毎月の締め会で、未達の数字を前に重い空気が流れる。「なぜ売れないんだ」「もっと行動量を増やせ」——そんな言葉が飛び交っていないでしょうか。
経営者や営業責任者の皆様であれば、個人の力量に頼った「属人的な営業」に限界を感じていることと思います。トップセールスの背中を見て育てという時代は過ぎ、今は組織としていかに安定した成果を出し続けるかが問われています。
しかし、多くの企業が「組織化」「仕組み化」を目指しながらも、壁にぶつかっています。その原因の多くは、営業プロセスを「入り口」と「出口」だけで捉えてしまっている点にあります。
今回は、営業組織を次のステージへと引き上げるための「中間コンバージョン」の重要性と、それを活用した人材育成についてお話しします。
「点」ではなく「線」で捉える難しさ
営業活動における「入り口」とはリード(見込み客)の獲得であり、「出口」は受注(契約)です。多くのマネージャーは、この二つの数字を強く意識します。「リードが足りないから受注が増えない」あるいは「クロージング力が弱いから決まらない」という議論になりがちです。
もちろん、それらが間違っているわけではありません。しかし、営業プロセスはブラックボックスになりやすいものです。リードから受注に至るまでの長い道のりで、具体的に「どこで」顧客の心が離れているのか。ここを正確に把握できている組織は意外と多くありません。
アポイントは取れるけれど、商談化しない。 商談は盛り上がるけれど、見積もり提出に至らない。 見積もりは出すけれど、検討中のままフェードアウトする。
これらの現象をひとくくりに「営業力不足」として片付けてしまうと、適切な手立てが打てなくなります。そこで必要になるのが、プロセスを細分化し、それぞれの通過点における「中間コンバージョン(転換率)」を測定することです。
ファネルの解像度を上げる
一般的なファネル分析(漏斗型の分析)を、もう一段階深く掘り下げてみましょう。単に「商談数」「受注数」を見るのではなく、その間にあるステップを定義します。
例えば、以下のようなステップが考えられます。
- 初回接触(架電やメール)
- アポイント取得
- 初回訪問・ヒアリング(課題の特定)
- 提案・デモ実施(解決策の提示)
- 詳細要件・条件交渉
- 最終合意・受注
ここで見るべきは、各ステップの実数だけでなく、ステップ間の「移行率」です。これを中間コンバージョンと呼びます。
たとえば、AさんとBさんという二人の営業メンバーがいるとします。最終的な受注件数は同じです。しかし、中間コンバージョンを見ると全く異なる景色が見えてくることがあります。
Aさんは「初回訪問からの提案移行率」が非常に高い一方で、「提案からの受注率」が低い。 Bさんは「アポイント取得率」は低いが、一度商談に入れば高い確率で「詳細交渉」まで進める。
もし、この二人に対して一律に「もっと訪問数を増やせ」と指示を出したらどうなるでしょうか。Aさんは質の低い提案を量産して疲弊し、Bさんは苦手なテレアポに時間を取られて強みである商談力を発揮できなくなるかもしれません。
全体をひとつの塊として見るのではなく、プロセスを細かく切ることで、ボトルネックがどこにあるかが明確になります。これが、改善への確かな土台となります。
データは「詰める」ためではなく「育てる」ためにある
データを細かく取ると聞くと、「管理強化」や「マイクロマネジメント」を連想されるかもしれません。しかし、私がここでお伝えしたいのは、管理のためのデータ活用ではありません。社員一人ひとりの個性を活かし、育てるためのデータ活用です。
ここで重要になるのが、1on1ミーティングの質です。
多くの現場で行われている1on1は、単なる「進捗確認」や「案件のステータス報告」に終始しがちです。これでは、上司が「早く決めろ」と急かすだけの場になってしまいます。本来、進捗報告はチャットツールやSFA(営業支援システム)への入力で済むはずです。
対面の時間は、データに基づいた「仮説検証」と「育成」に使うべきです。
先ほどのAさんの例で言えば、データによって「提案までは進むが、決まらない」という事実が明らかになっています。上司はこの事実をもとに、Aさんと次のような対話ができます。
「提案への移行率はチームで一番高いね。これは顧客の課題を引き出す力が高い証拠だと思う。一方で、最後のクロージングで失注することが多いようだけど、自分では何が原因だと感じている?」
こう問いかけることで、Aさん自身も「実は、価格交渉になると弱気になってしまう」「決裁者へのアプローチが遅れているかもしれない」といった具体的な振り返りができるようになります。
課題が具体的になれば、対策も明確になります。価格交渉のロールプレイングをする、決裁者を同席させるためのスクリプトを作る、といったアクションプランが生まれます。
データは、メンバーを責める材料ではありません。彼らが自分の強みと弱みを客観的に知り、次の成長へ向かうための「鏡」なのです。この鏡を用意してあげることが、マネジメント層の大切な役割です。
組織の「勝ちパターン」を見つける
個人の分析が進むと、組織全体としての傾向も見えてきます。
「このステップでの移行率が◯%を超えているメンバーは、最終的な目標達成率が高い」といった相関関係が見つかるでしょう。これが、その組織における「勝ちパターン」です。
トップセールスの感覚や勘に頼るのではなく、成果に直結する重要な中間コンバージョン(KPI)を特定する。そして、その数値を高めるための行動を、チーム全体の標準的な動きとして浸透させる。
これこそが、特定のスタープレイヤーに依存しない、再現性のある営業組織を作るということです。
また、こうした定量的な指標があることは、メンバーの精神衛生上も非常に良い効果をもたらします。 結果が出ない時、どこが悪いのか分からないまま闇雲に走るのは大きなストレスです。しかし、「今はアポイント数は足りている。あとは提案の質を上げれば数字はついてくる」と分かっていれば、迷いなく目の前の業務に集中できます。 仕事を楽しむためには、自分の成長や貢献を実感できることが大切です。曖昧な精神論ではなく、客観的な指標で自分の現在地を知ることは、健全な自信につながります。
小さなPDCAを回し続ける
こうした仕組みは、一度作って終わりではありません。市場環境が変われば、顧客の反応も変わり、見るべき中間コンバージョンも変化します。
大切なのは、壮大な計画を立てて満足することではなく、現場レベルで無理なく回せる小さな改善サイクルを作ることです。
まず、現状のプロセスを可視化してみる。 次に、ボトルネックになっている箇所を見つける。 そして、なぜそこで止まっているのかをメンバーと対話し、仮説を立てる。 最後に、具体的な改善アクションを実行し、また数字を確認する。
このサイクルを高速で回すことができれば、組織は自ら学習し、進化し続けることができます。
営業とは本来、クリエイティブで楽しい仕事です。顧客の課題を解決し、感謝され、自らも成長できる。そんなポジティブな循環を生み出すためには、根性論ではない、ロジカルな土台が必要です。
もし、御社の営業組織が「頑張っているのに成果に繋がらない」「人が育たない」という悩みを抱えているのであれば、一度立ち止まって、プロセスの解像度を上げてみてはいかがでしょうか。そこには必ず、次の一手につながるヒントが隠されています。
私たちは、こうしたデータの可視化から、それに基づいた具体的な人材育成、そして組織全体の仕組みづくりまでを一貫してご支援しています。 「自社の営業プロセスをどう分解すればいいか分からない」「データはあるが活用できていない」といったお悩みがあれば、ぜひ一度、壁打ち相手としてお声がけください。御社の現状に合わせた最適なアプローチを一緒に考えさせていただきます。
