多くの企業の経営者や営業責任者の方々とお話しする中で、頻繁に耳にする切実な悩みがあります。それは、「営業組織をしっかりと任せられるマネージャーがいない」「優秀な営業担当をマネージャーに昇格させたが、自分の目標達成で手一杯になり、チームの管理が全くできていない」というものです。
特に人員に余裕のない中小企業や成長過程にあるベンチャー企業においては、純粋な管理業務のみを行うマネージャーを置くことは難しく、プレイングマネージャーとして自ら現場の最前線に立ちながら部下の育成も担うケースが非常に多く見られます。しかし、プレイヤーとしての自身の営業目標を追いかけながら、同時に組織全体のマネジメントを行うことは、想像以上に困難を極めます。
本記事では、このような「マネージャー不在」あるいは「マネージャー機能の不全」に陥っている営業チームをどのように立て直し、メンバー一人ひとりが自分たちで考えて動ける組織へと変えていくのか、その具体的なアプローチについて解説いたします。
プレイングマネージャーの限界と「放置される現場」
なぜ、営業組織においてマネジメントが機能しなくなるのでしょうか。その最も大きな要因は、プレイングマネージャーという役割が抱える構造的な負担にあります。
経営者やトッププレイヤーがマネジメント業務を兼務すると、どうしても目の前にある自身の売上目標の達成や、顧客対応といったコア業務に多くの時間を奪われてしまいます。自分の数字を上げるための営業活動、顧客との打ち合わせ、見積書の作成などに追われ、気づけば一日が終わっているという状況に陥りがちです。
その結果として生じるのが、現場把握の難しさです。部下が日々どのような行動をとっているのか、どの商談でつまずいているのかといった状況が見えにくくなり、的確な指示や育成が後回しになってしまいます。
現場のメンバーから見れば、上司は常に忙しそうにしており、業務上の相談をしたくても声をかけづらい雰囲気が漂っています。マネージャー側に部下と向き合う時間と心に余裕がないため、部下は「忙しい上司の時間を奪ってはいけない」と遠慮したり、自分の評価を気にして失敗や弱音を隠したりするようになり、本当の悩みや本音を話せない環境ができあがってしまいます。
このようなコミュニケーション不足の環境が長く続くと、若手や経験の浅いメンバーは適切な指導を受けられないまま放置され、我流で営業を行うようになります。「どうすれば成長できるのかわからない」「このやり方で合っているのか不安だ」という不満や孤独感が蓄積し、成果が出ないまま時間だけが過ぎていく事態を招きます。月に1回程度の形式的な面談が行われていたとしても、日常的な細かいフォローやフィードバックがない状態では、メンバーの行動を根本から良い方向へ変えることは困難です。
立て直しのステップ1:感覚ではなく事実に基づき現状を把握する
では、このように疲弊し停滞した状況からどのように抜け出せばよいのでしょうか。最初に取り組むべきことは、思い込みや感覚的な判断を捨てて、組織の現状を客観的な事実に基づいて正確に把握することです。
マネージャーが十分に機能していない組織では、「なぜ売上が上がらないのか」「なぜ失注が続くのか」といった原因の分析が、個人の感覚や「もっと気合を入れろ」「行動量が足りない」といった精神論に終始しがちです。そうではなく、営業活動のプロセスのどこに問題が潜んでいるのかをデータで明らかにすることが重要です。
例えば、見込み客の獲得からアポイントの取得、初回商談、提案、そして契約に至るまでの一連の流れにおいて、どの段階で数字が大きく落ち込んでいるのかを確認します。アポイントは順調に取れているものの、その後のクロージングに繋がらず機会損失が生じているのか、それともそもそも初期のアプローチ段階でつまずいているのか。
問題が発生している具体的な箇所が明確になれば、チーム全体でどの部分を優先して改善すべきかの焦点が定まります。リソースが限られている中で場当たり的な指導を繰り返すのではなく、データに基づいてボトルネックを特定し、そこに的を絞って対策を打つことが、状況改善に向けた最も確実なアプローチとなります。
立て直しのステップ2:「管理」から「個と向き合う育成」へのシフト
現状の課題が見えてきたら、次に取り組むべきはメンバーの育成方法の見直しです。マネージャーが常に手厚く管理・監視できない環境だからこそ、メンバー一人ひとりが自ら考えて最適な行動を選択できる力を身につける必要があります。
しかし、時間をかけて全員に同じ内容を教え込む画一的な研修を行っても、それが現場ですぐに実践できるとは限りませんし、人は本当の意味では成長しません。そこで強く推奨したいのが、定期的な「1on1(ワンオンワン)」の導入です。
ここでお伝えする1on1は、単なる業務の進捗確認や、目標未達に対する「詰め」の場ではありません。メンバーの「個」に徹底的に寄り添い、日々の業務の中で感じる小さな変化や悩み、つまずきと向き合うための時間です。
部下が現在直面している本当の課題は何か、どのような業務にやりがいを感じるのか、得意なアプローチ方法や苦手な作業は何か。対話を通じて相手の本音を丁寧に引き出し、その人の特性や強みに合わせた具体的な行動計画を一緒に考えていきます。
上司から「ああしろ、こうしろ」と一方的な正解を押し付けるのではなく、「今の状況をどう見ているか」「どうすればうまくいくと思うか」と問いかけ、メンバー自身に考えさせるコーチングのアプローチを取り入れます。これにより、やらされ感で仕事をする状態から脱却し、メンバー自身の主体性を引き出すことができます。週に30分でも、純粋に相手の成長のためだけに使う時間を確保することで、これまで放置されていると感じていたメンバーは「自分のことをしっかり見てくれている」という安心感を得て、前向きに、そして自律的に業務に取り組むようになります。
立て直しのステップ3:チーム全体で課題を解決する文化を醸成する
最後に行うべきは、個人の努力や成長を、チーム全体の成果へと繋げる仕組みづくりです。マネージャー不在の組織では、個々人がバラバラに動き、目標に対する意識も「自分に割り当てられたノルマさえ達成すればよい」という個人主義に陥りがちです。これでは組織としての相乗効果は生まれません。
この状態を打破するためには、個人の目標と同時に、部門やチーム全体の目標を全員で共有し、同じ方向を向く体制を作ることが有効です。そして、定期的にチーム全員が集まる会議の質を根本から変えます。
単なる数字の報告会にするのではなく、実際の失注案件やうまくいった成功案件を取り上げ、「なぜあの提案は通らなかったのか」「どうすれば次の商談に繋がるのか」をチーム全体で建設的に話し合う場にします。誰かを責めるような感覚的な反省会ではなく、事実に基づいた対話を行うことで、本質的な課題を特定し、次に行うべき改善の仮説を立てることができます。
このような場を習慣化することで、誰かが業務で困っていればチームの仲間が助け合い、成功した良いやり方があれば組織全体ですぐに共有するという文化が自然と醸成されます。一人の有能なマネージャーにすべてを依存するのではなく、チームのメンバー同士が互いに主体性を引き出し合い、共に成長していく強固な関係性が構築されるのです。
まとめ:外部の視点を取り入れる有効性
「マネージャー不在」という状況は、組織にとって大きなピンチに見えますが、見方を変えれば、古い管理型の組織から、一人ひとりが自律して動く自走型の組織へと生まれ変わるための良い機会でもあります。事実に基づき現状を把握し、1on1を通じて個人の主体性を引き出し、チーム全体で課題を解決する仕組みを作ることができれば、組織は必ず良い方向へと動き出します。
しかしながら、「社内の人間関係があるため、どうしても評価を気にして本音が言いづらい」「そもそもプレイングマネージャーとして多忙を極め、1on1を正しく行うノウハウや時間が決定的に不足している」といった、社内環境ならではの構造的な限界が存在することも事実です。変わりたいという意欲があっても、変われない構造が組織の中に根付いていることは珍しくありません。
自社内だけの取り組みに行き詰まりを感じた際は、外部の専門的な視点やサポートを取り入れることも、現状を打破する有効な選択肢の一つです。外部の第三者が介入することで、評価を気にせず話せる安全な場が提供され、社内では言いづらかった本音が引き出されることで、本当の課題が見えてくることが多々あります。
組織の立て直しに向けた具体的な方針や、人材育成の仕組みづくりについてお悩みがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。現状を客観的に見つめ直し、組織が自ら成長し始めるためのサポートをさせていただきます。
