【経営者様へ】「最近の若者は…」で終わらせない。価値観の変化を力に変える、新時代の営業組織の作り方

「最近の若手は、打たれ弱い」「我々の若い頃は、もっと粘りがあった」

経営者や営業責任者の皆様とお話していると、このようなお悩みを耳にすることがあります。特に、営業という厳しい成果が求められる世界では、世代間の価値観の違いが組織の課題として表面化しやすいのかもしれません。

かつての営業は、夜遅くまでの顧客訪問や、足で稼ぐといった情熱や行動量が称賛される時代でした。しかし、時代は大きく変わりました。働くことに対する価値観は多様化し、プライベートとの両立、自己成長の実感、仕事へのやりがいといった要素が、報酬と同じくらい、あるいはそれ以上に重要視されるようになっています。

この変化を、単に「最近の若者は…」と嘆くだけで終わらせてしまうのは、非常にもったいないことです。むしろ、この価値観の変化は、貴社の営業組織をより強く、よりしなやかに成長させる絶好の機会と捉えることができます。

本コラムでは、この「働く価値観の変化」という大きな潮流を乗りこなし、企業の成長エンジンとなる新時代の営業組織をいかにして構築していくか、具体的な視点と方法論を解説します。

1. なぜ、従来のマネジメントは通用しなくなったのか?

多くの企業で、営業組織が抱える根深い課題の根源を探ると、この価値観の変化への対応の遅れに行き着きます。

課題1:若手・中堅社員の早期離職 「とりあえずやってみろ」「背中を見て学べ」というOJT(On-the-Job Training)頼みの育成手法は、もはや限界を迎えています。今の若手社員は、自身の成長を実感できる環境を強く求めます。具体的な目標設定や、それに対する丁寧なフィードバック、キャリアパスの提示がなければ、「この会社にいても成長できない」と感じ、簡単に見切りをつけてしまいます。特に営業職は、成果が数字で明確に出る分、うまくいかない時期に孤独を感じやすく、適切なサポートがなければ早期離職につながりやすい傾向があります。

課題2:成果の属人化と組織力の低下 一部のトップセールスの個人的なスキルや経験、人脈に売上の大半を依存している組織は、非常に不安定です。そのエースが退職・異動してしまえば、売上は一気に落ち込みます。また、エースの成功体験が言語化・共有化されていないため、他のメンバーが学ぶ機会も失われ、組織全体の営業力が底上げされません。「あの人だから売れる」という状況は、再現性がなく、組織としての成長を阻害する大きな要因です。

課題3:高止まりする解約率 「売って終わり」という考え方では、顧客との長期的な関係は築けません。現代の顧客は、単に製品やサービスを購入するだけでなく、その先にある「成功体験」を求めています。営業担当者が目先の受注だけを追いかけ、顧客の本来の課題や成功イメージを共有できていない場合、導入後に「こんなはずではなかった」というミスマッチが生じ、結果として高い解約率につながってしまいます。これは、営業担当者のモチベーション低下にも直結する問題です。

これらの課題は、一見すると別々の問題に見えるかもしれません。しかし、その根底には、「個人の成長」と「組織の仕組み」という2つの要素が、現代の価値観と噛み合っていないという共通の原因が存在するのです。

2. 変化を力に変える、新時代の営業組織に必要な3つの視点

では、具体的にどのような組織を目指すべきなのでしょうか。私たちは、これからの営業組織には、以下の3つの視点が重要だと考えています。

視点1:「経験」から「仕組み」へ。営業活動の標準化

まず取り組むべきは、トップセールスの頭の中にある「暗黙知」を、誰もが理解し実践できる「形式知」へと変換し、組織全体の標準的な型を作ることです。

これは、営業担当者の個性をなくし、マニュアル通りのロボットにするという意味ではありません。むしろ、成果を出すための「土台」となる型を組織で共有することで、社員は無駄な試行錯誤に時間を費やす必要がなくなり、より創造的な活動、つまり「顧客に深く向き合うこと」にエネルギーを注げるようになります。

具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

  • 商談プロセスの見える化: 初回訪問から受注までの各段階(フェーズ)を定義し、それぞれのフェーズで「何を」「どこまで」確認すべきかを明確にします。これにより、営業担当者は次に取るべきアクションに迷わなくなります。また、マネージャーは各案件の進捗を客観的に把握し、的確なアドバイスを送ることが可能になります。
  • 顧客情報の共有基盤の構築: 多くの企業でCRMやSFAといったツールは導入されていますが、その目的が「マネージャーへの報告」になってしまっているケースが散見されます。本来の目的は、顧客に関するあらゆる情報(担当者の人柄、過去のやり取り、抱えている課題など)を資産として蓄積し、組織全体で活用することです。担当者が変わっても、質の高いアプローチを継続できる体制を整えることが重要です。
  • 成功事例(勝ちパターン)の分析と横展開: なぜその商談はうまくいったのか、どのような提案が顧客に響いたのかを、単なる結果だけでなくプロセスに着目して分析します。そして、その成功要因を他のメンバーも再現できるよう、具体的なトークスクリプトや提案資料のテンプレートとして共有します。

「仕組み」を作ることで、経験の浅い社員でも一定水準の成果を早期に出せるようになり、自信を持って業務に取り組むことができます。この「できた」という小さな成功体験の積み重ねが、成長実感と仕事への意欲を高めるのです。

視点2:「管理」から「伴走」へ。個の成長を最大化する育成

働く価値観が多様化した現代において、画一的な育成や目標管理は機能しません。社員一人ひとりの強みや弱み、キャリアに対する考え方を理解し、その成長をサポートする「伴走者」としてのマネジメントが求められています。

そのために有効な手法が、定期的な「1on1ミーティング」です。

これは、単なる進捗確認の場ではありません。1on1の主役はあくまで部下であり、マネージャーは聞き役に徹します。

  • 心理的安全性の確保: まずは、「この人には本音で話せる」という信頼関係を築くことが最も重要です。業務上の悩みはもちろん、プライベートなことや将来のキャリアについて、安心して話せる場を提供します。
  • 目標の共創と内発的動機の醸成: 会社から与えられた目標(売上目標など)を、本人が納得し、「自分の目標」として捉え直すプロセスを支援します。「なぜ、この目標を達成したいのか」「達成することで、どう成長したいのか」を共に考えることで、やらされ感ではなく、主体的な行動を促します。
  • 具体的なフィードバックと次のアクションの設定: 商談の録音や議事録をもとに、「この部分のヒアリングが良かった」「次は、こういう角度から質問してみよう」といった具体的で前向きなフィードバックを行います。抽象的な精神論ではなく、次のアクションにつながるアドバイスを心がけることが、部下の成長を加速させます。

このような対話を通じて、社員は「自分のことをしっかり見てくれている」「この会社は自分の成長を応援してくれている」と感じることができます。このエンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)の向上が、離職率の低下とパフォーマンスの向上に直結します。

毎日15分でも構いません。質の高い対話の時間を確保することが、数ヶ月後、一年後の組織力に大きな差を生むのです。

視点3:「売り込み」から「課題解決」へ。顧客の成功を追求する視点

受注率が低い、あるいは受注しても解約率が高い組織に共通しているのは、営業のベクトルが自社にばかり向いている点です。「いかにして自社の製品を売るか」という視点に終始し、顧客が「なぜそれを買う必要があるのか」「それを使って何を成し遂げたいのか」という本質的な課題を深く理解できていません。

これからの営業は、「顧客の成功を支援するパートナー」という立ち位置が不可欠です。

  • 顧客の「成功」を定義する: そもそも、この顧客にとっての成功とは何でしょうか? コスト削減なのか、売上向上なのか、業務効率化なのか。それを具体的な言葉や数値で定義し、顧客と営業担当者の間で共通認識を持つことが全ての出発点です。
  • 課題解決型の提案: 顧客の成功を定義できれば、提案の内容も変わってきます。単なる製品機能の羅列ではなく、「貴社の〇〇という課題を解決するために、この機能がこのように役立ちます。結果として、△△という未来が実現できます」というストーリーで語ることができるようになります。
  • 営業とカスタマーサクセスの連携: 「売って終わり」ではなく、受注後の顧客をサポートするカスタマーサクセス部門との連携も重要です。営業段階で顧客と共有した「成功の定義」をスムーズに引き継ぎ、組織全体で顧客の成功を支援する体制を構築することで、顧客満足度は飛躍的に高まり、解約率の低下、さらにはアップセルやクロスセルといった新たな収益機会にもつながります。

顧客の成功を追求することは、まわり道のように見えるかもしれません。しかし、これこそが、顧客との長期的な信頼関係を築き、安定した収益を生み出す最も確実な方法なのです。そして、「顧客の役に立てた」という実感は、営業担当者にとって何よりのやりがいとなり、仕事への誇りを育みます。

3. 変化への対応を、今すぐ始めるために

ここまで、新しい時代の営業組織に必要な3つの視点について解説してきました。

  1. 「仕組み」: 属人性を排し、誰もが成果を出せる再現性のある営業プロセスを構築する。
  2. 「育成」: 1on1などを通じて個人の成長に寄り添い、主体性を引き出す。
  3. 「顧客視点」: 顧客の成功を第一に考え、長期的なパートナーシップを築く。

これらは、どれか一つだけやれば良いというものではなく、相互に関連し合っています。良い仕組みがあれば、育成はスムーズに進みます。質の高い育成を受け、主体性が育った社員は、自然と顧客視点を持つようになります。そして、顧客視点で得た知見が、さらに仕組みを改善するヒントになるのです。

もちろん、長年続けてきた組織のやり方を変えることは、容易ではありません。現場からの抵抗もあるでしょうし、何から手をつければ良いのか分からない、という経営者様も多いかと思います。

しかし、確かなことは、働く人々の価値観は、もう元には戻らないということです。この変化から目を背け、従来のやり方に固執し続ければ、組織はじわじわと活力を失い、市場での競争力をなくしていくでしょう。

まずは、貴社の現状を客観的に把握することから始めてみてはいかがでしょうか。

  • 自社の営業プロセスは、誰が見ても分かるように可視化されているか?
  • マネージャーとメンバーの間で、質の高い対話の時間は確保されているか?
  • 自社の営業担当者は、顧客の成功を自分の言葉で語ることができるか?

これらの問いに、自信を持って「YES」と答えられないのであれば、今がまさに変革のタイミングです。価値観の変化を脅威ではなく好機と捉え、社員一人ひとりが成長を実感しながら、組織全体の成果に貢献できる。そんな、しなやかで力強い営業組織を、共に目指していきませんか。

組織変革には、専門的な知見と客観的な視点が必要です。もし、自社だけでの取り組みに難しさを感じていらっしゃるのであれば、ぜひ一度、外部の専門家の声に耳を傾けてみることをお勧めします。