【脱・指示待ち部下】「自分で考える力」を育てる、上司の関わり方とは?

企業の成長を支えるのは、間違いなく「人」です。そして、その「人」が育つかどうかは、現場の上司の関わり方に大きく左右されます。

多くのマネージャーが、一度は頭を悩ませたことがあるのではないでしょうか。部下からの「次、どうしたらいいですか?」という言葉。もちろん、業務が分からず質問すること自体は、悪いことではありません。しかし、これが口癖のようになり、あらゆる場面で指示を待つだけの状態になってしまうと、話は別です。

理想は、部下から「〇〇という状況なので、△△という方法で進めようと考えているのですが、いかがでしょうか?」と、自分の考えを持って相談に来てくれる状態です。このような主体性のある部下が増えれば、チームの実行力は格段に上がり、上司であるあなた自身も、より重要な業務に時間を使えるようになります。

では、どうすれば部下は「指示待ち」の状態から脱却し、自分で考えて行動できるようになるのでしょうか。

このコラムでは、「部下の主体性を育む」というテーマについて、その原因が実は上司の側に潜んでいる可能性を指摘し、明日から実践できる具体的な解決策を、順を追って分かりやすく解説していきます。

「どうしたらいいですか?」が生まれる本当の理由

部下が自分で考えず、すぐに答えを求めてくるとき、私たちはつい「本人のやる気がないからだ」「能力が足りないからだ」と考えてしまいがちです。しかし、一度立ち止まって、自分自身の普段の関わり方を振り返ってみる必要があります。

実は、部下が「指示待ち」になってしまう最も大きな原因の一つは、**「上司が指示を出しすぎている」**ことにあるのです。

これには、いくつかの背景が考えられます。

1. 失敗させたくないという親心 部下がミスをして落ち込んだり、取引先に迷惑をかけたりすることを避けたい。そんな思いから、先回りして「あれやって、これやって」「この場合はこうして」と、細かく指示を出してしまうケースです。特に責任感が強く、優しい上司ほど、この傾向が見られます。部下を守りたいという気持ちは尊いものですが、残念ながら、この親心が部下から「自分で考えて、試行錯誤する」という貴重な成長の機会を奪ってしまっています。

2. スピードを重視しすぎている 「自分がやった方が早い」「説明する時間があったら、指示を出してやらせた方が早い」。これも、多くの管理職が抱えるジレンマでしょう。確かに、短期的な視点で見れば、細かく指示を出した方が業務はスムーズに進むかもしれません。しかし、これは「魚を与える」行為であり、部下はいつまでたっても「魚の釣り方」を覚えられません。結果として、上司は常に指示を出し続けなければならず、長期的に見ると、チーム全体の生産性は頭打ちになってしまいます。

3. 自分のやり方が正しいという思い込み 過去の成功体験から、「この仕事のやり方はこうあるべきだ」という強い考えを持っている上司もいます。部下が少しでも違うやり方をしようとすると、「そうじゃない、こうやるんだ」とすぐに正してしまう。これでは、部下は「上司の言う通りにやればいいや」「自分で考えても否定されるだけだ」と感じ、次第に思考を停止させてしまいます。新しいアイデアや改善案が生まれる土壌も、失われていくでしょう。

心当たりはないでしょうか。良かれと思ってやっているその行動が、結果的に部下の思考力を低下させ、「どうしたらいいですか?」という言葉を生み出す土壌を作ってしまっているのかもしれないのです。

上司の「過干渉」がもたらす、3つのマイナスな影響

指示を出しすぎる「過干渉」なマネジメントは、部下やチームに以下のようなマイナスな影響を及ぼします。

  • 影響1:思考停止と主体性の喪失 常に正解を与えられ続けると、部下は自分で考えることをやめてしまいます。「どうせ上司が答えを知っている」「言われた通りにやれば怒られない」という思考になり、仕事に対する当事者意識が薄れていきます。これでは、想定外の事態が起きた時に、全く対応できなくなってしまいます。
  • 影響2:モチベーションの低下 自分の考えや工夫を挟む余地がなく、ただ言われたことをこなすだけの「作業」になってしまうと、仕事の面白みは感じられません。人は、自分の裁量で何かを決定し、やり遂げた時に達成感や成長実感を得るものです。その機会が奪われ続けると、仕事へのモチベーションは下がる一方です。
  • 影響3:成長機会の損失 仕事における成長とは、小さな成功と失敗の繰り返しによってもたらされます。自分で考え、実行し、その結果を振り返る。このサイクルを経験することで、人は学び、応用力を身につけていきます。過干渉は、この最も重要な「学習サイクル」を部下から奪い、成長を妨げる大きな壁となってしまうのです。

この状況は、部下にとって不幸なだけでなく、上司にとっても「いつまでも部下が育たず、自分の仕事が減らない」という悪循環を生み出します。では、この負の連鎖を断ち切るために、私たちはどうすれば良いのでしょうか。

部下が自分で考え始める、上司の関わり方 3つのステップ

部下の主体性を引き出し、「こう考えているのですが、いかがでしょうか?」という言葉を育むためには、上司の意識と行動を少し変える必要があります。ここでは、明日から実践できる3つのステップをご紹介します。

ステップ1:仕事を「任せる」と決める

全ての出発点は、上司の意識改革です。「教える」「指示する」というスタンスから、「任せる」「考えさせる」というスタンスへと、意識的に切り替えることが求められます。

もちろん、いきなり全てを丸投げするわけではありません。最初は、小さな業務、影響範囲の少ない判断からで十分です。例えば、「この資料のグラフ、AとBのどちらのデザインが見やすいと思う?〇〇さんのセンスで決めてみて」「クライアントへのアポイント調整、来週の火曜か水曜でお願いしたいんだけど、具体的な日時は〇〇さんにお任せするね」といった具合です。

ここで重要なのは、「失敗を許容する」という覚悟を持つことです。部下が自分で考えて出した結論が、100点満点であることは稀でしょう。時には、遠回りに見えたり、失敗したりすることもあるかもしれません。しかし、その経験こそが、部下を最も成長させます。致命的なミスにならないよう、最終的なチェックは上司が担うというセーフティネットを用意した上で、「まずは君のやり方でやってごらん」と、部下の挑戦を後押しする姿勢が大切です。

この「任せる」という経験を積み重ねることで、部下は「自分はこの仕事を任されているんだ」という当事者意識を持ち始めます。

ステップ2:「質問」で考えを促す

部下から「どうしたらいいですか?」と質問された時が、最大のチャンスです。ここで答えを教えてしまっては、元のもくあみです。ぐっとこらえて、**「質問で返す」**ことを徹底しましょう。

【具体的な問いかけの例】

  • 「なるほど。〇〇さんは、どうするのが良いと思う?」
  • 「まず、君の考えを聞かせてもらえるかな?」
  • 「いくつか選択肢があると思うんだけど、どんな方法が考えられそう?」
  • 「その課題を解決するために、どんな情報があったら判断できるかな?」
  • 「もし君が僕の立場だったら、どう判断する?」

最初のうちは、部下も戸惑うかもしれません。答えに詰まったり、「分かりません」と言ったりすることもあるでしょう。その時は、突き放すのではなく、考えるためのヒントを与えます。

「例えば、以前のA社さんのケースが参考になるかもしれないね」 「この判断をする上で、一番大切なことは何だっけ?目的をもう一度確認してみようか」 「Bという方法とCという方法、それぞれのメリットとデメリットを書き出してみると、考えが整理できるかもしれないよ」

このように、答えそのものではなく、**「考え方」や「視点」**をサポートすることで、部下は自力で答えにたどり着くための思考プロセスを学ぶことができます。この対話の繰り返しが、部下の頭の中に「思考の型」を作っていくのです。

また、指示を出す際にも、ただ「これをやって」と伝えるのではなく、**「なぜ、この仕事が必要なのか」「この仕事が、全体のどの部分に繋がり、どんな価値を生むのか」**という目的や背景を丁寧に共有することが非常に重要です。全体像が見えれば、部下は指示された範囲外のことでも、「目的を達成するためには、こちらもやっておいた方が良いな」と、自分で判断し、行動できるようになります。

ステップ3:「1on1」で思考を深める場を作る

日々の業務の中での問いかけに加えて、定期的かつ継続的に部下の思考をサポートする仕組みとして、**「1on1ミーティング」**は非常に有効です。

ただし、その目的を進捗確認や業務指示の場に設定してはいけません。1on1は、**「部下が主役の、思考の整理と壁打ちの時間」**と位置づけましょう。

週に1回、あるいは隔週に1回、30分程度の時間を確保し、上司は「聞く」ことに徹します。

【1on1での効果的なアジェンダ例】

  • この1週間で、うまくいったことは何?
    • → なぜ、うまくいったと思う?(成功要因を本人に分析させる)
  • 逆に、うまくいかなかったことや課題に感じていることは?
    • → その原因は何だと思う?
    • → 次に同じような状況になったら、どうすればもっと上手くできそう?
  • 今、仕事で一番悩んでいることや、迷っていることはある?
    • → それについて、君自身はどう考えている?
    • → 解決のために、どんな選択肢があると思う?
  • 何か私(上司)に手伝えることや、もっとこうしてほしい、ということはある?

これらの対話を通じて、部下は自分自身の仕事ぶりを客観的に振り返り、課題を言語化し、次のアクションを自ら考える習慣が身につきます。上司は、アドバイスをするのではなく、部下の内省を促す「伴走者」としての役割に徹します。

このような質の高い1on1を継続することで、部下は「上司は自分の考えを聞いてくれる」「一緒に悩んでくれる」という安心感を持ち、日々の業務でも、より積極的に自分の意見を発信できるようになります。信頼関係が深まることで、部下は心理的な安全性を感じ、臆することなく「こう考えているのですが、いかがでしょうか?」と提案できるようになるのです。

「自分で考える部下」が、チームとあなたを成長させる

ここまでお伝えしてきた関わり方は、正直に言って、短期的に見れば手間がかかります。すぐに答えを教える方が、何倍も楽でスピーディーでしょう。

しかし、長期的な視点に立てば、その投資は計り知れないリターンとなって返ってきます。

部下が自分で考え、行動できるようになると、

  • チームの生産性が飛躍的に向上します。 上司が一人で抱えていた業務が分散され、チーム全体で課題解決に取り組めるようになります。
  • イノベーションが生まれやすくなります。 多様な視点から意見が出ることで、これまでにない新しいアイデアや業務改善が促進されます。
  • 上司であるあなた自身が成長できます。 部下を信じて任せることで、マイクロマネジメントから解放され、本来注力すべき戦略的な業務や、さらなるチームの成長戦略に時間とエネルギーを費やすことができます。

部下の「どうしたらいいですか?」は、あなたの関わり方を変えるべきサインかもしれません。「教える」から「引き出す」へ。その小さな意識の変化が、部下の可能性を大きく花開かせ、チームを次のステージへと押し上げる原動力となります。 まずは明日、部下からの質問に対して、「君はどう思う?」と、一度問い返してみてください。その一言が、未来の「こう考えているのですが、いかがでしょうか?」を生み出す、最初の一歩になるはずです。