成長が鈍化したり、組織内に不協和音が生じたりするのは、事業の拡大スピードに組織の成長が追いついていない証拠です。

本稿では、なぜ急成長企業がこうした壁に直面するのか、その構造的な問題を紐解きながら、近年、多くの成長企業が解決策として導入を進めている「外部の専門家による営業マネジメント」という選択肢について、その背景と具体的な効果を解説していきます。

第1章:多くの成長企業が陥る「営業組織」3つの罠

なぜ、営業組織は成長の足かせとなってしまうことがあるのでしょうか。そこには、成長企業が陥りやすい、構造的な3つの罠が存在します。

罠1:プレイングマネージャーの限界

多くの企業、特にベンチャーや中小企業では、最も優秀な営業担当者がマネージャーに昇進するケースが一般的です。彼らは自身の高い営業スキルでチームの売上目標を牽引しようとします。しかし、これが最初の罠です。

自身の目標達成に追われるプレイングマネージャーは、どうしても目の前の案件対応やトラブル処理に時間を奪われがちです。その結果、本来マネージャーが最も注力すべき**「部下の育成」「営業プロセスの改善」**といった、未来の成果につながる活動が後回しになってしまいます。

  • 部下の商談に同行しても、自分が主導してしまい、部下の成長機会を奪ってしまう。
  • 部下からの相談に対して、具体的なアドバイスではなく、精神論や自身の経験談で終始してしまう。
  • チーム全体の課題を分析し、戦略を立てる時間がなく、常に場当たり的な指示に追われる。

「自分がやった方が早い」という思考は、短期的には成果を生むかもしれませんが、長期的にはチーム全体の成長を阻害し、マネージャー自身の疲弊を招くだけでなく、部下の主体性やモチベーションの低下にもつながります。結果として、組織はマネージャー個人の能力に依存した、極めて脆弱な状態から抜け出せなくなってしまうのです。

罠2:育成の場当たり化と画一化

「部下を育てなければ」という意識はあっても、その方法がわからない、というマネージャーは少なくありません。多くの組織では、育成が以下のような場当たり的なものに留まっています。

  • 背中を見て学べ型: 明確な指導はなく、トップセールスである上司のやり方を模倣させるスタイル。しかし、個人の才能やキャラクターに依存したその手法は、他の誰もが再現できるものではありません。
  • 画一的な研修型: 全員に同じ内容の研修を実施するものの、個々のスキルレベルや課題に合っておらず、実務に活かされない。
  • 放置型: 日々の業務に追われ、部下一人ひとりと向き合う時間がなく、育成が事実上行われていない。

本来、営業担当者一人ひとりには、異なる個性や強みがあります。顧客との関係構築が得意な者、データ分析から仮説を立てるのが得意な者、粘り強い交渉力を持つ者。これらの個性を無視して、画一的な成功パターンを押し付けることは、彼らの持つ可能性の芽を摘んでしまうことになりかねません。

社員が仕事を通じて「成長している」という実感や、「自分の強みを活かして貢献できている」という実感を得られなければ、仕事への情熱は失われ、組織全体のパフォーマンスは低下の一途を辿るでしょう。

罠3:営業プロセスのブラックボックス化

「今月の目標達成は、Aさんの大型案件のおかげだ」 「Bさんはいつも安定して成果を出すが、なぜ彼が売れるのか誰も説明できない」

このように、営業活動の成果が特定の個人のスキルや頑張りに依存している状態は、非常に危険です。なぜなら、その担当者が退職したり、スランプに陥ったりした途端に、組織全体の売上が大きく揺らいでしまうからです。

成果の要因が分析できなければ、成功を再現することも、失敗から学ぶこともできません。

  • なぜ、この顧客は契約してくれたのか?
  • なぜ、あの商談は失注してしまったのか?
  • 受注できた案件と、できなかった案件の違いはどこにあるのか?

これらの問いに、データに基づいて明確に答えられない組織は、営業活動が「ブラックボックス化」していると言えます。これでは、効果的な改善策を打つことはできず、いつまで経っても勘と経験に頼るギャンブルのような営業から脱却できません。そして、この状態が続くと、多くの企業が目標とする「受注率30%以上」といった安定した成果を出すことは極めて困難になります。

第2章:なぜ、いま「外部の営業マネージャー」という選択肢なのか?

前述したような課題を解決するために、多くの経営者は「優秀な営業マネージャーを採用しよう」と考えます。しかし、それもまた簡単な道ではありません。

現代の営業マネジメントには、単なる売上管理能力だけでなく、データ分析、マーケティング、人材育成、組織開発など、多岐にわたる高度な専門性が求められます。このようなスキルセットを持つ優秀な人材は、当然ながら市場価値が高く、採用は困難を極めます。また、仮に採用できたとしても、自社の文化に馴染み、成果を出すまでには相応の時間とコストがかかり、ミスマッチのリスクも常に付きまといます。

内部からの昇格も同様に、「優秀なプレイヤーが、優秀なマネージャーになるとは限らない」という普遍的な課題に直面します。

そこで、近年、特に成長意欲の高い企業が注目しているのが、**「外部のプロフェッショナルに、期間限定で営業マネージャーの役割を委ねる」**という選択肢です。これは、単なるコンサルティングとは一線を画します。評論家のように外部から提言するだけでなく、組織の内部に入り込み、現場のメンバーと共に汗を流し、戦略の実行から仕組みの定着までを伴走支援するアプローチです。

なぜ、この選択肢が有効なのでしょうか。それは、外部の専門家が持つ3つの大きな価値に理由があります。

  1. 徹底した「客観性」 社内の人間関係や過去の成功体験といった”しがらみ”から自由な第三者だからこそ、組織が抱える課題の本質を曇りのない目で見抜き、客観的なデータに基づいて、最も効果的な打ち手を判断することができます。
  2. 高度な「専門性」 数多くの企業の営業組織を支援してきた経験から、成功と失敗のパターンを熟知しています。最新の営業理論やツールにも精通しており、自社だけでは到達し得なかった、科学的で再現性の高い営業の仕組みを構築することが可能です。
  3. 変革を推進する「実行力」 計画を立てるだけで終わらせません。現場のプレイヤー一人ひとりと向き合い、新しい手法を伝え、日々の活動をモニタリングしながら、組織全体に変革が根付くまで力強く牽引します。経営者と現場の橋渡し役となり、組織の変革を加速させるエンジンとなります。

第3章:「外部マネージャー」がもたらす3つの具体的な変化

では、実際に外部の営業マネージャーを導入すると、組織にはどのような変化が生まれるのでしょうか。それは、単に短期的な売上が上がるというだけではありません。持続的に成長できる「強い組織」への変革です。

変化1:感覚的な営業から、科学的な営業へ

まず最初に着手するのは、ブラックボックス化している営業活動の**「見える化」**です。商談の進捗状況、各フェーズでの成功率、失注の原因などをデータで徹底的に分析し、どこにボトルネックがあるのかを特定します。

その上で、顧客がどのようなプロセスを経て購買に至るのかを分析し、それに合わせた営業プロセスを再構築します。これにより、営業担当者は「次に何をすべきか」が明確になり、迷いなく行動できるようになります。

「なぜ売れたのか」「なぜ売れなかったのか」を全員がデータで語れるようになることで、組織全体で学習と改善のサイクルが回り始めます。感覚や経験則に頼った営業から脱却し、誰が担当しても一定の成果を期待できる、再現性の高い営業スタイルが確立されます。これは、低い受注率や高い解約率といった課題を根本から解決する上で、極めて重要な土台となります。

変化2:「消費される人材」から「育ち続ける人材」へ

優れた外部マネージャーは、魚を与えるのではなく、**「魚の釣り方」**を教え、組織にその技術が根付くことを目指します。その中心となるのが、個々の能力を最大限に引き出す育成の仕組みです.

特に重要視されるのが、定期的な1on1ミーティングです。これは、単なる進捗確認の場ではありません。個々の営業担当者が抱えている課題や悩みに耳を傾け、彼らの強みや持ち味をどのようにすればもっと活かせるかを一緒に考える、対話の時間です。

  • 「君の強みである傾聴力を、次の商談ではこう活かしてみないか?」
  • 「この前のプレゼン、データ分析の視点が素晴らしかった。その力をチームにも共有してくれないか?」

このような対話を通じて、担当者は上司から管理されるのではなく、「自分の成長を支援してもらえている」と感じるようになります。自分の強みを認識し、それを活かして顧客やチームに貢献することで得られる「貢献実感」や「成長実感」は、仕事へのエンゲージメントを飛躍的に高めます。

画一的なトップダウンの指導ではなく、一人ひとりの個性を尊重し、伸ばしていくアプローチこそが、社員が自律的に考え、行動する、強い個の集団を創り上げるのです。

変化3:「依存する組織」から「自走する組織」へ

外部の専門家がもたらす最大の価値は、彼らがいなくなった後も、組織が自らの力で成長し続けられる状態、すなわち「自走する組織」を創り上げることです。

そのために、営業プロセスの標準化や育成の仕組み化と並行して、社内の次期マネージャー候補の育成も行います。外部マネージャーが持つマネジメントスキルや問題解決のアプローチを、実践を通じてOJT形式で移管していくのです。

  • どのように課題を発見し、分析するのか。
  • どのように効果的な1on1を実施するのか。
  • どのようにチームのモチベーションを高め、目標達成に導くのか。

最終的には、外部の支援がなくとも、組織内でPDCAサイクルを回し、自ら変化し続けられる文化を醸成することを目指します。これこそが、企業にとって一過性ではない、持続可能な成長を実現するということです。

おわりに:未来への投資として

本稿では、急成長企業が直面する営業組織の課題と、その解決策として「外部の営業マネージャー」という選択肢がなぜ有効なのかを解説してきました。

企業の成長とは、単なる売上規模の拡大ではありません。その成長を支える「人」と「組織」が、変化に対応しながら進化し続けていくプロセスそのものです。営業組織の課題を放置することは、企業の未来の成長エンジンを失速させることに他なりません。

もし、貴社が今、本稿で述べたような課題に一つでも直面しているのであれば、それは組織が次のステージへ進化するべきサインなのかもしれません。

まずは自社の営業組織の現状を客観的に見つめ直し、どこに課題があるのかを整理することから始めてみてはいかがでしょうか。時には、外部の専門家の視点を取り入れることが、自社だけでは見えなかった突破口を開くきっかけになるかもしれません。

貴社の営業チームに所属する一人ひとりが、自らの仕事に誇りと喜びを感じ、その能力を最大限に発揮できる。そのような強い組織を築くことが、変化の激しい時代を勝ち抜き、持続的な成長を遂げるための、最も確かな一歩となるはずです。