企業の経営者様、営業責任者様におかれましては、「営業組織を強化したい」「社員に成長してもらいたい」と願い、日々マネージャーやメンバーと向き合い、奮闘されていることと思います。
部下の成長は、組織の成長に直結する重要なテーマです。しかし、マネージャーが「部下のため」と良かれと思って行っている指導や関わり方が、かえって部下の主体性や「考える力」を奪い、成長を妨げてしまっているケースが少なくありません。
本記事では、多くの営業マネージャーが陥りやすい、部下の成長を止めてしまう可能性のある5つのNG行動について、その背景にあるマネージャーの心理と、組織としてどう向き合っていくべきかのヒントを具体的に解説します。
NG行動1:過度な「マイクロマネジメント」
【具体的な行動】
- 日報や報告書の書き方を、細部まで細かく指定しすぎる。
- 顧客へのメールは全てCCに入れるよう義務付け、一字一句チェックする。
- 商談の進め方やセリフまで、自分のやり方を細かく指示する。
【マネージャーの意図(良かれと思って)】 「部下に失敗させたくない」「お客様に失礼があってはならない」「最短距離で正しいやり方を教えたい」という親心や責任感からくる行動です。
【部下への影響(なぜNGか)】 マネージャーの意図とは裏腹に、部下は「自分は信頼されていないのだ」と感じ、徐々にやる気を失っていきます。常に「正解」が上から提示されるため、自分で考えることをやめ、「言われたことだけやればいい」という受け身の姿勢が染みついてしまいます。
これでは、部下は「自分で考えて行動し、成果を出す」という経験(=達成実感)や、失敗から学ぶ(=成長実感)機会を奪われてしまいます。結果として、指示がなければ動けない、応用が利かない人材になってしまう危険性があります。
【改善のヒント】 マネージャーの役割は「管理」ではなく「支援」です。伝えるべきは「How(どうやるか)」の細部ではなく、「Why(なぜそれが必要か)」という目的・背景と、「What(何を達成すべきか)」というゴールです。
「どうやるか」の部分は、まず本人に考えさせ、そのプロセスを支援するスタンスが重要です。進捗確認も、「どこまでやった?」という監視的な問いではなく、「どこかで困っていることはないか?」という支援的な問いかけに変えることが有効です。
NG行動2:「答え」をすぐに与えすぎる
【具体的な行動】
- 部下が「どうしたらいいですか?」と質問に来た際、すぐに「それはこうすればいいよ」と解決策を提示する。
- 部下が悩んでいる様子を見ると、先回りしてアドバイスをしてしまう。
【マネージャーの意図(良かれと思って)】 「部下の時間を節約させたい」「すぐに問題を解決してあげたい」「頼られる優秀なマネージャーでありたい」といった善意や、自身の経験に基づく自信からくる行動です。
【部下への影響(なぜNGか)】 すぐに答えを得られる環境は、一見効率的に見えますが、部下の「問題解決能力」を著しく低下させます。「困ったら上司に聞けばいい」という依存心が生まれ、自ら課題と向き合い、悩み、考え抜くプロセスを放棄してしまいます。
営業活動は、予期せぬ事態の連続です。その度に上司の指示を仰いでいては、スピード感のある対応はできません。部下が自ら考え、判断し、行動できる力を育むことが、組織全体の力を底上げします。
【改善のヒント】 部下から相談を受けた際は、すぐに答えを出すのではなく、まずは「あなたはどう思う?」「どんな選択肢があると思う?」と質問で返してみてください。答えを「教える」のではなく、部下が答えに「たどり着く」のを手伝うのです。
この「考える時間」を意図的に作る場として、定期的な1on1ミーティングは非常に有効です。日々の業務の指示とは切り離し、部下の思考を深掘りし、整理する時間として活用することが、部下の自律的な成長を促します。
NG行動3:過去の成功体験(武勇伝)に基づく指導
【具体的な行動】
- 「俺が若い頃は、こうやって新規開拓したんだ」
- 「この業界の攻略法はこれしかない。俺の言う通りにやれ」
- 自分のやり方と違うアプローチを試みようとする部下を、頭ごなしに否定する。
【マネージャーの意図(良かれと思って)】 「自分が苦労して見つけた最も効果的な方法を伝えたい」「部下に同じ失敗をさせたくない」という、自身の成功体験への強い確信からくる行動です。
【部下への影響(なぜNGか)】 マネージャーが成功した時代と現在とでは、市場環境、顧客の価値観、使えるツールも大きく異なります。過去の成功法則が、今も通用するとは限りません。
また、この指導法は、部下一人ひとりの「個性」を無視することに繋がります。マネージャーの強みと部下の強みは違います。自分のやり方を押し付けることは、部下の強みを活かす機会を奪い、「自分らしさを発揮できない」(=自己表現の阻害)と感じさせ、モチベーションを低下させます。
【改善のヒント】 自身の経験は、「武勇伝」や「唯一の正解」として語るのではなく、「一つの事例」として共有するに留めましょう。「私はこう考えてこう行動し、結果こうだった。このケースに応用できるヒントはあるだろうか?」と、部下自身に考えさせることが重要です。
大切なのは、部下の個性や得意なやり方を理解し、それをどう活かせば成果に結びつくかを一緒に考えることです。
NG行動4:評価やフィードバックが曖昧・一方的
【具体的な行動】
- 目標達成できなかった部下に対し、「とにかくもっと頑張れ」と精神論で激励する。
- 「(具体的に何が)良かったよ」「(具体的に何が)ダメだった」と、根拠や事実が曖ímav昧なまま評価を伝える。
- マネージャーの所感や感想だけを一方的に伝達し、部下の意見を聞かない。
【マネージャーの意図(良かれと思って)】 「(なんとなく)激励したい」「(なんとなく)褒めたい」「部下を傷つけないよう、曖昧に伝えたい」といった配慮(あるいは、具体的に指摘する準備不足)からくる行動です。
【部下への影響(なぜNGか)】 フィードバックの目的は、部下が次の行動を改善し、成長することです。曖昧なフィードバックでは、部下は「何を」改善すればいいのか、「何を」継続すればいいのかが分かりません。
また、評価基準が曖昧だと、部下は「上司の好み」で判断されていると感じ、不公平感を抱きます。これでは、客観的に自分の成長を把握する(=成長実感)こともできず、上司への信頼も失われます。
【改善のヒント】 フィードバックは「事実」と「解釈(評価)」を明確に分けて伝える必要があります。例えば、「今月の訪問件数が目標の7割だった(事実)。私は、このままでは月末の目標達成が難しいと懸念している(解釈)。」といった形です。
客観的なデータや行動事実に基づいて対話することで、部下も納得感を持ちやすくなります。評価のための面談だけでなく、育成のための対話(1on1など)を定期的に行い、双方向で認識をすり合わせる場を持つことが、信頼関係の構築と部下の行動改善に繋がります。
NG行動5:チームの「仕組み」化を怠る
【具体的な行動】
- 特定の優秀な営業担当者(エース)の個人的なスキルや頑張りに、チームの成果が依存している。
- ノウハウや顧客情報が個人に留まり、チーム内で共有される仕組みがない。
- 「仕組み化は面倒だ」「個人の裁量を尊重している」と考え、標準化やルール作りを後回しにしている。
【マネージャーの意図(良かれと思って)】 「(優秀なA君に任せておけば大丈夫)」「(個々の自主性を尊重している)」「(ルールで縛りたくない)」という、個人の能力への信頼や、管理の手間を避けたいという心理からくる行動(あるいは不作為)です。
【部下への影響(なぜNGか)】 いわゆる「属人化」が起こり、特定のエース社員に過度な負担が集中します。その結果、エース社員が疲弊し、最悪の場合、離職してしまうと、チームの業績は一気に傾きます。
また、情報や成功事例が共有されない組織では、他のメンバーが育ちません。新しく入ったメンバーは、成果を出すための「勝ちパターン」が分からず、いつまでも手探りの状態で営業し続けることになり、成長の機会格差が生まれてしまいます。
【改善のヒント】 営業組織の力は、「個人の能力」と「組織の仕組み」の両輪で決まります。エース社員の素晴らしいノウハウは、個人のもので終わらせず、チームの資産として共有する「仕組み」を作ることがマネージャーの重要な仕事です。
成果を出している営業プロセスの「どこが良かったのか」をチームで分析し、共有する場を設けましょう。誰がやっても一定の成果を出せる「土台(仕組み)」を整えることこそが、結果的に個々人が安心して自分の個性を発揮し、さらに高いレベルに挑戦するための余裕を生み出すのです。
まとめ:マネージャーの役割は「管理」から「支援」へ
ここまで、部下の成長を妨げる5つのNG行動を見てきました。これらに共通しているのは、マネージャーの「良かれと思って」という善意が、部下から「自分で考える機会」「成長する実感」「個性を発揮する場」を奪ってしまっているという点です。
これからの時代に求められるマネージャーの役割は、部下を細かく「管理(Control)」することではなく、部下が自ら考え、行動し、成長していくプロセスを「支援(Support)」することです。そして、部下の「個性を活かし」、自律的な成長を促す環境を整えることです。
しかし、これらのNG行動をマネージャー個人の意識改革や努力だけで全て改善しようとするのは、非常に困難です。なぜなら、多くの場合、問題の根幹は「個人のスキル」だけでなく、情報が共有されない、評価基準が曖昧、育成に時間を割けないといった「組織の仕組み」や「営業の文化」そのものにあるからです。
「仕組み」が整っていない中で個人の育成だけを行おうとしても、マネージャーの負担が増えるばかりで、なかなか成果には繋がりません。
もし貴社が、「マネージャーの育成に限界を感じている」「個人の頑張りに依存した営業体制から脱却したい」「メンバーが育ち、定着し、自ら考えて行動する組織を作りたい」と本気でお考えであれば、一度、組織の現状を客観的に見直してみてはいかがでしょうか。
私たちは、多くの企業様と共に、個々の社員が持つ可能性を引き出し、それが組織全体の力として発揮されるための「環境づくり」をご支援してきました。
自社の営業組織のあり方や、人材育成の方法に課題を感じていらっしゃる経営者様、営業責任者様は、ぜひお気軽にご相談ください。まずは現状のお悩みをお伺いすることから始めさせていただきます。
