営業組織を「点でバラバラ」から「線でつながる」チームに変える方法

「営業は個人の力だ」 「優秀な営業担当者さえいれば、組織はうまくいく」

一昔前までは、そう考えられていたかもしれません。しかし、多くの経営者や営業責任者の皆様は、もはやそれだけでは立ち行かないことを肌で感じていらっしゃるのではないでしょうか。

市場は速いスピードで変化し、顧客のニーズは複雑になっています。一人のトップセールスの活躍に頼る組織は、その人がいなくなった瞬間に立ち行かなくなる危うさを抱えています。

「チームとして戦える組織を作りたい」 「指示を出さなくても、メンバーが自ら考えて動いてほしい」 「営業の成果を安定させたい」

そう願う一方で、

  • 「何度伝えても、メンバーの動きがバラバラだ」
  • 「会議で決めたことが、現場で実行されない」
  • 「人によって営業の品質に差がありすぎる」
  • 「新しい人が育つまでに時間がかかりすぎる」

といった現実に直面し、頭を抱えてはいないでしょうか。

メンバーは決してサボっているわけではない。むしろ、それぞれが「良かれ」と思って懸命に働いている。それなのに、なぜ組織としての一体感が生まれず、成果が不安定になってしまうのか。

その根本的な原因は、メンバーの意欲や能力以前に、組織内での「共通認識」が不足していることにあります。

「共通認識」の欠如が引き起こす、見えないコスト

「共通認識」とは、一言で言えば「チーム全員が同じ方向を向き、同じものさしで物事を判断するための基準」です。

これが曖昧な組織では、日常的に「見えないコスト」が発生し続けます。

例えば、経営者が「今期は『顧客第一』でいく」と宣言したとします。 経営者は「長期的な関係性を築き、顧客の成功に貢献すること」を意図していたかもしれません。 しかし、現場の営業担当者は「目の前の顧客の要求に応えること、つまり『値引き』に応じること」だと解釈するかもしれません。 また、別の担当者は「クレーム対応を最優先すること」だと考えるかもしれません。

同じ「顧客第一」という言葉でも、受け取る側によって解釈がこれだけ異なれば、行動がバラバラになるのは当然です。

  • 「この案件は、Aさん(ベテラン)にしか判断できない」
  • 「Bさんのやり方は、ウチの会社では特殊だ」
  • 「Cさんはいつも『しっかりやれ』としか言わないが、『しっかり』とは何なのか」

このような状態は、まさに組織の「目詰まり」です。 情報伝達には余計な確認や手戻りが発生し(非効率)、メンバーは「何をすれば評価されるのか」がわからず(モチベーション低下)、マネージャーは指示の背景を何度も説明し直す(疲弊)ことになります。

個々のメンバーが持つ「能力」や「個性」が、バラバラの方向で発揮されてしまうため、1+1が2にもならず、時にはマイナスにさえなってしまうのです。

では、何についての「共通認識」が必要なのか?

営業組織において、特に重要な「共通認識」は、大きく分けて3つあります。

1. 「誰に売るか」(顧客像)についての共通認識

「自社にとっての『理想の顧客』とは誰か?」 この問いに、営業メンバー全員が同じ解像度で答えられるでしょうか。

「売れるなら誰でもいい」という姿勢では、リソースが分散してしまいます。どの市場の、どのような課題を持つ顧客に、自社のサービスが最も価値を発揮できるのか。逆に、どのような顧客は「追わない」と決めるのか。

この「顧客像」が明確に共有されていなければ、マーケティング部門は「とにかくリードを多く集めよう」とし、営業部門は「質の低いリードばかりだ」と不満を言う、といった典型的な部門間対立も起こりがちです。

2. 「どう売るか」(営業プロセス)についての共通認識

成果を出している営業担当者の行動を分析すると、多くの場合、顧客との関係性構築から契約、そしてその後のフォローに至るまで、一定の「型」が存在します。

もちろん、すべての営業活動をマニュアル化することは不可能ですし、顧客の状況に応じた柔軟な対応(=個性の発揮)は必要です。

しかし、「最低限、このタイミングで、この情報はお客様に伝えるべきだ」といった、**成果を出すために守るべき「標準的な流れ」**は存在するはずです。

この「どう売るか」の共通認識がないと、

  • 教育は「先輩の背中を見て覚えろ」という形になり、育成が非効率になる。
  • 成果が出ない時、原因が「個人の能力」なのか「プロセスの問題」なのか特定できない。
  • CRMやSFAなどのツールを導入しても、「入力が面倒」という理由で使われなくなる。

といった問題が発生します。

3. 「何のために売るか」(価値観・目的)についての共通認識

これは、最も根幹となる部分です。 私たちは、単に「モノを売って数字を上げること」だけを目的としているのでしょうか。それとも、「自社のサービスを通じて、顧客のどのような課題を解決し、どのような未来を実現したい」のでしょうか。

この「目的」が共有されているチームは、困難な状況に直面しても強いです。「今、自分たちがやっている仕事は、あの目的につながっている」という実感(貢献実感)が、日々のモチベーションを支えるからです。

逆に、これが共有されていないと、「なぜ、こんな面倒なルールを守らなければいけないのか」「数字さえ達成すれば文句はないだろう」といった、短期的な視点や利己的な行動が生まれやすくなります。

「共通認識」は、対話と振り返りから生まれる

では、どうすればこれらの「共通認識」を組織に根付かせることができるのでしょうか。 それは、経営者やマネージャーが**「一方的にルールを決めて押し付ける」ことではありません。**

重要なのは、「対話」と「振り返り」のプロセスです。

1. まずは「現状」を言葉にする

「共通認識がない」と嘆く前に、まずは「今、メンバーがそれぞれ何を考え、どう動いているのか」を把握することから始めます。

  • 「君が思う『良い商談』って、どんな状態?」
  • 「今月のA社とのやり取りで、一番うまくいったと感じる点はどこ?」
  • 「逆に、もっとこうすれば良かったと思う点は?」

こうした対話を通じて、メンバーが拠り所としている「個人のものさし」を、まずはマネージャーが知ることです。

2. 1on1ミーティングを「認識合わせ」の場にする

個々のメンバーとの1on1ミーティングは、進捗確認(タスク管理)のためだけにあるのではありません。 むしろ、メンバーの「個性」や「考え方」を深く理解し、組織の「目指す方向」と個人の「やりたいこと」をすり合わせるための、最も重要な時間です。

  • 「今、仕事で一番楽しいと感じる瞬間は?」
  • 「逆に、何に一番悩んでいる?」
  • 「半年後、どんなスキルを身につけていたい?」

こうした対話を通じて、メンバーは「自分は理解されている」(自己表現)と感じ、マネージャーは「このメンバーの力を、この場面で活かそう」(育成)と考えることができます。

3. チームで「私たちのやり方」を議論する

個人との対話で見えてきた「個々の工夫」や「小さな成功体験」を、チーム全体で共有します。

  • 「Aさんのこのトーク、他の場面でも使えないか?」
  • 「Bさんが失敗したこのケース、防ぐためにルールを見直せないか?」

トップセールスのやり方を一方的に真似させるのではなく、現場から出てきた「事実」や「知恵」を基に、「私たちチームとしての『標準』は、こうしよう」と合意形成を図っていくのです。

このプロセス自体が、メンバーの「当事者意識」を育てます。自分たちで決めたルールであれば、人は「やらされ感」ではなく、主体的にそれを守ろうとします。

組織を支えるのは「仕組み」と「人」

「共通認識」が作られ始めると、組織は変わります。

  • 「顧客像」が明確になれば、無駄な営業活動が減り、チームの効率は上がります。
  • 「営業プロセス」が共有されれば、育成のスピードが上がり、成果が安定します。
  • 「目的」が共有されれば、メンバーは自ら考え、困難な状況でも前向きに行動できるようになります。

経営者や営業責任者の皆様の役割は、スーパーマンとして一人で売ることではありません。メンバー一人ひとりの個性が輝き、チームとして最大の力を発揮できる「仕組み」を整え、その仕組みを動かす「人」を育てることです。

そのすべての土台となるのが、組織内の「共通認識」です。

あなたの組織には、メンバー全員が共有できる「ものさし」がありますか? もし、「言ったはずなのに伝わらない」という日々の小さなズレが、組織の成長を妨げていると感じるなら、今一度、チームの「共通認識」について、メンバーと深く対話する時間を持ってみてはいかがでしょうか。