優秀な人材がすぐ辞める会社、定着する会社の違いとは?外部の力を上手に使いながら「強い組織」を作る方法

「できる限り、自社の力でやり遂げたい」

会社の経営や事業運営に携わっていると、そう考えるのはごく自然なことだと思います。自分たちの事業なのだから、自分たちの手で成功させたい。その責任感やプライドは、ビジネスを前に進める上でとても大切な原動力になります。

しかし、その思いが強すぎるあまり、「外部の力を借りること」に対して、どこかネガティブな印象を持ってはいないでしょうか。「外部に頼るのは、自分たちの力不足を認めるようで抵抗がある」「コストもかかるし、できることなら自社で完結させたい」と感じることもあるかもしれません。

ですが、一度立ち止まって考えてみてほしいのです。 「外部に頼ること」は、本当に「悪いこと」や「甘え」なのでしょうか?

もしかしたら、それは会社の成長スピードを落としてしまう、もったいない考え方なのかもしれません。

このコラムでは、「外部に頼る」という選択肢を、会社の成長を加速させるための「賢い戦略」として捉え直し、限られたリソースで成果を最大化するための考え方について、一緒に掘り下げていきたいと思います。

1. なぜ、私たちは「外部に頼る」ことに抵抗を感じるのか?

多くの企業、特に真面目で誠実な経営者や担当者の方ほど、「自前主義」へのこだわりが強い傾向にあります。その背景には、いくつかの理由が考えられます。

  • 責任感とプライド: 「自分たちの事業だから、最後まで自分たちでやり抜くべきだ」という強い責任感。
  • コストへの懸念: 外部に依頼すれば当然コストが発生します。「その費用をかけるなら、自分たちで頑張った方が良い」と考えてしまう。
  • ノウハウが貯まらないのではという不安: 「外に任せきりにしてしまうと、社内に知識や経験が蓄積されないのではないか」という心配。
  • 情報漏洩などのセキュリティリスク: 社内の情報を外部に出すことへの漠然とした不安。
  • コントロールできなくなる恐怖: 自分たちの目が届かないところで物事が進むことへの抵抗感。

これらの感情は、どれも間違ってはいません。むしろ、会社を大切に思うからこそ生まれる、当然の感情です。しかし、これらの「守りの姿勢」が、時として成長のチャンスを逃す原因になってしまうこともあるのです。

2. 発想の転換。「できないこと」を「できる人」に任せるメリット

ここで少し、視点を変えてみましょう。 もし、あなたが急に激しい腹痛に襲われたらどうしますか?おそらく、自分で治そうとせず、すぐに病院へ行って専門家である医師の診察を受けるはずです。なぜなら、それが最も早く、確実で、安全な方法だと知っているからです。

ビジネスも同じです。すべてのことを自社で完璧にこなせる会社など、ほとんど存在しません。会社にはそれぞれ、得意なことと不得意なことがあります。自分たちの不得意なこと、あるいは時間がかかりすぎてしまうことを、その道のプロである「できる人」に任せるのは、非常に合理的で賢い判断だと言えます。

外部の力を借りることには、私たちが思っている以上に多くのメリットがあります。

  • 圧倒的なスピード感: 自社でゼロから知識を学び、試行錯誤を繰り返す時間を大幅に短縮できます。専門家は、すでに多くの経験と成功パターン、そして失敗パターンを知っています。その知見を活用することで、最短ルートで成果にたどり着くことが可能になります。これは、変化の激しい現代において、他社に先んじるための大きなアドバンテージになります。時間を買う、という感覚に近いかもしれません。
  • 高い専門性と品質: 専門家は、その分野で常に最新の情報を収集し、スキルを磨いています。自社だけで対応するよりも、質の高い成果物が期待できるのは当然のことです。結果的に、顧客満足度の向上やブランドイメージの向上にもつながります。
  • 客観的な視点の獲得: 社内の人間だけで議論していると、どうしても視野が狭くなりがちです。「昔からこうだったから」「うちの会社ではこれが常識」といった、内向きの論理にとらわれてしまうことがあります。外部の専門家は、第三者の客観的な視点で、社内の課題や改善点を的確に指摘してくれます。それは、組織の風通しを良くし、新しいアイデアを生むきっかけにもなります。
  • コア業務への集中: 最も大きなメリットの一つが、これです。会社の時間は有限であり、社員のリソースも限られています。不得意な業務や、重要ではあっても本質的でない業務を外部に任せることで、社員は自分たちが本当にやるべき「コア業務」に集中できます。つまり、会社の強みをさらに伸ばすための活動に、貴重な時間とエネルギーを注力できるようになるのです。これは、会社全体の生産性を飛躍的に高めることにつながります。

「外部に頼る」ことは、単なる業務のアウトソーシング(外注)ではありません。自社の弱点を補い、強みを最大化するための「戦略的なリソース配分」なのです。

3. 「それなら、できる人を採用すれば良い」という落とし穴

さて、外部に頼るメリットを理解すると、次に多くの方がこう考えます。 「なるほど、専門家が必要なのは分かった。それなら、外部に頼み続けるのではなく、優秀な専門家を採用して、社内でやればいいじゃないか」

確かに、長期的には業務を社内で行う「内製化」を目指すことは、非常に重要です。ノウハウが社内に蓄積され、安定した事業運営が可能になります。この考え方自体は、全く正しい方向性です。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。それは、「優秀な人材を採用さえすれば、すべてが解決する」という誤解です。

想像してみてください。あなたは、ある分野で高いスキルと経験を持つ、市場価値の高い「優秀な人材」です。転職を考えているとき、どのような会社で働きたいと思うでしょうか?

給与や待遇はもちろん重要ですが、それだけではありません。優秀な人ほど、 「この会社で自分は成長できるか?」 「自分の能力を最大限に発揮できる環境か?」 「やりがいのある仕事ができるか?」 といった点をシビアに見ています。

もし、あなたの会社が、優秀な人材を受け入れる「土台」が整っていなかったらどうなるでしょう。

  • 入社したものの、何をすべきか明確な指示がない。
  • 業務が属人化していて、誰に何を聞けばいいのか分からない。
  • 過去のやり方ばかりが重視され、新しい提案をしても聞いてもらえない。
  • 育成の仕組みがなく、ただ放置されてしまう。
  • 上司が忙しすぎて、相談する時間もない。

このような環境では、せっかく高い志を持って入社してくれた優秀な人材も、すぐに「この会社にいても、自分の力は発揮できないし、成長も見込めない」と感じてしまいます。そして、能力を発揮できないまま、数ヶ月から1年ほどで、もっと良い環境を求めて去っていくでしょう。

これは、採用にかけたコストと時間がすべて無駄になるだけでなく、「あの会社は人がすぐ辞める」という評判にもつながりかねない、非常に大きな損失です。

「できる人を採用したい」と考える前に、まず問うべきは**「私たちの会社は、優秀な人材が『ここで働きたい』と思い、入社後も定着して活躍できるような魅力的な環境だろうか?」**ということなのです。

4. 採用の前にやるべきこと。優秀な人材が活躍できる「土台」作り

では、優秀な人材が定着し、その能力を最大限に発揮してくれる「土台」とは、具体的にどのようなものでしょうか。それは、決して豪華なオフィスや特別な福利厚生のことではありません。もっと本質的な、「仕組み」と「文化」のことです。

  • 業務の「見える化」と「標準化」 特定の誰かしかできない「属人化」した業務は、組織の成長を妨げる大きな要因です。誰かが休んだり、辞めたりした途端に、仕事が止まってしまいます。 まずやるべきことは、業務の流れやノウハウを「見える化」し、誰が担当しても一定の品質を保てるように「標準化」することです。いわゆる「仕組み化」です。これによって、新しく入った人もスムーズに業務を覚えることができ、安心して仕事に取り組めます。優秀な人材は、こうした整った環境の上で、さらに高い付加価値を生み出してくれるのです。
  • 風通しの良いコミュニケーション文化 社員が安心して意見を言えたり、困ったときに気軽に相談できたりする環境は、組織の健康にとって欠かせません。特に、上司と部下が定期的に対話する機会は非常に重要です。 例えば、週に一度、15分でも30分でも良いので、1on1ミーティングの時間を持つことを推奨します。そこでは、業務の進捗確認だけでなく、部下が今どんなことに悩み、何を考えているのかに耳を傾け、成長をサポートする姿勢を示すことが大切です。 このような対話の積み重ねが、信頼関係を育み、「この会社は自分のことを見てくれている」という安心感につながります。優秀な人材は、このような心理的安全性の高い環境でこそ、挑戦的な仕事に取り組むことができるのです。
  • 明確な目標と、納得感のある評価 会社が自分に何を期待しているのかが明確で、その達成度合いが公正に評価される仕組みも重要です。目標が曖昧だと、社員は何を頑張れば良いのか分からず、モチベーションが低下します。自分が頑張った成果が、きちんと認められ、評価や成長につながるという実感こそが、仕事のやりがいを生み出します。

これらの「土台」を整えることは、一朝一夕にできることではありません。時間も労力もかかります。しかし、この土台作りを後回しにして採用を急いでも、ザルで水をすくうようなもので、人は定着しないのです。

5. 「外部の力」を賢く使い、「強い社内」を作るという選択

ここまでの話をまとめると、 「自社のリソースには限りがある。だから、不得意なことは外部のプロに任せて、時間を買い、成果を出すのが賢い」 「一方で、長期的には内製化を目指したい。そのためには、まず優秀な人材が定着・活躍できる社内の土台作りが重要だ」 ということでした。

この二つは、一見すると矛盾しているように聞こえるかもしれません。「外部に頼る」ことと、「社内を強くする(内製化)」ことは、別々の道なのでしょうか?

いいえ、そうではありません。 実は、**「外部の力を賢く活用しながら、並行して社内の土台作りを進め、段階的に内製化を目指す」**というハイブリッドなアプローチこそが、現代の企業にとって最も現実的で効果的な戦略なのです。

これは、いわば「外部のプロに、社内の仕組み作りと人育てを手伝ってもらう」という発想です。

具体的なステップ

  1. 現状の課題を洗い出す: まずは、自社のどこに課題があるのかを客観的に把握します。この段階で、外部の専門家の視点を入れるのも非常に有効です。社内の人間では気づけない問題点を指摘してくれるでしょう。
  2. 緊急性の高い業務を外部に任せる: 売上向上など、すぐにでも成果が必要な業務は、まず外部のプロに任せてしまいます。これにより、当面の業績を安定させながら、社内改革のための時間と精神的な余裕を生み出します。
  3. 仕組み作りを並行して進める: 外部のプロが業務を進める様子をただ眺めているだけでは、ノウハウは社内に貯まりません。重要なのは、彼らがどのように仕事を進めているのか、その思考プロセスや具体的な手法を学び、自社の「型」として落とし込んでいくことです。業務マニュアルを作成したり、定期的な報告会でノウハウを共有してもらったりしながら、業務の「標準化」を進めていきます。
  4. 社内人材の育成と、段階的な引き継ぎ: 仕組みが整ってきたら、いよいよ社内の担当者を育成するフェーズです。外部のプロに、いわば「コーチ」のような役割を担ってもらい、実践を通じて社員に直接指導してもらうのです。こうすることで、社員は生きた知識とスキルを吸収できます。そして、少しずつ業務を社内の担当者に引き継いでいき、最終的には自社の力だけで業務を回せる状態、つまり「内製化」を達成します。

この進め方であれば、「外部に丸投げ」してノウハウが残らないという事態も、「採用したけど育てられずに辞めてしまう」という悲劇も避けることができます。外部の力を「カンニングペーパー」や「家庭教師」のように活用し、答えを見ながら、そして教えてもらいながら、自社の生徒(社員)を育てていくイメージです。

おわりに

「外部に頼ること」は、弱さの表れではありません。 それは、自社の現状を客観的に認め、限られたリソースをどこに集中させるべきかを冷静に判断し、会社の未来のために最も効果的な手段を選ぶという、極めて高度な経営戦略です。

全部を自社で抱え込むことが、必ずしも正解とは限りません。自分たちでやるべきことと、プロに任せるべきこと。これらを賢く見極め、外部の力をテコにして自社の成長を加速させていく。そして、その過程で得た知識や経験を社内に還元し、人が育ち、自走できる強い組織の土台を築き上げていく。

もし今、あなたが「人に頼れない」「自分たちでやるしかない」という思いに縛られているとしたら、ぜひ一度、その考えをリセットしてみてください。外部の力を借りるという選択肢は、あなたの会社の可能性を大きく広げ、持続可能な成長への道を切り拓く、力強い一手になるはずです。