現代のマネジメントにおいて、「部下への寄り添い」や「傾聴」は非常に重要視されています。特に営業組織では、数字のプレッシャーや顧客対応でのストレスがかかりやすいため、マネージャーがメンバーのメンタルケアに気を配ることは当然の業務となりました。
しかし、多くの経営者様や営業責任者様とお話をする中で、ある共通の悩みをよく耳にします。それは、「部下の話を聞き、気持ちに寄り添っているつもりだが、一向に行動が変わらず、成果にも結びつかない」というジレンマです。
パワハラと言われることを恐れるあまり、言うべきことを言えない。モチベーションを下げてしまってはいけないと、腫れ物に触るような接し方になってしまう。その結果、本来達成すべき目標から目を逸らし、居心地の良さだけが残る組織になっていないでしょうか。
今回は、課題を抱え、成果を出せずにいる部下に対して、マネージャーがどう向き合うべきかについてお伝えします。結論から言えば、人を本当に育てるためには、傾聴や共感といった「優しさ」だけでなく、プロフェッショナルとしての基準を求める「ディレクション(規律)」、すなわち一種の「厳しさ」が必要です。
傾聴や共感だけでは、本当の行動変容は生まれない
営業活動に行き詰まっているメンバーの話を聞くことは大切です。何に悩んでいるのか、どこでつまずいているのかを把握しなければ、適切な指導はできません。
しかし、悩みを聞いて「それは大変だったね」「次から頑張ろう」と共感を示すだけで終わってしまえば、状況は何も改善しません。部下は話を聞いてもらってその場はスッキリするかもしれませんが、翌日になればまた同じ壁にぶつかり、同じ失敗を繰り返します。
営業活動の現場では、目標を達成するために必要な行動の量や質があります。お客様に提案する前の準備、ヒアリングの深さ、提案の論理性など、プロとしてクリアしなければならない基準が存在します。
成果が出ていない部下は、多くの場合、この「基準」に達していません。本人は一生懸命やっているつもりでも、そもそもの設定基準が低かったり、向かっている方向が間違っていたりするのです。そこに気づかせ、正しい方向へ導くことこそがマネージャーの本来の役割です。
「厳しさ」とは感情的な叱責ではなく、「基準」を示すこと
ここで言う「厳しさ」とは、声を荒げたり、人格を否定したりするような感情的な指導のことではありません。事実に基づき、組織として、あるいはプロフェッショナルとして求める「基準」を明確に示し、そこに対する不足を率直に指摘することです。
たとえば、商談で失注が続いているメンバーがいるとします。彼に対して「気合が足りない」と叱るのは単なる感情論です。そうではなく、商談のプロセスを一緒に振り返り、「この提案でお客様の本当の課題を解決できる根拠が薄い」「事前準備の段階で、この情報を調べていなかったのはプロとして不足している」と、事実をベースに指摘をします。
「あなたはまだこのレベルに達していない。だから結果が出ていない」という現実を突きつけることは、部下にとって耳の痛い話であり、マネージャーにとっても言いにくいことです。しかし、この事実から逃げていては、部下の成長は永遠に訪れません。
できないことを「できない」と明確に伝え、どうすればできるようになるのかを共に考える。これこそが、部下に対する真の誠実さであり、成長を促すためのディレクションです。
1on1を「優しいお悩み相談」で終わらせないために
部下と向き合う場として、多くの企業で1on1ミーティングが導入されています。しかし、この1on1が単なる雑談やガス抜きの場になってしまっているケースが散見されます。
本来、1on1は個人の成長を加速させるための強力なツールです。画一的な指導では届かない一人ひとりの小さな変化に向き合い、本音を引き出すための重要な時間です。この時間を有意義なものにするためには、やはり「事実に基づいた対話」が欠かせません。
1on1の場では、まずデータや事実を確認します。行動量は足りていたか、どのプロセスでつまずいているのか。そこから「なぜできなかったのか」を深掘りしていきます。
部下が「時間がなくてできませんでした」と言い訳をしたとき、「そうか、忙しかったんだね」で終わらせてはいけません。「プロとして時間をどう捻出すべきだったか」「何に時間を取られていたのか」「その業務は本当に今やるべきことだったのか」と、踏み込んで問いかけます。
耳の痛いフィードバックを行う際も、1on1の場であれば、周囲の目を気にせず率直な対話が可能です。評価を気にして社内では言いづらい本音があるかもしれません。マネージャーは、そうした本音を引き出しつつも、妥協のない基準を示し、次にとるべき具体的なアクションを約束させます。
「優しいだけの1on1」から脱却し、事実に基づいた反省と次の行動を決める場へと変えることで、部下の行動は確実に変わっていきます。
「個」に徹底的に寄り添うからこそ、要求ができる
厳しいディレクションを機能させるための大前提があります。それは、マネージャーが日頃から部下一人ひとりの「個」にしっかりと向き合っていることです。
相手の性格、得意なこと、苦手なこと、仕事を通じてどうなりたいかというキャリアの展望。それらを理解し、本気でこの部下を成長させたいという思いが伝わっているからこそ、耳の痛い指摘も真っ直ぐに届きます。
普段から対話がなく、自分のことを見てくれていないと感じる上司から厳しいことを言われれば、部下は反発するか、心を閉ざしてしまいます。しかし、「この人は自分の成長のために言ってくれているんだ」という信頼関係があれば、厳しい要求も前向きな試練として受け止めることができます。
徹底的に個に寄り添い、本音を引き出す。その上で、プロフェッショナルとしての規律を求め、できるようになるまで伴走する。この両輪が回って初めて、人は本当に育つのです。
組織全体で「人を育てる文化」を創る
部下に対して適切なディレクションを行い、行動を変えさせることは、非常にエネルギーのいる仕事です。プレイングマネージャーとして自分の数字も追いかけながら、部下への厳しいフィードバックと伴走を両立させるのは、決して容易なことではありません。
結果として、育成が後回しになったり、当たり障りのない指導で済ませてしまったりする現状が多くの組織で見られます。しかし、その場しのぎの対応を続けていては、いつまで経っても組織の営業力は底上げされず、一部の優秀なメンバーに依存した脆い体制から抜け出すことはできません。
本当に強い営業組織を作るためには、個人の頑張りやマネージャーの資質だけに頼るのではなく、組織として「人を育てる仕組み」が必要です。
自社のマネジメント体制を見直したとき、部下に対して正しい基準を示し、行動変容を促す対話ができているでしょうか。優しいだけの環境に安住し、成長の機会を逃してはいないでしょうか。
もし、社内の人間関係や評価が気になって本音の対話ができていない、あるいはマネージャーに部下と深く向き合う時間と余裕がないと感じられているのであれば、一度立ち止まって組織のあり方を見つめ直すタイミングかもしれません。
客観的なデータに基づき、現状の課題を洗い出す。そして、第三者の視点を取り入れながら、本当に機能するマネジメントの仕組みと育成のサイクルを構築していく。そのような根本的な変革にご興味があれば、ぜひ一度お話をさせていただければ幸いです。組織が自ら成長し続けるための最適なアプローチを一緒に考えていきましょう。
