頑張るリーダーほど陥る「片手落ち」の罠。目標達成と人間関係を両立するマネジメントの極意

「私がこれだけ言っているのに、なぜ彼らは動かないのだろう?」

もし今、あなたがそのような孤独感や苛立ちを感じているとしたら、それは決してあなた一人の責任ではありません。また、社員のやる気が単に低いわけでもないことがほとんどです。

多くの経営者や営業責任者が直面する、「組織が噛み合わない」という現象。 数字を追えば空気が悪くなり、空気を読めば数字が下がる。このジレンマから抜け出すために、まずはご自身のリーダーシップのスタイルを客観的な「型」に当てはめて考えてみましょう。

今回は、社会心理学者の三隅二不二氏が提唱した「PM理論」をベースに、営業組織におけるマネジメントの現在地と、そこから理想の状態へ進むための具体的なアプローチについて紐解いていきます。

営業組織を動かす2つのエンジン

PM理論では、リーダーシップを構成する要素を以下の2つの機能に分類しています。

  1. P機能(Performance function):目標達成機能 「目標を達成せよ」「期限を守れ」「ルールに従え」といった、成果を上げるための働きかけです。組織への圧力や規律と言い換えることもできます。
  2. M機能(Maintenance function):集団維持機能 「調子はどう?」「何か困っていることはない?」といった、人間関係を良好に保ち、チームのまとまりを維持するための働きかけです。

この2つの機能の強弱によって、リーダーシップは4つのタイプに分類されます。あなたの現在のスタイルは、あるいはあなたの組織のマネージャーたちのスタイルは、どこに当てはまるでしょうか。

タイプ1:Pm型(Pが強く、Mが弱い)

「成果至上主義の鬼軍曹」

営業目標の達成に対する意識が非常に高く、部下に対しても厳しく数字を求めます。 このタイプのリーダーが率いるチームは、短期的には高い成果を上げることがあります。トップダウンで指示が飛び、行動量が担保されるためです。

しかし、ここには大きな落とし穴があります。M機能(配慮やケア)が不足しているため、メンバーは「道具として扱われている」と感じやすくなります。 「売れればいいんだろう」という荒んだ空気が蔓延し、メンタル不調者が出たり、優秀な若手が突然退職したりするリスクと隣り合わせです。 特に、プレイヤーとして優秀だった「トップセールス上がり」のリーダーが陥りやすいのがこのパターンです。「なぜ自分と同じようにできないのか」という問いが、部下を追い詰めてしまいます。

タイプ2:pM型(Pが弱く、Mが強い)

「優しすぎる仲良しクラブの部長」

部下の話をよく聞き、職場の雰囲気作りを大切にします。飲み会やイベントも多く、一見すると非常に良いチームに見えます。 しかし、肝心の「目標達成への執着」が弱いため、業績は低迷しがちです。

厳しい指摘を避けるあまり、本来改善すべき行動が見逃されます。「今月は未達だったけど、みんな頑張ったから次も頑張ろう」という慰め合いが常態化し、組織としての成長が止まってしまいます。 経営者から見ると、「社員には好かれているが、成果が出せないリーダー」として映ることが多いでしょう。

タイプ3:pm型(PもMも弱い)

「無関心な放任主義者」

目標に対するプレッシャーもかけなければ、部下へのケアもしない。いわゆる「現場任せ」「放任」の状態です。 組織としてのベクトルが定まっておらず、メンバーは各自の判断で動くしかありません。これでは組織である意味が薄く、早急な改善が必要です。

タイプ4:PM型(PもMも強い)

「理想の変革型リーダー」

高い目標を掲げて厳しく成果を求めつつ(P)、同時にメンバー一人ひとりの悩みやキャリアに寄り添い、信頼関係を築いている(M)状態です。 研究によると、このPM型のリーダーが率いる組織は、生産性が最も高く、かつ従業員の満足度も高いことが証明されています。

「PM型」を目指すための現実的なステップ

当然ながら、誰もが最初から「PM型」になれるわけではありません。 多くのリーダーは、「厳しくすると人が辞める(Pmの悩み)」「優しくすると数字が落ちる(pMの悩み)」という振り子の間を行き来しながら苦しんでいます。

では、どうすればこの「P」と「M」を高いレベルで両立できるのでしょうか。 精神論やカリスマ性に頼らず、仕組みとして解決するためのアプローチがあります。

1. 「P機能」を個人の感情ではなく「仕組み」に任せる

リーダーが個人の感情で「売れ!」「やれ!」と叫ぶと、それはただの圧力となり、メンバーとの関係悪化(Mの低下)を招きます。 P機能(目標達成圧力)を、リーダーの「口」ではなく、組織の「仕組み」に担わせることが重要です。

例えば、

  • 目標と現状のギャップが誰でも一目でわかるような「可視化」を行う。
  • 行動プロセスを分解し、どこで躓いているかを客観的な数字で確認できるようにする。

こうすることで、リーダーからの指摘は「あなた個人への攻撃」ではなく、「数字という事実に基づいた問題解決の相談」に変わります。 「なぜやっていないんだ」と叱責するのではなく、「データを見るとここが止まっているようだが、何が障害になっているのか?」と問うことができます。 これにより、人間関係を損なわずに、目標達成へ向けた厳格なマネジメントが可能になります。

2. 「M機能」を飲み会ではなく「1on1」で担保する

かつては「飲みニケーション」がM機能の役割を果たしていましたが、現代においてはより意図的で、かつ業務に直結した対話の場が必要です。それが「1on1ミーティング」です。

ただし、単なる雑談や進捗確認の場にしてはいけません。 M機能を高める1on1とは、メンバーの「貢献実感」「成長実感」を引き出す時間です。

  • 貢献実感の醸成: 「君のこの動きが、チームの目標達成にこう役立っている」と具体的に承認すること。
  • 成長実感の醸成: 「先月に比べて、このスキルが向上しているね」と変化を言葉にして伝えること。

そして、ここで重要なのが、1on1はM機能(関係構築)のためだけにあるのではない、という点です。 信頼関係(M)があるからこそ、高い目標(P)に対する合意形成が可能になります。

「君には将来こうなってほしい(M)。だからこそ、今月はこの高いハードルを越えてほしい(P)」

この文脈で語られる目標は、押し付けられたノルマではなく、自身の成長のための通過点としてメンバーに認識されます。 この対話の質こそが、組織のエンゲージメントを高め、自走するチームを作る原動力となります。

営業組織を「人」と「仕組み」の両輪で回す

営業の組織づくりにおいて、リーダー一人の能力ですべてを解決しようとすることは、あまりにリスクが高いと言わざるを得ません。

カリスマリーダーが引っ張る組織は、そのリーダーがいなくなった瞬間に崩壊します。 一方で、冷徹な管理システムだけの組織は、メンバーの心が離れ、長続きしません。

目指すべきは、客観的なデータに基づいた「P機能(仕組み)」と、一人ひとりの個性や成長に寄り添う「M機能(対話・育成)」が、車の両輪のように機能している状態です。

もし、今の組織に「閉塞感」や「疲弊感」があるのなら、それはリーダーであるあなたやマネージャーの能力不足ではなく、このPとMのバランスが崩れているサインかもしれません。 あるいは、Pを伝えるための「根拠あるデータ」が不足しているか、Mを伝えるための「質の高い対話」が不足しているかのどちらかでしょう。

まずは「事実」を知ることから

組織の現状を変えるためには、まず現状を正しく認識する必要があります。 自社の営業組織が今、PM理論のどの象限にいるのか。 メンバーは今のマネジメントをどう感じているのか。 そして、個々の営業プロセスにおいて、どこに無理が生じているのか。

これらを感覚ではなく、客観的な事実として捉え直すことが、強い営業組織への転換点となります。

営業は、科学であり、同時に人間臭い営みでもあります。 数字という冷徹な事実(P)と、働く人の熱い想い(M)。 この相反するように見える二つの要素を統合できたとき、組織は驚くほどの爆発力を発揮し始めます。

あなたの組織には今、どちらの機能が足りていないでしょうか? そして、それを補うために、明日からどのような言葉をメンバーにかけますか?

組織のバランスを整え、社員が生き生きと走り出すような「自走する営業組織」作り。 そのための具体的な手法や、自社の現在地を知るための診断について、より深く考えてみてはいかがでしょうか。

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