人材育成に最も有効な方法!部下の本音を引き出し、成長を後押しする!明日から使える1on1実践ガイド

企業の持続的な成長にとって、「人」の育成はいつの時代も大切なテーマです。特に変化の激しい現代においては、社員一人ひとりが持つ能力を最大限に引き出し、自律的に行動できる人材を育てることが、競争優位性を確立する上でますます重要になっています。

こうした背景から、近年、人材育成の手法として「1on1ミーティング(以下、1on1)」を導入する企業が増えています。上司と部下が1対1で定期的に行う面談は、きめ細やかなコミュニケーションを通じて、部下の成長を促す有効な手段として期待されています。

しかし、「とりあえず導入してみたものの、なんだかうまくいっていない」「1on1がただの雑談や業務報告の時間になってしまっている」といった声も少なくありません。

本コラムでは、なぜ人材育成において1on1が重要なのか、そして、多くの企業で1on1が形骸化してしまう原因はどこにあるのか、どうすれば実りあるものにできるのかについて、改めて考えていきたいと思います。

なぜ1on1は人材育成に大切なのか?

そもそも、なぜ1on1が人材育成に効果的だと言われるのでしょうか。その主な理由をいくつか見ていきましょう。

  1. 信頼関係の構築:

定期的に顔を合わせて対話する時間は、上司と部下の間の信頼関係を育む土壌となります。心理的な安全性が確保された環境では、部下は本音で悩みや課題を話しやすくなり、上司は部下の個性や価値観をより深く理解することができます。この信頼関係こそが、建設的なフィードバックや的確なサポートを行う上での基盤となります。

  1. 課題の早期発見と解決:

1on1を通じて、部下が抱える業務上の困難や人間関係の悩み、キャリアに関する不安などを早期に察知することができます。問題が小さいうちに対処することで、深刻化する前に対策を講じることが可能になります。また、部下自身も、対話を通じて自分の考えを整理し、課題解決の糸口を見つけやすくなります。

  1. 個々の成長に合わせたサポート:

集団研修とは異なり、1on1では一人ひとりの状況や目標、強みや課題に合わせた、オーダーメイドのサポートが可能です。上司は部下の成長段階や特性を理解した上で、具体的なアドバイスやフィードバック、目標設定のサポートを行うことができます。これにより、部下は自分に合ったペースで着実に成長していくことができます。

  1. モチベーションの向上:

上司が自分のことに関心を持ち、時間を使って向き合ってくれるという事実は、部下の働く意欲を高めます。自分の成長や貢献が認められていると感じることで、自己肯定感が高まり、より積極的に業務に取り組むようになるでしょう。また、目標達成に向けた具体的な道筋が見えることで、主体的な行動も促されます。

  1. 企業理念やビジョンの浸透:

1on1は、企業の理念やビジョン、チームの目標などを、部下一人ひとりに丁寧に伝え、理解を促す良い機会にもなります。組織が目指す方向性と個人の目標が結びつくことで、部下は自分の仕事の意義をより深く理解し、組織への帰属意識を高めることができます。

このように、1on1は部下の成長を多角的にサポートし、ひいては組織全体の力を高める上で、非常に有効な手段となり得るのです。

なぜ多くの企業で1on1が形骸化してしまうのか?

大きな期待を持って導入されたはずの1on1ですが、残念ながら多くの企業で形骸化してしまっているという現実があります。なぜ、そのような状況に陥ってしまうのでしょうか。主な原因を探ってみましょう。

  1. 目的意識の欠如:「何のためにやるのか」が曖昧

最も大きな原因の一つは、1on1の目的が曖昧なまま、あるいは上司と部下の間で共有されないまま実施されていることです。「会社がやれと言っているから」「とりあえず面談の時間を取っている」という状態では、中身のある対話にはなりにくいでしょう。 部下にとっては「何を話せばいいのか分からない」「ただの業務報告の時間になっている」、上司にとっては「何を話させればいいのか分からない」「部下の話を聞くだけで疲れる」といった状況が生まれがちです。

  1. 準備不足:行き当たりばったりの対話

目的が曖昧なことに起因しますが、上司も部下も、1on1に向けて十分な準備をしていないケースが多く見られます。 上司は、部下の最近の状況や課題、前回話した内容などを事前に把握しておく必要があります。部下も、相談したいことや話したいテーマを事前に整理しておくことで、限られた時間を有効に活用できます。こうした準備を怠ると、話が散漫になったり、表面的な会話で終わってしまったりする可能性が高まります。

  1. 上司のスキル不足:「聴く力」「問いかける力」の課題

1on1を効果的に行うためには、上司側に傾聴力、質問力、フィードバック力といったコミュニケーションスキルが求められます。しかし、これらのスキルを十分に持ち合わせていない、あるいはトレーニングを受けていない上司も少なくありません。 部下の話を最後まで聞かずに自分の意見を押し付けてしまったり、詰問のようになってしまったり、具体的なアドバイスができず精神論で終わってしまったりすると、部下は萎縮してしまい、本音を話すことをためらうようになります。

  1. 「評価」との混同:心理的安全性の欠如

1on1が人事評価の場と混同されてしまうと、部下は「評価を下げられたくない」という意識から、ありのままの自分を見せることが難しくなります。失敗談や弱音を吐きにくくなり、当たり障りのない話に終始してしまう可能性があります。 1on1はあくまで部下の成長支援の場であり、評価とは切り離して考えることが、率直な対話を生むためには大切です。

  1. 時間的な制約と負担感:「忙しくてできない」

特に管理職は多忙な業務を抱えているため、1on1のための時間を確保すること自体が大きな負担になっている場合があります。時間に追われる中で行われる1on1は、どうしても形式的なものになりがちです。「早く終わらせたい」という雰囲気が伝われば、部下もリラックスして話すことはできません。

これらの原因が複合的に絡み合い、1on1は徐々に「やらされ仕事」のような扱いになり、その本来の価値を発揮できずに形骸化してしまうのです。

「1on1をすること」が目的になっていませんか?

形骸化の最も根深い問題は、「1on1を実施すること」自体が目的になってしまっているケースです。

本来、1on1は「部下の成長を支援する」「信頼関係を構築する」「課題を解決する」といった目的を達成するための「手段」であるはずです。しかし、いつの間にか「月に1回、30分の1on1を実施する」という行為そのものがゴールになってしまうと、その中身や質は二の次になってしまいます。

チェックリストに「1on1実施済み」と印をつけることが重視され、その結果として部下がどう成長したのか、どのような変化があったのかという本質的な部分への関心が薄れてしまうのです。

これでは、いくら時間をかけて1on1を行っても、期待される効果は得られません。むしろ、上司にとっても部下にとっても、貴重な時間を浪費しているだけということになりかねません。

効果的な1on1にするために:形骸化を防ぐ5つのポイント

では、形骸化を防ぎ、1on1を実りあるものにするためには、具体的にどのような点に注意すれば良いのでしょうか。ここでは5つのポイントを挙げます。

  1. 目的を明確にし、共有する

まず最も大切なのは、「この1on1は何のために行うのか」という目的を明確にし、それを上司と部下の双方でしっかりと共有することです。 例えば、「部下のキャリアプラン実現に向けた課題整理とアクションプランの明確化」「担当プロジェクトの進捗課題の共有と解決策の検討」「日々の業務で感じている不安や悩みの解消」など、具体的な目的を設定しましょう。目的が明確になれば、何を話し合うべきか、どのような準備が必要かが見えてきます。

  1. 「対話」の質を高めることを意識する

1on1は「面談」というより「対話」です。上司からの一方的な指示やアドバイスではなく、双方向のコミュニケーションを心がけましょう。

  1. 傾聴する: まずは部下の話を最後まで、評価や判断をせずに聴く姿勢が大切です。「聞く」のではなく「聴く」意識を持ち、相手の言葉の背景にある感情や意図を理解しようと努めましょう。相槌やうなずきも効果的です。
  2. 質問する: 部下の考えを引き出し、内省を促すような質の高い質問を投げかけましょう。「はい/いいえ」で終わるクローズドクエスチョンだけでなく、「どう思う?」「なぜそう考えるの?」「もし~だとしたら?」といったオープンクエスチョンを効果的に使い分けましょう。
  3. 承認する: 部下の努力や成長、成果を具体的に言葉で伝え、承認しましょう。小さな変化やプロセスへの頑張りにも目を向けることが大切です。
  4. フィードバックする: 今後の成長につながるような、具体的で建設的なフィードバックを行いましょう。良かった点と改善点をバランス良く伝え、一方的なダメ出しにならないように注意が必要です。
  5. 話すテーマを事前に準備し、記録と振り返りを行う

限られた時間を有効に活用するために、事前にアジェンダ(話すテーマ)を共有しておくとスムーズです。部下からも話したいテーマを挙げてもらうようにしましょう。 そして、1on1で話した内容や決定事項、次へのアクションプランなどを記録に残しておくことが重要です。記録を残すことで、前回の内容を踏まえた継続的な対話が可能になり、部下の成長の軌跡を可視化することもできます。次回の1on1の冒頭で、前回の振り返りから始めるのも効果的です。

  1. 上司側のスキルアップを図る

効果的な1on1を実施するためには、上司のコミュニケーションスキル向上が欠かせません。企業として、1on1の進め方やコーチング、フィードバックに関する研修機会を提供することが望ましいでしょう。 また、上司同士で1on1の悩みや成功事例を共有したり、ロールプレイングを行ったりするのもスキル向上に役立ちます。

  1. 心理的安全性を確保する

部下が安心して本音を話せるように、心理的安全性の高い場づくりを意識しましょう。話した内容が不用意に他人に漏れないこと、1on1での発言が直接的な評価に不利に働くことがないことを明確に伝えることが大切です。 また、上司自身が自己開示をしたり、部下の意見や感情を尊重する姿勢を見せたりすることも、安心感につながります。

これらのポイントを意識し、継続的に改善していくことで、1on1は形骸化を防ぎ、本来の価値を発揮できるようになるはずです。

1on1は「頻度」も大切:なぜ高頻度が効果的なのか

効果的な1on1を行う上で、内容や質はもちろん重要ですが、実は「頻度」も無視できない要素です。

従来の目標設定面談などが半期に一度や年に一度であったのに対し、1on1は月に1回、あるいは隔週に1回といった、より短いサイクルで実施することが推奨されるケースが多くあります。なぜ、高い頻度で行うことが効果的なのでしょうか。

  1. 変化への迅速な対応:

ビジネス環境やプロジェクトの状況は日々変化します。高頻度で1on1を行うことで、状況の変化やそれに伴う部下の課題や感情の揺れ動きをタイムリーに把握し、迅速に対応することができます。問題が大きくなる前に軌道修正を図ったり、必要なサポートを提供したりすることが可能になります。

  1. 継続的なサポートと成長の加速:

一度の面談で大きな変化を期待するのは難しいものです。短いサイクルで対話を重ねることで、目標達成に向けた進捗を細かく確認し、その都度フィードバックやアドバイスを行うことができます。これにより、部下は継続的なサポートを受けながら、小さな成功体験を積み重ね、着実に成長していくことができます。学習効果も高まり、成長のスピードが加速します。

  1. 関係性の深化と信頼の醸成:

接触回数が増えることは、単純接触効果(ザイオンス効果)により、相手への好感度や親近感を高めると言われています。定期的に顔を合わせ、対話を重ねることで、上司と部下の間の心理的な距離が縮まり、より深い信頼関係が育まれます。信頼関係が深まれば、部下は些細なことでも相談しやすくなり、より本質的な対話が生まれやすくなります。

  1. 目標への意識の持続:

設定した目標も、時間が経つと日々の業務に埋もれて意識が薄れがちです。高頻度の1on1は、定期的に目標を再確認し、それに対する進捗や課題を意識する機会となります。これにより、目標達成へのモチベーションを維持しやすくなります。

究極の理想は「毎日、短い時間でも対話を持つ」こと

ここまで高頻度のメリットを述べてきましたが、突き詰めて考えると、1on1の理想的な姿の一つは、「毎日、たとえ10分、15分でも良いので、意識的にしっかりと対話の時間を持つ」ことだと言えるかもしれません。

毎日の短い対話は、その日の業務で感じた小さな疑問や気づき、ちょっとした成功体験や困りごとなどを、新鮮なうちに共有することを可能にします。これにより、問題が大きくなる前に芽を摘み取ったり、部下の小さな成長を見逃さずに承認したりすることができます。また、日々の細やかなコミュニケーションの積み重ねは、より強固な信頼関係を築き、部下の心理的な安定にもつながるでしょう。

もちろん、すべての上司と部下が毎日必ず時間を確保するのは、現実的には難しいかもしれません。しかし、「できるだけ短いサイクルで、質の高い対話を行う」という意識を持つことは非常に大切です。

例えば、まずは「週に2、3回15分」といった短い時間から始めてみるのも良いでしょう。そして、その効果を実感しながら、状況に応じて頻度や時間を調整していくのが現実的です。大切なのは、無理なく継続できる頻度を見つけ、それを習慣化することです。内容や時間も大切ですが、「継続すること」自体が、部下の安心感と成長を支える力になるのです。

もしそれも難しそうであれば弊社がお手伝いします。

まとめ:実りある1on1で、人と組織の成長を

本コラムでは、人材育成における1on1の重要性から、形骸化の原因、そして効果的な進め方や頻度の重要性について見てきました。特に、頻度に関しては、究極的には毎日短い時間でも対話を持つことが理想であり、それが難しい場合でも、できるだけ短いサイクルで質の高いコミュニケーションを継続することの大切さをご理解いただけたかと思います。

1on1は、正しく運用されれば、部下の成長を力強く後押しし、組織全体のパフォーマンス向上にもつながる非常に有効なツールです。しかし、その一方で、目的を見失ったり、やり方が不適切だったりすると、時間だけが浪費され、逆効果にさえなりかねません。

「1on1をすること」を目的にするのではなく、「1on1を通じて何を実現したいのか」という原点に立ち返り、上司と部下が共に真剣に向き合うことが何よりも大切です。

ぜひ、今回の内容を参考に、貴社の1on1が社員一人ひとりの成長と、ひいては組織の持続的な発展につながるような、実りあるものになることを願っています。まずは、次回の1on1から、あるいは日々の短い声かけから、何か一つでも改善できるポイントを見つけて実践してみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、大きな変化を生み出すきっかけになるかもしれません。