チームの成果はマネージャーの「あり方」で9割決まる。管理職から支援職へ、今すぐ変えるべきリーダーの役割

企業の成長を左右する営業チーム。そのパフォーマンスを最大化するために、多くの経営者様が「強力なリーダーシップを持つマネージャー」を求めていることでしょう。チームをぐいぐいと牽引し、誰よりも高い視座でメンバーを導く。そんな頼もしい姿を思い描くのは自然なことです。

しかし、もしその「リーダーシップ」のイメージが、「マネージャーが常にチームの主役である」というものであるならば、一度立ち止まって考える必要があります。なぜなら、これからの時代に持続的な成果を創出し、自律的に成長し続けるチームを育むマネージャーは、必ずしもチームの「主役」ではないからです。

むしろ、優れたマネージャーがいるチームほど、そのマネージャーの存在が良い意味で「目立たない」傾向にあります。それは、メンバー一人ひとりが主役として輝き、自らの意志で考え、行動している証拠に他なりません。

本コラムでは、従来の「管理型」のマネジメントから脱却し、なぜ今「支援型」のスタンスが求められているのか、そして「主役にならない」マネージャーが、いかにして最強のチームを創り出すのか。その本質と具体的なあり方について、深く掘り下げていきます。貴社の営業組織がもう一段階上のステージへ飛躍するための、重要なヒントがここにあります。

1.役割の再定義:マネージャーは「管理者」から「支援者」へ

「マネージャー(Manager)」という言葉の響きから、私たちは「管理する人」というイメージを強く抱きがちです。事実、これまでの多くの組織では、マネージャーの主な役割は「管理」業務でした。

  • 従来の管理型マネージャーの役割
    • 部下の行動や進捗を細かく管理・監督する。
    • トップダウンで決定された戦略や目標を、部下に正確に指示・命令する。
    • 設定されたKPI(重要業績評価指標)の達成度を厳しくチェックする。
    • 評価やフィードバックを一方的に行う。

このモデルは、市場が比較的安定しており、成功の「型」が明確だった時代には有効に機能しました。しかし、現代のビジネス環境は、複雑性、不確実性、変動性を極めています。顧客のニーズは多様化し、競合の姿も常に変化します。このような時代において、画一的な指示命令系統だけでは、現場で起こる千変万化の事態に迅速かつ的確に対応することはできません。

そこで求められるのが、マネージャーの役割の根本的な転換です。つまり、「管理」から「支援」へのシフトです。

  • これからの支援型マネージャーの役割
    • メンバー一人ひとりの能力と可能性を最大限に引き出す。
    • チームの目標達成を阻害するあらゆる障害物を特定し、取り除く。
    • メンバーが自律的に考え、挑戦できる心理的に安全な環境を構築する。
    • メンバーの声に耳を傾け、対話を通じて成長を促す。

このスタンスでは、部下はもはや「管理されるべき対象」ではありません。同じゴールを目指し、共に課題を乗り越えていく「パートナー」です。マネージャーの価値は、自分がどれだけ優れているかではなく、チームのメンバーをどれだけ成功させられるかで測られます。このスタンスの転換こそが、現代の組織が競争力を維持し、成長し続けるための第一歩なのです。

2.「オーケストラの指揮者」という理想のマネージャー像

「主役にならず、目立たないマネージャーが良い」と言われても、具体的にどのような姿なのか、イメージが湧きにくいかもしれません。ここで、一つの優れた比喩があります。それは、**「マネージャーはオーケストラの指揮者である」**という考え方です。

満員のコンサートホールで、聴衆の心を揺さぶる壮大な交響曲が演奏されている場面を想像してみてください。ステージ上で最も輝いているのは誰でしょうか。それは、美しい音色を奏でるバイオリニストであり、迫力ある音を響かせるトランペット奏者であり、リズムの土台を支える打楽器奏者たちです。つまり、主役は「演奏者」一人ひとりです。

では、ステージの中央に立つ指揮者は何をしているのでしょうか。**指揮者自身は、一切の音を発しません。**しかし、彼の存在なくして、あの荘厳で美しいハーモony(調和)が生まれることは決してありません。

指揮者は、

  • 楽曲の全体像を誰よりも深く理解し、どのような演奏にしたいかという明確なビジョンを持っています。
  • 各楽器の特性と、演奏者一人ひとりの癖や強みを熟知しています。
  • 絶妙なタクトさばきで、ある楽器には静かに奏でるよう促し、別の楽器には情熱的に演奏するよう合図を送ります。
  • それぞれの音が最適なタイミングで、最適な音量で重なり合うよう全体を調整し、一つの完璧な音楽体験を創り上げています。

これこそが、理想的な営業マネージャーの姿そのものです。 マネージャーは、自らがスーパープレイヤーとして最前線で商談を決める必要はありません。その代わり、チームというオーケストラの指揮者として、

  • チームの戦略や目標(=楽曲)を誰よりも深く理解し、その達成イメージをメンバーと共有する。
  • メンバー一人ひとり(=演奏者)のスキル、個性、モチベーションを正確に把握する。
  • 個々のメンバーが最高のパフォーマンス(=音色)を発揮できるよう、対話(=タクト)を通じて動機づけ、支援する。
  • チーム全体の活動が調和し、相乗効果(=ハーモニー)を生むように、環境を整え、障害を取り除く。

この役割に徹するとき、マネージャーは「チームのことを誰よりも知っている人」であり、「チームの成功をデザインする人」になります。自分が目立つことよりも、メンバーが輝くこと、チームが成功することに最大の喜びを見出す。そのスタンスこそが、チームの力を真に引き出すのです。

3.「支援者」としてのマネージャー、3つの具体的なスタンス

では、「指揮者」のような支援型マネージャーは、日々どのようなスタンスでチームと向き合っているのでしょうか。その行動の根幹にある3つの姿勢をご紹介します。

スタンス1:『教える』より『聞く』― 傾聴と対話の姿勢

部下が壁にぶつかったとき、多くのマネージャーは良かれと思ってすぐに「答え」や「自分の経験談」を話してしまいます。しかし、支援型のマネージャーは、まず問いを立て、徹底的に「聞く」ことから始めます。

「この状況について、君自身はどう思う?」 「どんな選択肢が考えられるかな?」 「そのアプローチで、一番懸念していることは何?」

このプロセスは、一見遠回りに見えるかもしれません。しかし、部下に自ら考えさせることで、問題解決能力そのものが養われます。また、マネージャーが自分の話を真剣に聞いてくれるという経験は、部下に「自分は尊重されている」という安心感を与え、両者の信頼関係を強固にします。

この傾聴のスタンスを実践する上で極めて有効なのが、定期的な1on1ミーティングです。これは業務の進捗確認会議ではありません。部下が主役となって、自身のキャリア、悩み、挑戦したいことなどを自由に話すための「対話の場」です。マネージャーは聞き役に徹し、部下の内面を深く理解することに努めます。この時間を通じて得られる「情報」こそが、指揮者であるマネージャーがチームを最適に導くための最も重要な羅針盤となるのです。

スタンス2:『抱える』より『任せる』― 権限移譲と許容の姿勢

「自分でやった方が早いし、確実だ」。これは、能力の高いマネージャーほど陥りがちな罠です。しかし、マネージャーが仕事を抱え込み、プレイヤーとして動き回っている限り、部下はいつまで経っても育ちません。

支援型のマネージャーは、意図的に部下に仕事を「任せ」ます。それは単なる作業の割り振りではありません。裁量と責任をセットで渡し、部下に挑戦の機会を与える「権限移譲」です。もちろん、失敗のリスクは伴います。しかし、その失敗こそが、部下にとって最も効果的な学習の機会となります。

マネージャーの役割は、失敗しないように全ての道筋を整えることではなく、**「失敗しても大丈夫だ」**という心理的な安全網を張っておくことです。失敗した際には、個人を責めるのではなく、チームの学びとして次にどう活かすかを共に考える。この「許容」の姿勢が、部下の挑戦する意欲を引き出し、組織全体の経験値を高めていくのです。

スタンス3:『個人』より『環境』― 障害除去の姿勢

チームのパフォーマンスが上がらないとき、多くのマネージャーは「個人の能力」や「やる気」に原因を求めがちです。しかし、優れたマネージャーは、「環境に問題はないか?」という視点を持ちます。

メンバーが能力を発揮するのを妨げている障害物はないだろうか?

  • 物理的な障害: 古いPC、使いにくい営業支援ツール、不十分な情報共有システムなど。
  • 制度的な障害: 複雑すぎる稟議プロセス、部門間の連携不足、不公平な評価制度など。
  • 心理的な障害: 自由に意見が言えない雰囲気、失敗を過度に恐れる文化、人間関係の軋轢など。

これらの「障害物」を取り除くことこそ、マネージャーの重要な仕事です。道路の石ころを取り除き、メンバーが全力で走れるように道を整備するようなものです。特に「心理的な障害」を取り除き、誰もが安心して発言・挑戦できる**「心理的安全性」**の高いチームを作ることは、現代のマネージャーに求められる最も重要なスキルの一つと言えるでしょう。

おわりに

本コラムでは、これからの時代に求められる営業マネージャーのスタンスについて掘り下げてきました。それは、チームの先頭に立って旗を振る「主役」ではなく、メンバー一人ひとりを輝かせる「オーケストラの指揮者」のような存在です。

自らが音を出すのではなく、最高のハーモニーを奏でることに全力を注ぐ。そのために、誰よりも深くチームを「知り」、メンバーの声に「聞き」入り、挑戦できる環境を「整える」。このスタンスへの転換は、単なるマネジメント手法の変更ではありません。それは、企業の競争力の源泉が「個の力」から「組織の力」へと完全に移行した現代において、持続的な成長を遂げるための、いわば経営哲学そのものです。

この変革は、マネージャー一人の努力だけでは成し遂げられません。経営者様自身が、マネージャーに求める役割を再定義し、彼らが「支援者」としての能力を発揮できるよう、会社全体で後押しすることが不可欠です。

貴社のマネージャーは、メンバーを輝かせる「舞台監督」としての役割を、存分に果たせているでしょうか。一度、その「スタンス」に目を向けてみることが、組織を新たな成長軌道に乗せるための、確かな一歩となるはずです。