「今月も目標達成が厳しい。しかし、なぜ届かないのか本当の原因がわからない」 「メンバーは毎日忙しそうに外出しているが、成果に結びついていない」
多くの経営者様や営業責任者様が、こうした悩みを抱えています。会議で「もっと気合を入れろ」「行動量を増やせ」と檄を飛ばしても、現場の空気は重くなるばかりで、数字は一向に改善しない。そのような経験はないでしょうか。
営業という仕事は、往々にしてブラックボックス化しがちです。担当者が外回りをしている間、具体的にどのような商談が行われ、どのプロセスでつまづいているのか、周囲からは見えにくいからです。
結果として、「売れた」「売れない」という最終的な数字だけで評価を下すことになり、プロセスの中にある本当のボトルネックが見過ごされてしまいます。
そこで有効なのが、営業活動全体を客観的な事実として捉えるための「見える化シート」の活用です。今回は、漠然とした不安を明確な課題に変え、次の一手を打つための分析手法についてお伝えします。
「結果」だけでなく「プロセス」を分解する
多くの企業で見られる日報や管理シートは、「訪問件数」や「売上金額」といった結果指標に偏っています。もちろんこれらも大切ですが、これだけでは「どこを直せばよいか」が見えてきません。
課題を特定するためのシートを作るには、営業活動を時系列のプロセスに分解する必要があります。
例えば、以下のような流れで分解します。
- リード獲得(見込み客の発見)
- アポイント取得
- 初回訪問・ヒアリング
- 提案・プレゼンテーション
- 見積もり提出
- クロージング・受注
このようにプロセスを分け、それぞれの段階における「件数」と、次のステップに進んだ「移行率(歩留まり)」を数値化します。これを一覧できるシートを作成することで、初めてチームや個人の「詰まっている場所」が浮き彫りになります。
データの「違和感」から仮説を立てる
シートができあがったら、実際の数字を当てはめてみましょう。すると、メンバーごとに全く異なる傾向が見えてくるはずです。
例えば、Aさんはアポイントの数は多いのに、初回訪問から提案に進む確率が極端に低いとします。一方でBさんは、アポイント数は少ないものの、一度訪問すれば高い確率で受注まで至っています。
もし、この「プロセス」が見えていなければ、上司はAさんに対して「もっと訪問しろ!」と指示を出してしまうかもしれません。しかし、Aさんの課題は訪問数ではなく、「ヒアリング能力」や「見極め力」にある可能性が高いのです。逆にBさんに必要なのは、クロージングの技術ではなく、単純に母数を増やすための「アポイント獲得の支援」かもしれません。
このように、プロセスごとの推移率を見ることで、感覚的な指導ではなく、論理的な改善策を打てるようになります。ここまでは一般的な手法かもしれませんが、さらに一歩踏み込んで「人」に焦点を当ててみましょう。
「マネージャー」と「メンバー」の状態も可視化する
営業の成果は、プロセスの効率性だけで決まるものではありません。それを動かす「人」の状態も大きく影響します。
見える化シートには、数字だけでなく、定性的な情報の記録も必要です。例えば、メンバーの「得意・不得意」や「モチベーションの源泉」といった要素です。
トップセールスのやり方をそのまま真似させようとして、うまくいかなかった経験はありませんか。それは、個人の資質やキャラクターを無視して、方法論だけを押し付けてしまった結果かもしれません。
論理的で緻密な提案が得意なメンバーもいれば、人間関係の構築や懐に入るのが上手なメンバーもいます。それぞれの個性が、どのプロセスで活きているのか、あるいはどのプロセスで足かせになっているのか。ここまで分析できて初めて、組織としての強みが見えてきます。
また、マネージャー自身の動きも振り返る必要があります。 「メンバーの数字管理ばかりしていないか?」 「部下の強みを見つけて伸ばす動きができているか?」 そうしたマネージャー自身の関わり方も、客観的に見つめ直す項目としてシートに加えておくことをお勧めします。
1on1ミーティングでの活用法
この「見える化シート」が最も威力を発揮するのは、メンバーとの1on1ミーティングの場です。
従来の面談では、どうしても「なぜ売れないんだ」という詰め寄りや、「頑張ります」という精神論の応酬になりがちでした。しかし、プロセスのデータが手元にあれば、対話の質が劇的に変わります。
上司は「君はダメだ」と人格を否定するのではなく、「データを見ると、提案の段階で失注することが多いようだね。一緒に原因を考えてみよう」と、**コト(事象)**に焦点を当てて話すことができます。
これにより、メンバーも言い訳をする必要がなくなり、建設的な議論ができるようになります。
「実は、競合との比較表を作るのが苦手で……」 「ヒアリングでお客様の本当の課題を聞き出せている自信がありません」
こうした本音を引き出すことができれば、上司は具体的なアドバイスやトレーニングを提供できます。
ここが非常に重要です。ただ数字を管理するのではなく、**「メンバーが自分の課題に気づき、成長するための材料」**としてデータを使うのです。これこそが、人が育つ組織を作るための要諦です。
小さな改善の繰り返しが大きな成果を生む
課題が見つかったら、いきなりすべてを変えようとする必要はありません。 「まずはヒアリングの項目を3つだけ変えてみよう」 「アポイントのトークスクリプトの冒頭だけ修正してみよう」 このように、明日から実行できる小さなアクションプラン(Baby Step)を設定します。
そして、1週間後、2週間後に再びシートを見て、数字に変化があったかを確認します。小さな変化であっても、成果が出ればメンバーの自信につながり、仕事を楽しむ余裕が生まれてきます。
営業活動の見える化は、決して社員を監視するためのものではありません。 むしろ、社員一人ひとりが迷わずに走り出し、自分の強みを発揮して成果を出すための「地図」を持たせてあげる行為と言えます。
組織全体で共通の指標(地図)を持ち、データに基づいた対話を繰り返すこと。それができれば、特定のスタープレイヤーに依存することなく、組織全体で安定して成果を出し続ける体制が整っていきます。
まずは手元のExcelやスプレッドシートでも構いません。営業プロセスを分解し、どこにボトルネックがあるのかを書き出すことから始めてみてはいかがでしょうか。
営業活動の「見える化」を自社だけで進めるには、客観的な視点の確保やデータの定義づけなど、意外と多くの労力を要します。 「自社の場合はどのようにプロセスを分解すべきか?」 「データは出たが、そこからどう人材育成につなげればよいか?」 そうした疑問をお持ちでしたら、ぜひ一度ご相談ください。貴社の現状に合わせた最適な「見える化」の設計と、それを活用した組織改善の第一歩をご支援いたします。
