はじめまして
企業の成長にとって、人材育成は非常に重要なテーマです。特に、部下や後輩を指導する立場にある方々は、その責任の大きさを日々感じていらっしゃるのではないでしょうか。育成の成果を最大限に高めるためには、育成を行う人がどのような心構えで部下と接するかが、実はとても大切になってきます。
今回は、部下の可能性を引き出し、成長をサポートするために、育成を行う人が心に留めておきたい「先入観や偏見を持たず、事実を受け入れる」という姿勢について、具体的にお話しします。
「もしかして、色眼鏡で見ていませんか?」――先入観や偏見の落とし穴
私たちは誰でも、知らず知らずのうちに、他人に対して何らかの印象や評価を持ってしまうことがあります。「〇〇さんは大人しいから、積極性に欠けるかもしれない」「△△さんは以前にこんなミスをしたから、今回も心配だ」――こういった思い込みは、育成の場面において、思わぬブレーキとなってしまうことがあります。
なぜ先入観は生まれるのか
先入観や偏見は、過去の経験や限られた情報、あるいは第一印象などから形成されることが多いものです。例えば、以前指導した別の人と同じようなタイプに見えるだけで、「この人もきっとこうだろう」と無意識に決めつけてしまうことがあります。また、忙しい業務の中で、一人ひとりとじっくり向き合う時間が取りにくいと、どうしても表面的な情報で判断しがちになることもあるでしょう。
先入観がもたらすマイナスな影響
育成を行う人が先入観を持って部下に接すると、どのようなことが起こるでしょうか。
- 部下の可能性を狭めてしまう: 「この人にはこの程度の仕事しか任せられないだろう」と思い込んでしまうと、部下が持つ本来の能力や、新しいことに挑戦する機会を奪ってしまう可能性があります。期待されていないと感じた部下は、次第に挑戦する意欲を失ってしまうかもしれません。
- コミュニケーションの壁が生まれる: 育成者が特定のイメージで部下を見ていると、その態度は言葉や表情の端々に現れてしまうものです。部下はそれを敏感に感じ取り、「どうせ自分のことは分かってもらえない」と心を閉ざしてしまうことがあります。これでは、建設的な対話は望めません。
- 正当な評価ができなくなる: 思い込みフィルターを通して部下の行動や成果を見てしまうと、客観的で公平な評価が難しくなります。頑張っている点を見過ごしたり、逆に小さなミスをことさらに大きく捉えてしまったりするかもしれません。
- 育成者自身の成長も止まる: 部下を型にはめて見てしまうと、多様な個性や考え方から学ぶ機会を失うことになります。育成は、教える側にとっても学びの連続です。その機会を自ら手放してしまうのは非常にもったいないことです。
このように、先入観や偏見は、部下の成長を妨げるだけでなく、育成者自身やチーム全体にもマイナスな影響を与えかねません。
「ありのまま」を見る勇気――事実を受け入れることの大切さ
では、どうすれば先入観や偏見に囚われず、部下の育成に取り組むことができるのでしょうか。その答えは、「事実をありのままに受け入れる」という姿勢にあります。
事実を受け入れるとは?
これは、自分の感情や憶測を一旦横に置いて、部下の行動や発言、そしてその結果として現れた事象を、客観的に捉えることを意味します。例えば、部下が期待した成果を出せなかった場合、「やっぱり能力が低いんだ」と結論づけるのではなく、「どのような行動をしたのか」「何が障壁となったのか」「目標設定は適切だったか」といった事実を一つひとつ確認していくことが重要です。
逆に、期待以上の成果を上げた場合も同様です。「たまたま運が良かっただけだろう」と片付けるのではなく、「どのような工夫をしたのか」「どんな強みが活かされたのか」を具体的に把握することで、その成功を再現可能なものに繋げることができます。
事実を受け入れることの難しさと、その乗り越え方
事実をありのままに受け入れることは、時に難しいと感じるかもしれません。特に、それが自分にとって耳の痛い情報であったり、これまでの自分の考えを覆すような内容であったりする場合はなおさらです。
しかし、ここで大切なのは、「事実」と「自分の感情や解釈」を意識して分けることです。例えば、部下からの厳しい意見は、個人的な攻撃ではなく、改善のための貴重な情報源と捉えることができます。また、部下の失敗は、その人の全人格を否定するものではなく、次への学びの機会と見ることができます。
事実を受け入れるためには、以下のような点を意識してみると良いでしょう。
- 具体的な行動に着目する:「〇〇さんは消極的だ」というような抽象的な評価ではなく、「会議で一度も発言がなかった」「提案資料の提出が期日に間に合わなかった」というように、具体的な行動レベルで事実を捉えます。
- 思い込みに気づく努力をする:「自分は今、色眼鏡で見ていないだろうか?」と自問自答する習慣をつけましょう。もし、何らかの感情が湧き上がってきたら、それは事実に基づいたものか、自分の解釈かを考えてみます。
- 複数の情報源から確認する:一方向からの情報だけでなく、可能であれば他の関係者からの話を聞いたり、データを確認したりすることで、より客観的に状況を把握できます。
- 対話を重視する:部下本人としっかりと話し合う時間を持ちましょう。育成者の視点だけでなく、部下がどのように考え、何を感じているのかを理解しようと努めることが、事実の把握に繋がります。
まっさらな視点が、育成の質を高める
先入観や偏見を持たず、事実をありのままに受け入れること。この二つは、いわば車の両輪のようなものです。まっさらな目で部下を見るからこそ、偏りのない事実が見えてきます。そして、事実に基づいて育成計画を立て、フィードバックを行うことで、部下一人ひとりの特性や強みを活かした、より効果的なサポートが可能になります。
部下は、育成を行う人が自分を一人の人間として尊重し、公平に見てくれていると感じた時、安心して自分の力を発揮しようとします。そして、たとえ失敗しても、そこから学び、次に繋げようという前向きな気持ちを持つことができるでしょう。
育成は、一朝一夕に成果が出るものではありません。しかし、育成を行う人が常に自分自身の心構えを問い続け、フラットな視点で部下と向き合う努力を続けることは、必ず部下の成長、そしてチームや組織全体の成長へと繋がっていきます。
「この人はどんな可能性を秘めているのだろう?」 そんな純粋な好奇心と、ありのままの姿を受け入れる姿勢を持って、日々の育成に取り組んでみてはいかがでしょうか。きっと、これまで見えなかった部下の新たな一面や、育成の新しい楽しさが発見できるはずです。