「営業は属人化するものだ」 「優秀な営業担当者が一人いれば、なんとかなる」 「うちのマネージャーは優秀だから、育成も任せておけば大丈夫」
企業の経営者様、営業責任者様の中には、今でもそうお考えの方がいらっしゃるかもしれません。しかし、現実はどうでしょうか。
- 特定のトップセールスが退職した途端、部門全体の売上が大きく落ち込んだ。
- 新人がなかなか育たず、育成コストばかりがかさみ、早期に離職してしまう。
- 営業マネージャーが自身のプレイング業務に忙殺され、部下の指導や育成にまで手が回っていない。
- 営業メンバー間で成果に大きなバラつきがあり、チームとして機能しているとは言えない。
もし、このような課題に一つでも心当たりがあるならば、その根本的な原因は、「個人の能力」に依存した“点”の営業活動から抜け出せていないことにあるかもしれません。
市場環境が目まぐるしく変化し、顧客の購買行動も複雑化する現代において、一人のスタープレイヤーの活躍に頼り続ける経営は、非常に不安定です。
今、多くの企業に求められているのは、特定の個人に依存するのではなく、チーム全員が一定水準以上の力を発揮し、組織全体として成果を出し続ける「仕組み」です。
本日のコラムでは、営業チームの「総合力」を底上げし、安定した成長を実現するための**「人材育成の仕組み」**について、具体的なステップを交えて解説いたします。
なぜ今、「仕組み」による人材育成が必要なのか?
かつての営業スタイルは、「先輩の背中を見て学べ」「とにかく足で稼げ」といった、職人的な徒弟制度に近いものが主流でした。しかし、この方法は現代において多くの歪みを生んでいます。
第一に、市場と顧客の変化です。インターネットの普及により、顧客は営業担当者に会う前に多くの情報を収集できるようになりました。もはや、単なる商品知識や熱意だけで契約が取れる時代ではありません。顧客の課題を深く理解し、的確な解決策を提示できる高度な営業スキルが求められています。
第二に、育成の非効率性と属人化です。育成を個々のマネージャーの経験や勘に任せていると、マネージャーの力量によって部下の成長スピードや定着率に大きな差が生まれてしまいます。また、優秀な営業担当者のノウハウが個人の頭の中に留まり、組織の共有財産として蓄積されないため、その人が辞めてしまえば、またゼロから育成をやり直すことになります。
目指すべきは、スタープレイヤーの「個人の力」に依存する組織ではなく、メンバー一人ひとりが持つ個性を活かしつつ、チーム全体として安定した成果を生み出す「組織力」です。
そして、その組織力を支える土台こそが、「誰がやっても」「何度でも再現できる」人材育成の仕組みなのです。
総合力を底上げする「人材育成の仕組み」構築 5つのステップ
では、具体的にどのようなステップで「人材育成の仕組み」を構築していけばよいのでしょうか。私たちは、以下の5つのステップが重要だと考えています。
ステップ1:現状の「見える化」- 育成のスタートラインを明確にする
効果的な育成を行うためには、まず「今、何が起こっているのか」を客観的に把握する必要があります。感覚や印象論ではなく、事実に基づいて現状を「見える化」することから始めます。
- 営業プロセスの見える化: アポイント獲得から商談、クロージング、アフターフォローに至るまで、「誰が、いつ、何を、どのように」行っているのかを詳細に把握します。案件がどこで停滞しやすいのか、どのプロセスに時間がかかりすぎているのかといった、非効率な部分を特定します。
- メンバーの特性の見える化: 単に売上数字だけを見るのではありません。各メンバーが持つスキル(ヒアリング力、提案力など)、知識レベル、日々の行動量、そして個々の強みや弱み、モチベーションの状態までを把握します。人にはそれぞれ得意・不得意があります。その「個性」を理解することが、育成の第一歩です。
- マネジメント状況の見える化: マネージャーは、育成にどれだけの時間を割けているでしょうか。部下に対してどのような指導(OJT)を行い、どのようなフィードバックをしているでしょうか。もしかすると、マネージャー自身が日々の業務に追われ、育成どころではない状況かもしれません。
これらの事実を客観的に集めることで、初めて「どこから手をつけるべきか」という育成の優先順位が明らかになります。
ステップ2:課題の特定と「振り返り」の習慣化
現状が見えてきたら、次は「なぜ、そうなっているのか?」を深掘りします。
「今月の売上が目標未達だった」という事実(What)だけを見て、「来月はもっと頑張れ」と精神論で終わらせては、何も解決しません。
「なぜ、目標に届かなかったのか?」 「なぜ、Aさんの商談化率は高いのに、Bさんは低いのか?」 「なぜ、Cさんは最近モチベーションが下がっているように見えるのか?」
このように、事実の裏にある「理由(Why)」を徹底的に分析します。
ここで非常に有効なのが、マネージャーとメンバーによる定期的な「振り返り」の時間です。一般的に「1on1ミーティング」と呼ばれるものも、その一つです。
重要なのは、これがマネージャーからの一方的な「指導」や「詰問」の時間にならないことです。メンバー自身が自分の行動や結果について話し、マネージャーはそれを傾聴し、質問を通じて「気づき」を促す。
「あの商談、どうして上手くいったと思う?」 「次やるとしたら、どこを工夫できそう?」
こうした対話を通じて、メンバーは自ら課題を発見し、改善策を考えるようになります。この「振り返り」を単発で終わらせず、「習慣化」することが、自律的に成長する人材を育てる上で極めて重要です。
ステップ3:小さな「改善」を積み重ねる
課題が特定できたら、いよいよ改善アクションに移ります。しかし、ここで壮大な計画を立てて、現場の業務を大きく変えようとすると、多くの場合、抵抗にあい失敗します。
大切なのは、**「明日からでも実行できる、小さな改善」**から始めることです。
例えば、「商談化率が低い」という課題に対し、「まずは商談前の準備チェックリストを一つだけ作って、全員で使ってみよう」といった具合です。あるいは、「ロープレの時間が取れていない」なら、「週に1回、15分だけ時間を確保しよう」という小さなルールから始めます。
この小さなアクションを実行(Do)し、その結果を検証(Check)し、さらに改善(Action)する。この小さなPDCAサイクルを高速で回していくのです。
大きな成果を急ぐあまり、現場が疲弊しては意味がありません。小さな改善であっても、それを実行し、少しでも成果が出れば、それはメンバーの「できた」という達成実感に繋がります。この小さな成功体験の積み重ねが、チームの自信と、さらなる改善への意欲を生み出します。
ステップ4:「仕組み化」- 育成ノウハウを組織の共有財産にする
ステップ3で生まれた「上手くいったやり方」や「効果のあった改善策」を、特定の個人の“ファインプレー”として終わらせてはいけません。それを組織全体で共有し、**「誰でも再現できる仕組み」**へと昇華させることが重要です。
- 営業プロセスの標準化: 成果を出している営業担当者の行動(ヒアリング内容、資料の構成、クロージングのタイミングなど)を分析し、組織としての「勝ちパターン」を見つけ出し、標準化します。
- ツールの活用とルールの徹底: SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)を活用し、商談履歴や顧客情報をリアルタイムで共有するルールを徹底します。これにより、マネージャーは部下の状況を即座に把握し、的確なアドバイスが可能になります。
- マニュアルやトークスクリプトの整備: 基本的な営業の流れや、よくある質問への回答例などを整備します。
ここで誤解してはならないのは、「標準化」や「仕組み化」は、メンバーの個性を殺すものではない、ということです。むしろ、営業活動の「基礎(型)」を組織として提供することで、メンバーは余計な試行錯誤に時間を使う必要がなくなり、その土台の上で**「自分らしさ(個性)」をどう発揮して成果を出すか**、という応用部分に集中できるようになるのです。
この仕組みがあるからこそ、新人は短期間で基礎を習得でき、マネージャーも効率的に育成を進めることができるようになります。
ステップ5:仕組みを動かす「人」を育てる(自律性の促進)
どんなに優れた仕組みを作っても、それを使う「人」が育たなければ、仕組みは機能しません。仕組み化と人材育成は、車の両輪です。
特に重要なのが、マネージャーの役割です。 仕組みをメンバーに押し付け、管理・監視するだけの「マネジメント」では、メンバーの主体性は育ちません。マネージャーには、仕組みを活用しながら、メンバー一人ひとりの個性やキャリアプランに寄り添い、その可能性を引き出す**「コーチング」**の視点が求められます。
ステップ2で触れた「振り返り(1on1)」の場などを活用し、 「この仕組みを、君はどう活かしたい?」 「この先、どんなスキルを身につけて、どう成長していきたい?」 といった対話を行います。
会社の目標と個人の目標(成長したい、貢献したい、新しいことに挑戦したいなど)が重なる部分を見つけ、本人の内側から湧き出る意欲を引き出すのです。
メンバーが「やらされている」のではなく、「自分の成長のため、チームへの貢献のために、この仕組みを使おう」と自ら考え、行動するようになった時、組織は大きく変わります。
「自走する組織」がもたらす未来
これら5つのステップを通じて「人材育成の仕組み」が組織に定着すると、どうなるでしょうか。
マネージャーは、日々の数字管理やトラブル対応に追われる状態から解放され、部下の成長を支援し、チームの未来を考えるという、本来の重要な役割に時間を使えるようになります。
メンバーは、明確な基準(仕組み)の中で安心して業務に取り組みながら、定期的な振り返りと小さな改善を通じて、自らの**「成長実感」を得ることができます。また、自分の個性が尊重され、チームに「貢献」**できていると感じることで、仕事への満足度も高まります。
結果として、個人のパフォーマンスが向上し、チーム全体の「総合力」が底上げされます。育成が仕組み化されているため、優秀な人材が退職しても組織の力が大きく揺らぐことはなく、新人もスムーズに戦力化できます。
そして最終的には、外部環境の変化や新たな課題に直面しても、組織のメンバーが自ら課題を発見し、対話し、改善を回し続けていける**「自走する組織」**へと進化していくのです。
まとめ
営業チームの総合力を高め、持続的な成長を実現するためには、「個人の頑張り」に依存した属人的な営業スタイルから脱却し、**組織全体で成果を生み出す「人材育成の仕組み」**を構築することが不可欠です。
それは、
- 現状を客観的に「見える化」し、
- 事実に基づいた「振り返り」を習慣化し、
- 現場が実行できる「小さな改善」を積み重ね、
- 成果を「仕組み化」して組織の財産とし、
- 仕組みを動かす「人」の自律性を育てる、
という地道なプロセスの繰り返しによって実現します。
「何から手をつければいいのかわからない」 「自社だけで仕組みを構築できるか不安だ」 「マネージャーの育成まで手が回らない」
もし、そうお悩みの経営者様、営業責任者様がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。 貴社の現状の課題を整理し、営業力を最大化するための具体的なアプローチをご一緒に考えさせていただきます。
