最近の営業組織のマネジメントにおいて、「メンバーの個性を活かす」「自主性を尊重する」「細かく管理せずに自由にやらせる」といった方針を掲げる企業が増えています。時代の流れとしても、ガチガチの管理型マネジメントよりも、個人の裁量を大きくする方向へシフトしているのは間違いありません。
しかし、経営者や営業責任者の方々と日々お話をしていると、この「個性を活かす」という言葉の解釈を誤り、結果的にメンバーを「放置」してしまっているケースに直面することが多々あります。
「自由にやってみて」と伝えたものの、一向に成果が上がらない。 メンバーが何に悩み、どこでつまずいているのか見えてこない。 結果として、営業活動が場当たり的なものになり、組織全体の方向性が定まらない 。
このような悩みを抱えている場合、組織における「自由と規律のバランス」が崩れている可能性が高いと言えます。今回は、個性を活かすマネジメントと単なる放置の違い、そしてメンバーが本当に育つ組織を作るためのアプローチについてお伝えします。
■ 「自主性の尊重」という言葉に隠れた罠
そもそも、なぜ「個性を活かす」マネジメントが「放置」にすり替わってしまうのでしょうか。
その背景には、マネージャー自身がプレイング業務で多忙を極め、メンバー一人ひとりに深く向き合う時間と余裕がないという構造的な問題があります 。自分の目標数字を追いかけながら、同時に部下の面倒も見なければならない。そんなギリギリの状況下では、部下の行動を細かく把握して指導することは物理的に困難です 。
その結果、指導に時間を割けないことへの言い訳として、「あいつの自主性を尊重している」「型にはめず、個性を活かしてほしい」という耳障りの良い言葉を使ってしまっているケースが少なくありません。
しかし、育成方法が確立されておらず 、メンバー間のスキルレベルに大きな差がある状態 で「自由」を与えても、それはただの放任です。育成される側のメンバーは、何を基準に動けばいいのかわからず混乱し、習熟度にバラつきが生じてしまいます 。成長の道筋が見えないまま現場に放り出されれば、当然ながらモチベーションは低下し、最悪の場合は離職へと繋がってしまいます。
■ 自由を与える前に必要な「規律」とは何か
「個性を活かす」ことと「放置する」ことの決定的な違いは、「規律(ルールや基準)」が存在するかどうかです。
スポーツに例えればわかりやすいでしょう。どれだけ個人のプレースタイルを尊重するチームであっても、「絶対に守らなければならない戦術」や「チームとしての約束事」は存在します。その共通のルール(規律)があるからこそ、その土台の上で個人の強み(個性)が活きるのです。
営業組織においても全く同じです。
誰にアプローチするのか、どのような価値を提供するのか、商談後のフォローはどうするのか。組織として最低限守るべきプロセスや行動基準が明確になっていない状態で、個性を発揮することは不可能です。
「規律」を押し付けるとメンバーのやる気を削ぐのではないか、と心配される経営者の方もいらっしゃいます。しかし、人は「完全な自由」を与えられるよりも、「明確な枠組み(規律)の中での自由」を与えられた方が、迷いなく行動でき、結果的に高いパフォーマンスを発揮できるものです。
まずは組織としての共通言語や、必ず実行すべき行動基準を整えること。それが、個性を活かすための前提条件となります。
■ 規律と個性を結びつける「1on1」の重要性
組織としての規律(行動基準)を設けた上で、いかにして一人ひとりの個性を引き出し、成長につなげていくのか。
ここで重要になるのが、メンバーと徹底的に向き合う時間を作ることです。画一的な研修や、月に数回程度の業務報告の面談だけでは、人は本当の意味で成長できません 。一人ひとりの状況は異なり、つまずいているポイントも、得意なアプローチも違うからです。
だからこそ、徹底的に「個」に寄り添い、日々の小さな変化と向き合う「1on1」という対話の場が必要になります 。
ただし、単なる進捗確認や、上司から部下への説教の時間になってしまっては意味がありません。上司や社内の人間に対しては、評価を気にしてなかなか本音や弱音を話せないものです 。評価への不安から課題を隠してしまったり、取り繕ったりしてしまうと、本当の悩みが共有されず、的外れな対策が続くことになります 。
意味のある1on1を実施するためには、評価を気にせず話せる「安全な場」を提供し、現場の本当の悩みを引き出す対話の技術が求められます 。 「最近どう?」というざっくりとした質問ではなく、「先週のあの商談、お客様の反応が鈍かった時にどう感じた?」「今一番エネルギーを使っている業務は何?」といった具体的な問いかけを通じて、本人の思考を整理していくのです。
1on1を通じて、本人の特性に合った、最も成果を出しやすいスタイルを一緒に導き出すこと 。そして、将来のキャリアビジョンを見据え、一人ひとりの成長を加速させる具体的な計画を立てること 。これが、本当の意味で「個性を活かす」マネジメントです。
■ 変われない構造を打破するために
頭では「規律が必要だ」「1on1でしっかり向き合うべきだ」とわかっていても、社内の人間関係や日々の業務の忙しさが邪魔をして、なかなか現状を変えられない。多くの企業がこの壁に直面しています。
「変わりたい」という意欲があっても、変われない構造が組織の中に存在しているのです 。
社内のリソースだけで解決しようとすると、どうしてもこれまでの慣習や人間関係のしがらみに引っ張られてしまいます。本音を引き出し、客観的な事実に基づいて組織のルールを再構築するためには、社内の評価軸から切り離された第三者の視点を取り入れることも有効な手段です。
外部の第三者だからこそ提供できる安心感があり 、プロのヒアリング力によって、表面的な症状の裏にある「本当の課題」を発掘することができます 。
経営陣が気づいていない現場のリアルな課題を抽出し、それに基づいた「規律」を作り上げる。そして、その規律の中で一人ひとりがどう動くべきかを、伴走しながら指導していく。このサイクルが回るようになった時、初めて「個性が活きる、自走する営業組織」が完成します。
もし今、自社の営業マネジメントが「放置」に傾いているかもしれないと少しでも感じたのであれば、まずは組織の現状を客観的に見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。根本的な変革は、現場の「本当の声」を聞くことから始まります。
