なぜ部下は昇進を嫌がるのか? 次世代リーダーを育む、魅力的な管理職と育成の仕組みづくり

はじめに

近年、多くの企業で「マネージャー候補が管理職になりたがらない」という声が聞かれます。優秀なプレイヤーとして活躍している社員に対し、期待を込めて管理職への昇進を打診しても、難色を示されたり、断られたりするケースが増えているのです。これは、単に個人のキャリア観の変化だけでなく、企業側の管理職に対する魅力づけや育成体制に課題がある可能性を示唆しています。

なぜ、かつては多くのビジネスパーソンが目指した「管理職」というポジションが、現代において敬遠される傾向にあるのでしょうか? そして、企業はこの課題にどう向き合い、次世代のリーダーを育成していくべきなのでしょうか?

本稿では、社員が管理職になりたがらない背景にある理由を深掘りし、魅力ある管理職像の提示と、それを支える育成体制の構築について、具体的な方策を探っていきます。特に、貴社のような営業組織においては、現場のプレイングマネージャーの負担増や、育成の属人化といった課題も絡み合い、より深刻な問題となりがちです。本稿が、貴社の組織力強化と持続的な成長への一助となれば幸いです。

なぜ社員は管理職になりたがらないのか? 7つの背景

社員が管理職への昇進をためらう理由は、一つではありません。個人の価値観やキャリアプラン、そして企業側の環境要因が複雑に絡み合っています。主な理由として、以下の7点が挙げられます。

1. 責任と負担の増大に対する懸念

最も一般的な理由の一つが、責任範囲の拡大と業務負担の増加です。管理職は、自身の業務遂行能力だけでなく、チーム全体の成果に責任を負います。部下の目標達成支援、労務管理、育成、評価、時には部門間の調整役など、その役割は多岐にわたります。プレイヤー時代のように自身の成果だけを追求すれば良いわけではなくなり、精神的なプレッシャーも増大します。「責任だけが増えて、見返り(給与や権限)が少ない」と感じる社員は少なくありません。特に、プレイングマネージャーの場合は、自身のプレイヤーとしての目標達成とマネジメント業務の両立を求められ、過重労働に陥りやすい状況も散見されます。

2. ワークライフバランスへの影響

管理職になると、業務時間の増加や突発的な対応(部下のトラブル、クレーム対応など)により、プライベートな時間を確保しにくくなるというイメージを持つ社員は多いです。実際に、長時間労働が常態化している管理職を間近で見ていると、「自分もああなるのか」と昇進に二の足を踏むのは自然な反応でしょう。働き方改革が叫ばれる中、仕事一辺倒ではない、多様な働き方やライフスタイルを重視する価値観が広がっていることも、この傾向に拍車をかけています。

3. マネジメントスキルへの不安

「自分にマネジメントが務まるだろうか」というスキル面での不安も大きな要因です。プレイヤーとして優秀であることと、マネージャーとして優秀であることは、求められる能力が異なります。プレイヤーとしては自身の専門性やスキルを磨けばよかったものが、マネージャーにはコミュニケーション能力、指導力、問題解決能力、意思決定力など、対人関係や組織運営に関する多様なスキルが求められます。十分な研修やサポート体制がないまま管理職に任命されることへの不安は、昇進をためらわせる大きな理由となります。特に、効果的なマネジメントや育成方法を体系的に学んだ経験がないまま昇進するケースも多く、手探り状態でのスタートに不安を感じるのです。

4. プレイヤーとしての仕事への愛着・専門性の追求志向

自身の専門分野や担当業務に強い愛着を持ち、「プレイヤーとして現場で活躍し続けたい」「専門性をさらに深めたい」と考える社員もいます。彼らにとって、管理職になることは、現場から離れ、間接的な業務が増えることを意味します。これは、自身のキャリアプランや仕事のやりがいと相反する場合があり、昇進を魅力的に感じられない理由となります。スペシャリストとしてのキャリアパスが十分に整備されていない企業では、この傾向がより顕著になります。

5. 魅力的なロールモデル(管理職)の不在

身近にいる管理職が、疲弊していたり、部下との関係に苦労していたり、楽しそうに仕事をしていないように見えたりすると、「自分もああなりたくない」と感じてしまいます。逆に、尊敬できる、目標となるような管理職が身近にいれば、「あの人のようになりたい」とポジティブな動機付けになります。しかし、多くの企業でマネージャー自身も育成方法を学んでいなかったり、プレイングマネージャーとして多忙を極めていたりする現状があり、若手・中堅社員にとって魅力的なロールモデルとなり得ていないケースが少なくありません。

6. 人間関係のストレス増大への懸念

管理職は、部下との関係構築、時には厳しい指導や評価、部門間の利害調整など、人間関係におけるストレスが増えるポジションです。部下のタイプは様々であり、一人ひとりに合わせたコミュニケーションや指導方法を見つけることは容易ではありません。「人に指示したり、評価したりするのが苦手」「対立や衝突は避けたい」と考える社員にとって、管理職は精神的な負担が大きいと感じられます。特に、社内のしがらみや立場から本音で話しにくい状況があると、そのストレスはさらに増大します。

7. キャリアパスの不透明さ

管理職になった後のキャリアパスが不明確であることも、昇進をためらわせる一因です。「課長になった後はどうなるのか?」「その先のキャリアは描けるのか?」といった疑問に対し、企業側が明確な道筋を示せていない場合、管理職になることがゴールのように感じられ、その先の成長イメージを持てなくなってしまいます。

これらの理由は、単独で存在するのではなく、複合的に絡み合って「管理職になりたくない」という感情を生み出しています。企業側は、これらの背景を理解した上で、対策を講じる必要があります。

放置するとどうなるか? 管理職不足がもたらす経営リスク

管理職になりたいと考える社員が減少し、候補者不足が深刻化すると、企業経営に様々な悪影響が及びます。

  • 次世代リーダーの枯渇・組織の硬直化: 将来の経営幹部候補となる人材が育たず、組織の新陳代謝が滞ります。変化への対応力が低下し、組織全体の活力が失われる可能性があります。
  • 既存管理職の負担増・疲弊: 管理職候補が不足すると、既存の管理職がより多くの責任や業務範囲を抱え込むことになります。結果として、バーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こし、離職につながるリスクも高まります。
  • 育成の質の低下・若手/中堅社員の成長鈍化: マネージャーが多忙で育成に時間を割けない、あるいは育成スキルが不足している場合、部下の成長機会が失われます。個々の能力が十分に引き出されず、組織全体のパフォーマンス向上も期待できません。これは、貴社が指摘するように「育成の頻度と深度」の不足が成長スピードを鈍化させる典型例です。
  • 属人的な組織運営とパフォーマンスの不安定化: 体系的なマネジメントや育成の仕組みが構築されず、個々の管理職の能力や経験に依存した属人的な組織運営に陥りがちです。これにより、組織としてのパフォーマンスが安定せず、スケールすることも難しくなります。
  • 離職率の増加・採用/育成コストの増大: 成長実感を得られない、適切なサポートを受けられないと感じる社員は、エンゲージメントが低下し、離職を選択する可能性が高まります。結果として、採用コストや再育成コストが増大するという悪循環に陥ります。
  • 事業成長の停滞: リーダーシップを発揮する人材が不足し、組織力が低下すれば、新たな事業展開やイノベーションの創出も困難になり、企業の持続的な成長が阻害されます。

このように、管理職不足は単なる人事上の問題ではなく、経営全体に影響を及ぼす深刻なリスクなのです。

魅力ある管理職と育成体制をどう作るか?

では、社員が「なりたい」と思えるような魅力的な管理職像を提示し、安心してその役割を担えるような育成体制を構築するには、どうすれば良いのでしょうか? 重要なのは、「管理職という役割そのものの魅力化」と、「管理職を支え、育てる仕組みの構築」の両輪で取り組むことです。

ステップ1:管理職という「役割」を魅力的にする

まず、管理職というポジション自体の魅力度を高める必要があります。

  • 役割と責任範囲の明確化: 「何をする役割なのか」「どこまでが責任範囲なのか」「どのような権限を持つのか」を明確に定義します。曖昧な期待や責任の押し付けは、負担感と不公平感を生みます。
  • 権限委譲と意思決定プロセスの整備: 責任に見合った権限を委譲し、管理職が自律的に意思決定できる環境を整えます。マイクロマネジメントは管理職の意欲を削ぎます。
  • 適切な評価と報酬制度: チームの成果だけでなく、部下育成への貢献度やマネジメント行動自体も評価対象とし、報酬に反映させる仕組みを検討します。プレイヤー時代の給与を単純に上回るだけでなく、その責任と貢献に見合ったインセンティブが必要です。
  • 業務負担の軽減策: プレイングマネージャーの業務負荷が高い場合は、プレイヤー業務とマネジメント業務の比率を見直したり、サポート担当をつけたり、業務を分担したりするなどの対策を検討します。また、管理職が本来注力すべき業務(部下育成、戦略立案など)に集中できるよう、ノンコア業務(事務作業など)のアウトソースや効率化も有効です。
  • ワークライフバランスへの配慮: 管理職も柔軟な働き方(リモートワーク、フレックスタイムなど)を選択できるようにしたり、長時間労働を是正するための具体的な取り組みを進めたりすることが重要です。会社として、管理職の健康とプライベートな時間も尊重する姿勢を示すことが求められます。
  • 管理職の「やりがい」の可視化: 部下の成長を支援する喜び、チームで目標を達成する達成感、組織や事業に貢献する実感など、管理職ならではの「やりがい」を社内で積極的に発信し、共有することも有効です。成功体験を持つ管理職のストーリーを共有するなどが考えられます。

ステップ2:「育成体制」を抜本的に見直す

管理職への不安を取り除き、自信を持って役割を遂行できるよう、育成体制を強化することが不可欠です。従来の画一的な研修やOJT依存の育成には限界があります。これからの時代に求められるのは、個々の特性や状況に合わせた、継続的で深い関与を伴う育成、すなわち「伴走型」のアプローチです。

  • 管理職候補の早期発見と育成: 潜在的なリーダーシップを持つ人材を早期に見つけ出し、管理職になる前から必要なスキルやマインドセットを育成するプログラム(リーダーシップ研修、メンター制度など)を導入します。貴社が提供する「営業組織の人材育成力診断」や「育成最適化のための営業タイプ診断」のようなアセスメントツールを活用し、客観的なデータに基づいて候補者を選定し、個々に合った育成プランを設計することも有効でしょう。
  • 就任前後の手厚いサポート: 新任管理職に対しては、特に手厚いサポートが必要です。就任前研修だけでなく、就任後も定期的なフォローアップ研修や、先輩マネージャーによるメンタリング、コーチングなどを提供します。特に最初の数ヶ月間は、不安や疑問をすぐに相談できる相手がいることが、スムーズな立ち上がりに不可欠です。
  • 継続的な学習とスキルアップの機会提供: マネジメントスキルは一度学べば終わりではありません。変化の激しい時代に対応できるよう、定期的な研修や勉強会、外部セミナーへの参加支援など、継続的に学び続けられる機会を提供します。
  • 「頻度」と「深度」を重視したコミュニケーション: ここで重要になるのが、貴社が提唱する「頻度×深度」の考え方です。管理職自身も、上司や人事部、あるいは外部の専門家と、定期的かつ質の高い対話を持つことが極めて重要です。
    • 高頻度の接点: 週に1回、月に1回の面談では、日々の現場で起こる細かな変化や管理職自身の悩み、試行錯誤に対応するには不十分です。例えば、貴社の「毎日15分」のような高頻度の1on1は、管理職自身の悩みや課題をタイムリーに共有し、その場で解決策を考えたり、アドバイスを受けたりすることを可能にします。これにより、管理職は一人で問題を抱え込むことなく、安心して日々のマネジメントに取り組むことができます。
    • 深い対話(深度): 単なる業務報告ではなく、管理職自身の悩み、部下との関係性、チーム運営上の課題など、本音で話せる心理的安全性の高い場が必要です。利害関係のない「社外のプロ」だからこそ、管理職は内部では話しにくい本音や弱音も吐露しやすくなります。客観的な視点からのフィードバックや、多様な事例に基づくアドバイスは、管理職自身の視野を広げ、新たな気づきや行動変容を促します。
  • マネージャー自身の「育成力」向上支援: 優秀な管理職は、部下を育成する能力にも長けています。管理職に対して、コーチングスキルやフィードバックスキル、部下のタイプ別指導法などを学ぶ機会を提供し、「人を育てる人」としての能力開発を支援します。貴社が提供する「マネージャーへの個別コーチング」は、まさにこの部分を強化するサービスと言えるでしょう。管理職が部下一人ひとりの特性を理解し、適切なアプローチで育成できるよう支援することで、組織全体の育成力が底上げされます。
  • 管理職同士のコミュニティ形成: 管理職同士が悩みを共有したり、成功事例を学び合ったりできる場(社内SNS、定期的な情報交換会など)を設けることも有効です。横のつながりは、孤独感を軽減し、相互学習を促進します。

これらの育成体制を構築することで、社員は「自分でもマネージャーになれるかもしれない」「会社がしっかりサポートしてくれるなら挑戦してみよう」と感じられるようになります。

育成を「仕組み」で支える重要性

魅力的な役割設計と手厚い育成体制を構築しても、それが個々の管理職の頑張りだけに依存していては、持続的な成果にはつながりません。大切なのは、これらの取り組みを「仕組み」として組織に定着させることです。

  • 育成プロセスの標準化と見える化: 誰が管理職になっても一定水準以上のマネジメントや育成が実践できるよう、育成のプロセスや用いるツール(面談シート、評価基準など)を標準化し、組織全体で共有します。
  • データの活用: 従業員サーベイや育成診断、1on1の記録などを活用し、管理職の育成状況や課題、部下のエンゲージメントなどを定期的に測定・分析します。データに基づいて、育成施策の効果検証や改善を継続的に行います。
  • 経営層のコミットメント: 経営層が人材育成の重要性を理解し、管理職育成に対して時間的・金銭的リソースを投資する姿勢を明確に示すことが不可欠です。経営層自らが育成に関与し、管理職を励ますメッセージを発信することも有効です。

貴社が提供する「毎日1on1」という仕組みは、まさに育成における「頻度」と「深度」を担保し、個々の成長を加速させるための具体的な「仕組み」の一例と言えます。このような効果的な仕組みを導入し、組織全体で運用していくことが、属人化を防ぎ、再現性のある育成体制を構築する鍵となります。

まとめ:未来への投資としての管理職育成

「管理職になりたくない」という社員の声は、単なる個人のわがままではなく、これまでの管理職のあり方や育成方法に対する警鐘と捉えるべきです。その背景にある負担感や不安、魅力の欠如といった課題に真摯に向き合い、「魅力ある役割」と「安心できる育成体制」を両輪で整備していくことが、これからの企業に求められています。

特に、変化が激しく、個の力が重要視される現代においては、画一的な研修や低頻度の関与では、人材のポテンシャルを最大限に引き出すことは困難です。一人ひとりの特性を見極め、日々の小さな変化に寄り添いながら、継続的に成長を支援する「伴走型」のアプローチが不可欠です。高頻度・高深度の対話を通じて、管理職候補者、そして現役の管理職自身の成長を加速させ、自信を持ってリーダーシップを発揮できる環境を整えることが、組織全体の活力を生み出します。

管理職育成は、目先のコストではなく、企業の未来を創るための重要な「投資」です。魅力的な管理職が次々と育ち、彼らがさらに次の世代を育てていく。そのような好循環を生み出すことができれば、貴社は変化に強く、持続的に成長できる組織へと進化していくことができるでしょう。

もし、貴社が「管理職候補が育たない」「マネージャーの負担が大きい」「育成の仕組みをどう作ればいいか分からない」といったお悩みを抱えていらっしゃるなら、一度立ち止まって、自社の管理職のあり方と育成体制を見直してみてはいかがでしょうか。外部の専門家の知見やサービスを活用することも、有効な選択肢の一つです。

CsMでは、営業組織に特化した「伴走型」の人材育成・組織力強化サービスを提供しています。特に、育成に必要な「頻度」と「深度」を担保する「毎日15分の1on1」は、管理職候補者や新任管理職の早期立ち上がり、そして既存管理職のマネジメント力・育成力向上に大きな効果を発揮します。社外のプロフェッショナルが客観的な視点で、一人ひとりの特性に合わせた最適なサポートを提供し、「人を育てる人」の育成を通じて、貴社の組織全体の成長を力強く後押しします。ご興味がございましたら、お気軽にお問い合わせください。