「なぜ、ウチの営業は言われたことしかやらないのだろうか」 「もっと自分で考えて、積極的に動いてほしい」 「次に何をすべきか、いつも私(マネージャー)の指示を待っている」
企業の経営者や営業責任者の皆様とお話ししていると、このような「指示待ち社員」に関するお悩みを非常によく伺います。市場の変化は激しさを増し、顧客のニーズも多様化する現代において、上司からの指示を待っているだけでは、到底ビジネスのスピードについていくことはできません。
メンバーが指示待ちの状態に陥っていると、組織全体に様々な悪影響が及びます。 まず、目の前のチャンスを逃します。顧客からの些細なサインや市場の小さな変化に気づいても、自ら行動を起こさなければ、それは「なかったこと」になってしまいます。 次に、マネージャーの疲弊です。メンバーが自分で考えない分、マネージャーが全ての判断と指示出しを行わなければならず、本来注力すべき戦略的な業務に時間を使えなくなります。 そして何より、メンバー自身の成長が止まってしまいます。自分で考え、試行錯誤する経験こそが人を成長させますが、その機会が奪われているのです。
では、どうすれば彼ら・彼女らは「指示待ち」を脱し、自ら考えて動く「主体性」を持った人材に変わってくれるのでしょうか。
「結局は本人のやる気の問題だ」と片付けてしまうのは簡単です。しかし、多くの場合、問題は本人の資質だけにあるのではありません。むしろ、彼らを取り巻く「環境」や、上司である皆様の「関わり方」に、指示待ちを生み出してしまう原因が隠されていることが多いのです。
本日は、「指示待ち」が生まれる背景を紐解きながら、メンバーの主体性を引き出し、自ら考え行動する組織文化を育むための「コーチング」的なアプローチについて、具体的な方法をご紹介します。
1. なぜ「指示待ち」は生まれるのか?
人が自ら行動せず、指示を待つようになる背景には、いくつかの共通した要因があります。
① 「失敗」への恐れ 「自分で考えて行動したら、失敗して上司に叱責された」 「余計なことをするな、と言われた」 このような経験が一度でもあると、メンバーは「言われたことだけを、言われた通りにやる」ことが最も安全な働き方だと学習してしまいます。挑戦を歓迎し、失敗を学習の機会として受け入れる組織風土がなければ、メンバーはリスクを取ることを恐れ、主体的な行動を控えるようになります。
② 「目的」の不共有 「なぜ、この作業が必要なのか?」 「この数字を追いかけることが、会社にとって、お客様にとって、どういう意味があるのか?」 業務の「目的」や「背景」が十分に共有されていないと、メンバーは目の前の「作業(What)」にしか意識が向きません。「なぜ(Why)」が分からないため、状況が少し変わった時や、指示された作業が終わった時に、次に何をすべきか自分で考えることができず、立ち止まってしまうのです。
③ 「過度な管理」による思考停止 良かれと思って、マネージャーが業務の進め方を細かく指示しすぎているケースです。 「A社には、まずこの資料を送って、明日の10時にこのトークで電話して、結果を報告するように」 このように全てを指示してしまうと、メンバーは「指示通りに実行すること」が仕事だと認識し、自分で考える習慣を失っていきます。これは「マイクロマネジメント」と呼ばれ、メンバーのやる気と主体性を奪う典型的なパターンです。
④ 「成功体験」の不足 そもそも、「自分で考えて行動し、何かが上手くいった」という経験が少なければ、自信を持って次の行動に移すことはできません。特に若手社員の場合、何をどう考えて動けば良いのか、その「型」自体を知らない可能性もあります。
このように見ていくと、「指示待ち」は個人の資質の問題というよりも、マネジメントや組織の仕組みによって「作られてしまっている」側面が強いことがお分かりいただけるかと思います。
2. 「教える」から「引き出す」へ:コーチング的アプローチ
では、主体性を育むためには、マネージャーは具体的にどのような関わり方をすれば良いのでしょうか。 ここで重要になるのが、「ティーチング(教える)」と「コーチング(引き出す)」の使い分けです。
ティーチングは、知識やスキル、業務の進め方など、相手が知らないことを「教える」アプローチです。業務の基礎を身につける段階では、これは非常に重要です。 一方、コーチングは、答えを教えるのではなく、相手に「質問」を投げかけ、対話を通じて相手の中にある考えや可能性を「引き出す」アプローチです。
指示待ちのメンバーに対しては、「まずティーチングで基礎となる型をしっかり教える」こと、そして「ある程度できるようになったら、コーチングに切り替えて、本人の“考える力”を育てる」というステップが有効です。
主体性を引き出すためのコーチングには、3つの大切な要素があります。
① 傾聴と承認(安全な場をつくる) 主体性を発揮してもらうためには、まず「この人には何を話しても大丈夫だ」という安心感、すなわち心理的安全性のある関係を築くことが土台となります。
メンバーが何かを話し始めた時、皆様はどのような態度で聴いていますでしょうか。 「それは違う」「結論から話してくれ」と話を遮ったり、パソコンを見ながら上の空で相槌を打ったりしていないでしょうか。
まずは、相手の目を見て、途中で遮らずに、相手が「何を言おうとしているのか」を最後まで聴き切ること。これが第一歩です。 そして、たとえその意見が未熟であったとしても、「なぜそう思うの?」と頭ごなしに否定するのではなく、「なるほど、君はそう考えるんだね」と、まずは**意見そのものではなく、意見を出そうとした「姿勢」や「存在」を受け止める(承認する)**ことが重要です。
こうした日々の小さな積み重ねが、「この上司は自分の話を真剣に聴いてくれる」という信頼関係を育み、メンバーが本音で話せる安全な場を作ります。
② 質問(本人に考えさせる) 信頼関係の土台ができたら、次に「質問」の出番です。 指示待ちのメンバーは、すぐに「どうしたらいいですか?」と答えを求めてきがちです。 その時、マネージャーが「こうしなさい」とすぐに答えを与えてしまうと、メンバーは永遠に「指示待ち」から抜け出せません。
ぐっとこらえて、**「君はどうしたいと思う?」**と質問を返してみてください。
最初は戸惑うかもしれません。「分かりません」と答えるかもしれません。 それでも、根気よく質問を続けます。
- 「例えば、どんなやり方が考えられるかな?」
- 「もし、君が私(マネイヤー)の立場だったら、どう判断する?」
- 「そのやり方の良い点は何? 逆に、心配な点は何?」
- 「お客様は、何が一番嬉しいと思う?」
- 「それを実行するために、まず何から始められそう?」
重要なのは、詰問(なんで出来ないんだ?)ではなく、**相手の思考を広げ、深めるための「開かれた質問」**をすることです。 答えは、上司が持っている「正解」である必要はありません。メンバーが自分自身の頭で考え、自分なりの「答え(仮説)」を導き出すプロセスそのものに価値があります。
③ 振り返りの支援(経験を学びに変える) メンバーが自分で考えて行動したら、その結果がどうであれ、必ず「振り返り」の時間を設けます。 これも、上司が一方的に評価を下す場ではありません。
- 「実際にやってみて、どうだった?」(事実の確認)
- 「どこが上手くいったと思う?」(成功要因の分析)
- 「逆に、もっと良くできるとしたら、どの部分かな?」(改善点の発見)
- 「この経験から、何を学んだ?」(学習の言語化)
- 「じゃあ、次はどうしてみようか?」(次の行動計画)
ここでも、主役はメンバーです。マネージャーは質問を通じて、メンバー自身が経験から学びを得る手助けをします。 上手くいったことは、その要因を分析することで再現性を高められます。上手くいかなかったことも、「失敗」ではなく「貴重なデータ」として捉え、次への改善に繋げることができます。 この「経験学習」のサイクルを回すことこそが、メンバーの成長を加速させ、主体性を強固なものにしていきます。
3. コーチングを機能させるための「仕組み」
こうしたコーチング的な関わりは、非常にエネルギーを使います。マネージャー個人の資質や努力だけに頼っていては、長続きしません。 そこで、組織として「コーチング」を機能させるための「仕組み」を導入することをお勧めします。
その最もシンプルで効果的な仕組みが、**「1on1ミーティング」**の定期的な実施です。
週に1回、あるいは隔週で30分でも構いません。マネージャーとメンバーが1対1で対話する時間を「あらかじめ」確保するのです。 ここで重要なのは、1on1を「業務の進捗確認」や「上司からの指示伝達」の場にしないことです。
1on1は、**「メンバーの成長と内省を支援する時間」**と位置づけます。 先ほどご紹介した「傾聴と承認」「質問」「振り返りの支援」を実践する場として活用するのです。 「最近、仕事で上手くいっていることは?」 「何か困っていること、悩んでいることはない?」 「(本人が考えた施策について)それを進める上で、私にサポートできることはある?」
こうした対話を定期的に続けることで、マネージャーはメンバーの状況や考えをタイムリーに把握でき、メンバーは安心して自分の考えを発信し、内省を深めることができます。 最初はぎこちなくても、続けるうちに、これが組織の文化として根付いていきます。
4. 「自ら動く組織」への変革
「指示待ち」だったメンバーが、自ら課題を見つけ、解決策を考え、周囲を巻き込みながら動き出す。 そんな「主体性」を持ったメンバーが増えていけば、営業組織はどう変わるでしょうか。
マネージャーは、日々の細かな指示出しから解放され、より重要な戦略策定や、新たな仕組みづくりに時間を使えるようになります。 メンバーは、自らの考えで仕事を動かす「達成感」や「成長実感」を得ることで、仕事への意欲が高まります。 そして何より、組織全体として、お客様や市場の変化に素早く対応できる、しなやかで力強いチームへと変貌していきます。
主体性は、生まれつきの才能ではありません。マネージャーの関わり方、そして組織の環境によって「育てる」ことができるものです。 「教える」から「引き出す」へ。 皆様の関わり方ひとつで、メンバーの可能性は大きく花開きます。
とはいえ、日々の業務に追われる中で、こうしたアプローチを導入し、継続していくことは容易ではないことも事実です。 「具体的に、ウチの組織の場合は何から始めたら良いのか?」 「1on1を導入してみたが、上手く機能していない」 「コーチングと言われても、どう質問すれば良いか分からない」
もし、皆様の組織で「主体性」の育成や「営業組織の仕組みづくり」に関して、具体的なお悩みを抱えていらっしゃいましたら、ぜひ一度、私どもにお気軽にご相談ください。皆様の組織が持つ潜在能力を最大限に引き出すためのお手伝いができるかもしれません。
