優秀な営業担当者が昇進し、マネージャーになった途端、チーム全体の成績が伸び悩む。経営者や営業責任者の皆様であれば、一度はこのような壁に直面したことがあるのではないでしょうか。
彼らはプレイヤーとしては非常に優秀です。しかし、マネージャーの仕事は「自分が売ること」ではありません。「チームのメンバーに売らせること」、そして「チームで勝つこと」です。
本日のコラムでは、プレイングマネージャーが陥りやすい罠を紐解き、チーム全体で目標を達成するための具体的な弱点克服法と組織づくりのポイントについてお伝えします。
プレイングマネージャーが陥りやすい「一人で勝とうとする」罠
多くの営業組織において、マネージャーは自分自身も目標数字を持つ「プレイングマネージャー」として活動しています。経営者やプレイングマネージャーが業務を兼務し、自分の数字を追いかけながら、部下のマネジメントも行わなければならない状況は、想像以上に過酷です 。
月末が近づき、チームの未達が見えてくると、マネージャーはどうするでしょうか。多くの場合、部下を指導して数字を上げさせるよりも、「自分で売ってきたほうが早い」と判断し、自ら率先して数字を作りに行ってしまいます。
たしかに、その月の目標は達成できるかもしれません。しかし、この行動はチームの成長を著しく阻害します。マネージャーが一人で数字をカバーし続ける限り、メンバーは「最後はマネージャーがなんとかしてくれる」という甘えを抱き、いつまで経っても自分ごととして目標に向き合うようにはなりません。
また、マネージャー自身も日々のプレイング業務に多忙を極め、部下一人ひとりに深く向き合う時間と余裕がなくなります 。その結果、部下への指導は月に1回程度の形式的な面談や、数字の進捗確認だけにとどまってしまいます 。これでは、メンバーが日々の営業活動のどこでつまずいているのか、何に悩んでいるのかを的確に把握し、育成することは困難です 。
チームの目標が「他人事」になっていませんか?
このような状態が続くと、組織内にどのような空気が蔓延するでしょうか。
メンバーは自分の与えられた目標をこなすことだけで精一杯になり、チーム全体の目標に対する意識が薄れていきます。「自分が未達でも、誰かがカバーしてくれるだろう」「部門の目標はマネージャーが責任を持つものだ」というように、部門目標が完全に「他人事」になってしまうのです 。
さらには、上司や社内の人間に対して評価を気にするあまり、失敗や悩みを隠すようになります 。本当は課題があるのに、評価への不安から隠したり取り繕ったりしてしまう 。その結果、マネージャーには現場の本当の悩みが共有されず、的外れな対策や指示ばかりが繰り返されることになります 。
これでは、メンバーに「やらされ感」ばかりが募り、根本的な成長や前向きな行動の変化は期待できません 。
「管理」から「伴走」へ。マネージャーの役割を再定義する
では、この状況を打破し、「チームで勝つ」組織を作るためにはどうすればよいのでしょうか。
一番のポイントは、マネージャー自身の意識と行動を変えることです。マネージャーの役割を、数字を「管理する」ことから、メンバーの成長に「伴走する」ことへと転換する必要があります。
部下が失敗したときや数字が上がらないとき、「なぜ売れないんだ」「もっと行動量を増やせ」と一方的に指示や叱責をするのは管理です。そうではなく、マネージャーにはコーチングを行い、メンバーの主体性を引き出すサポートを行う姿勢が求められます 。
マネージャーの仕事は、メンバーの弱点や課題を見つけ出し、それを克服するための伴走を行うことです。そのためには、まずメンバーの現状を正確に把握し、何につまずいているのかを理解しなければなりません。
対話で本音と弱点を引き出す「1on1」の重要性
メンバーの現状を把握し、伴走するための具体的な手法として強くお勧めしたいのが、定期的な「1on1」の実施です。
営業現場において、「もっと一人ひとりに向き合った指導があれば」「全員に同じことを言うのではなく、自分に合ったアドバイスが欲しい」と感じるメンバーは少なくありません 。画一的な研修や頻度の少ない面談だけでは、人は本当の意味で成長できません 。だからこそ、徹底的に「個」に寄り添い、日々の小さな変化と向き合う1on1が効果を発揮します 。
1on1の場では、上司から一方的に話すのではなく、部下の話を傾聴することに徹します。個人の強みや課題に合わせたアクションプランを設計し、伴走して実行を促します 。
「最近、商談で困っていることはない?」 「うまくいかなかった案件について、一緒に原因を考えてみようか」
このように、弱点を責めるのではなく、成長のための課題として前向きに捉える声かけを行うことで、メンバーは少しずつ心を開き、本当の悩みを打ち明けてくれるようになります。
弱点を責めず、チームの課題として解決する文化を作る
1on1を通じて個人の弱点や課題が見えてきたら、次はそれをチーム全体の資産として活かす仕組みを作ります。
営業活動において失注や失敗はつきものです。しかし、その失敗を個人の責任として終わらせるのではなく、データから「なぜ?」を深掘りし、次の一手を導く振り返りを行います 。感覚的な反省会ではなく、事実に基づいた対話で本質的な課題を特定することが重要です 。
ある製造業の企業様では、月末に失注が多発し、部門目標を3年連続で未達という課題を抱えていました 。そこで、月末失注の原因を深掘りする案件レビューを定着させ、早期に案件ボトルネックを発見しチームで対処できる仕組みを構築しました 。
この会議の目的は、犯人探しをすることではありません。チーム全員で議論し、次の一手を考えるための場です。誰かが困っていたら声をかけ合い、チームで達成する喜びを分かち合える関係性が生まれます 。
個人の弱点をチームで補い合い、改善を繰り返すことで、個人の頑張りから脱却し、組織で勝つ仕組みが作られていきます 。
おわりに:自走する強いチームを目指して
マネージャーが一人で数字を抱え込み、プレッシャーに耐えながら戦う組織には、いずれ限界が訪れます。
チームで勝つためには、マネージャーがメンバー一人ひとりに伴走し、彼らが自ら考え、行動できる環境を整えることが求められます。組織の成長と個人の成長がリンクする、ポジティブな循環を創り出すことが理想です 。
しかし、社内の人間関係や既存の評価制度の枠組みの中では、どうしても本音での対話が難しかったり、マネージャー自身がプレイング業務から抜け出せなかったりすることもあるでしょう。
そうした場合は、外部の専門家の視点を取り入れることもひとつの方法です。第三者が入ることで、社内で言いづらかった本音を外部の対話で引き出し、行動変容につなげることが可能になります 。
外部のノウハウに頼り続けるのではなく、貴社自身が成果を出し続けられる、真に強い組織へと変革することがゴールです 。マネージャーが孤独な戦いから解放され、外部の支援なしに自ら成長し続ける「自走する営業組織」の実現に向けて 、まずはチーム内の「対話」から見直してみてはいかがでしょうか。
