「マネージャーの仕事は、部下を管理することだ」
もしかすると、あなたもこのように考えているかもしれません。確かに、これまでの時代、多くの企業でマネージャーは部下の行動を細かく把握し、指示を出し、進捗を管理するという役割を強く求められてきました。しかし、時代は大きく変化しています。従来の「管理型」マネジメントだけでは、チームや組織の力を最大限に引き出すことが難しくなってきているのです。
では、これからの時代、マネージャーはどのような役割を担うべきなのでしょうか。本記事では、マネージャーの役割は部下を「管理」することではなく、「挑戦を後押しし、サポートする存在」であり、そして「責任を取る存在」であるべきだという考え方について、具体的にお伝えしていきます。
なぜ、マネージャーは部下を「管理」するだけではいけないのでしょうか?
従来の「管理型」マネジメントが、必ずしも悪いわけではありません。業務の標準化や効率化、ミスの防止といった面では、一定の効果を発揮してきました。しかし、この管理型マネジメントに偏りすぎることには、いくつかの見過ごせない問題点があります。
1. 部下の自主性が育ちにくい
常に上司からの指示を待ち、その指示通りに動くことが求められる環境では、部下は自分で考えて行動する機会を失ってしまいます。「言われたことだけやっていればいい」という受け身の姿勢が染みつき、新しいアイデアや改善提案が生まれにくくなるのです。これでは、変化の激しい現代において、組織として柔軟に対応していくことが困難になります。
2. モチベーションの低下を招く
マイクロマネジメントのように、あまりにも細かく管理されると、部下は「自分は信頼されていないのではないか」「自分のやり方ではダメなのか」と感じ、仕事に対するモチベーションが低下しがちです。本来持っている能力や意欲を発揮できず、ただタスクをこなすだけの日々になってしまうかもしれません。
3. イノベーションが生まれにくい
新しい挑戦には、失敗がつきものです。しかし、管理を重視するあまり、失敗を極端に恐れる組織風土になってしまうと、誰も新しいことに挑戦しようとしなくなります。既存のやり方を踏襲するだけでは、やがて競争力を失い、組織の成長は止まってしまうでしょう。
4. 変化への対応が遅れる
トップダウンの指示系統が強すぎると、現場で起きている変化や顧客のニーズの微細な動きが、迅速に経営層に伝わりにくくなります。その結果、市場の変化への対応が遅れ、ビジネスチャンスを逃してしまう可能性もあります。
今の時代においては、従業員一人ひとりが主体的に考え、行動し、新しい価値を生み出していくことが、組織の持続的な成長にとって非常に大切です。そのためには、マネージャーの役割も、従来の「管理」中心のものから、部下の力を引き出し、成長を促すものへと進化していく必要があるのです。
マネージャーの新しい役割:「挑戦を後押しし、サポートする」とは具体的にどういうことか?
では、部下の「挑戦を後押しし、サポートする」とは、具体的にどのような行動を指すのでしょうか。いくつかのポイントに分けて見ていきましょう。
1. 心理的安全性の高い環境をつくる
部下が安心して新しいことに挑戦するためには、「失敗しても大丈夫」「意見を言いやすい」と感じられる環境が何よりも大切です。これを「心理的安全性」と言います。マネージャーは、部下の発言を頭ごなしに否定したり、失敗を過度に責め立てたりするのではなく、むしろ挑戦したことを称賛し、失敗から学ぶ姿勢を促すことが求められます。日頃からオープンなコミュニケーションを心がけ、部下がどんなことでも相談しやすい雰囲気を作ることが、その第一歩となります。
2. 部下の「やってみたい」を引き出し、尊重する
「これをやりなさい」と指示するのではなく、「何か新しいアイデアはある?」「どんなことに挑戦してみたい?」と問いかけ、部下の自主的な意欲を引き出すことが重要です。もちろん、全てのアイデアがすぐに実行できるわけではありませんが、まずは部下の考えに耳を傾け、その思いを尊重する姿勢を示しましょう。そして、実現可能性があると判断した挑戦については、積極的に後押ししていくことが大切です。
3. 具体的な目標設定と計画立案をサポートする
部下が挑戦したいことを見つけたら、それを具体的な目標に落とし込み、達成までの道のりを一緒に考えるサポートをします。ここで大切なのは、マネージャーが一方的に目標を決めるのではなく、部下自身が納得感を持って目標設定できるように導くことです。目標が明確になれば、部下は自ら何をすべきかを考え、行動しやすくなります。
4. 必要な情報やリソースを提供する
部下が挑戦を進める上で、情報不足やリソース不足に直面することがあります。マネージャーは、部下が必要としている情報を提供したり、関係部署との連携をサポートしたり、必要な予算や人員を確保するために動いたりするなど、部下がスムーズに挑戦に取り組めるよう、環境を整える役割を担います。
5. 定期的なフィードバックと軌道修正を行う
挑戦の過程では、進捗状況を確認し、適切なフィードバックを行うことが大切です。良かった点は具体的に褒め、改善が必要な点については、建設的なアドバイスを送ります。ただし、ここでも細かく指示を出しすぎるのではなく、部下自身が考え、解決策を見つけ出せるようにサポートする視点が重要です。時には、当初の計画通りに進まないこともあるでしょう。その場合は、状況に合わせて柔軟に軌道修正できるよう、共に考える姿勢が求められます。
6. 成長の機会を与え、成功体験を積ませる
少し背伸びが必要な業務や、新しいスキルが求められるプロジェクトを任せることも、部下の成長を促す上で効果的です。もちろん、丸投げするのではなく、必要なサポートは行いながら、部下が自力で困難を乗り越え、成功体験を積めるように導きます。小さな成功体験の積み重ねが、部下の自信とさらなる挑戦意欲につながります。
このように、部下の挑戦を後押しし、サポートするということは、部下を信頼し、その可能性を信じ、成長を心から願う姿勢の表れと言えるでしょう。それは、まるでスポーツチームのコーチが、選手の自主性を尊重しながら、その能力を最大限に引き出すためにサポートする姿に似ているかもしれません。
マネージャーのもう一つの重要な役割:「責任を取る」とは?
そして、部下の挑戦を後押しする上で、マネージャーが決して忘れてはならないのが、「責任を取る」という覚悟です。これは、マネージャーにとって最も重く、そして最も大切な役割の一つと言えるでしょう。
1. 失敗を部下だけのせいにしない
部下が挑戦した結果、うまくいかなかったり、失敗してしまったりすることもあるでしょう。その際に、「だから言ったじゃないか」「君のやり方が悪い」と部下を責め立てるのは、マネージャーとして最も避けるべき行動です。それでは部下は萎縮してしまい、二度と新しいことに挑戦しようと思わなくなってしまいます。
大切なのは、失敗の原因を部下個人に押し付けるのではなく、チーム全体の問題として捉え、その原因を客観的に分析し、次に活かすための学びを得ることです。そして、その過程において、マネージャーは「最終的な責任は自分にある」という姿勢を明確に示す必要があります。
2. 「責任を取る」とは、矢面に立つ覚悟
「責任を取る」とは、具体的にどういうことでしょうか。それは、部下の失敗によって外部からクレームが来た場合に、マネージャーが窓口となって対応することかもしれません。あるいは、経営層に対して、プロジェクトがうまくいかなかった理由を説明し、謝罪することかもしれません。つまり、部下を守るために、自らが矢面に立つ覚悟を持つということです。
この覚悟があるからこそ、部下は安心して挑戦することができます。「もし失敗しても、最後は上司がなんとかしてくれる」という信頼感が、部下の大胆な一歩を後押しするのです。
3. 「責任を取る」ことは、信頼関係の土台
部下は、上司が本当に自分たちのことを考えてくれているのか、いざという時に守ってくれるのかを、日々の言動から敏感に感じ取っています。マネージャーが責任を取る姿勢を明確に示すことは、部下からの深い信頼を得る上で、何よりも重要です。そして、その信頼関係こそが、活気に満ちた強いチームを作り上げるための土台となるのです。
4. 「責任を取る」と「丸投げ」は違う
ここで注意したいのは、「責任を取る」ということと、「部下に丸投げして放置する」ということは全く違うということです。部下に仕事を任せる際には、その目的や背景、期待する成果をきちんと伝え、必要な情報や権限を与える必要があります。そして、進捗を適切に把握し、困っていることがあればサポートする。その上で、最終的な結果に対する責任はマネージャーが負う、というスタンスが大切です。単に仕事を押し付けて、うまくいかなかったら部下のせいにするのは、責任放棄でしかありません。
責任を取る覚悟を持つことは、マネージャーにとって精神的な負担が大きいかもしれません。しかし、その覚悟こそが、部下の可能性を最大限に引き出し、チームを成長させる原動力となるのです。
挑戦を後押しし、サポートし、責任を取るマネージャーが組織にもたらすもの
では、このような「挑戦を後押しし、サポートし、責任を取る」マネージャーが増えることで、組織全体にはどのような良い影響がもたらされるのでしょうか。
- 部下の成長とエンゲージメントの向上: 自分の意見が尊重され、挑戦を応援してもらえる環境では、部下は主体的に仕事に取り組むようになります。成功体験を積み重ねることで自信を深め、仕事に対するやりがいや満足感、いわゆるエンゲージメントも高まるでしょう。成長した部下は、さらに質の高い仕事をするようになり、組織全体のパフォーマンス向上に貢献します。
- チーム全体のパフォーマンス向上: メンバー一人ひとりが活き活きと働き、互いに協力し合う風通しの良いチームは、高い成果を生み出します。マネージャーがメンバー間のコミュニケーションを促進し、チームとしての目標達成をサポートすることで、個々の力の足し算以上の相乗効果が期待できます。
- イノベーションが生まれやすい組織風土の醸成: 失敗を恐れずに新しいことに挑戦できる文化は、イノベーションの源泉です。様々なアイデアが提案され、試行錯誤が繰り返される中で、これまでにない新しい価値やサービスが生まれる可能性が高まります。
- 変化に強く、持続的に成長する組織へ: 自律的に行動できる人材が育ち、新しい挑戦が奨励される組織は、外部環境の変化にも柔軟に対応し、自ら変革していく力を持ちます。これは、組織が長期的に発展し続けるための大切な力となります。
つまり、マネージャーの役割が変わることは、単に部下の働きやすさの問題だけでなく、組織全体の競争力や成長力に直結する、非常に重要なテーマなのです。
まとめ:これからのマネージャーは、チームの「可能性」を信じ抜く人
本記事では、これからの時代に求められるマネージャーのあり方として、「管理」するのではなく、「挑戦を後押しし、サポートし、責任を取る」ことの重要性についてお伝えしてきました。
変化の激しい現代において、組織が持続的に成長していくためには、従業員一人ひとりの力が最大限に発揮されることが不可欠です。そのためには、マネージャーが部下を信頼し、その自主性と創造性を引き出し、安心して挑戦できる環境を提供することが何よりも大切になります。
それは、決して簡単なことではないかもしれません。時には、部下の未熟さに歯がゆい思いをすることもあるでしょう。失敗の後処理に追われることもあるかもしれません。しかし、部下の可能性を信じ、その成長を辛抱強くサポートし続けることこそが、これからのマネージャーに求められる最も大切な役割なのではないでしょうか。
あなたのチームのメンバーは、無限の可能性を秘めています。その可能性を最大限に引き出す「応援団長」として、そして、いざという時には頼りになる「防波堤」として、部下と共に成長していく。そんな新しいマネージャー像を目指して、今日から少しずつ行動を変えてみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、あなたのチームを、そして組織全体を、より良い未来へと導いていくはずです。