1. はじめに:なぜ今、営業人材育成が企業の成長エンジンとなるのか?
現代のビジネスを取り巻く環境は、かつてないほどの速度と規模で変化し続けています。デジタル技術の急速な進展は、顧客の情報収集や購買行動を根底から変えました。インターネットを通じて容易に製品やサービスの比較検討が可能となり、顧客は営業担当者と接触する前に、すでにある程度の知識や判断基準を持っています。また、市場には類似の製品やサービスが溢れ、コモディティ化が進む中で、価格競争も激化の一途をたどっています。
このような時代において、営業担当者に求められる役割は、単に製品やサービスを紹介し、注文を取ってくる「御用聞き」や「モノ売り」ではありません。顧客自身も気づいていないような潜在的な課題を発見し、その解決策を提示する**「課題解決パートナー」としての役割、さらには顧客のビジネス成長に貢献する「コンサルタント」**としての高度な能力が求められるようになっています。つまり、営業活動はより高度化・複雑化しており、個々の営業担当者のスキルや提案力が、企業の競争優位性を大きく左右する時代なのです。
一方で、国内に目を向ければ、少子高齢化に伴う労働人口の減少は深刻な問題です。優秀な人材の獲得競争は激しさを増し、多くの企業が採用難に直面しています。さらに、終身雇用制度が過去のものとなり、転職が一般化する中で、人材の定着も重要な経営課題となっています。せっかく時間とコストをかけて採用した人材が、十分なスキルを身につける前に離職してしまっては、企業にとって大きな損失です。
このような背景から、「営業人材育成」は、単なる人事部門の一業務ではなく、企業の持続的な成長を支える経営戦略そのものとして捉える必要性が高まっています。効果的な人材育成への投資は、以下のような多岐にわたるメリットを組織にもたらします。
- 業績向上への直接的貢献: 営業担当者のスキルアップは、顧客満足度の向上、単価アップ、成約率の向上に直結し、売上・利益の拡大に貢献します。
- エンゲージメント向上と離職率低下: 丁寧な育成や成長実感は、社員の会社に対する愛着や貢献意欲(エンゲージメント)を高めます。「この会社で成長したい」と感じる社員が増えることで、優秀な人材の流出を防ぎ、採用コストや再教育コストの削減にも繋がります。
- 組織力の底上げ: 個々の成長は、チーム全体の活性化を促します。成功事例やノウハウが共有され、メンバー同士が切磋琢磨する文化が生まれれば、組織全体の生産性が向上します。
- イノベーションの創出: 多様なスキルや視点を持つ人材が育つことで、新たなアイデアやビジネスチャンスが生まれやすくなります。変化への対応力も高まり、市場での競争優位性を維持・強化できます。
強い営業組織には、例外なく**「人を育てる文化」**が根付いています。育成を単なるコストとして捉えるのではなく、未来への重要な投資と位置づけ、組織全体でコミットしているのです。
本稿では、多くの企業が陥りがちな営業人材育成の課題、いわば「壁」を具体的に解説し、その壁を乗り越え、再現性と効率性を両立させるための**「仕組み化」、そして個々のメンバーの潜在能力を最大限に引き出すための「対話力(コミュニケーション)」**という2つの重要な軸から、強い営業組織を構築するための具体的な方法論を、詳しくご紹介します。
2. あなたの組織は大丈夫? 営業人材育成における7つの「壁」
多くの企業が、営業人材育成の重要性を認識しながらも、様々な課題に直面し、その取り組みが思うように進んでいないのが実情です。ここでは、効果的な育成を阻む代表的な7つの「壁」について、その具体的な内容と組織への影響を掘り下げてみましょう。
- 壁1:属人化の壁 最も多くの企業で見られるのが、育成が特定の人物(エース級の先輩社員やマネージャー)の経験や勘、個人的なスキルに依存してしまっている状態です。体系化された育成プログラムや標準的な指導方法がないため、OJT担当者によって教える内容や質がバラバラになり、「あの先輩の下につけば成長できるが、他の先輩だと…」といった育成格差が生じてしまいます。また、ハイパフォーマーのノウハウが暗黙知のまま共有されず、組織全体のスキルアップに繋がりません。結果として、一部の優秀な人材に業務が集中し、組織全体のパフォーマンスが安定しない原因となります。
- 壁2:時間の壁 特にプレイングマネージャーに多いのが、「部下を育成する時間がない」という悩みです。自身の営業目標達成に追われ、チームマネジメントや会議、報告書作成など、日々の業務に忙殺される中で、部下一人ひとりと向き合い、丁寧に指導する時間を確保することが物理的に困難になっています。「忙しいから仕方ない」という状況が常態化すると、育成は後回しにされ、場当たり的な対応に終始してしまいます。これは、マネージャー自身の疲弊を招くだけでなく、部下の成長機会を奪い、モチベーション低下にも繋がります。
- 壁3:コミュニケーションの壁 定期的な面談(1on1など)を実施していても、それが単なる業務進捗の確認や一方的な指示・アドバイスの場になってしまい、形骸化しているケースも少なくありません。メンバーが評価を恐れたり、上司との信頼関係が築けていなかったりすると、本音(悩み、不安、キャリアに関する希望など)を話すことができず、表面的な会話に終始してしまいます。また、フィードバックが不足していたり、伝え方が抽象的・感情的であったりすると、メンバーの行動変容には繋がりません。結果として、問題の根本解決に至らず、同じようなミスや課題が繰り返されることになります。
- 壁4:スキルの壁 育成を担うマネージャーやOJT担当者自身が、**「教え方がわからない」**という課題を抱えている場合もあります。自身がプレイヤーとして優秀であったとしても、そのスキルや知識を他者にわかりやすく伝え、成長を促すための指導スキル(コーチング、ティーチング、フィードバックなど)を持っているとは限りません。効果的な指導方法を知らないまま、自身の成功体験だけを押し付けたり、精神論に偏った指導をしたりすると、かえってメンバーの混乱や反発を招き、育成効果が得られない可能性があります。
- 壁5:モチベーションの壁 育成される側のメンバーが、成長意欲を持てない、あるいは成長を実感できないという壁も存在します。日々の業務に追われる中で、自分がどのように成長しているのかが見えにくかったり、将来のキャリアパスが不明確だったりすると、学習意欲が低下してしまいます。また、努力や成果が正当に評価されず、フィードバックも得られない状況では、「頑張っても意味がない」と感じてしまうでしょう。メンバー自身のモチベーションが低い状態では、どんなに優れた育成プログラムを用意しても、その効果は限定的です。
- 壁6:仕組みの壁 場当たり的なOJTや単発的な研修に終始し、体系的な育成プログラムが整備されていないことも大きな壁となります。どのようなスキルを、どの順番で、どのように習得していくのかという道筋(育成ロードマップ)がなければ、育成は行き当たりばったりになりがちです。また、育成の目標や成果が、人事評価制度と連動していなければ、育成への本気度がメンバーにも伝わりにくく、形だけの取り組みになってしまう可能性があります。育成を支えるツール(ナレッジ共有、進捗管理など)が不足していることも、効率的な育成を妨げる要因です。
- 壁7:文化の壁 最も根深く、変革が難しいのが、組織文化に関わる壁です。組織全体として人材育成に対する意識が低く、「育成は人事部や直属の上司の仕事であり、自分には関係ない」といった他人事感が蔓延している場合があります。短期的な成果ばかりが重視され、長期的な視点での人材育成が軽視される風土も、育成の妨げとなります。また、失敗を許容せず、挑戦を奨励しない文化の中では、メンバーは萎縮してしまい、新たなスキル習得や行動変容に踏み出すことができません。
これらの「壁」は、一つひとつが独立しているわけではなく、相互に関連し合っています。例えば、「時間の壁」が「コミュニケーションの壁」を生み、「属人化の壁」が「スキルの壁」を助長するといった具合です。自社の営業組織がどの壁に直面しているのかを正確に把握し、複合的な視点で解決策を検討することが、効果的な人材育成への第一歩となります。
3. 「仕組み」で突破する!再現性と効率性を両立する育成システム構築
前述したような育成の「壁」を乗り越え、組織として持続的かつ効果的に人材を育成していくためには、個人の力量に依存しない**「育成の仕組み化」**が不可欠です。ここでは、再現性と効率性を両立する育成システムを構築するための具体的なステップと要素について解説します。
- Step 1:ゴール設定とロードマップ策定 – 目指すべき姿を明確にする 育成システム構築の第一歩は、「どのような営業人材を育てたいのか?」という育成ゴールを明確に定義することです。これは、単に売上目標を達成できるだけでなく、企業理念やビジョンを体現し、顧客から信頼される人材像を具体的に描くことを意味します。求められるスキル(ヒアリング力、提案力、交渉力など)、知識(自社製品、業界動向、競合情報など)、そしてマインド(主体性、目標達成意欲、顧客志向など)を具体的にリストアップします。 次に、そのゴールに至るまでの育成ロードマップを作成します。新入社員、若手、中堅といったステージごとに、習得すべきスキルや知識、達成すべき行動目標を段階的に設定します。各ステージでどのような育成施策(研修、OJT、eラーニングなど)を実施するのか、どのくらいの期間で次のステージに進むのかを明確にすることで、育成される側は自身の成長ステップを把握でき、育成する側は計画的・体系的な指導が可能になります。可能であれば、このロードマップを社内の等級制度やキャリアパスと連動させることで、メンバーのモチベーション向上にも繋がります。
- Step 2:標準化とマニュアル整備 – 誰でも質の高い育成ができる土台を作る 属人化を防ぎ、育成の質を担保するためには、育成内容や指導方法の標準化が重要です。特にOJTにおいては、指導すべき項目、指導手順、評価基準などを明確にしたOJT指導マニュアルを作成することが有効です。 また、成果を出しているハイパフォーマーの行動特性や成功パターンを分析し、標準的な営業プロセスとして可視化・共有することも重要です。顧客への初回アプローチからクロージング、アフターフォローに至るまでの各ステップにおける具体的な行動指針、トークスクリプト例、有効なツールなどをまとめます。これにより、経験の浅いメンバーでも、成果を出すための基本的な型を効率的に学ぶことができます。さらに、ロールプレイング用の教材や、よくある質問とその回答をまとめたFAQ集なども整備しておくと、実践的なトレーニングや日々の疑問解消に役立ちます。これらのマニュアルやツールは、一度作って終わりではなく、定期的に見直し、改善していくことが重要です。
- Step 3:ナレッジ共有基盤の構築 – 個人の知恵を組織の力に変える 個々の営業担当者が持つ貴重な経験やノウハウ(成功事例、失敗事例、顧客情報、提案資料など)は、組織にとって重要な資産です。これらを個人の「暗黙知」にとどめておくのではなく、組織全体で共有し、活用できる**「形式知」に変えるためのナレッジ共有基盤**を構築します。 具体的な方法としては、日報や週報のフォーマットを工夫し、単なる活動報告だけでなく、得られた学びや気づき、共有すべき情報を記述するように促します。これらの情報を蓄積・検索できるデータベースや社内Wikiを整備することも有効です。また、社内SNSやビジネスチャットツールを活用し、気軽に質問したり、成功事例を共有したりできるコミュニケーションチャネルを設けることも効果的です。さらに、定期的に勉強会や事例共有会を開催し、互いに学び合う機会を設けることで、組織全体の知識レベルの底上げと、学習する文化の醸成に繋がります。
- Step 4:ツール活用による効率化 – 育成状況の可視化と負担軽減 育成活動を効率的かつ効果的に進めるためには、適切なツールの活用も検討しましょう。SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)は、営業活動の記録・分析だけでなく、メンバーの行動パターンや成果をデータとして把握し、育成に活かす上で非常に有用です。個々のメンバーの強みや弱みを客観的に把握し、的確なフィードバックや指導を行うための材料となります。 また、LMS(Learning Management System:学習管理システム)を導入すれば、研修プログラムの配信・管理、eラーニングの受講状況やテスト結果の把握などを一元管理でき、育成の進捗管理を効率化できます。オンラインでの研修や面談ツール、コミュニケーションツールなども、時間や場所にとらわれない柔軟な育成活動を可能にします。これらのツールを導入する際は、自社の目的や状況に合わせて最適なものを選定し、導入効果を最大化するための運用ルールを定めることが重要です。
- Step 5:評価制度との連動 – 育成へのコミットメントを示す 育成の仕組みを形骸化させず、組織に確実に根付かせるためには、人事評価制度との連動が鍵となります。メンバー自身の成長度合いや、育成目標の達成度を評価項目に組み込むことで、育成に対する本気度を示すことができます。また、部下の育成に貢献したマネージャーやOJT担当者を評価する仕組みを設けることも、育成文化を醸成する上で効果的です。目標管理制度(MBO)などを活用し、育成に関する目標を設定し、その達成度を評価に反映させることで、組織全体として育成への意識を高めることができます。ただし、評価への連動は、メンバーに過度なプレッシャーを与えないよう、慎重に設計・運用する必要があります。
これらの「仕組み」を構築し、継続的に運用・改善していくことで、属人性を排除し、誰もが質の高い育成を受けられ、そして提供できる組織基盤を築くことができます。
4. 「対話」で加速する!個の成長を最大化するコミュニケーション戦略
強固な育成の「仕組み」という土台の上に、メンバー一人ひとりの成長を真に加速させるのは、日々の質の高い**「対話(コミュニケーション)」**です。特に、マネージャーとメンバー間の信頼に基づいた対話は、個々の潜在能力を引き出し、自律的な成長を促すための強力なエンジンとなります。ここでは、メンバーの成長を最大化するためのコミュニケーション戦略について掘り下げます。
- 1on1の本質と目的の再確認 – 関係構築と内省支援の場 近年、多くの企業で導入されている1on1ミーティングですが、その効果を最大限に引き出すためには、その本質と目的を正しく理解することが不可欠です。1on1は、上司が部下の業務進捗を管理したり、一方的に指示を出したりする場ではありません。その核心は、**「メンバーのための時間」であり、「対話を通じて信頼関係を構築し、メンバーの内省を促し、成長を支援する場」であるということです。 マネージャーは、評価者の立場を一旦脇に置き、メンバーの話に真摯に耳を傾け、共感的に理解しようと努める姿勢が求められます。メンバーが安心して自身の考えや感情、悩み、キャリアへの希望などを話せる「心理的安全性」**の高い雰囲気を作ることが、効果的な1on1の第一歩です。目的は、短期的な問題解決だけでなく、中長期的な視点でのメンバーの成長とキャリア形成をサポートすることにあります。
- 高頻度・短時間コミュニケーションの威力 – 変化に対応し、行動を促す 変化のスピードが速い現代のビジネス環境において、週に一度や月に一度といった低頻度の面談では、現場で起こっている課題やメンバーの心の動きをタイムリーに捉えることが難しくなっています。日々の業務の中で生じるちょっとした疑問、小さな成功体験、あるいは壁にぶつかっている感覚などは、時間が経つと薄れてしまったり、記憶が曖昧になったりしがちです。 そこで注目されるのが、高頻度・短時間のコミュニケーションです。例えば、**「毎日15分」**といった短い時間でも、継続的に対話の機会を持つことで、以下のような効果が期待できます。
- リアルタイムな課題解決: 「これ、どうしよう…」とその日のうちに相談でき、行動の停滞を防ぎます。
- タイムリーなフィードバック: 商談直後など、記憶が新しいうちに具体的なフィードバックを行うことで、学びの吸収率が高まります。
- モチベーションの維持: 日々の小さな頑張りや進捗を承認されることで、達成感を得やすくなり、前向きな気持ちで業務に取り組めます。
- 心理的距離の短縮: 頻繁に話すことで、マネージャーとメンバー間の心理的な距離が縮まり、より本音で話せる関係性が築きやすくなります。 高頻度な対話は、変化への迅速な対応を可能にし、メンバーのトライ&エラーを加速させ、結果として成長スピードを高めることに繋がります。
- 心理的安全性の醸成 – 本音を引き出す土壌を作る メンバーが安心して自己開示し、本音で話せるようにするためには、心理的安全性の高い環境を意図的に作り出す必要があります。そのためにマネージャーに求められるのは、まず**「傾聴(アクティブリスニング)」の姿勢です。相手の話を途中で遮ったり、自分の意見を被せたりせず、最後まで注意深く耳を傾け、相槌やうなずき、適切な質問によって、相手が話しやすい雰囲気を作ります。相手の感情や意見を否定せず、まずは「そう考えるんだね」「そういう気持ちなんだね」と受容的な態度**を示すことが重要です。 また、マネージャー自身が率先して自己開示を行うこと(自身の失敗談や悩みを話すなど)も、メンバーの自己開示を促す上で効果的です。さらに、チーム全体として、失敗を責めるのではなく、学びの機会として捉える文化を醸成することも、心理的安全性を高める上で欠かせません。
- 効果的な質問スキル – メンバーの思考を深め、気づきを促す 優れたマネージャーは、答えを与えるのではなく、効果的な質問によってメンバー自身の思考を深め、内省や気づきを促します。「はい/いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンだけでなく、「それについて、どう思いますか?」「なぜ、そう考えたのですか?」「他にはどんな方法がありそうですか?」といったオープンクエスチョンを投げかけることで、メンバーは自ら考え、答えを見つけ出すプロセスを経験します。 また、「もし〜だとしたら、どうしますか?」といった仮説質問や、「その経験から何を学びましたか?」「次に活かせるとしたら、どんなことですか?」といった学びを促す質問、「理想の状態はどのようなものですか?」「そのために、まず何から始めますか?」といった未来志向の質問も、メンバーの視点を広げ、前向きな行動を引き出すのに有効です。重要なのは、詰問調にならないよう、あくまでメンバーの思考をサポートする姿勢で質問することです。
- 成長を促すフィードバック – 行動変容に繋げる技術 フィードバックは、メンバーの成長に不可欠な要素ですが、その伝え方次第で効果は大きく変わります。効果的なフィードバックのポイントは、具体性、客観性、そしてタイミングです。漠然とした褒め言葉や批判ではなく、「いつ、どこで、どのような状況(Situation)で、あなたがどのような行動(Behavior)をとった結果、どのような影響(Impact)があったか」というSBIモデルなどのフレームワークを活用し、具体的な事実に基づいて伝えることが重要です。 良かった点(ポジティブフィードバック)と改善すべき点(改善フィードバック)をバランス良く伝えることも意識しましょう。特に改善点を伝える際は、人格を否定するような言い方を避け、あくまで「行動」に焦点を当て、「次はこうしてみてはどうか」という具体的な代替案や期待を伝えるように心がけます。フィードバックは、可能な限り行動直後のタイムリーなタイミングで行うことで、より高い効果が期待できます。
- 個性に合わせたアプローチ – 一人ひとりの強みを活かす 人はそれぞれ、異なる強み、弱み、価値観、思考のクセ、コミュニケーションスタイルを持っています。画一的なコミュニケーションではなく、メンバー一人ひとりの個性に合わせて関わり方を変えることで、より効果的に成長を支援することができます。 例えば、人のタイプを分析するツール(DiSC理論、ソーシャルスタイル理論など)を活用し、メンバーの特性を理解することも有効なアプローチです。主導的なタイプには結論から端的に、慎重なタイプにはデータや根拠を示しながら、安定志向のタイプには安心感を与えながら、社交的なタイプには明るく感情豊かに、といったように、相手に合わせたコミュニケーションを心がけることで、メッセージがより受け入れられやすくなります。また、メンバーが何にモチベーションを感じるのか(達成感、承認、貢献、成長など)を理解し、それに合わせた声かけや目標設定を行うことも、エンゲージメントを高める上で重要です。
これらの対話・コミュニケーション戦略を実践することで、マネージャーはメンバーとの間に強固な信頼関係を築き、一人ひとりの個性と可能性を最大限に引き出し、自律的な成長を力強くサポートすることができるようになります。
5. 「育成文化」を根付かせる!マネージャーと組織が取り組むべきこと
効果的な人材育成は、優れた「仕組み」と質の高い「対話」だけで完結するものではありません。それらが組織全体に浸透し、持続的に機能するためには、「人を育てる」ことが当たり前とされる組織文化、すなわち**「育成文化」**を醸成することが不可欠です。育成文化を根付かせるためには、マネージャー個人の努力だけでなく、組織全体でのコミットメントと継続的な取り組みが求められます。
- マネージャーの役割変革とスキルアップ支援 育成文化醸成のキーパーソンとなるのは、現場のマネージャーです。マネージャーには、単なる業績管理者(プレイヤー)ではなく、部下の成長を支援する育成者・支援者としての役割が強く求められます。そのためには、部下の話を傾聴し、質問を通じて内省を促すコーチングスキルや、経験豊富な先輩としてアドバイスや精神的な支えとなるメンタリングスキルの習得が重要になります。 企業は、マネージャーに対してこれらのスキルを学ぶための研修機会を提供したり、外部のコーチによる個別コーチングを提供したりするなど、マネージャー自身の成長を支援する体制を整える必要があります。また、マネージャー同士が育成に関する悩みや成功事例を共有し、学び合える場(マネージャー向けの勉強会やコミュニティなど)を設けることも有効です。
- 経営層からの明確なメッセージ発信とコミットメント 育成文化を組織に根付かせるためには、経営層が人材育成の重要性を明確に認識し、その方針を社内外に繰り返し発信することが極めて重要です。「人は会社の最も重要な財産である」「社員の成長なくして会社の成長なし」といったメッセージを経営トップ自らが語り、育成への投資を惜しまない姿勢を示すことで、組織全体の意識が変わっていきます。経営会議などの場で人材育成に関する議論を定期的に行い、具体的な施策の進捗を確認するなど、経営層の本気度を示すことが求められます。
- 育成マインドの醸成と成功事例の共有 組織全体に「人を育てることは大切だ」「部下や後輩の成長を支援したい」という育成マインドを浸透させることも重要です。人材育成の意義や目的を社内報やイントラネットなどで繰り返し伝えたり、育成に成功している部署や個人の事例を積極的に共有したりすることで、他の社員の関心や意欲を高めることができます。新入社員研修や階層別研修など、様々な機会を通じて、育成の重要性について語りかけることも有効です。
- 組織全体での連携と役割分担 人材育成は、人事部や直属の上司だけが行うものではありません。効果的な育成を実現するためには、経営層、人事部、現場のマネージャー、そして育成される本人も含めた組織全体での連携が不可欠です。人事部は、全社的な育成体系の設計、研修プログラムの提供、育成ツールの導入支援などを担います。現場のマネージャーは、日々のOJTや1on1を通じた個別指導、キャリア相談などを担当します。それぞれの役割を明確にし、互いに協力し合いながら育成を進めていく体制を構築することが重要です。
- 継続的な改善サイクルの確立 育成の仕組みや施策は、一度作ったら終わりではありません。ビジネス環境や組織の状況は常に変化するため、定期的にその効果を測定し、見直し、改善していくプロセス(PDCAサイクル)を回し続けることが重要です。育成目標に対する達成度、従業員満足度調査、エンゲージメントサーベイ、離職率、研修効果測定などの**KPI(重要業績評価指標)**を設定し、そのデータを分析することで、育成施策の有効性を客観的に評価できます。その結果に基づき、育成プログラムの内容を改訂したり、新たな施策を導入したりするなど、常により良い育成を目指して改善を続けていく姿勢が求められます。
育成文化の醸成には時間がかかります。しかし、これらの取り組みを粘り強く続けることで、「人を大切にし、育てること」が組織のDNAとなり、持続的な成長を支える強固な基盤となるのです。
6. まとめ:未来を切り拓く、「人を育てる組織」への変革
本稿では、変化の激しい現代において、企業の持続的な成長を実現するために不可欠な「営業人材育成」について、その重要性から、多くの企業が直面する課題(壁)、そしてその壁を乗り越えるための具体的なアプローチとして「仕組み化」と「対話力」の向上、さらにそれらを組織文化として根付かせるための取り組みまで、多角的に解説してきました。
改めて強調したいのは、人材育成は、もはや単なる人事施策ではなく、企業の未来を左右する重要な経営戦略であるということです。顧客の期待に応え、変化に対応し、新たな価値を創造できる人材をいかに育成し、組織に定着させられるかが、これからの企業の競争力を決定づけると言っても過言ではありません。
効果的な人材育成を実現するためには、「仕組み」と「対話」の両輪をバランス良く回していくことが不可欠です。 標準化された育成プロセスやナレッジ共有基盤といった**「仕組み」は、属人性を排除し、効率的かつ再現性のある育成を可能にする土台となります。 一方で、高頻度・短時間で行われる質の高い1on1や、心理的安全性の高い環境におけるオープンなコミュニケーションといった「対話」は、メンバー一人ひとりの個性と可能性を引き出し、自律的な成長を加速させるエンジンとなります。 そして、これらの取り組みが組織全体に浸透し、継続的に実践される「育成文化」**があってこそ、人材育成は真の成果を発揮し、組織の持続的な成長へと繋がっていくのです。
もちろん、「人を育てる組織」への変革は一朝一夕に成し遂げられるものではありません。時間も労力もかかりますし、試行錯誤も必要でしょう。しかし、未来への投資として人材育成に本気で取り組み、着実な一歩を踏み出すことの価値は計り知れません。
まずは、自社の営業組織の現状を見つめ直し、どこに育成の「壁」が存在するのかを特定することから始めてみてはいかがでしょうか。そして、「仕組み化」と「対話」の観点から、できることから少しずつ改善に取り組んでみてください。例えば、OJTマニュアルの一部を見直す、1on1の頻度を少しだけ上げてみる、成功事例をチーム内で共有する機会を設ける、といった小さな変化の積み重ねが、やがて大きな成果へと繋がっていくはずです。
貴社の営業組織が、人を育て、人が育つことで、より強く、より持続的に成長していくことを心より願っております。
もしお力になれることがございましたらお気軽にご連絡ください。