「若手社員のポテンシャルを最大限に引き出し、チームの成果を飛躍させたい」 「社員一人ひとりのエンゲージメントを高め、自律的に成長する組織を作りたい」 「働きがいのある、活気あふれる職場環境を実現したい」
企業の持続的な成長を担う経営者や人事責任者、そして現場の管理職の皆様であれば、誰もがこう願っているのではないでしょうか。
多くの企業が、この理想を実現するために、給与水準の引き上げ、福利厚生の充実、リモートワークの導入、オフィスのリニューアルなど、様々な「ハード面」の改革に取り組んでいます。もちろん、それらの取り組みも大切です。
しかし、本当に社員の心に火をつけ、内側から湧き出るようなモチベーションを生み出す源泉は、別の場所にあるのかもしれません。
今の若手社員が「この会社で成長したい」「この仕事に熱中したい」と感じる上で、給与や労働条件、物理的な環境以上に影響を与えているもの。それは、日々、最も身近で接する「上司」の存在なのです。
今回は、なぜこれほどまでに「上司」の存在が若手のモチベーションとエンゲージメントを左右するのか、その背景を読み解くとともに、これからの時代に求められる上司の役割、そして「理想の上司」を個人の資質任せにしないための組織的なアプローチについて、詳しく解説していきます。
第1部:なぜ「上司」が若手のエンゲージメントを決めるのか?
なぜ、物質的な条件以上に「人」、特に「上司」との関係性が、若手社員の成長意欲や仕事への熱意を決定づける最大の要因となったのでしょうか。その背景には、彼らが育ってきた時代特有の、3つの大きな変化があります。
1. 価値観の変化:「会社の看板」より「個人の成長」
まず、彼らのキャリアに対する価値観が、上の世代とは大きく異なっています。終身雇用や年功序列が当たり前ではなくなった今、一つの会社で勤め上げることよりも、「自身の市場価値を高め、どこでも通用するスキルを身につけたい」という意識が非常に強くなっています。
だからこそ、日々の業務を通じて、自分の成長を真剣に考え、支援してくれる上司の存在が極めて重要になるのです。ただ仕事を割り振るだけでなく、「この仕事が君のキャリアにとって、どういう意味を持つのか」「この経験を通じて、どんなスキルが身につくのか」といった視座で語りかけ、成長への道筋を示してくれる上司の下で、彼らは働く意味とやりがいを見出します。
ある調査では、若手社員が仕事をする上で重視することとして「成長」がトップに挙げられています。彼らにとって、成長を実感できる環境こそが最高の報酬であり、その環境づくりに直接関わる上司の存在は、何物にも代えがたいのです。
2. コミュニケーションの変化:「一方的な指示」から「双方向の対話」へ
彼らは、物心ついた頃からインターネットやSNSに触れてきたデジタルネイティブ世代です。オンラインの世界では、年齢や役職に関係なく、誰もがフラットに意見を発信し、双方向のコミュニケーションを取ることが当たり前です。
この環境で育った彼らは、職場においても「対話」と「納得感」を強く求めます。理由も説明されずに一方的に指示を出されたり、高圧的な態度で意見を封じ込められたりする環境では、彼らの主体性は失われてしまいます。
なぜこの仕事が必要なのか、背景や目的を丁寧に説明してくれる。自分の意見や提案に、まずは真剣に耳を傾けてくれる。たとえ未熟な意見であっても、頭ごなしに否定せず、「なぜそう考えたの?」と対話を通じて一緒に答えを探してくれる。そんな上司との関係性の中に、彼らは心理的な安全性とエンゲージメントの土台を見出すのです。
リクルートマネジメントソリューションズの「新入社員意識調査2024」によると、新入社員が上司に期待することのトップは「相手の意見や考え方に耳を傾けること」でした。このデータは、彼らが対等な対話を通じて仕事への納得感を持ちたいと、強く願っていることを示しています。
3. 将来への意識:「キャリア形成への伴走者」
変化が激しく、先行きの不透明な社会情勢の中で、彼らは自身のキャリアをどう築いていくかという前向きな悩みを抱えています。多様な働き方が存在する一方で、「ロールモデル」を見つけにくく、「自分はどんなプロフェッショナルになりたいのか」を模索しています。
だからこそ、自分のキャリアについて親身に相談に乗り、時には道しるべとなってくれるような、信頼できる上司の存在が大きな力となります。業務上の指示だけでなく、一人の人間として自分に関心を持ち、キャリアプランについて一緒に考えてくれる。そんな上司との人間的な繋がりが、会社への貢献意欲と「ここで頑張ろう」というエンゲージメントの源泉となるのです。
第2部:若手のポテンシャルを潰す上司、才能を開花させる上司
では、具体的にどのような上司が若手のモチベーションを高め、どのような上司がその芽を摘んでしまうのでしょうか。ここでは、具体的な行動レベルでその違いを対比してみましょう。読者の皆様も、ご自身のマネジメントスタイルを振り返りながら読み進めてみてください。
若手のポテンシャルを活かせない4つのマネジメント
- 成長機会を与えない「放置型」
「仕事は盗んで覚えるものだ」「まずは自分で考えろ」と部下の主体性に丸投げし、具体的な指導やフィードバックを行いません。何を期待されているかが分からず、困っていてもサポートを得られないため、部下は挑戦を恐れるようになり、成長の機会を逸してしまいます。
- 主体性を奪う「マイクロマネジメント型」
部下を信用せず、仕事の進め方を一から十まで細かく指示し、過度に管理します。部下は裁量権を与えられず、「自分は信頼されていない」と感じ、仕事へのやりがいや当事者意識が失われていきます。結果として、指示待ちの姿勢が身についてしまいます。
- 具体的な成長支援ができない「精神論型」
「やる気を見せろ」「気合が足りない」など、具体的・論理的な指導ができず、精神論に終始します。うまくいかない原因を部下の意欲の問題にすり替え、客観的な分析や具体的な解決策を示せないため、部下は「何をどう改善すればいいのか分からない」と混乱し、成長が停滞します。
- 信頼関係を築けない「言行不一致型」
「報連相が大事だ」と言いながら、部下が相談に行っても忙しそうにして話を聞かないなど、言っていることとやっていることが一貫していません。人として尊敬できない上司からの指示やアドバイスは、たとえ正しくても部下の心には響かず、エンゲージメントは生まれません。
若手の才能を開花させる4つの行動
- 期待役割と成長の道筋を「明確に」示す
「この仕事を通じて、君にこうなってほしい」「この目標を達成すれば、こういうスキルが身につく」というように、期待する役割や目標、そしてその先の成長イメージを具体的に伝えます。目指すべき姿が明確になるため、部下は日々の業務に意味を見出し、意欲的に取り組むことができます。
- 部下の話を「真剣に」聴き、対話する
たとえ忙しくても、部下が話しかけてきたら一度手を止め、体ごと相手に向けて真剣に耳を傾けます。部下の意見を最後まで聞き、対話を通じてお互いの納得点を探る姿勢が、部下に心理的安全性と「自分はチームの一員として尊重されている」という実感を与えます。
- 仕事を「信頼して」任せ、成長を支援する
部下の力量を適切に見極め、少し挑戦的なレベルの仕事を「君ならできると信じている」と言って任せます。もちろん、丸投げではなく、要所で進捗を確認し、困ったときにはすぐにサポートできる体制を整えています。この「任される」という経験が、部下の責任感と能力を大きく開花させます。
- 部下を一人の「人間」として尊重し、キャリアに寄り添う
仕事の成果だけでなく、部下一人ひとりの個性や価値観、キャリアプランに関心を持ちます。1on1ミーティングなどを通じて、「将来、どんなキャリアを歩みたいか」といった対話を重ね、その実現を支援する姿勢が、会社や上司への深い信頼とエンゲージメントを育みます。
第3部:「才能を開花させる上司」を組織の力で生み出す方法
「なるほど、理想の上司像は分かった。しかし、それを個人の資質だけに頼っていては、組織としての成長はない」 そう感じられた経営者の方もいらっしゃるかもしれません。その通りです。重要なのは、理想の上司を「育成」し、その活動を「支援」する組織的な仕組みを構築することです。
- 管理職の「役割」を全社で再定義する
まず、管理職の役割を「部下を管理する人」から「部下の成長を支援し、彼らが自律的に成果を出せる環境を整える人」へと、全社的に再定義することが出発点です。そして、その役割を全うできるよう、プレイングマネージャーとして自身の業務に追われる管理職の業務負荷を見直し、部下と向き合う時間を物理的に確保することも、会社の重要な責務です。
- 実践的なマネジメント研修を提供する
経験や勘だけに頼った自己流のマネジメントには限界があります。企業として、管理職に対して体系的なトレーニングの機会を提供することが重要です。コーチングスキル、フィードバックの技術、1on1ミーティングの進め方など、具体的なスキルを学ぶことで、マネジメントの質は確実に向上します。
- 「部下の成長支援」を評価制度に組み込む
管理職の評価が、短期的な業績目標の達成度だけで決まるのであれば、彼らが部下育成に時間を割くインセンティブは生まれません。管理職の評価項目の中に、**「部下の成長度合い」や「チームのエンゲージメントスコア」**といった、人材育成に関する指標を明確に組み込むべきです。部下の成長を支援することが、自身の評価に繋がる仕組みが、管理職の行動を本気で変えます。
- 良い関係性を後押しする「仕組み」を導入する
個人の努力を後押しし、良い関係性を築きやすくするための「仕組み」を導入することも有効です。定期的な1on1ミーティングの制度化、感謝や称賛を送り合うツールの導入、上司のマネジメントについて部下がフィードバックする360度評価などが、対話の機会を創出し、風通しの良い組織文化を育んでいきます。
まとめ:企業の成長は、上司と部下の「関係の質」から生まれる
今回は、若手社員のモチベーションとエンゲージメントを高める上で、「上司との関係性」がいかに重要であるか、そしてそのために企業は何をすべきかについて解説しました。
もはや、社員の意欲は、快適なオフィスや柔軟な制度といった「ハード面」だけで引き出すことはできません。日々の業務における上司とのコミュニケーション、つまり「関係の質」というソフト面の充実こそが、若手のポテンシャルを最大限に引き出し、その成長を企業の成長に直結させる源泉となるのです。
あなたの上司としての、あるいは管理職を育成する立場としての、ほんの少しの意識と行動の変化が、一人の若手社員の輝きを、そして会社の未来を、大きく変える力を持っています。
まずは、あなたのチームの若手社員に、こう尋ねてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
「最近、仕事でどんな時にやりがいを感じる?そして、どんな時に成長を実感する?」
その対話が、チームのエンゲージメントを高めるための、素晴らしい第一歩となるはずです。